春の嵐と恋の風㉙
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カヤノの姿が見えない事に気付いたハルリンドが、キョロキョロと周りを探し続けていると、岩陰の方からこの領地の冥界市民であろう人間の子供が走ってくるのが見えた。
少年の鬼気迫る表情に、ただ事ではないと感じたハルリンドは因幡大巳を置いて、そちらの方に向かって早足で歩きだした。
「どうしたの?何かあった?」
まだ距離のある状態で、ハルリンドは少年に優しく声を掛ける。
少年はハルリンドの顔を見て、ホッとしたように涙を浮かべ泣き出した!
「助けて!お母さんとお姉さんが…向こうに魔神が出たんだ。」
開口一番に『助けて』と叫んだ少年が、その後も繰り返し繰り返し、ハルリンドに助けを求めた。
ハルリンドは、『大丈夫よ。』と少年に到達すると、彼の体を優しく一度、フワリと抱きしめて、小さな声で呪文を唱え、彼を落ち着かせる為に眠らせた。
そのまま、子供を岩場の平らな所にそっと横たえると『すぐに戻るからね』と眠っている少年に声を掛けて、子供が走って来た方向に急ぐ。
一足遅れて、因幡大巳が何かあったのだろうと、眠る少年を一瞥してから後を追う。
ハルリンドが岩陰を曲がった所で、そこから一直線のやや下に広がる海では、サメ男とカヤノの姿が彼女の神眼にハッキリと映った。
「カヤノちゃん⁉」
ハルリンドは目を瞠って、更に足を速めた。
カヤノは短時間の間に、ボロボロな状態になっていた…。
その少し離れた先では、少年の母親らしい女性がカヤノとサメ男から、少しずつ距離を取っている。
戦闘系ではないカヤノは、守護の力を使う事ができるが…どうもカヤノは自身の為には、あまりその力を発揮できないようだった。
少年の母親を逃がす為に自分から離した事で、彼女は今、一人でサメに向かっている状態だ。
守るべき者が近くにいれば、もう少し強い神力を発揮できるのかもしれない。
だが、カヤノにとって、女性を逃がす事が最も重要事項である。
自分が傷つく事で、サメ男は遊びに興じているように見えた。
こちらで男が楽しんでいるうちは、少年の母親の方には目がいかないだろう…。
カヤノはそう思いながら、それでも何とか己の為に薄いバリアのような壁を張るのだが、力強いサメ男の攻撃を受ける度に、壁はひび割れて、時折、割れるとカヤノは直に衝撃を受けてしまう…。
その度に、また新しい壁を張り直すが…サメ男はカヤノをいたぶるように、それを楽しんでいるようだった。
神力を使えば、体力が消耗される。
張ったバリアを壊された時に受けた衝撃でできた、無数の小さな傷と擦り切れた衣服は痛々しく、カヤノは息切れを起こしていた。
魔神は、カヤノの傷つく姿を見ると、興奮するようだった。
血の匂いに敏感なサメの顔を持つ魔神は、自身もサメに近い習性を持っているのだろう。
カヤノの傷から流れる血が、男の理性を刺激しているらしい。
本来なら、早くカヤノを攫って魔界に戻るべきなのに…サメ男は、目の前のカヤノとのお遊びに夢中だった。
カヤノは、その状況に『してやったり』と思っていたが、体力的にそろそろ限界を感じ始めていた。
その刹那…。
魔神が異空間の小さな扉を開き、中から片手を突っ込んで、巨大な鉾のような武器を取り出すと、カヤノの至近距離にやって来て、バリアになっている見えない壁を打ち破った。
カヤノは、激しい衝撃に突き飛ばされるように、岩盤に倒れ込んだ。
「そろそろ、遊びは終わりだ。」
サメ男が『ニヤリ』と、上がらない口角を上げたような気がした。
そして、倒れ込んでいるカヤノに覆いかぶさって来た。
大きな裂けた口から、血生臭い息がかかり、思わずカヤノは顔を背けた。
それが気に入らなかったのか、サメ男はカヤノの奇跡的に無傷だった顔をめがけて、手を振り上げる。
まだ距離は50メートル以上離れていたが、カヤノの危機を神眼で察知すると、ハルリンドは走る脚を一時だけ止めて、神力を込めた魔法陣を宙に描いた。
すぐに、ハルリンドから魔神に向けて閃光が走り、振り上げた手がカヤノの頬に到達する直前に、サメ男の体が感電したように光り、体から黒い煙が立ち上がった。
しかし、屈強な男には致命傷どころか、少しパンチをくらったような衝撃にしかならなかったのだろう。
サメ男は、何事かとカヤノの上から退いて振り返った。
男の目にどれほどハルリンド達の姿が鮮明に映ったかは知れないが、とにかくこちらに走って向かってくる二人が見えたのは確かだ…。
サメ男は、ギザギザな歯を擦り合わせて歯ぎしりのように『ギリギリ』と不快な音を鳴らせた。
「あのクソガキめ!誰か呼んだな⁈さっきの雷光は…冥界神か…厄介だ。」
ハルリンドの投げた衝撃波を受けて、神力の質から彼女が冥界神であると判断したであろうサメ男は、地面に転がるカヤノを片手で猫の子を持つように拾い上げて、海の方へと踵を返した。
「あっ!」
カヤノが驚いて声を上げているうちに、サメ男は彼女を担ぎ上げて急ぎ足で歩き出す。
海に逃げ込まれたら、サメ型の魔神には圧倒的に有利になるし、海中のどこかが魔界に繋がっているのなら、即カヤノは魔界に連れ去られてしまう!
カヤノは男の肩の上で暴れた。
「こら、暴れるんじゃねぇ!言う事を聞かないと、手足の一本ももぐぞ⁈」
魔神の言葉に、カヤノは戦闘ショーで体の一部を失っていく少女達の姿を思い出した。
そして、魔神の言葉がリアルにカヤノの耳に響く…。
きっと、このサメ男なら、本当にいとも簡単に自分の手や足をちぎってしまうに違いない!
そう思うとカヤノの体は再び震えだし、勢い良くバタつかせていた手足は、急に動かなくなってしまった。
頭では抵抗しようと思っているのに…過去の恐怖が自分を支配して、体が言う事を聞かない。
カヤノには、まるで自分の頭と体が、別の生き物のように感じられた。
そんなカヤノの状況が愉快なのか、大人しくなった事に気を良くしたのか、サメ男はあの気味の悪い笑い声を上げた。
「グフグフ。わかりゃ、いいんだよ。お前は俺の物で、刃向かうだけ無駄だ。痛い思いしたくなけりゃ、ずっと大人しくしていろ…そうすりゃ、長生きできるかもしれないぞ?グフフ。」
カヤノは固まったように身動き一つできず、男の肩の上で蒼白な顔をして、見た目ではわからないほど小さく震える事しかできなかった。
冥界市民の少年のように『助けて』の一言すら、言葉にする勇気も出なかった。
何て自分は弱い存在なのかと、自己嫌悪しか感じない…。
そのまま、海に飛び込もうとサメ男が勢いをつけて岩場から水面にダイブしようと予想される手前、ハルリンドが間に合わないと判断したのだろう。
再び魔法陣を宙に発動させて、何か印を結んだ。
さすがは上級冥界神の女神!
魔法陣の発動と共に、冥界のうす暗い空から星のような光がいくつも輝いたかと思うと、それがサメ男の良く前方をめがけていくつも降って来た!
サメ男は行く手を遮られて、二、三歩、後ろに後退したが、岩場の地面に命中すると軽い爆発を起こす光の玉は決してサメ男本人には当たらなかった。
カヤノはハッとした。
『そうか!私が魔神に担がれているから、ハルさんは直接この男に攻撃ができないんだわ…。』
今更ながら、自分が足手まといでこの男を拘束できないのだと知り、カヤノは焦った。
サメ男が自分を攫いに来たという事以前に、冥界への魔神の勝手な進入は禁止だ。
勿論、他の異界の者だって、通行券や旅券、ビザなどそれぞれの許可を得て、冥界に一時的に訪れているのだ。
勝手に入れば、不法入界者としてつかまってしまう。
特に、亡者を扱う場所だけに、冥界側は地獄界や魔界といった下の界の侵入者を嫌うのだ…。
ヘタに冥界市民に関わられて、人間の魂の質が下がってしまうのは、冥界神達が目指している事と真逆になってしまうからだ。
だから、カヤノの事がなくとも、不法に冥界に入って来た魔神を取り逃がしたりしては、マズいのである。
冥界側の立場ならば、この魔神をつかまえて、進入ゲートを探し、入って来た経緯と術…その進入手口を明らかにし、今後の防止策を考えねばならないと共に、そうした罪を犯した者に対して、相応の罰を与えねばならない。
更に魔界側に、今後このような事がないようにと厳しく釘をさす必要があるのだ。
その為にも証拠として、このサメ男を拘束しなければならない!
それなのに、自分のせいでサメ男を冥界に招いた挙句…自分がいるせいで、この男に攻撃できずにいるのだ!
カヤノは、急に深い自責の念に駆られ始めた。
その思いが、カヤノの恐怖で動かなくなった手足に、もう一度力を与えてくれた。
「降ろして!」
カヤノはサメ男の耳(?)元で叫ぶと、思いっきり両足で男の肩の下辺りを蹴りながら、その拍子に両腕で男の体を引き剥がすように精一杯の力を込めて強く押した。
もはや、カヤノが自分には抵抗する気がないのだと思っていた魔神のサメ男は隙をつかれて、そのままバランスを崩し、カヤノを落としてしまう。
カヤノは、その痛みに耐えながら、体を横に回転させながら、岩にぶつかってもコロコロと地を転がり男から距離を作った。
そこに、ハルリンドが先程の無数の玉を空から一気に男めがけて落とし込んだ!
「ズガアァァァン!」
という衝撃と音を上げて、軽い爆風にカヤノは頭を隠して伏せた。
いつの間にかハルリンドに追いついた因幡大巳が、爆撃して起った砂塵の煙の中から、よろめきながらも立ち上がったサメ男の姿を見付け、彼女の前に出る。
もう少しで魔神が海に到達するという所に、カヤノの上司である因幡大巳とハルリンドが、ついに追いついてカヤノの体を案じた。
「カヤノちゃん、大丈夫⁉大変、早く、お医者様に見せないと!!」
(ハルリンドの声)
「カヤノたん、すぐ気付かなくてごめん!!ああどうしよう…ケガだらけじゃないか⁉おうちの人に何て言って謝ればいいんでしょう。てゆーか、あの気味の悪い魔神って誰⁉敵なんですよね?」
(因幡大巳の声)
カヤノに駆け寄って早々、心配して大声を上げる二人の冥界神と現人神に、サメ男はただでさえ青白っぽい肌に、一段と濃い色の青筋を浮かべた。
「てめぇら!何しやがる⁉そいつは俺の物だぞ。ああっ⁈畜生…許せねぇ。俺の自慢の背びれがぁぁぁっ、傷ついただろーがぁ⁉」
倒れ込んでいるカヤノを含む三名が、サメ男の背びれをチラリと見ると…ちょっとだけ先っちょが、欠けたようにひらりと切れていた…。
「「「「「・・・・・。」」」」
(サメ男以外三人+今は遠くにいる少年の母親)
しばらく、一同が沈黙した後、少し間の抜けた声で因幡大巳が、サメ男を残念な生き物を見る眼をして口を開いた。
「大してわかんないよ?それにしても、先程のハルリンドさんの爆撃をくらって、その程度の負傷って…聞いて知ってたけど、サメ型魔神て超頑丈!いやはや、驚きました。でも、ここ冥界ですよー?どういう理由でも勝手に入って来たら罪ですよー?」
「ざっけんなぁ!!んなこたぁ、わかってんだよ!だが、俺の背びれを傷付けた事は許せねぇ!神だろーが人だろーが、目にもの見せてやる!!」
何かが切れたのか壊れてしまったのか…サメ男の表情のない小さな眼に狂気の色が映った。
その時だった!
上空から風が巻き起こったのだ!!
そこにいる全員が、驚いてそちらに向かって空を見上げる。
するとそこには、二匹のドラゴンが自分達の真上を浮かぶように飛んでいた!
『シルヴァスさん⁉』
カヤノは咄嗟に思ったが、その口からは声が出なかった…。
代わりにハルリンドが叫んだ。
「アスター様⁉」
『ああ、ハルさんはそちらの方ですよね…。』
とカヤノは心の目を細めながら、ハルリンドに実際には出ていない声でツッコミを入れた…。
ハルリンドとフォルテナ伯爵の二人は、冥界では有名なラブラブおしどり夫婦である。
ハルリンドは、そのままドラゴンの上で、空中に浮かぶ夫に向けて声を掛けた。
「どうしてここへ?今日は領地の視察をされていましたよね⁈」
「実はサプライズで早く帰って来たのだ!そしたら、シルヴァスに会った…コイツ、カヤノちゃんが冥界に行ったって聞いて、心配で飛んできたんだよ。まあ、今も飛んでるが…。」
シルヴァスが自分を心配して来てくれたと聞いて、声は出せないがカヤノはすぐに彼の方を見た。
すると、ドラゴンに乗るシルヴァスと目が合った。
シルヴァスは、しばらく、カヤノを大きく見開いた眼で数秒間、何も言わずに見ていた。
いつものシルヴァスなら、ここでカヤノの方に降りて来て抱き起し…『大丈夫?』と優しく声を掛けてくれる筈だ。
当然、今回もシルヴァスならそうしてくれるだろうとカヤノは思って、彼が自分の方に来てくれるのを待った。
しかし、シルヴァスは、カヤノの痛んだボロボロの姿を上から下まで精霊の眼で遠くから眺めると、少し離れた所に立っている体格のいいサメ男と見比べるように二、三回、目をやった。
(※神眼・精霊の眼=千里眼のように遠くも見えるし、術で姿を変ても相手の本性を見る事ができる。)
それから、シルヴァスは小さな声を出して、何か口の中で呟く…。
カヤノや地上にいる者には、その声も口元も見えなかったし、何も聞こえなかったが、比較的傍で並んで飛んでいたアスター(フォルテナ伯爵)の目には、シルヴァスの口がハッキリと『コロス』と発音している形で動いたのが見えた…。
「シ、シルヴァス…?」
アスターが声を掛けるのを合図に、シルヴァスはカヤノからサメ男だけに焦点を合わせて、深緑の目を吊り上げ、ドラゴンと共に突進するように下降した!
今まで、怒りに震えていたサメ男だったが、シルヴァスの怒気は、男の怒りを上回っていたのだろう…。
サメ男の震えは、違う震えに変わった。
「ヒイィッ⁈」
魔神の大男が襲い来るドラゴンに背を向けた瞬間に、ドラゴンの鋭いくちばしのような口がサメ男の頭を覆う!
サメ男は恐怖に駆られて、頭をドラゴンにすっぽりと飲み込まれたシュールな状態で、超音波のようなモノを放った。
『キイィィィン』と高音すぎる音波が辺り一面に鳴り響くと、カヤノ達は咄嗟に手で自分の耳を塞ぐ。
その超音波を含む高音に驚いてドラゴンは、サメ男と吐き出した。
ドラゴンの涎まみれになったサメ男の顔は、ヌルヌルと光ってより魚らしい肌質に見える。
それから、数秒経過した後。
冥界の海から、大量のサメが顔を覗かせた!
「キャアァァァッ、サメだわ⁉」
遠くでこちらの様子を窺いながらも、どうやら腰を抜かしてしまったようにも見える少年の母親が、海を指差して叫んだ。
サメ達は岸に向かって泳ぎ、次々と岩場に上がって来た。
そう…サメだと思っていた者は、海の中から顔だけを出せば、確かにサメそのものだったが、魔神と同じサメの顔が付いた人型のサメ人間だったのだ!
魔神より、少し小ぶりのサメ人間達は一般の人間サイズだったが、うじゃうじゃと冥界の海を通じて上陸し、こちらに向かって牙を剝いた。
「よし!お前ら…こいつらを殺れ!!」
魔神のサメ男が命令すると、兵隊のような格好をしたサメ人間達が一斉に腰に挿した剣を抜いて、襲いかかって来た。
ハルリンドや因幡大巳が神力を使って、無の空間からいきなり自分達の専用の神剣を出すと、次々に襲い来るサメ人間達をスゴイ勢いで倒し始める。
「ハルさんスゴイ!!カッコイイ!」
思わず、カヤノの声が出なかった口から声が出た!
ハルリンドの存在は偉大だ…。
対するカヤノは何もできずに、相変わらずハルリンドと上司に守られる形で、地面にへたりこんでいる。
「自分…カッコ悪すぎる…。」
こちらの声の方は、心の中だけで漏れた…。
地上で激戦が繰り広げられ始めると、ドラゴンを下降させたアスターが、少年の母親の近くに飛び降り、彼女の所にも迫り来るサメ人間達に剣を抜いて切り込んだ。
それからドラゴンを降りたシルヴァスの方は、ゆっくりと歩いて途中、襲いかかるサメ人間を己の剣で振り払いながら、親玉であるサメ男に近付いて行った。
サメ男はシルヴァスの深緑の瞳から眼を離せずに、冷や汗を掻いて後ずさりを始めた…。
「な、何だ、お前は⁈来るな!誰か…こいつを先に片付けろ!!」
男の指示で近くにいたサメ人間がシルヴァスの方に数人がかりで向かうが、シルヴァスは『チッ』と舌打ちすると、面倒くさそうに彼らを剣でなぎ倒し、その後、片方の手の人差し指と中指を立てて、精霊の力を発動させた。
すると、周りに風が吹く。
しかしその風は、徐々に強くなり、あっという間に強風は激しい渦を巻いて、サメ人間達を全て攫って竜巻のように人柱を作りながら、空の上まで高く巻き上がって行った!
その圧巻とも言える様を見て、今まで戦っていた一同は口を開けてそれを見守った。
魔神は青い顔を更に青くさせて…(もはや藍色とも言える肌色は薄い黒に見える)仲間が竜巻の中、吹き飛ばされて行く姿を言葉も失い見上げていた。
次の瞬間、竜巻は空高く登った所で止まり、威力を増したかと思うと凄まじい勢いで地上に戻って来た!
そして、誰もいない広い岩場を目指してサメ人間もろとも岩盤に突撃して、大きな爆音を立てて彼らの体を打ち付けたのだ!
凄まじい衝撃に無数のサメ人間が、岩場に打ち上げられた魚のように無残に倒れて、血を流したり、肉片の一部が飛び散ったりしつつ、口から泡を次々に吹く光景が広がった。
サメ男は、小さな目に涙を流すと、仲間の惨状に発狂したような叫び声を上げて、大地に魔力を込めた拳を放った!
「うごおぉぉぉっ!キッサマらぁぁぁ、な・に・を・しやがるうぅぅぅ~~⁉」
シルヴァスは、それを無表情に見ていたが、サメ男がヤケを起こして冥界の大地に拳を放つと、岩場全体が揺れ動き、小高い岩山から大きな岩が落石を始め、緩やかでも坂の一番下になっているこちらの方向に向かって次々と転がり落ちて来た!
慌てて、逃げまどおうにも、カヤノはすぐに立ち上がれなかった。
上司である因幡大巳はカヤノではなく、咄嗟に自分の近くにいたハルリンドを庇うようにシールドを張る!
二匹のドラゴンは危険を感じて空に逃げ、アスターも少年の母であろう人間の女性を助ける為に走った。
こんな時、誰の目にも入らない小さな野花のような自分を、何度、呪った事か知れないカヤノは、自分に襲い来る岩石に強く目を閉じた。
サメ男との攻防で、散々、神力を使い果たしたカヤノには、既に瞬時に防御の為の結界を張る気力も神力も残っていなかったのだ…。
「!」
強く目を閉じたカヤノは、痛みに備えて歯を噛みしめた。
次回、土曜か日曜の更新になります。




