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春の嵐と恋の風㊻

養成学校の先生は個性的!

 カヤノが因幡大巳の出来心(?)である悪巧みのせいで、記憶を失った次の日。



担任のサルマンの表情は、自分の可愛い生徒の気持ちを思い、一夜明けて大層暗かった…。

そして、その肩を落としている担任のサポートとでも言うようにカヤノが学校に訪れると、待っていたのはサルマン一人ではなかった。



 現人神養成学校では、担任のサルマンの他に現在教育部長と兼任して進路指導部に在籍しているアレステル・オグマ、学園長のガブリエル・リリューがカヤノの状況について話し合い、彼女が登校してくると三人で立ち会って、早速彼女の能力検査を始める事になっていたのである。


三人は代わる代わる彼女に、学校で習った様々な分野の質問や問題を出して行く。



「これは読めるか?」



すっかり、男性恐怖症がなりをひそめたカヤノにアレステル・オグマがサルマンの横で声を掛けた。

カヤノは、オグマから出された低学年の授業に使う大きなカードを目の前に出されて、少し眉を顰めて考えた表情をしてから、首を横に振った。

カヤノ本人から溜息が漏れて、自信無さげに小さな声が静かな教室に響く。



「すみません…わかりません。」



小さな声とは言え、男らしい体格に地声の大きなオグマ相手でも、怯えの色を見せる事なくしゃべっているカヤノに、今度は見ていたサルマンが溜息をついた。


オグマがカヤノの前で出したカードは、初歩的な異国の魔女の呪文に使われる文字だ。

養成学校では自国の旧字からなる霊札の書き方の他に、他国の特殊呪文や魔法陣なども一応、習得していくのだ。

現人神と言う前に、人間の術者としての技術や知識も身につけて、現世での神力活用の幅を広げる事が目的の一つだ。

それらを踏まえて、担任は口を開く。



「はあっ…すっかりオグマ先生みたいな筋骨隆々タイプのオッサンでも普通に応対できるようになったって言うのに…因果な物ねぇ。今度はせっかく習得したモノがキレイさっぱり消えちゃうなんて…。」



その言葉をオグマとは反対側の隣に並ぶ学園長が拾って、若手教師を諭すように言った。



「数年間、彼女に現人神としての全てを教えて来た君には残念だろうが…神力の方は無事なんだ。再教育で、再び習得できる筈。悲観してはいけない。本人に気落ちさせないようフォローしなさい。」


「わかってますよ…でも学園長…この分だと、カヤノは5~6年分の授業内容が抜け落ちてしまってるんですよ?今から補習で、これでもかってくらい詰め込んでも、卒業式に間に合うかしら?」


「しぃっ!そういった事は、彼女を一度家に帰してから話し合いましょう。」



学園長とサルマンは、カヤノに聞こえないようにヒソヒソと小声で話しているが、オグマにギロリと睨まれた。



「今、三十木(みそぎ)は真面目に技能検査や学力検査を受けているんですよ?おしゃべりなら廊下でやって下さい…というか、うるさいから出て行け!」



アレステル・オグマの上司に対する遠慮ない物言いに学園長・ガブリエル・リリューも形無(かたな)しである。

だが、一応、他の教師(サルマン)の前である事から、自身の威厳の為に言っておく。



「ちょっとオグマ君、一応、こちらは学園の長なんだけどね。わかる?ほら、この学園のトップ…つまり偉い人だよ?もっと言うなら、君の雇い主!!君を採用したの…僕だから。」



そんな事は関係のないというようにオグマは、ガブリエル・リリューに言葉を繰り返した。



「雇い主ぃ?だったら、丁度いい!この際だから言ってやる。安月給でこき使いやがって…給料上げろ!それから、マジ、うるせぇ…後で結果を報告するから、お前ら出てけ。」


「うぐ…。」



有無を言わさぬ、口は悪いが有能な文武両道型の教師、アレステル・オグマ。

実際に学園長は、何だかんだ言っても人使いが荒いので、安月給の指摘に言い返せなくなった。

文武の『文』の部分の要素は、どこに消えたのだと疑問すら浮かぶ戦闘系さながらのオグマの容姿ですごまれては、天使系の中世的な…かろうじて男性という性別を維持している学園長は、二歩ほど距離を取って明後日の方向に視線をやるしかない。



(学園長いわく)

だってオグマ君、怖いんだもん~。



しかし、動じないサルマンの方は抗議めいた目をオグマに向けた。

以前、カヤノとの間にオグマが介入した件があり、サルマンのその後の態度は何となく反抗的だった。



「教師のクセに学園長先生にそんな口の利き方をしたら、生徒の前で良くないのではなくて?オグマ先生…それにアタシはカヤノの担任よ?失礼ながら出て行くならアタシじゃなくて…アナタの方だわ。」



今日も絶好調にオカマ言葉が冴え渡る。

そんなサルマンにもオグマは変わらず、教師らしからぬ粗野な言葉をぶつけた。



「うるせぇ…担任のクセに。生徒の前でしゃべりしやがって。そもそも、簡単に教師を辞めようと考えた分際の公私を分けられない貴様にどうこう言われてもな…説得力ねぇ。」



サルマンは前回、カヤノが学校を訪れた時の件について、オグマが学園長の前で話し始めたのだと悟り、ギクリと体を震わせた。



「え?辞める?何の事です?」



学園長がそこに噛みついて、オグマとサルマンに聞き返す。

サルマンは『マズイ』と、いささか取り乱した様子で学園長の背を両手で押して、廊下の方に押し出し始めた。



「何でもありませんわよ!それでは、オグマ先生…()()()の生徒を宜しくお願いします!!カヤノの集中力が切れても困るので、先生がおっしゃるようにアタシ達、外に出ていますね。ささ、学園長。カヤノ、オグマ先生はベテランだから安心して聞きたい事があったら、聞くのよぉ?」


「はい…。」



カヤノは、担任の言葉に返事をして二人が廊下の方へ消えていく姿を力ない瞳で見送った。

その後、オグマに一言声を掛けられて、能力検査を進めた。



「アイツらの事は気にすんな、三十木。(そば)にギャラリーがいるとやり辛いだろう?静かな方が集中力も上がる。それより、記憶がなくなったものを思い出そうとする時はどんな感じだ?」


「そうですね。真っ白になったような感じで…感覚的には以前はできた筈だとか…わかっているとか知っているとか…感じるんですが、出て来ないんです。」


「ふむ…まるで、消去ボタンを押した後の記憶装置みたいだな。だが、消去しても完全に消えたわけではなく、記憶はどこかにまだ保存されている筈だ。」


「私…習った事を思い出せなかったら、どうなるんですか?」


「うん、まあ、思い出せないにしろ、一度、習得したモノは次は少ない時間で身に付きやすくなっている筈だ。お前にかけられた術は完全ではないと聞いた。何かのショックで記憶が甦る可能性も高い。」


「それは…言われました。」


「そうか。じゃあ、とりあえず現在の状況を知る為に検査を進めるぞ。だが、今の結果に悲観するなよ?今日できなかった事が、明日できるようになっている事だってあるからな。そういうのは意外にひょんな出来事や何かの拍子に小出しに出て来るものだ。」


「ハイ…。」


「俺の見解はな…三十木。そう、心配する必要はないと思っている。気休めじゃないぞ?お前は真面目だから、仮に全てやり直しになっても問題ない…不良どもに比べたら全然、平気だ。」



カヤノは検査に戻る前に最後に言ったアレステル・オグマの言葉に、首を捻りたくなるのを隠しつつ、不思議そうにチラリとその男の顔を盗み見た。

教師はカヤノの視線に気付いたようだが、視線を合わせぬまま口を開く。



「それにお前には、過保護()()()保護者がいるし…色んな意味で俺は心配してない。」


「はあ…?」



カヤノはシルヴァスの事を思い描いた後、オグマに対して不思議な教師だと思っていた…。

皆、この事態に明らかに動揺しているのに、オグマだけは最初から本当に動じていないのが感じられるのである。



「さて、三十木…次のカッコにあてはまる言葉がわかるか?わかるものだけ書いてみろ。まあ、わからなくとも…とりあえず、あてずっぽでもいいから書け。謎々だと思ってやってみろ。」



オグマはそんな調子で、気軽に次々と問題を出して行く。

その様子を廊下から、チラチラと学園長とサルマンが覗くが、至近距離で二人が立って見ていた時に比べれば、同じ見られていてもカヤノの緊張感は減っていた。


間違えやわからない事があっても、オグマは特に顔を顰めたりせず、淡々と『まあ、もっとできない生徒もいたからな。』と大した事でもないように気にせずにいてくれるので、その事に対して罪悪感のような感情が生じずに済んだ。


それにわからない事をその都度、簡単に説明しながら進めてくれる。

先程までは、自分の立場でものを考えてくれて、一々同情してくれる担任のサルマンの気持ちがありがたいと思っていた。

しかし、問題を出される度にカヤノの記憶が消えている事が明らかになり、溜息をつかれたり悲しげな顔を向けられると、生徒であるカヤノは教師の期待を裏切ってしまったような悲しい気持ちになっていた。


でも今は、目に前のオグマは…カヤノが何となく埋めた問題のカッコに記入した答えを見て口角を上げている。



「お、見て見ろ、三十木。これ、全部正解だぞ。思い出して書いたわけじゃないんだろう?」


「は、はい…先生があてずっぽでもイイって言ってくれたから…何となく、そんな言葉じゃないかなって、感じで書いたんです。」


「フフン、その感覚が大事だ。頭からは削除されたように見えても、お前の体や脳が何となく覚えているんだ。こう言った感じで、実際、困った事でも起きれば、その都度、できちまうってコトに遭遇していくよ。」


「え?で、でも、これがたまたま偶然かも…。」


「ばぁか!一文字も言い方を間違えない偶然なんて起きるわけないだろーが。体のどこかが、ちゃんと学んだ事を記憶してるんだ。特に三十木…努力した奴は簡単に習得した奴より、深くそれが体に刻まれている。努力って奴は無駄じゃないんだ。」


「は、はい…。」


「それじゃあ、試しにこの数式…解いてみな。」



そう言うとオグマは、魔法陣に必要な計算練習のミニテストをカヤノの机に置いた。

カヤノは、勿論、何も覚えていなかったが…戸惑っているとオグマがプリントの隅に公式を書いてくれた。



「ほら、三十木。これが公式でこうしたら解ける…。」



最初の一問を解いて、カヤノに見せると、カヤノは見様見真似(みようみまね)で次から問題を解いていく。

すると不思議とスラスラと計算が解けた。

カヤノが全部書き終わった所で、オグマはまた口角を上げた。



「ハハ。三十木…できるじゃないか!この計算な…初めて、授業で教えると出来の良い生徒以外は、解くのに苦戦してブーブー文句を垂れてくるんだ。完全に忘れてたら、一回俺が見本を見せただけで、こんなに全部できるようになったりしないぞ。」


「えっと…何となく、こんなかな…って思って、やってみただけなんですけど…。」


「だからな…その何となくが、お前の頭と体に刻まれた努力の成果なんだ。こんな調子で、お前の今までは消えたわけじゃないから、安心しろ。初めて教えるのとは全然違うぞ?疑ってんなら、今度後輩のクラスに参加してみろ。見学でもいい。」


「見学ですか⁈」


「一緒に授業受けてみりゃ、わかるよ。きっと、そこじゃ、お前は優等生だな。初めて学んでいる奴らは、もっと色々苦戦しているぞ?」



オグマの言葉にカヤノは、少し希望が湧いたような気がした。

それに解ける度に見せてくれた男前な顔に浮かぶ笑顔が、くすぐったくてカヤノは嬉しくなる。

担任のサルマンの態度を見て、最初は少し怖い先生なのかな…と思ったが、検査が終了する頃には、カヤノはすっかりオグマ先生に好意を抱くようになった。

検査で解いていく問題やわからなかった事でオグマが教えてくれるのが、思いの外、楽しかったからだ。

オグマの授業さながらの解説は、わかりやすくて面白いのだ。


オグマ曰く『担任をやっていた頃の出来の悪い生徒対応にあみ出した教え方』が生きているらしい。



「三十木…この俺のプログラムを導入すれば、仮に6年分の授業内容を忘れても、お前なら、かなりのスピードで終了する事ができるぞ。なんせ俺は、あの問題児の弁天と神地山の担任をしていたんだからな。」



神地山…?どこかで聞いた事があるような…?


それにしても…そのお二方は、オグマ先生に担任をした事で、教師としての自信になるほどの大変な生徒さん達だったのだろうか…。


確かに…弁天さんの名前と伝説は、サルマン先生以外の特別授業で来た先生達から、たまに聞いた事がある。

何でも、学校に異世界移動用バイクを乗り入れて登校し、当時の学年主任を失神させたとか…授業をさぼって人間界で補導されたりとか…ロックバンドを組んで昼食時間に許可なく食堂でライブを始め、当時の担任が切れて暴れて、大乱闘になったとか…と。


その担任って、もしかしてオグマ先生か⁉



カヤノはそう思い至って、まじまじとオグマ先生を見上げた。

爽やかな男性らしい笑顔に白い歯が覗く。

ピカーンと輝く白い歯を、無意識に一瞬凝視して唾を飲み込むと、カヤノは言った。



「せ、先生って、結構苦労したんですね…。」



するとオグマはその言葉に少し目を潤ませた。



「わかってくれるか?三十木…お前はいい生徒だな。そりゃぁもう、苦労した!いや、元生徒どもには俺は今も苦労させられている!だからな…三十木、お前なんぞ全く問題なしの生徒だ。むしろ、卒業までに少しくらいあの若造教師に仕事らしい仕事をさせてやれ。迷惑の一つもかけてやれ!」



オグマは演技めいたオーバーなリアクションで『そうじゃないと教師として不公平だ!』と言ったので、カヤノは思わず笑ってしまった。

オグマもつられて、今度は声を上げて笑う。

朝から先生達の深刻そうな表情しか見ていなかったカヤノは、相次ぐオグマの笑い声にホッとしてばかりいた。



「ハハハ、三十木。いいかぁ~?お前の使命は、あの赤毛のボンボン教師を卒業式まで困らせてやる事だ。その方が、教師として成長するからな。」


「フフ…そんな事できませんよ。忘れてた事も早く思い出して…ううん、全部最初からやり直して、一から身に付け直す気で頑張ります。サルマン先生にオグマ先生みたいな苦労をさせないように。」


「よぉし、言ったな?俺もお前がわからない事があれば協力するし、放課後以降だったら時間が作れるから学校に来い。勉強を見てやろう。低学年の授業に一緒に参加したんじゃ習得に時間がかかるから、スペシャルをプログラム作ってやる。」


「本当ですか?」


「ああ、任せろ。」



カヤノはクサクサした気持ちが嘘のように消え、ヤル気を見せるまでになっていた。

その様子に廊下の窓から覗き込んでいるサルマンは目を瞠っていた。

先程まで項垂(うなだ)れ気味で、冴えない表情をしていた自分の生徒が楽しそうにオグマと会話をし、検査を受けながらも勉強をしているのだ。

能力検査終了においては、カヤノから今日一番の笑顔さえ見える。



「嘘…一体、カヤノってば、どうしちゃったのかしら。さっきまで、借りてきた猫みたいに自信なさげだったのに…。」



サルマンの呟きに学園長が小さく笑みを浮かべた。



「フフ、ああ見えてオグマ君は有能なんです。君も彼から色々と学ぶといいかもしれませんね。キュベル君も良い教師ですが若い。生徒の事を自分の事のように考えるのは素晴らしいですが、時には切り離して冷静に考えてやらねばならない時もあります。」


「冷静にですか?でも、学園長…今は、そんな風に落ち着いていられないわ。」


「そうですね。でも、僕も人の事は言えませんが、生徒と一緒にショックを受けていても始まりません。我々は彼女らを導かなければいけないので、どうしたらいいかを示す事が必要でしょう?」


「導く…ですか。確かにアタシはカヤノの今回の事態を聞いてから、どうしようかとばかり思い悩んでいて、焦っていたわ。」


「ええ、生徒も君以上に不安を抱えている。担任が焦れば、三十木君も余計に焦ってしまいます。オグマ君はそこを大丈夫だと言ってのけ、万が一の場合、もう一度、やり直せば問題ないと自信を見せた。」


「それが、そう簡単じゃないから…アタシは焦っているのに…。」


「ええ、それは…実を言うと大変な事です。しかし、教師がいとも簡単に言うので、三十木君も自分ができるように思えて来たのでしょう。大変な事でも、生徒と一緒に最後まで頑張るつもりでオグマ君は覚悟を決めて発言したのです。絶対に彼女を卒業させてやろうってね!」


「絶対に卒業させる…?悔しいわね。それは、担任のアタシが、言わなきゃいけないセリフなのに。」


「まだ、彼は言っていませんよ。僕が彼の心情を代弁しただけです。キュベル君がこの後、彼女に言ってあげたらいいのでは?」



そう言うと、学園長はサルマンに向けて片目を瞑って見せた。



「結局、大切なのは覚悟なのですよ…キュベル君。面倒くさい事でも、生徒自身をどれほど受け止めてやれるか…どれほど、自分ではなく生徒の為を思って行動してやれるか。教師の良し悪しとは、冷静な他人としての目を持ちながら、どれだけ親の気持ちに近付けるかです。」


「そういえば、学園長は一応、天使系ですよね。包容力ありそう…。アタシ、何か自信がなくなって来たかも…。」


「いやいや、キュベル君…それもオグマ君を見習って?彼、死ぬほど自信家だし。ほら、また自画自賛してるから…見て見なよぅ。うわぁ…全く、うざいなぁ~。」



学園長が嫌そうに顎で指し示す方向には、丁度カヤノに教え方がわかりやすいと誉められているアレステル・オグマが、鼻高々になって腰に両手をあて、得意気に『もっと褒めていいぞ』と要求している姿があった…。



「あの反りかえり…絵に描いたような天狗っぷり…鼻につくわ。」



思わず、サルマンがそう口にした所で、ガブリエル・リリューが教室のドアを開けて入って行く。



「いやあ、いやあ、検査は終了したようですねぇ。いかがでしたぁ~?」



ずっと見ていたのに、とぼけたように問う学園長にオグマは、急に顔を顰めて見せる。



「ああ?いかがも何も…ちょいド忘れているだけで、三十木は多分、問題ありませんよ。学園長。」


「そうですかー。オグマ先生がそう言うなら大丈夫ですね。あ、三十木君、僕、補習の授業を受け持っているんです。学園長でもまだまだ現役ですよ?良かったら、明日から僕が勉強を見ましょうか。」


「おい…学園長。それ、俺が今さっき、言った事だから…。今更、遅い。」


「え?でも、オグマ先生は他にも仕事が色々あるでしょう?僕は…その、学園長って暇なんですよー。長生きすぎて、僕が担任をした生徒達にもほとんど先立たれちゃったし…。」


「知るか…とにかく、学園長は()()()の教師のアラでも探して、口出ししてればいいじゃないですか。」


「イヤだよ…僕もまだまだ生徒を教えたい!関わりたい!」


「補習や補講授業を(強引に)持たせてもらってんだろーが!」


「足りない!!この愛情を誰かに注ぎたい!!!」


「結婚でもして、嫁と子供に注げ!!」


「相手がいないんだよぅ!!この前もナルな美形は、お断りって言われたんだよぅ!」


「知るか⁈俺の合コンにはついて来るなよ!」


「オグマ君のいけずー!」



二人の言い合いに目を瞠るカヤノの横で、遅れて教室内に入って来た担任…サルマンは小刻みに震えている。

そして、ついにキレたように上司と先輩教師に向かって、敬語なしのツッコミを入れた。



「ちょっと、アンタ達!黙って聞いてりゃ…言っておくけど、カヤノはアタシの生徒なのよ⁈カヤノが勉強し直すなら、アタシが教えるから結構です。アンタたちは引っ込んでな!!」



サルマンの声に言葉を失って、一瞬シーンとなった室内でアレステル・オグマとガブリエル・リリューが若手教師を数秒凝視。


その後、三人は(せき)を切ったように言葉の応酬を繰り広げた。



「けっ!若造がよく言うな。生徒と一緒に取り乱してやがったクセに…小さい野郎だ!」

(オグマ)


「うっさいわね!アンタに教わったら、カヤノにまで、その天狗がうつりそうでイヤなのよ。カヤノは奥ゆかしくて控えめな所がいいんだから!!生徒の良さを潰さないでちょうだい。」

(サルマン)


「サルマン君はまだ、現役担任なんだから…他の生徒にもしもの事があった場合のフォローがあるだろう?オグマ君も全体的に生徒達と接触する仕事をしているし、卒業した生徒の家庭訪問もある。よって、カヤノちゃんは学園長である僕に任せなさい!」

(ガブリエル・リリュー)


「「引退教師は引っ込んでろ!!」」

(オグマ&サルマンの合唱)


「ひ、酷い。まだ引退してないのにぃ!最近の教師はどいつもこいつも礼儀がなってない。わかった…表に出ろ!二人ともまとめて性根を叩き直してやる!!」

(ガブリエル・リリュー)


「望む所だ…女男教師!あ、女男はこっちもだったっか?」

(オグマ)



チラリとオグマは、サルマンの方にも目をやった。

途端にオステリーを起こすサルマンと、便乗して金切り声を上げるガブリエル・リリュー。


勿論、学園長は、立場上、本気で教師たちと表でやり合う気などないのだが、サルマンとオグマの二人もわかっていて、それに乗ってやる。



「キィィィッ!ムカつくぅぅぅ!!オグマセンセ、学園長の前にアタシが先にアンタをヤルわ!」

(サルマン)


「くううぅぅぅっ!キュベル君、加勢するよ。まずはこの男をのしてから次は君だ!」

(ガブリエル・リリュー)


「よく言うわ!アタシが学園長ごときの中性教師にやられるもんですか!」

(サルマン)


「中性なのは、天国にいた時だけだ。今は現人神用に、ちゃんと男性ボディを選択しているぞ。」

(ガブリエル・リリュー)


「フン…纏めてかかって来い。カマ男、二人なんて、どうせ俺の相手じゃない。」

(オグマ)


「「言ってろ、このビッグマウスが!!」」

(リリュー&サルマン)



ポンポンと投げ交う言葉の応酬に、ついにカヤノは吹き出した。



「もう、ブッ、アハハハ!先生達って…大人げないです!!何ですか、それ…明日から手の空いた先生にお願いします。」



カヤノが明るく笑うので、三人の教師も笑顔になった。

いつの間にか、悪口を言い合う三教師の間には、いつも通りの明るい雰囲気が漂っている。

前日からカヤノに対して、悲痛な面持ちを見せて来たサルマンも今はいつも通りに見えた。

カヤノは、チラリとオグマを最後に覗くと、それに気付いたオグマが『ニッ』と片方の口角を上げて不敵な笑みを返してくる。



 その日から午後の二時から夜の六時まで学校に通う事が決定した。

当然、それだけでは足りないので、家に帰ったら自己学習を進める為に宿題もたっぷりと出された。

到底、学習しなければならない内容は、卒業までに間に合うわけのない量だが、オグマは『何とかなる!』とカヤノに自信を見せた。


それから、オグマは家に帰ろうとするカヤノに、サルマンの見ていない所でこっそりと耳打ちし、再び片方の口角を上げて言った。



「家では、是非、保護者に勉強を見てもらえよ。」


多分、火曜日に更新します。

応援いただけると、頑張っちゃうかもしれませんが…特に何もなければ火曜日で!

時間が一定せずに毎度、すみません。

次回もアクセス頂ければ、幸いです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] そして、こちらも(^^) やっぱり、私的に、出れば出るだけ株の上がるオグマ先生です。鼻が天狗のようになってしまっても仕方ないスキルの持ち主。 オグマ先生に任せておけば何とかしてくれる、とい…
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