春の嵐に恋の風②
いきなりだが、人間の皆様は、ご存じだろうか?
僕らの住んでいる地球が何度も壊されているという事実を。
それは、大いなる神・グレートソウル・宇宙の自由意志などと、様々な名前で呼ばれているモノの力によって…。
今回の地球が何度目なのか、僕にも想像はつかない。
地球は、人間の魂を磨き上げ、より輝かせる為に造られた…いわば、トレーニングルームのような所だ。
この地球には、長い間、人間の発展と世界の在り方を見守る役を、大いなる意思に仰せつかっている者がいる。
その見守り役が、人類の非常に遅い成長の段階において、世界が誤った方向に発展し修復不可能だと判断すると、地球は半壊・全壊・無からの創り直しのどれかを余儀なくされ、再び、やり直しを繰り返すのだ。
ところが…あまりにも長い間、その仕事に携わっている為、見守り役が昨今、仕事に飽き始めた。
そこで、見守り役の気持ちを汲み取った自由意志なる神は、三次元世界では想像上でしかなかった神々や精霊、高位の妖怪などで、人間に良き働きをもたらす人外の者達を『現人神』として、人間界に体現する事にした。
見守り役も自分と同じように、人間の発展を支える者が現世で活躍していれば、気が紛れるだろうと偉大なる自由意志は結論を導き出したのだろう。
こうして、今回の地球は、人間の他に現人神が活躍する…バラエティに富んだ星となった。
『現人神』の存在を増やし、人間達の社会に混ぜる事で良い影響を与え、人間界が浄化されれば、人の発展に大いに貢献してくれるだろうという期待を込めて!
そういうわけで、今、説明している僕も…何を隠そう現人神だ!
僕はシルヴァス。
風の神であり、先程も言ったように、人間界に体現している現人神の一人だ。
とは言っても、風の神にも階級ってものがあってだね…。
僕は神というほど大それた存在じゃあない。
春風の化身…まあ、どちらかというと、精霊寄りの存在だな。
僕は、風神の端くれとして元々は外国出身なのだけど、今は神国と誉れ高い大和皇国という国に属しているんだ。
そこで、現人神統括センター内の青少年・児童保護課で仕事をしていて、主に孤児の担当している。
例えるなら、人間で言う所の公務員みたいなものだね。
仕事内容は、主に現人神の孤児を保護して、しかるべき施設に送り、その後、滞りなく子供が成人するまで、引き取られた先で問題がないか様子を見に行ったり、困った事があればサポートをするのがメインだ。
たまに、色々な雑用や畑違いの仕事も頼まれるけど…まあ、僕は優秀だからね。
とはいえ、子供は好きだし、特性でもある風・属性を生かして、どこにでも駆けつけて孤児を探すメインの仕事は、僕にとって適職だった。
仕事にも誇りを持っているし、保護した子供には少しでも良い里親を見付けてあげたい!
そう思って、僕はいつも子供達を見守っているんだ。
「だけど、前回の時は失敗したなぁ~。」
僕は数年前に冥界貴族(冥界神)と現人神の間に生まれた女の子を保護した。
両親を失くした彼女が健気で、凛としていて、綺麗で、強がっている所を支えてあげたくて…いつの間にか成長していく彼女を見守っているうちに…僕は彼女に恋をしていた。
ちなみに現世で人間に交じって暮らす現人神でも、そうでない世界で暮らす神様でも、女神の数は男性の神に比べて、とても少ない。
つまり、婚姻を結びたくても、人数的に男神があぶれて、女神は引く手あまたというわけでね…。
それって言うのはさ…神としての階級が低くて、人間に近い現人神でも『女の子』ってだけで、男神達が狙ってるってコトなんだ。
男神が余っているから、当然、競争が激しいのは仕方ないのだけど…僕みたいな平均的・独身現人神(男)の世界は顕著でさぁ…。
かなりのハイスペックじゃないと、同じ現人神の奥さんなんて、もらえないんだよね。
結果、下層部の現人神ほど、なかなか結婚できなくて、結局、普通の人間の女の子と恋仲になって、結ばれると、更に神の血が薄まるという悪循環で、次の世代が余計に女神様と縁遠くなるという負のスパイラルに陥るんだなぁ~。
で、僕はというと、実は人間の血を引いてはいない…。
なぜなら、僕は直接、現世勤務の依頼を受けて肉体を得た一代目の現人神なんだ。
だから、人間寄り過ぎるという事もないんだけれど…何分、神としての階級が、それほど高くないからなぁ。
神というより、精霊だからね…。
(ハイスペックな神様や現人神には、数が足りてない筈の女の子達が群がるから、本当に不思議。)
好きになった彼女の方は、片親こそ下級の現人神だったけど、母親が冥界の大貴族の娘で…神力も高くて、僕なんかとは、身分違いも良い所だった。
僕のような神の階級が低い一介の公務員レベルの現人神なんて、頑張っても無駄だったのに…。
相手が自分に少なからず好意を持ってくれていた事で夢を見てしまったんだ。
結局、彼女は僕の親友であり、彼女と同じ冥界のお貴族様と結ばれた。
初めて二人を会わせたのは僕で、最初から相性がいいと思っていたから不思議はないが、途中までそんなに彼女らが仲良くないと思っていたから、自分にも望みがあるような気がしてしまったんだよね。
でも、最初に感じた予感の通り、二人は恋に落ち、僕は失恋をするハメになった…。
実を言うと春風の精霊系である僕は、恋を運ぶと呼ばれている存在でね。
相性の良い男女の仲を嗅ぎ分ける能力を持っているらしい。
それなのに!
不思議な事で自分の恋は、ちっともうまくいかないんだ!
その僕の親友と結ばれた女の子は、ハルリンドと言うんだけれど…。
彼女の前にも僕は、2度も3度も恋をしては…振られていたのだ。
落ち込みはしたが、元々、楽天的で立ち直りも早い気質なので、すぐに吹っ切ることができると思っていた…。
だが、今回ばかりはそうではなかった。
ハルリンドに少し入れ込みすぎたのだ。
ライバルが親友という事もあって、僕も全力で彼女を口説きにかかった。
そして破れた…。
今も、僕の心には冷たい風が吹くように、寂しい気持ちでいっぱいだ。
正直、二人を心から祝福できる自信が無い…。
「クソッ!もうしばらく、恋なんてしない!!」
僕はそう思うくらい、久しぶりに本気で傷ついていた。
僕が、そんな状態の時だった…。