春の嵐と恋の風㉜
やはり、火曜日更新できずに本日になってしまいました。
ご迷惑お掛けしてます。
本日は、シルヴァスの心中で、振り返りがメインです。
今日も早く家に帰る為、午前中に出張を済ませ、職場での書類業務を速攻で仕上げながら、シルヴァスはカヤノを冥界から家に連れ帰った日の事を思い返していた…。
おでん屋扮する刑事課の潜伏調査部隊の男から、カヤノが魔神と婚約を結んでいると連絡を受けた時には、思わず頭に血が昇って息が止まるかと思った。
自分が大切にしてきた少女を粗野な魔神なんかに奪われると想像しただけで、身の毛がよだって体中から許せない思いが沸き起こったのだ。
その後は、胸騒ぎがして焦りしか感じられず…ようやく、カヤノのいる場所に辿り着いた瞬間。
ドラゴンに乗って空の上から、地上に視線を落すと、魔神の姿が映った。
シルヴァスは、魔神の気を逸らす為、自分達が来た事を知らせるように風を吹かせ、同時にカヤノの姿をハッキリ見ようと精霊の眼で彼女を見た。
そして、既に彼女が相当、魔神に痛めつけられている事を悟ったのだ。
シルヴァスは魔神を殺す事を即決した…。
統括センター内でも、おでん屋に殺神許可証を取っておくように依頼していたが、思った以上に相手に対して自分は狂暴な気持ちになってしまった。
『簡単に殺すだけでは、飽き足らない。』
そう思ったのだ。
だが、カヤノやハルリンドの前で魔神を残酷に処刑するのも気が引けた。
ただでさえ、カヤノはそういう事が苦手だと良く知っている。
だから、魔神をそこそこ傷つけた後、女性陣がいない時に処刑の機会を狙う事にしたのである。
まずは、カヤノを魔神のいない所に連れて行こうと、本当はすぐにでも自分の家に連れ帰りたいのを我慢して、彼女をアスターに託し、屋敷での手当てを頼むと、ハルリンドには因幡大巳を現世に帰す為に、馬車で送るよう指示して『自分は領主に説明をしなければならないから』と一人、現場に残る口実を作った。
既にシルヴァスは、現世にいた段階で、カヤノとの契約を破棄させる事より、魔神本人を消し去る方が早いと考えていたが、当初は魔神の心臓を一突きして終わらせるつもりでいた。
だが、カヤノの姿を見て、気が変わった。
シルヴァスは魔神の声を潰して、しばらく生き永らえさせてやり、カヤノ達が現場を去ると、恐怖に震える姿を見ながら、心行くまでサメ肉を切り刻んでやったのだ。
奴の存在を消し去る事で、シルヴァスの心は、ようやく清々していた。
そして、万が一でも、魔神の花嫁にされるくらいなら…と、今までカヤノについて、思い悩んでいた事が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
もう一度、シルヴァスは件の出来事を振り返る。
魔神が岩山の石をいくつも落とした時。
自分は迷わず、カヤノだけを見ていた。
負傷していた為か、まるで逃げようとしないカヤノが、諦めたように目を閉じた瞬間、シルヴァスはこの小さくて弱い少女を、とてつもなく守ってやらなければならないという思いに駆られていた。
気付けば、自分はカヤノを抱き上げていて…次の瞬間、慌ててハルリンドの姿を探した。
『どうしてもどちらか一人しか助けられない場合』
まさに今がその状況で、自分はハルリンドではなく、カヤノの事しか頭に浮かばなかったのだ!
だから、遅れてハルリンドの無事を確かめなければならなかった。
二人とも助けなければいけない状況で、一人しか助ける事が叶わず…シルヴァスはたった今、咄嗟にハルリンドを見捨ててしまっていたのだから…。
しかし、ハルリンドの姿を確認して、シルヴァスは自分が愚かだった事に気付く。
彼女は、現世でカヤノを狙っていた筈の因幡大巳に助けられていて…奴は今、ハルリンドにメロメロの様子だった。
ハルリンドは美しく高根の花とも言える女神だ。
本人には自覚がないが、当然、周りの男神達を強く惹きつけ、黙っていても注目される存在なのだ。
更に、夫であるアスターも彼女の元に一目散に駆けつけてきた。
もし、絶体絶命の状況になれば、自分が守らなくても、アスターが命に代えても彼女を守るだろう。
なぜ、自分はカヤノとハルリンドを引き合いに出して、一人しか助けられない場合の状況など…考えていたのだろうか?
とっくにハルは、自分が守らなくても大丈夫だったのに!
彼女には自分以上に彼女を愛し、守ってくれる夫がいるのだから…。
それに彼女は、カヤノと比べて段違いに神力が高く、戦闘に対応する能力も持っている。
あの程度の下級魔神なら、たった一人で対峙しても、時間を掛ければ彼女が勝利するだろう。
冷静に考えれば、ハルリンドの神力には余裕があるとわかっているし、仮に因幡大巳が彼女を助けなくても一人で切り抜けられると知っているから、アスターはすぐに彼女の元に駆けつけなかったのだ。
それに引き換え、カヤノは本当に弱い。
平民現人神の出身な上に神力も小さいし、戦闘系でもなければ補助能力としても、その適性が全く皆無なのだから比べるのもおかしいが、確実に誰かの庇護が必要な存在であるのは間違いなかった…。
だから、迷わずカヤノを助けるのは当然の事なのだ。
それでも、色香に迷えば男は、因幡大巳のようにハルリンドの方に走るのだろう。
シルヴァスは、その時、自分の腕の中で痛みに備えて、唇を噛みしめていたカヤノに、愛おしさといじらしさで胸がいっぱいになっていた。
最初から、誰も自分を守ってはくれないのだと、カヤノが確信していたのがわかってしまったからだ。
自分は今までカヤノを大事にしてきたが、カヤノは僕がハルリンドを守りに行くと、当たり前のように思ったのだろう。
抱き上げた瞬間のカヤノが、強く閉じていた目をゆっくりと開いた時には、彼女は不思議そうな顔すらしていたのだ。
その顔を見て僕は、己の無事を諦めた時に感じたであろう彼女の心細さを思って、無性に切なくなった。
僕が傍にいるのにも拘わらず…彼女は自分が誰にも守ってもらえないと察知していた。
つまり、絶対に僕がカヤノを見捨てると考えていたのだ…。
なぜか、その事にシルヴァスは内心、歯ぎしりをしてしまう。
前にカヤノに自分は『選択を迫られた時、ハルを選ぶかカヤノを選ぶかわからない。』と言ってしまった事があった…。
その時は自分でも本当に…咄嗟の時にどちらを助けてしまうのか、わからなかったのである。
だから、カヤノだけを見てくれる男と結ばれて欲しいと思っていた。
だが実際、危機を目の当たりにして、僕はカヤノを助けた。
最初から、カヤノの事で頭がいっぱいで、ハルリンドの事など目に入っていなかったのだ。
それなのに。
『彼女に100%信じてもらえていなかった!』という事が…。
その事が自分にとって、少なからずショックだった…自業自得なのに。
自分で彼女を不安にさせるような事を言ったクセに…。
僕は、自分がカヤノに向ける愛情が親子のようなものだとしても、彼女には『自分がいれば絶対に大丈夫』だと信頼してもらっていると、心のどこかで勝手に思っていたのかもしれない。
『それなのに自分がいながら、彼女に危険回避を諦めるほど、不安な思いをさせてしまった!』
その事はシルヴァスのプライドを傷つけ、悔しい気持ちにさせたが、同時にハルリンドが目に入らなかった事でも確信してしまった。
ああ、今の自分にとっての最愛は…カヤノなんだ…と。
そして、自分の気持ちを再度、冷静に整理していく。
自分はカヤノの自立を先延ばしにしたくて、彼女だけを見てくれる男と結ばれて欲しいと思っても…誰にも渡したくなくて、自分の傍にいれば不安になる必要はないのだと信じてもらいたくて、そうでなかった事が悔しくて、同時に自分だけは彼女を…どんな事からも守ってやりたくて…愛おしい。
この気持ちを、彼女にぞっこんと呼べなければ…一体、何と呼ぶのだ⁉
それにもう一つ…フォルテナ伯爵邸に寄って、シルヴァスはハッキリとある事に気付いた。
数年前は、アスターとハルリンドの姿を見ると心が苦しくなったのに…。
今は、二人の仲睦まじい姿を見ても、何も感じていない事を!
それなのに、むしろ今の自分は、カヤノの傍に他の男の影がチラつく度に妙にイライラしてしまうのだ。
なぜ、もっと早く気が付けなかったのか!
答えは簡単だ。
今まで、失恋の痛手から目を背けていて、冥界にできる限り寄り付こうとしなかったからだ。
要するに自分が臆病だった為に、カヤノへの思いに応える事ができず、結果、クシティガルヴァス達に憐みを帯びた目で見られた…。
これは…もう確実だが。
自分は、すっかりカヤノに恋をしていて…。
そして彼女こそ、自分にとって唯一の女性なのだ。
ずっと身近にいた事も手伝って、自分の思いの変化に気付けなかったが…。
過去の失恋など…頭が覚えているだけで、とっくに自分が知らぬ間に終わっていたのである。
「何て僕はマヌケなんだ…。」
それなのに、カヤノに他の男を探すような事を言ってしまうなんて!
幸運な事に据え膳同様だった最愛の女性を…。
そうとは気付かずに振って、自立して自分の元を飛び去ろうとする彼女を…みすみす指を咥えて見ているなんて!!
「バカすぎる!!残念が過ぎるだろ⁈これじゃ、クーガに一生結婚できないって言われても仕方がないじゃないか。」
クシティガルヴァスに言われた様々な事が頭の中を駆け抜けて行く。
ようやく、クシティガルヴァスの言っていた通り、自分の愚かさに気付いたシルヴァスは大いに焦った。
彼には自分がこうなる事がわかっていたのだろう。
ただし、こんなに早い段階で気付く事はないと思っていたかもしれないが…。
「そういえば、クーガは『悩むな…それが答えだ』と言っていたな。僕は無意識にカヤノだけを見ていて、落石から彼女を助けた…。」
そう、まさにそれが答えだ。
実際に危険を目の当たりにしなければ、自分の本当の気持ちに確信が持てなかったなんて…面目ない。
この期に及んで、もしもこの事件が起きなければ、カヤノを手放していたのかもしれないと思うと…。
「情けなさすぎる!!」
少なくとも、ハルリンドに自分がまだ心を残していると信じていたのだから…確実に手遅れになっていた可能性が高い。
クシティガルヴァスが言った通り、新卒の現人神女子が社会に出て、一年間、虫がつかなかった試しなど統括センター内では例がないのだ!
そう考えるとシルヴァスは、冥界に来る途中に肝を冷やしていたのと同じ心境になった。
そして、ふと、カヤノが現在、サルマンの家に世話になっている事実を思い出した。
「というか、半年だけでも…わざわざ独身男の家にやるなんて…失敗だ。」
サルマンは、カヤノに自然なノリで髪飾りを買ってやるような男だ…。
シルヴァスは現時点において、最大の痛恨のミスに気付き、顔を顰めた。
彼女が自立への自信を付けたらどうするんだ?
サルマンの奴は卒業後、自分の元に来るようにカヤノを誘っていなかったか?
どんでもない!
そんな事させるか!
いくら姉と同居していても、学生が終われば手を出されない保証はない!
カヤノが自分にとっての最愛の女性だと確信すれば、シルヴァスには彼女を自立の為に外にやるなんて選択は全くなかった。
それどころか、何かに縛り付けてでも、外に出さないようにしなければならないと頭を抱えた。
彼女の両親と自分が、真綿にくるんで育ててしまったカヤノの警戒心のなさを考えれば、シルヴァスの体に震えが走る。
彼女はトラウマがなければ、全く男を警戒しないだろう。
サルマンはあの狡猾さでオカマキャラを装い、自分同様カヤノから怯えられていないのだ。
そう考えれば因幡大巳より、サルマンの方がずっと危険な存在だ。
こうしてシルヴァスは、現世到着早々に、サルマンの家からカヤノを連れ戻す事を決めたのだった。
心が決まってしまえば、すべき事が明確に見えて、シルヴァスは久しぶりにスッキリした気持ちでいた。
今まで、思い悩んでいた胸の苦しみが嘘のようだった。
魔神を処分した後、フォルテナ伯爵邸に向かう空の上では、鼻歌が出たほどだ。
本当は余裕なんて全くなかったが…。
(自分の間違った行いの数々とカヤノとの関係を、少しずつ修復しなければならないのだから。)
それでも胸を張って、これからは、彼女だけを愛すると言える確信が持てた事は、足枷が外れたように身軽になったも同然だ。
今度こそシルヴァスは、二度と間違えるつもりはなかったし、もしかして、既に自分から離れ始めてしまったカヤノの心を全力で取り戻す事を決めた!
仮にもし、今の段階でカヤノに好きな男がいても、自分はもうカヤノを諦められない。
シルヴァスにとって大事なのは、自分が彼女を世界で一番、愛せるかどうかだったのだ。
何よりも誰よりも彼女を自分が優先できるのなら、もう遠慮をする必要はない。
その愛に自信を持てるのならば、自分は彼女をどんな場所からも攫って行く覚悟がある。
自分の気持ちに忠実なのは、精霊らしい事だった。
心が決まったシルヴァスは、晴れ晴れとした気持ちで…カヤノを絶対に逃がさない事を強く誓った!
☆ ☆ ☆
気ままでイタズラ好きな風の精霊は、昔から人の子をよく攫ったものだ。
だが、それは大事にする為だ。
精霊は自分だけの住処に大事な物をしまい込んで、世界の終りまで愛でるのだと相場が決まっている。
それは時に気ままで自分勝手だが…魔法にかかった人の子は、自分のいた世界の事を忘れるくらいに幸せに暮らすのだ。
もう、その場所から帰りたくないと思うくらいに…。
<恐ろしいようで甘美な精霊の昔話>より
☆ ☆ ☆
冥界からカヤノを連れ帰った後、心を新たにしたシルヴァスは、まずは彼女を、今まで以上に甘やかして世話を焼く事にした。
とりあえず、彼女には自分が大事にされる存在であると身を持って覚えさせなければならない。
更にシルヴァスは、カヤノの誕生日には、特別だからと密かに嫁入り道具を全て揃えた。
既に彼女は自分の家にいるので不要かと思うかもしれないが、将来子供の事などを考えるのなら、自然環境豊かな地域に家を建てるのもアリだと思う…。
その為にも、それなりの家具をカヤノの為に用意しておきたかった。
(用意しなかったのは、エンゲージリングと夫婦の為のベッドだけだ。)
リングは、改めてカヤノが卒業をしてから渡す事にして、その前に彼女の体の回復を待って、改めて自分の思いを彼女に告げなければならない。
ベッドだのなんだのは、彼女が自分の思いに応えてもらってからでないと、相手に引かれてしまい兼ねないので、早々に準備をするのは避けた方がいい。
自分は一度、彼女の思いを踏みにじってしまったのだから、簡単には応じてもらえないかもしれないが。
「カヤノの体が治ったら、本気で口説いてやる…。」
一応成人したと言っても、学校卒業までは、まだ自分の保護者としての権利は有効だ。
「アルバイトなんて二度と許可しないし、就職活動もさせない。学校にも卒業式までは行かせない。」
現在静養中のカヤノだが、実は魔神との再会で快方に向かっていた筈のトラウマがぶり返してきている。
シルヴァスは、素知らぬ顔をしていたが、その事に一早く気付いていた。
自宅に往診に来た現人神の医者に対する彼女の反応で、それが見て取れたからだ。
そのまま、しばらくは外に出さず、『体の為』と言って人に会わせないようにすれば、余計にその傾向が強まるのではないかとシルヴァスは考え、その後もケガの経過を見る際は、医師に頼んで訪問診療にしてもらった。
医師は、カヤノがトラウマ持ちだから無理をさせたくないと説明すれば、簡単に了承してくれる。
そして、カヤノ本人に『自立は無理だ』という事を教え込んでやろう。
ケガの経過を見て、二人きりの世界で短期間で責め立てて、カヤノを確実に落としてやる!
シルヴァスは、冥界から戻った次の日。
一夜明けた事で、冥界でカヤノの興奮状態だった肉体の機能が正常に戻った為に、彼女の麻痺していた痛みの存在にもだえる姿を見て、その痛々しさに心を押し潰されそうになりながらも、不謹慎な事に性的な興奮を覚えていた…。
カヤノは岩場に何度も打ち付けられていたようで、体中、痣だらけだったのだ。
乱暴なサメの魔神に傷つけられた事は許せないが、痛みに顔を歪め、涙を堪えるカヤノの姿は、自分の好みすぎて…今すぐ抱きたい衝動を堪えなければならなかった。
それに、前日の恐怖で堪えきれずに、自分の前で泣きだしてしまったカヤノの扇情的な涙を見た時も…。
「凄くヤバかった!」
「クソッ…何アレ、可愛すぎる!!」
「自分がもっと違う…甘い痛みで泣かせたい!!」
思わず、そう声を上げそうになるのを呑み込んで、シルヴァスは同情めいた顔だけを向けるのに苦労した。
今すぐにでも、彼女に自分の思いを告げてしまいたかったが、焦ってはいけないと理性を総動員して平常心を装っていた。
「焦るな…次、失敗したら終わりかもしれない。僕だって、できれば相思相愛で彼女をモノにしたい。」
『おい、相思相愛でなくてもモノにする気なのか⁈』と、
傍で聞いていたら、クシティガルヴァスから突っ込まれそうな気がするが…そんなのは構うものか。
上品に紳士ぶったりしていたから、ハルリンドの時は執着の権化でもある冥界神のアスターに、負けた節があるのだ。
(アスター本人にも、そのような事を指摘されたのである。)
『二度と同じ轍は踏まない』とシルヴァスは学んだのだ。
「カヤノだけは、手放したくはない…。」
シルヴァスはカヤノの誕生日を境にすっかり彼女を呼び捨てにしていた。
大きな動きはなくても、着々と彼女に今までとは違う感覚を刷り込むのに余念なく動いた。
カヤノには、大人になったのだから、いつまでも『ちゃん付け』で呼ぶのもおかしくはないか?と、持ちかけた。
それから、『引き取ってから数年も立つのだから、そろそろ他人行儀な言い方はやめて欲しい』とも彼女に告げる。
『自分の事もシルヴァスと呼んで欲しい』とカヤノに甘い声で囁くと、彼女は赤くなって首を振ったが、あの手この手で、先日、ついに自分の事を呼び捨てで呼ばせる事に成功したのだ!
『成人したのだから対等な立場でいて欲しい』と、最後に押したのが功を奏した。
シルヴァスは、その時の事を考えて、仕事中だというのに…にやけた。
未だ継続中のシルヴァスの百面相に、職場の皆は遠目で気味悪がっていた。
隣りの席のクシティガルヴァスは、ここ最近、頻繁に席を立つことが増え、今も他の課の用を率先して買って出て行った所だ。
その後、『少し休憩してくる』と彼は言い残し、シルヴァスは悠々自適に相棒の机も使って、手早い書類整理を行っている。
気分は上々で、本日も仕事中だというに、危うく鼻歌が出そうになった。
そんな時。
休憩に入っている筈のクシティガルヴァスが、自分の元に戻って来たのだ。
「何だよ?そのまま、休憩に行くって言ってたから…机、借りちゃったじゃん。」
シルヴァスが怪訝な顔をして、相棒のなぜか青くなっている顔を覗き込むと…彼は小さく口を開いた。
「いいか…シルヴァス…決して、驚かないで聞いてくれよ?」
緊迫した相棒の言葉に、シルヴァスは瞳を瞬かせた…。
時間は一定しないのですが、多分明日も投稿しますので、宜しくお願いします。




