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春の嵐と恋の風【75】

急ぎ投稿につき、変な文章があったら、ごめんなさい。

気付いたら、またいつか直していきたいと思っているのですが、誤字等ありましたら報告いただければ幸いです。


本日も精霊100%なシルヴァスです。


 ☆   ☆   ☆



 シルヴァスの親友である伯爵がオグマに小声でこっそりと耳打ちした予想通り…。 


…見た目の柔らかさとは相反する暴れん坊の精霊様は、空の上で暴れ回っていた。


雨の精を従え、運んだ雨雲で豪雨を降らせ、容易にマグマの動きを止めた後、もう良いというのに暴風を吹き荒し冥界に嵐を呼んだのだ。


『そこまでしなくても…』とレイナの兄もげんなりとした表情を浮かべていたが、空の上の精霊様にはどこ吹く風だ(風の精霊だけに…)。



 しばらくぶりに嵐を起こさずには済まぬほど、シルヴァスの心は(たかぶ)っていたのだから仕方がない。


カヤノが危機一髪の危険に晒された事への怒りと…はたまた、彼女が自分を受け入れた事に対しての喜びという両極端の感情が彼の荒ぶる力を爆発させたのだ。



「二日くらいしたら、落ち着くだろうから…大変迷惑だとは思うが、放っておいて頂けるだろうか?」



アスターは、レイナと兄である領主に深々と頭を投げながら、願い出た。

マグマの件が一段落して、領主の城に戻って来た冥界の三神、伯爵夫妻とレイナは共に領主の招待で食事を取りながら窓辺を見やっている。


領主は、火山噴火の危険性から、一時、一部の住民を避難させたままにしており、その危険性がなくなったのだから、本来なら領民達を元の家に戻してやっている筈だったが、シルヴァスが災害が出るほどの嵐を起こし続けている為、まだ避難解除する事ができなかった。

別にやろうと思えば、領主の権限により領地への予定外の台風災害を起こしたとして、それを理由にシルヴァスを取り締まる事もできるのだが、彼はアスターの願いを聞き入れ、そうする事をしなかった。



 結果、アスターが皆に言った通り、きっかり二日間。


冥界の火山地区で大嵐が続き、その期間でピタリとやんだ。



「領主殿…何から何まで世話になった上に、私の親友が本当に申し訳けなかった。及んだ被害の後始末については、後日私の方で人や物資等を派遣し、できるだけの事をさせて頂く。」


「いえ、火山の噴火を堪えてもらった事を考えれば目を瞑れますよ。マグマが住民の生活区域に流れ出した方が被害が大きかったでしょうから。嵐については事前に対策も取れたし…川の氾濫で肥沃な土が運ばれたので、きっと今年は作物の実りが良くなるでしょう。」



領主はアスターの謝罪にも広い心で対応してくれた。


とりあえず住人は避難させてある為、現世で起きる大嵐のように悲劇を生むような事態が起きないのが前提である。


アスターとハルリンドはレイナの兄に心からの敬意と感謝を示した。


 本来なら、妻になる事を了承したカヤノがシルヴァスに語りかければ、精霊様も大人しくなりそうなものだが、城に着いてすぐに神力の不足と気を張っていたであろう緊張感の糸が切れたカヤノは、眠りについてしまったので仕方がなかった。


シルヴァスのお陰で、ある程度浄化されたとは言っても、冥界のマグマの気で消耗したカヤノの体力と神力不足の影響は大きく、もう少しで領主の城に辿り着くという所で、オグマの背でウトウトし始めた彼女は城に着いた途端に意識が戻らなくなったのだ。


ようやく、救出された末にスヤスヤと眠り始めたカヤノを叩き起こしてまで、シルヴァスを止めさせようとは誰も思わないし、レイナや状況を聞かされていた領主だって言い出せなかった。


そこでアスターは領主に頼んで、倒れるように眠りの世界に入ってしまった彼女に城の一室を提供してもらい、シルヴァスが大嵐を起こして暴れ回っている間、比較的カヤノと相性の良い神力のオグマが定期的に自分のエネルギーを補充してやっていたのである。

彼女が目覚める程度に回復を待って、現世で本格的に医者に神力回復の施術をしてもらわなければならない事を考えると、シルヴァスが大嵐を吹かせた二日間は、カヤノが目を覚ますのに要する時間にも丁度良い長さであった。


シルヴァスが嵐を霧散させて、気が済んだのとほぼ同時に、カヤノも目を覚ましたのだ。



「まあ、シルヴァスさんとカヤノちゃんって、とっても息が合ってるのね。私の大好きな二人が仲が良くて嬉しいわ。」



どこかのんびりした所のあるハルリンドが、目覚めてすぐのカヤノに嬉しそうに言った。



「シルヴァス…そんなに長く、嵐を起こしてたんですか?」



その時、既にカヤノの元に舞い降りて、いつも通りの仕様の騎士姿に戻っていたシルヴァスは、口笛を吹きながらとぼけたしぐさをした。



「長くなんてないよー。嵐って言うのはさ、精霊基準では一晩から二晩が基本だもんね。」


「一晩で良かったなら…二日も必要ないじゃない。」



カヤノの指摘に、周りにいる皆は『うんうん』と首を縦に振って同意の姿勢を見せた。



「そこは…そのさ…僕だって、荒ぶってたって言うか…。」



シルヴァスの言いわけに、皆が集まって自分を囲むベッドの上で、カヤノは目を細くして軽蔑の孕んだ顔を向けた。

人前だからこそ、尚更、シルヴァスに甘い顔など向ける事ができない。

皆もシルヴァスに棘のある視線を投げているのだ。

あたふたとした愛嬌のある精霊様は、カヤノが優しくしてくれないのを見て取ると、すぐに助けを求めてハルリンドに目を向けた。



「ハルゥ~、何とか言ってよ。僕だって、暴れたくなっちゃう時もあるんだよ。普段善良だしね?カヤノが危険な目にあって、平常心でなんていられなかったんだもん。」



すかさず、『善良ってどの部分が?』とアスターとオグマが心の中で(はてな)マークを点灯させる。



「それでも…だったら余計に平常心でいられなくなるほど大切な相手の元に戻って来て、傍に付いていてあげるべきでしたよね?」



いつもは優しいハルリンドだが、今日はレイナの兄の手前もあり、シルヴァスに辛口だ。



「いや、だってさ…頭にもキタけど、カヤノが僕のお嫁さんになるって思うと嬉しくて、風の精霊らしく久々に吹き荒れたくもなっちゃうんだよ。その…理性のタガが外れちゃって。だって仕方ないだろう⁈」



シルヴァスは、開き直ったのか悪びれもなしに大声で驚きの告白をした。



「僕の元から逃げようなんてするから…僕の知らない所で勝手に危険な目にばっかあって…ようやく観念してくれて嬉しいのと同時に凶暴な気持ちにもなっちゃったんだよ!」


「ハイ…?」



首を捻って聞き返すハルリンドと相変わらず細目を持続させてシルヴァスを見るカヤノ…。

頭を抑えながら見守るアスターとオグマに呆気にとられるレイナと兄の領主兄妹。

続けられる精霊様の言葉に一同は顔を引きつらせた。



「すぐにカヤノの傍に戻ったら危険だったんだ…ある程度発散させてからじゃないと。だから、一暴れする必要があったの!だって、カヤノは弱ってただろう?すぐにカヤノの傍になんて戻ってたら、僕、そのまま攫って、待ったなしで滅茶苦茶に好きにしちゃってたよ?皆はそれで良かったと思うの?」


「「「良いわけないだろ⁉」」」



レイナの兄を含む男性陣が声を揃えてシルヴァスに一斉にツッコんだ。



「弱ってたから、シなかったってだけなのかよ⁈いや待て。弱ってる関係なしにそういう鬼畜行動は許されないからな?大体、アンタ、フェミニストじゃなかったのかよ⁈」



と言うオグマの声。



「良かったと思うの?って…私達が止めなければスルって聞こえるんだが。全ての男が性癖を100%解放しているかって言ったらNOだからな?友からの忠告だ…その辺、加減しないと蛇蝎の如く嫌われるぞ?」



と言うアスターの声。



「私も妻を愛しすぎていて異常なのは自覚していますが、いつだって『待て』を強要されていますし従っていますよ?攫うのはわかりますが、()()()()()()()には、滅茶苦茶にしてはいけません…。」



と言う少し不穏な領主の声。

これには『攫うのはわかるのか⁈さすが冥界神だな!』とオグマにツッコミを入れられてはいたが…。


ハルリンドとレイナは赤らめた顔を俯かせていて、カヤノは覚醒したばかりで回転の遅い頭を使い、シルヴァスの言葉を繰り返して考えた。



滅茶苦茶?

攫って?

()()()って何を?



しかし、彼女がその意味を理解する前に、シルヴァスが大股でベッドに近付いて来て、いきなり彼女を抱き上げた。

カヤノの思考はそこで停止する。



「ああ、もう!皆、うるさいなぁ!!わかったよ…そう、いきなり(いきなりは…ね)無茶なんかしないから。だから、頭を冷やす為にも暴れて来たんだって言ってるじゃないか。あとオグマセンセ、自分でも知らなかったけどフェニミストなのは、本気で好きな子以外・限定だったみたいだから!」


「何だそれ⁉思想に限定があってたまるか。」



オグマの抗議にシルヴァスは、両眉を下げて嘆くように答える。



「お(さつ)になった偉い人間のオッサンだって『平等』とか言っておきながら、自分の娘婿には学歴重視したって言うよ?思想と自身の現実とでは、必ずしも一致しないのが常識なんだな。古参教師は、融通利かないよねー。」


「化石クラスの精霊に古参呼ばわりされたくないわ!意味わからん例で自分を正当化するな!!」


「ハイハイ…わかったわかった。もうカヤノも目を覚ましたし、早く神力補充してあげたいから現世に連れ帰るよ。今回は緊急なんで精霊の力を使うけど違法じゃないよ?弱っている彼女への緊急措置だし、精霊として花嫁を連れて行くんで、現人神の規約に反さない特例扱いが適用されるからね。」



そう言いながら、フワリとカヤノを抱いたまま、宙に浮いたシルヴァスは、城の窓から外に飛んで行く。

オグマは自身の中で周りに聞こえないように微かに舌打ちをした。



「全く…悪知恵の働く奴だ。」



オグマの漏らした言葉を聞こえていないように、精霊様は満面の笑顔(営業スマイル)を浮かべる。



「じゃあね…皆さん。色々、お世話様。ハル、レイナちゃん、本当ありがとねー。僕、彼女の気持ちが変わらないうちに早速、カヤノをお嫁さんにしてくるよ。あ、オグマ君、アスターは後始末宜しく。領主さんには今度、お礼に来るよ…(主に奥さんにだけどね)。」



シルヴァスはそう言い残すや否や窓から出て、あっという間に風に乗って消えた。

男どもはボソリと呟く。



「アイツ…全く子供と女にだけは愛想がいいんだよな…。結局、女性にだけしか本心から礼を言うつもりがないのが見て取れた…。」

(アスターの声)


「ああ、男相手には、清々(すがすが)しいまでの形だけの挨拶でしたね。雰囲気で感じました。」

(領主の声)


「彼女が弱っているから緊急措置を取ると言っておいて、嫁にして来るって?何か矛盾してないか?弱ってんだぞ、三十木は⁉俺は彼女の気持ちを優先させた為にあの男に任せたが…本当に良かったのか?」

(オグマ…今更ながら良心が疑問を唱える声)



お姫様抱っことキラキラの精霊スマイルに目が曇り、そんな男性陣の小さな呟きなど耳に入らなくなっていたハルリンドとレイナは、出て行ってしまったシルヴァスとカヤノの姿が見えなくなっても窓の外から二人をいつまでも見送り、顔を赤らめながら黄色い声を上げていた。



「キャアッ!お嫁さんにしてくるですって⁉騎士服でお姫様抱っことか…素敵。カヤノちゃんとシルヴァスさんのお似合いなこと…可愛らしくっていい絵だわぁ。御馳走様って感じ!!」


「ええ、ハルさん、私も精霊系の現人神さんを紹介してもらおうか本気で考えちゃいました!精霊系の人って綺麗ですねぇ。オグマさん、現人神なら誰かイイ人を紹介してくれるって言ってましたよね?」



興奮気味のハルリンドとレイナの言葉にギョッとした顔をする男性陣。



「何を言う⁈ハル!お姫様抱っこなら、いくらだって俺がしてやる。シルヴァスなんか羨むな!!安定感にはアイツよりも自信があるぞ⁈」



フォルテナ伯爵は二メートル以上あるであろう大男で、片手に力こぶを作って慌てて妻に迫った。



「もう、そういうトコ!アスター様ってば、シルヴァスさんみたいに自然な流れでスマートにして下さらないと…女性はときめかないんですってば!わかってらっしゃらないわー。」



『ぷうっ』と膨れてそっぽを向いた妻の顔を見て、力こぶを下げたアスターは肩を落とす。

続いてオグマがレイナに言った。



「おいおい、レイナちゃん…現人神なら紹介してやれるとは言ったが、俺は良さそうな奴って言っただろ?精霊は勧めてないぞ。見た目に騙されるな。(奴らS系・的中が異常に率高いからな!)」



オグマはそう言った後で、何やら急にシルヴァスに対して腹が立ってきたようで、穏やかでない悪態をつきながら…最後にはまた、カヤノを心配し出すという無限ループを繰り返し始めた。



「あの野郎…現人神になってからの年齢使用して、気分一新してっからって…所詮、見た目詐欺の独身(こじ)らせた年寄り精霊だからな…ようやくできた嫁に暴走しなけりゃいいが。くぅ、三十木が心配だー!」



妻にお姫様抱っこを断られ、肩を落としていたアスターも気を取り直したのか、オグマの言葉に同意して心配の色を浮かべている…未だ色めき立つ妻はもう諦めて放置した。



「シルヴァスからしたら、カヤノ君はうちのハルよりも若くて…完全に幼な妻だからなぁ。可愛さもひとしおだろう…あまり、可愛がりすぎなければいいが。」



アスターの言葉を受けて、今度は領主もなぜか、妻と妹に囲まれていたいシスコンっぷりを発揮する声を発した。



「初めて精霊にお会いしたのですが…妹を精霊系の者にだけはやるまいと心に決めました。レイナ!お前が良ければ、お兄ちゃんの所に一生いても良いんだからな?いや、結婚なんてするなぁぁぁ。」


「・・・・・。」(オグマ&アスター)



 消えて行った窓の外…空を見上げながら、アスターとオグマは遠い目をしながら、カヤノの無事と幸せだけをオジサンの視点で祈っていた。



 ☆   ☆   ☆




 「さて、カヤノ…卒業証書をこれから取りに行こうか?君が僕を受け入れてくれた事だし、賭けも晴れて無事に終了させようね…いや、受け入れてくれて本当に良かったよ。」



続く『卑劣な事をしないで済んだからね』という言葉は飲み込んで、シルヴァスは空の上でカヤノに微笑んだ。


 さっきまで、広い冥界の空を飛んでいたのに、いつの間にかシルヴァスは六枚羽の精霊の姿に再び転じて、風と共に異界の壁を越え、現世の空を飛んでいた。

抱きかかえられるカヤノは、さすがに空の上で落とされては大変だとシルヴァスの首に強く両腕を巻き付けている。


その事に更にご機嫌な精霊様は、小妖精に言いつけて、カヤノに精霊ならではの色々なモノを見せてやった。


軽いお天気雨の後の大きくかかる虹。

普段V字に列をなして飛ぶ渡り鳥が、ハート型になって飛ぶ現実離れした光景。

風を起こして雲の形を変え、空を一大キャンパスに見立てて、お菓子の形や星の形を作り出したり、地上のどこからか運んでくる花びらを舞わせた花吹雪。

とにかく、どれも幻想的で非現実的で夢のある事象が巻き起こり、カヤノはすっかり興奮した。


それにシルヴァスとカヤノの周りには、小さな妖精達が無数に飛びかっている。

それだけでもかなりお伽の世界で、本当にここが現世かとカヤノは目を瞠らずにはいられない。



「コレって夢なの⁈」



思わず上げてしまうカヤノの声にシルヴァスは『アハハ』と笑って否定する。



「夢じゃないよ。君が僕のお嫁さんになる事が決まって、皆、祝福してるんだよ。正式な祝福はまた別にしてもらえるけど…とりあえず他の精霊達も喜んでくれているって事だね。」



シルヴァスの説明通り、少し目を瞠れば、周りを飛ぶ小妖精達の他に遠くの下界でも空の上でも川や海の精霊や日のある所では日の精霊が、土の上では大地の住人である精霊が…こちらに向かって手を振っている。



「正式なお披露目は、またの機会にするけど…今日は二人っきりで精霊の結婚式だけは済ませようね?だから、その前にサルマンに会って、卒業証書を受け取ってしまおう。」


「え、えっと…さっきも言ってたけど…本当に今から学校に行くの?いきなり?連絡もなしに?今日でなくてはダメなの?」



カヤノはシルヴァスの急ぐ理由がわからず、戸惑いの色を示す。



「勿論本当だよ?早く、君が一人前の現人神認定されたっていう証拠が欲しいから、今日でなくては絶対にダメ!君が弱っていて疲れていようとこれだけは譲れないよ。それに今も僕の気を送ってあげてるから、これ以上、体に負担はかからない筈だよ?」


「でも、シルヴァスだって、私が眠っていた間、二日も空の上で嵐を起こしてたって聞いたわ。疲れているでしょう?今日は帰って休んだ方が…。」


「何言っているんだい?カヤノ…あれくらいで僕が疲れるわけないでしょう?現人神になってからは、センターに怒られちゃうから、いつも我慢しておとなしくしてるだけなんだからね…。」


「え⁈あれで我慢してたの?」



カヤノは目を丸める。

普段だってシルヴァスは、若いカヤノでもついていけないくらい充分活動的だ。



「我慢してたよ?現世でこの国の現人神を請け負ってからは我慢ばっかり!それにカヤノに対しても凄ーく、我慢したよ?ねえ、君を傷付けたあの日から、僕は充分、君にお返しをされたと思うんだけど。今は、僕の方が君に辛い思いをさせられた分量の方が多いんじゃないかな?」


「あ、あー…?」



カヤノは言葉にはならない曖昧な声を出す。



「ね?僕、もう罪を精算できてるよね?だから、お嫁さんになるって言ってくれた部分もあるんだろう?ふふ。結局、賭けは僕の勝ちで君の負けだよ。」



両目を上にあげて考えたような素振りをするカヤノ。

頭の中では、シルヴァスに振られて悲しかった日を思い出しつつ、自分が今まで振り回してしまった迷惑の数々を数えた。

そう考えると、確かに振られた時は辛くて悲しかったけど、次々と心配させ続けたシルヴァスの心労と献身には、続く次の言葉が出てこなかった。



一体、どんなリアクションを取れというのだ…。



カヤノには、どう言えば正解なのかがわからない。



「冥界でも言ったように、僕はもう君を待つのはやめたんだ。それに賭けに負けたからには、諦めて僕の言う通りにしてもらうよ?」


「そ、それは…約束だもの。でもね…。」


「何?まだ何かあるの?」



シルヴァスは片方の眉毛を『仕方がないなぁ』と言わんばかりに下げて見せる。

カヤノは恥ずかしそうにシルヴァスの耳元で囁くように言った。



「でもね…シルヴァス。私、賭けに勝ったとか負けたとか…もう忘れてたし考えてないの。そんなの関係なくて、あなたのお嫁さんになりたい。火山で落っこちた時、シルヴァスの事ばかり思い浮かんで…やっぱり大好きで…傍にずっといたいって思ったの。」



顔を真っ赤にしながら、それだけ言うと、自分の肩に顔をうずめて隠してしまったカヤノに…まじまじと目を見開き、シルヴァスは『ボムッ!』と破裂したような音をたてて自身もカヤノに負けないくらい顔を赤くした。



「シルヴァスがレイナちゃんをドラゴンに乗せてた時も嫉妬して悲しくなっちゃったし…。」



顔を伏せながらも小さく付け加えるカヤノにシルヴァスは叫び声を上げる。



「ここで今、そういう事を言う?もう何なの⁉カヤノ!!本当…君って反則!可愛すぎるだろ…。」



そう思う段階で賭けには勝っても、シルヴァスはとうにカヤノに恋の駆け引きで負けている。

カヤノは、その後もシルヴァスに対して思った事を全部正直に話して行った。



「冥界でも、ずっとハルさんとシルヴァスの事がお似合いだと思ってたの…。」


「お似合い?カヤノ…バカだねぇ…それも嫉妬なの?うーん、本当に可愛いなぁ。ハルの事は好きだけど…君の事を好きなのとは比にならないんだよ?自分でも怖いくらい、君にぞっこんなのに…。」


「ハルさんがお姫様の方がシルヴァスが引き立つと思ったの…。」


「いやいや、カヤノ。そう思ってくれたのは有り難いけど…ハルに関してはアスターの右に出る者はいないよ?ゴツイ男だけど、不思議と彼女の隣りがしっくりいくし、奴のハルへの思いには誰も敵わない。逆に僕は、カヤノに対する気持ちは他のどんな男にも負ける気がしないからね?」


「うん…信じる。シルヴァスが好きだから。それとね…私を助けに来てくれた時のハルさんを見て思い直したの。」



カヤノは、シルヴァスに守られるハルリンドの図がお似合いに違いないと思って悲しくなったのだが、実際、自分が化け物につかまってしまった時に助けに来てくれたフォルテナ伯爵夫妻の姿を見た時に、それが謝りだったと気付いたのだ。


久しぶりに見たハルリンドの戦闘服姿と冥界神としての神の本性を見て、彼女の最大に美しく見える姿が夫である伯爵と並ぶと最大限に光り輝いて見えたからだ。


両親の死後、カヤノがマッド・チルドレンに幽閉されていた時、最初に自分を助けてくれたのが当時、現人神養成学校の学生であったハルリンドだった事を思い出す。



「私、もうずっと、穏やかなお屋敷での伯爵夫人の姿しか見てなかったから、ハルさんの本当の姿を忘れていたみたい。アスター様と二人で並んだ姿は、お互いを補い合っているように素敵だった。」



ハルリンドは当時も凛とした美しい女性騎士の姿で現れた絶世の美女だった。

守られるだけの自分とは、その存在感も系統も大きくかけ離れている。

だからこそ憧れ、だからこそ敵わないと思った。


それと同時にその姿は、大柄で男性らしいアスターと並ぶと、さすが夫婦だけあって互いがコインの表と裏と言っても過言ではないくらいに映えたのである。

フォルテナ伯爵の隣は、ハルリンド以外には考えられないとすら思えた。

伯爵の隣に並ぶのは、ヴァルキリーのような女神が似合うと思ったが、ヴァルキリーではなくともハルリンドの透明感のある冥界の気品ある神気はさすがは貴族同士…お似合いとしか言いようがない。


対する本来の精霊姿のシルヴァスとハルリンドは、カヤノが思っていたほど似合っては見えなかった。


凛としたハルリンドの隣に、どこか大人の男性にも関わらず幼さの残るような表情をするシルヴァスは、余計に軽く見えてしまう。

良くも悪くもシルヴァスは、見た目だけなら可愛く見える。

冥界女神の重厚感が精霊界の光輝くシルヴァスの雰囲気とは正反対で、ちぐはぐに見えて合わないのだ。


シルヴァスは騎士姿にも拘らず、ハルさんを守るというには役不足にも見えた。

ハルさん自身がしっかりとしていそうで、シルヴァスに守ってもらう必要がなく感じられる。

それが大柄の伯爵であるアスターが相手だと、『あら不思議!』…伯爵なら、女性騎士を援護し彼女ごと守る事のできる男性に見えてしまうのだ。

これはシルヴァスが別に頼りないというわけではない。


シルヴァスは、小さくて頼りないような無力な女の子を庇護するのがしっくりいく…ガラス細工のお人形の騎士のようなキラキラ感があるのだ。

重厚感あふれるハルリンドとは、質が違っている。


シルヴァスはクスクスと笑った。



「そうだろう?僕の親友とハルはお似合いなんだ。だからこそ、長い間、嫉妬してきたんだよ。でも今は、少しも二人を全く羨ましくは思っていないよ。君がいるからね。ようやく僕も自分の隣に並ぶにお似合いの子を見付けたんだ。」


「シルヴァス…私、記憶がなかった時に言ったように、頑張るけど…シルヴァスに似合う現人神になれるかな?」


「フフ、だから…もうとっくに君は僕にお似合いだって言ってるのにね。頑張る頑張らないは関係ない。初めは僕なんて君には勿体ないと思ってたんだけど…言い直すよ。君みたいに手のかかる子は…僕くらいフットワークが軽くないと対応できないね。」



シルヴァスは、笑顔の種類をニヤリと悪い顔に切り替えて落ち込み始めるカヤノに『お返し』と言わんばかりに『前にも言ったかもしれないけどね?』と今度は彼女の耳元に囁き返した。



「わかる?他の奴には、君のお守(おもり)なんてできないってこと。だから、君が僕のお似合いなのではなくて、僕が君にお似合いなんだよ?それに君は知らないだろうけど…ハルやアスター含む皆にも、僕らがお似合いだってのはお墨付きをもらってるんだ。認めなよ。」



シルヴァスは急降下すると海の上、スレスレに飛んだ。

普通の人間からはカヤノとシルヴァスの姿は見えなくなっている。

シルヴァスは、『今、僕達は風になっているんだよ。』と教えてくれた。


水面に精霊に抱かれた自分の姿が映ると、カヤノは小さく首を傾げた。



「あれ?あれ?」



二人の姿は、どうにも不思議な事にやけに安心して見ていられるというか…妙に違和感がなかった。

自分で言うのは恥ずかしいのだが…なぜだか『お似合い』に見えるのである。

シルヴァスは依然、風になって海を渡り続けている。



「そういえば、学校に寄るのではなかったの?海に何て出て、どこへ行くの?」


「ちょっと僕の故郷の国まで!ほら、カヤノ…前に遠くからお城を見せてあげただろう?あそこに寄って行こう。」


「卒業証書は?」


「取りに行くよ。寄り道したら、すぐにね!」



シルヴァスは精霊らしく無邪気に悪戯っぽい表情でカヤノを見詰めた…。


未定ではありますが、火曜日までには更新できるように頑張りたいです。

でも、更新日がズレたら、ごめんなさい。

本日もアクセスして下さった方、ありがとうございました。

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