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春の嵐と恋の風【77】

ゲリラ投稿に、お付き合い下さり、ありがとうございます。

本日、カヤノが卒業証書を取りに参ります。

 「キィヤアアアァァァッ⁉」



絶叫マシーンに乗った時のようなカヤノ叫び声が木霊すると共に、現人神養成学校の職員室にいたサルマン・キュベルの真ん前に…完全精霊姿のシルヴァスとその彼に横抱きされているカヤノが突然現れた!


空中からの唐突な瞬間移動は、あまりその経験のないカヤノには恐怖だったのだろう。


急に時空が歪んだり、移動する場所によっては穴に落ちて行くような感じがする場合もある。

慣れない者には、いささか心の準備が必要なものだが、浮かれているシルヴァスはやや悪乗りもあって、カヤノにその準備をさせずに行動に移した。

勿論、恐怖で自分に縋りつくカヤノを堪能したいし、涙目の彼女をもっと眺めたいという精霊様の自己満足からである。


しかし、これに驚いたのはカヤノだけではない。


突如として自分の机の前にキラキラ光る精霊と精神的に絶対安静状態だった療養中だった筈の生徒が湧いて出たのだ。


職員室の他の教師達も驚いて席を立ったり、目を丸くして動きを止めたり、持っていた高級万年筆のペン先をへし折ったりしていたが、いきなり目前に人影に遭遇してしまったサルマンは、カヤノ同様の叫び声を上げた。



「うわあぁぁぁっ⁉」



普段のオカマ声とは異なる野太い声にシルヴァスは、『これは失敗だったな』と片方の目を閉じてうるささに眉を顰めた。


すぐにこれが精霊の仕業だと気付いたサルマンは、いつものシナを作るのも忘れて、椅子から立ち上がり、その真っ赤で鮮やかな髪の色を反映するような勢いで、烈火のごとく怒鳴り散らした。



「キッサマアァ⁉カヤノを電話口にすら取り次ぎもしないでクソ野郎が…いきなり、現れやがって!!驚いただろうが⁉心臓止まるかと思っただろうが!一段落するまでとトイレにだって行かず、丁度、根を詰めてた所なんだぞ?漏らしたらどうしてくれるんだよ⁈」


「根詰めるって…そんなのそっちの都合だろう?知らないよ。そんな事で漏らすくらい、尿意を我慢するのが問題じゃない?膀胱炎になるから、行って来いよ…別にそのくらいなら僕らも待てるから。」



シルヴァスの飄々とした声に、更なる怒りに身を震わせるサルマンは吠えた。



「ふざけんなぁ!瞬間移動してくるなら、せめて、扉の外でして来いよ!いきなり、職員室に現れるなんて、マナーの上でも失格だろうが!!この化石精霊…って、ええ⁈アンタ、今日何だかいつもと違くない?神々しいんですけど⁉」


「ああ…いつもと違う(せわ)しない日々だったからね。カヤノが地上に戻って来るってウキウキ待っていたら、冥界で化け物に攫われててマグマに向かって落ちる所を何とか救出し、嵐を二日起こして、たった今プロポーズを終えて、カヤノの卒業証書を頂きに来たんだ。うん、我ながら大忙しだよ。」


「は?はあぁぁぁっ⁈何じゃ、そりゃ⁉一から、説明せんか!!」


「僕ら、まだやる事があるんだからさ…急いでるんだよ。説明したって、学校も卒業しちゃって君には関係ないんだから、とっととカヤノの卒業証書を持って来てよ。野暮だなぁ。言ったでしょ?プロポーズを終えたって…早く二人の世界に浸りたいんだよ。」



そう言って顔を赤らめる精霊、シルヴァス。



「な、何言ってんだ!アンタ⁉カヤノは精神を患っているんじゃなかったのかよ⁈つぅーか、オグマ先生はどうした⁉カヤノの状況をあの男からしか知らされなくて、ずっと歯がゆい思いをさせられてたんだぞ?しかもあの殺しても死ななそうな男…欠勤なんだけど⁈どうなってる?」


「あー、彼は…冥界で後始末?僕ら先に戻って来たから、そろそろ帰って来るんじゃないかなぁ?」


「だから、何があったんだよ⁉担任、蚊帳の外っておかしいだろ⁉しかもいきなり、冥界にいた筈のカヤノが現れて…アンタが精霊化してて…。」



そこまで言うと、ハッと気付いてサルマンはカヤノの方を向く。



「カ、カヤノ…アタシ興奮しちゃったわ。怖かったら…ごめんなさい。それと前に先生らしくない事をあなたにしてしまってごめんなさい。ずっと、謝りたかったの。せっかく、良い方向に転じてた部分もあったのに。」



サルマンは、瞬時にオネエ言葉に切り替えて、優しい声を出し直した。

カヤノもそれに応えようと、サルマンに向かって一生懸命に言葉を紡いだ。

まだ、完全に男性が大丈夫になったわけではないが、マグマに落ちる刹那、シルヴァスを強く思ったお陰かシルヴァス自身に対して、今まで抱いた恐怖心が起きなくなった事と、それよりも相手を愛おしいという気持ちになれた事…同時に、目覚めてからほんの少しの触れ合いではあったが、他の男性陣にも前ほど恐怖を感じなくなっていた事にカヤノは気付いていた。


あの大きくて怖かったアスターや初対面のレイナの兄にも、単に男性が苦手な女性程度には接触できたし、今もサルマンの傍にいるだけで震えが出るわけでも声が出なくなるわけでも、動機が異常に早まるわけでもなかった。


それは傍でシルヴァスが抱いてくれていたのもあるかもしれないが、あのマグマに真っ逆さまに落ちて行った瞬間に見えた人々の中で、そこにサルマンの姿もあったと思うと、カヤノは相手に対する恐怖より温かい気持ちしか湧かなくなったのである。


その前にハルリンドにしてもらっていた冥界医の治療の影響やレイナが自分を恨んでいないと言ってくれた事で、心の中の何か大きな罪悪感が取り払われたような気がしたのも大きいのかもしれない。

シルヴァスに素直な気持ちを吐露できたのもいい傾向だったと思う。


とにかく、マッド・チルドレンの化け物との遭遇については、それこそトラウマものの事件であったが、今回はそれを上回る精神的見返りがあったのだ。


愛する人、自分を守ってくれる人達、過去の罪悪感の払拭と新たな友情との出会い、進路の決定に祝福された現状…吹っ切れた自分。

それら全てがカヤノ中のトラウマと闘ってくれているような気がする。


久々に晴れ晴れとした心理状況が自分でもわかった。


先程のシルヴァスのプロポーズで、その発言に少々モヤモヤした所もあったが、振り返ればシルヴァスは結局、いつもカヤノのピンチに現れて守ってくれた。


これから先も本気で願えば、この精霊様が自分の元に駆けつけてくれるのだと考えれば、以前にはない心強さがある。

現在自分を抱き上げているこれほどまでに神々しい精霊様の加護があれば、何も怖い者などないと思えた。

自分は、この精霊に永遠に守られる権利を得たのだ。

度重なる事件で、実際にその度に助けられてしまえば、シルヴァスの守るという言葉が偽りではない事が身に深く刻まれた。

今なら、ハルリンドより自分を選ぶという彼の言葉を信じられる。

パブロフの犬のように、いくつかの危険との遭遇で条件反射的にカヤノはそれを学んだのだ。


だから、不思議と男性に対する恐怖心も心理の上で大きく減ったのだろう。

守護者を得たという確信は大きいものだ。



「サルマン先生…私こそ、ずっと臆病者でごめんなさい。せっかく、色々と私の為にしてくれたのに…最後まで先生の良い生徒になれなかった。」



臆することなく自分の目を見詰めて来るカヤノに、サルマンは目を瞠ったが、同時に担任として嬉しさを感じた。

生徒が何かを克服したり、成長するのは純粋に嬉しい。



「何…言ってるのよ?アタシこそ…卒業する前にアンタが頭を悩まさせるような事をして…本当に悪かったわ。まだまだ教師として修業が足りないわね。オグマ先生にずっと色々言われて、アタシも考えたの。アンタに会えなくて、会いに行きたかったけど…我慢したわ。」



そう言えば、シルヴァスもハルさんの時は我慢したが自分に対しては我慢ができないと言った…。

だから、サルマン先生が我慢をしたというのは、つまり、そう言う事なのだろう。



カヤノは密かに、自分はシルヴァスを選んで間違いではないのだと思った。

そして、その事は胸にしまって、サルマンに声を掛ける。



「ううん、私なんかを思ってくれてありがとうございます。あの時、私もトラウマなんてなくて普通の子だったら、きっと嬉しい気持ちしかなかったと思うの。だって先生は美人だし、優秀な人だもん。」


「ああ、カヤノ…アンタって子は!でも、あの時のアタシの思いは今だって有効なのよ?いつだって、アンタにその気さえあればアタシは…。」



サルマンが全部言い終わる前にシルヴァスがズズイと言葉の横槍を入れた。



「ちょっと⁉サルマン!僕、カヤノにプロポーズしたって言ったよね?今、婚約成立してんだよ!人のモノを口説くな…教師のクセに図々しい。無駄話してないで、さっさと卒業証書を取って来い。」


「無駄話だぁ⁉にゃろう!プロポーズったって、アンタが無理矢理、賭けやら何やらで逃げ道塞いだんじゃないか?ヌケガケだってしまくってんだろ⁉フェアじゃねぇぞ?白紙に戻せ!!」



シルヴァスを前にすると、サルマンの口調はすぐにオネエサンからドスの利いた男に戻る。

使い分けの速さから、カヤノは密かに器用なものだと感心をした。

サルマンは口調だけではなく、声のトーンだって一瞬で変わるのだ。



「ざーんねんでした!賭けなんて関係なく、カヤノは本気で僕の事を好きって言ってくれたんだよぉ!離れたくないんだって。君の出る幕なんてないね…べぇっ。」



シルヴァスはせっかく綺麗な精霊の姿をしているのに、本当に成人男性で騎士かと疑いたくなるようなしぐさをした。

目の前でサルマンに向かって舌を出しているのだ…。

憤慨しようとするサルマンを見て、カヤノは自分がハッキリせねばと再び口を開く事にした。

これ以上、大事な二人に言い争いのような事をさせたくはない。



「シルヴァス、先生にもう失礼な事を言ったりしたりしないで!サルマン先生、本当に今までありがとうございました。私、色々な事があって…実はまた、冥界でも危険な目にあったんです。」


「何ぃ⁉危険な目に…さっきこの精霊野郎が言ってた事か?アタシの知らない間に!!」



本気で悔しがるのと怒りを(あら)わにするサルマンを、カヤノはそこで制して続きを語る。



「待って、先生。最後まで聞いて。私、その事もあってシルヴァスが好きで…それに対して、我慢する必要はないのだと気付いたんです。それから、サルマン先生や皆に頼っても良いんだって事や皆が自分を大事にしてくれたって事、その人達が自分の宝だって事も。」


「カヤノ…。」



サルマンは切ない視線を最初で最後の最愛の生徒に向けた。



「その大事な人の中にサルマン先生も入っていて…だからシルヴァスと先生が喧嘩するのは嫌。それと同時に私の愛する人はシルヴァスだけだと考え至って…進路も決まったんです。先生、私、シルヴァスのお嫁さんになる事にしました。」


「カヤノ…それ、本当にアンタの意思なの?流されたり、脅されたりはしていないのね?先生には本当の事を言ってちょうだい。」


「ハイ、私の意思です。せっかく先生に教わった事はあまり活用されないかもしれないけど…私は現人神養成学校を卒業できて幸せです。担任の先生もサルマン先生で良かった。卒業式にも出れなかった不出来な生徒だけど…見放さないでくれて、本当にありがとうございました。」



サルマンは感極まったように涙ぐんだ。

男性だが、美しい容姿も相まってサルマンの涙は麗しくさえある…絵面だけではの話だが。



「わかった。カヤノが決めた事ならアタシ、それを応援するって言ったものね。いい?カヤノ…卒業してもこの学校は永久担任制なの。困った事があったら学校にいらっしゃい。アタシに言うのよ?」


「ハイ!先生!!」



サルマンの言葉を聞いて、カヤノは今度は物怖じしない元気な返事をした。

もしかしたら、今までで一番元気な返事だったかもしれない。

サルマンはクスリと笑い、シルヴァスは少し不機嫌そうに視線を逸らしている。



「仕方ないわね…急なんだから。本当はアンタが来たら、もっと色々と用意するつもりだったのに…。みーんな、この気ままな風精霊のせいなんでしょうが…カヤノが好いているって言うなら、何にも言えないわ。卒業証書を用意して来るから、待ってらっしゃい。」



そう言うと、サルマンは隣の資料室の方に消えた。

職員室では、他の職員達が元の仕事を始めている。

大分、大騒ぎになったと思うが、状況を知ってか知らずか、周りの先生達がサルマンやカヤノ達を咎めたり、注意を促してくる教師は一人もいなかった。

しばらくしてから、サルマンが現れて、シルヴァスに抱き上げているカヤノを降ろすように指示すると、ふらつく足取りをサルマンに支えられながら職員室を出る。



「先生…卒業証書は?」



不安そうな声を出すカヤノにサルマンは厳しい顔で言った。



「アンタね…急に来なくなって、卒業式も出なかったんだから。最後に多少勉強を教わった学園長に顔を出したっていいんじゃないの?」



サルマンの言葉に自分は学園長先生に挨拶に向かわされているんだと気付いたカヤノは恥じた。



「そうだわ…私、学園長先生にも何も音沙汰なしだったわ…。色々、迷惑を掛けたのに!ちゃんと謝らなきゃ…。」


「そうね…こっちよ。」



シルヴァスは終始、面倒くさそうな顔をしながら後に付いて来ている。

精霊にとってはカヤノと他の者(特に男)とのつきあいなど、どうでもいいのだ。

学園長に恩知らずだと思われようが、悪く思われようが、知ったこっちゃない。

サッサと証書をもらっておさらばしたいのに、サルマンは少しでも自分の邪魔をしているのだと察し、渋い顔をする。

それに気付いてか、カヤノ視線の外れた瞬間に、サルマンはシルヴァスに意地悪く片方の唇の端を上げて見せた。



 サルマンに連れられて、着いた先は校内の講堂だった。



「ここに学園長先生がいるんですか?」



何か行事の打ち合わせでもしているのかと思いながら、カヤノがそっと扉を開けると、スポットライトを浴びた壇上に学園長が立っていた。

そのままサルマンに促され、カヤノがそちらに近寄っていくと学園長がマイクを使った大きな声でカヤノの名前を呼んだ。



「三十木カヤノ君!」



ビックリして目を見開くカヤノに耳元でサルマンが囁く。



「ほら、カヤノ…先生から卒業証書の授与をされるんだから、さっきみたいに元気に返事をして壇上に上がるのよ。最初に一礼、左右の順に証書を受け取って、一歩下がって礼。できるでしょ?」


「は、はい!」



サルマンの耳打ちに驚いたカヤノは大きな声で返事をした。

担任への返事か学園長への返事かわからない曖昧な返事になってしまったが、話を聞いて、自分の為に卒業証書授与式を部分的にでも再現してくれるのだとわかったカヤノの心は、感動で一杯になった。

うまくやろうと背筋を伸ばし、ふらつく事のある足に力を入れる。


シルヴァスは状況を察し、サッと席に座って彼女を見守った。

シルヴァスが指を鳴らすと、服装がいつもの人間バージョンに一瞬で戻り、羽もしまった状態になる。

スーツは晴れの日用の物になっていて、これも精霊の魔法だろうが、保護者らしさを瞬時に演出している。

だが、体だけは通常とは違って、薄っすらと輝いているままだ。


保護者であろうシルヴァスが見守る中、学園長は賞状の文字を読み上げた。


カヤノはしっかりと学園長から卒業証書を受け取った。

その際に、学園長のガブリエル・リリューは小さくカヤノにだけ聞こえるように言う。



「おめでとう、三十木カヤノちゃん。よく頑張ったね。この学園を卒業した事が、君にとって誇りに繋がる事を祈っているよ。もう一度、顔を見られて良かった。僕らはいつでも君の味方だから。」


「あ、ありがとうございます…先生。私もまさか、こんな風に賞状を渡してもらえるなんて…思わなかったから…本当に嬉しい。この学校の卒業生になれて良かったです。」



カヤノは暖かい学園長の言葉に眼を潤ませた。

今日は目が溶けてなくなってしまったと言っても、疑われないレベルだと思う。

サルマンとシルヴァスが客席から拍手を送ると、少し会話をしてから講堂を出る。

そのまま、シルヴァスに連れられて、次の目的地に行こうとするとサルマンは二人を止めた。



「学校を出る時は、玄関からきちんと出ろ!瞬間移動は、学校の門をくぐり抜けてからだ。」



サルマンの言葉に渋い顔を見せた元・保護者様だったけど、シルヴァスは何も言わずに言われた通りにカヤノと並び、正門へ向かう事にする。


しかし、二人が学校の外を一歩出ると、門までの間の距離に先程まで職員室で仕事をしていた先生達が揃って並んでいるではないか!


卒業式で使ったであろう花のアーチを二人一組の教師で列になって持ちながら、カヤノ達がそこをくぐり抜ける度に先生達が『卒業おめでとう!』と声を掛けてくれる。

先程までは精霊界の精霊達に『婚約おめでとう』と散々声を掛けられて来たのに…今日は、祝福の連続だった。

涙腺が緩みっぱなしで目の下がかぶれそうだ。


そんな調子で正門に着くと、最後に別れた筈のサルマン先生と冥界にいた筈のオグマ先生が待機していた。



「オ、オグマ先生⁉」



カヤノは驚いてオグマを呼んだ。

ニヤリと笑う不敵な教師…オグマは口を開く。



「三十木の元保護者様の性質上な…行動が早いから、今日はもしかして学校にも来るかと思っていた。だから、伯爵やハルリンドに途中から全部、頼んでな。俺は急いでここに戻って来たんだ。」



複雑そうな表情のサルマンも、カヤノに最後の祝福の声を掛けた。



「全く…全部アタシを蚊帳の外にしてくれたわね。オグマ先生はたった今、戻って来たのよ。本当、要領のいい先輩教師ですこと!カヤノ、幸せになるのよ?もしそうなれなかったら、アタシの元にいらっしゃい。その時は、今度こそアタシがアンタを幸せにしてやるわ。」


「サルマン先生…本当に、本当にありがとうございました。」



乾く間もなく涙を浮かべるカヤノ。

門前で通って来たアーチを持っている他の教師達もこちらを優しく見守ってくれている。



「サルマン先生も…オグマ先生も…ここまで見守ってくれた学校の先生達全員に本当に感謝しています!ありがとうございました!!」



後ろを振り返って、教師達に精一杯大きな声で感謝の言葉を述べ、頭を下げたカヤノに盛大な拍手が送られる。

オグマは最後にカヤノに言った。



「おお、巣立ってもたまには顔出しに来いよ?三十木、大切なのは、この精霊さんが好きかどうかだ。忘れんな。幸せの形は人によって違う…他人がどうこう言おうが自分が満足していればそれでいい。お前らしく生きろよ。」



カヤノはオグマに向かって花のような微笑みを返した。

その笑顔は何ともいい笑顔で…大輪の花のようではないが、素朴な美しさは教師達の心に何か充実したものをもたらしてくれた。

失恋した筈のサルマンもカヤノの笑顔につられたように、寂しそうにも嬉しそうにも微笑んだ。

『教師をやっていて良かったな』と、彼女の笑顔はそんな風に思わせるものだった。


たった一人の生徒と教師達だけの卒業式は、短いながらも感動で幕を閉じる。



 門を一歩出た瞬間。


今まで、保護者に徹していたスーツ姿のシルヴァスは『ボムッ』と音をたてて、六枚羽の精霊姿に戻り、感動冷めやらず、カヤノに手を振り続ける教師陣を振り返る事もなく、再度彼女を抱き上げて飛んだ。


ここは学校の為だけに開かれた空間なので、門から外はちょっと行った所で何もない場所になり、他の異界への道がいくつも連なっているだけだ。

筒に入れた卒業証書を握ったカヤノを連れて、迷わず精霊界への道にシルヴァスは向かう。



「ようやく結婚式だ!」



こうして、シルヴァスは二人だけの結婚式を挙げに精霊界の精霊王の元へと急いだ。

精霊の婚姻は王の許しが必要なのだ。

そこで、ちょっとした儀式を終え、王に認められれば式は無事に終了し、晴れてカヤノはシルヴァスの妻になり、精霊界の一員として認められる事になる。

ここに来て、時間がなくなり、あまり更新日がハッキリしませんが、あと3~4回ほどで完結する予定なので、あと少し宜しくお願いします。

もっと早く完結するつもりだったのですが、シルヴァスはアスターに対抗心があるのか…勝手に動き始めて、結局、他作品である『引き取られた先は冥土でした』と同じくらい続いてしまいました。

反省。

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