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春の嵐に恋の風⑤

 カヤノの事で連絡を受けた三日後、シルヴァスが孤児院を訪れると、目の前にいる(くだん)の少女はこの上なく、しおしおとした態度で椅子に腰掛け(うつむ)いていた。



『どうやら、なぜ、僕がここに来て、何が問題なのか…自分でもよく、わかっているらしい。

彼女自身でも、どうにもならない問題を抱え、それでも僕や孤児院スタッフに対する罪悪感でいっぱいなんだろうな…。』


と、シルヴァスがカヤノの気持ちを容易に想像する。

シルヴァスは、そんな彼女が少しでも気に病んでしまわないようにと、出来るだけ明るく語りかける事にした。



「久しぶりだね、カヤノちゃん!元気に過ごしてた?」



 (シルヴァス)が笑顔で声を掛けると、彼女は驚いたように顔を上げて、そちらを見た。


彼女は開口一番に、僕が深刻な内容を重々しく話しかけると思っていたんだろう。


少し困惑している様子だが、あいにく、僕は深刻な雰囲気と言うのが大嫌いだ!



だから、続けて明るい調子で彼女に本題を切り出す事にした。


ほんの少しでも、その事が彼女にとって、大変な事態であるとは感じられないように…。



「そういえば、スタッフの人に聞いたんだけど、養い親がまだ決まっていないんだって?」


「…ハイ。」


「もうすぐ、現人神養成学校に入学する時期だし、そろそろ本気で里親を決めたいよね?カヤノちゃんから、何か希望はあるかい?」


「いえ、これといった希望とかは、別に無いんです…。」


「本当?何でもいいんだよ?例えば、里親先には、こういう所がいいとか…里親希望者のどこが改善されればやっていけそうか…とかさ。」


「私を引き取ってくれるのであれば、どこでもいいの。でも、シルヴァスさん、私、うまくやれなくて…私のせいで今日、ここに来る事になったんでしょ?仕事を増やして…ごめんなさい。」



そう言うと、カヤノは、いつになく暗い顔をして、また(うつむ)いてしまった。



「何言ってんの?僕は子供達が大好きだし、ここに来るのは楽しみなんだ。君の事も勿論、気になったから、里親の話を聞いて心配になった。だけど、仕事だと思って来てるわけじゃない。子供はそんなに気を使ったりしないの!」



僕の言葉を聞いて、少しだけカヤノが目に涙を溜めた。

彼女は、その涙をこぼさないようにと頑張っているようだった。

そして、僕はやるせなくなった。


カヤノの年齢まで育ってしまったとしても、親が決まらないという例は非常に珍しい…。


その時、僕は冥界の孤児院で、今のカヤノと同じように、なかなか引き取り先の決まらない少女の事を思い出していた。


それが、僕の好きになったハルリンドであり、冥界の女神様である。


(おり)しも、カヤノの今の姿が、当時の彼女に似ていて、僕の中でハルリンドと重なった。


そのせいだと思う。


僕は無意識に口を開いてしまっていた。


カヤノの事がほっとけないような気がして…心にもなかった事を。



「どこでもいいなら、僕のうちでも来るかい?勿論、君が良ければだけど…。」



カヤノの瞳が、こぼれるように大きく見開いた。


その顔は、驚きの色を浮かべており、ポケッと口を少しだけ開けた表情には、反射的に『可愛いな』と…不覚にも思ってしまった。



 正直、僕は、カヤノに言ってしまった事を後悔した…。



最初は、そんなつもりがあって、ここに来たわけではないのだ。


カヤノの話を聞き、状況を把握して、自ら足を運び、いくつかの里親希望者の元に行って、カヤノの状態を話し、彼女を引き取ってもらえないかと直談判(じかだんぱん)するつもりでいた。


無論、自分もカヤノの事は、可哀想だと思うし子供は好きだが、独身の…しばらく恋は、懲り懲り(こりごり)な下心のない男にとって、引き取るのが男児だったならまだしも、少女と言うのは、うまみも無ければ扱いも大変に違いなく…そう簡単に請け負えるものではない。


しかし、うっかり口に出してしまったものは仕方がない。


自分で言っておいて、やはりダメだなんて言えば、ただでさえ、傷ついている少女の心を更に傷つける事になる…。


自他ともに認めるフェミニストの自分が、女の子を傷つけるなんて、プライドが許せない。


それに、僕が『うっかり』を口にした瞬間のカヤノの顔を見たら…もう断るなんて選択肢はなかった。


だって、彼女は次の瞬間、本当に嬉しそうな顔で、僕を見上げたのだ。


そんな可愛い顔をされて、今更、『この子を引き取りたくない』なんて言う男が…ないし大人がいるのだろうか?


いやいや、絶対にいないだろう⁉


現人神に限っては、子供を引き取る予定でない者だって、うっかり首を縦に振りかねない可愛さだ!


…と僕は思った。




 ☆   ☆   ☆ 



 かくして、カヤノはシルヴァスに引き取られる事になったのである。



現人神でも、特に下級に位置するカヤノは、引き取られる相手にも大きな規定があるわけではなく、トラウマ付きな上に、現人神養成学校への入学が差し迫っていた為、運良く独身・平凡ステータスのシルヴァスでも、保護者としてスムーズにセンターから認可された。



 その時、カヤノの方は、唯一、怯えずに接することのできる『男』の人であるシルヴァスに、引き取ってもらえると聞いて思ったのだ。



『嘘みたい!信じられない!どうしよう、嬉しい!』…と。



 


 <ここで最初のページに戻るのであります>

まだ続く繁忙の為、しばらく更新が遅くなるとは思いますが、火曜日・金曜日は、何事もなければ、確約投稿しますので、宜しくお願い致します。

余裕ができれば、土日休みのどちらかにも更新しますが、ゲリラ投稿になるかと思いますので…ご迷惑お掛け致します。<(_ _)>

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