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ⅩⅥ りんたとしえるのおくりもの


 サマー・クリスマスまであと一日となった。



 なみかは待ちきれないようにいつも以上に輝く海と空を見つめた。

「りんた、元気でやっているかしら」

 手に持った刺繍はもう完成に近づいていた。

 なみかの表情はさえないまま。

「でも……やっぱりないわね」

 なみかは窓から空を眺めて、少し肩を落とした。




… きみは本当に海のお医者さんに似ているね …

 『海の街』への帰り道、メルが嬉しそうに話す。

「お父さんに? どんなところが?」

… 顔とか、声とかもだけど、一番は雰囲気かな、すっごく幸せそうだよ …

 メルのその言葉に、りんたは少しだけほおをゆるめた。

「それは、友だちのおかげだ」

 それからリングの歌声を聴きながら、うとうとし始めた時、海の色が虹色に変わった。

 気づくと『海の街』の浜辺についていた。


 クリスマスまであと少しだ。

 次の鐘が鳴れば、りんたたちはもとの世界に、プレゼントを渡しにいくことになる。

 やわらかい砂浜におりると、メルにお礼を言う。

 メルは嬉しそうにくるっと宙を舞うと、りんたが見えなくなるまでずっとひれを振っていた。

 メルに見送られながら、プンを肩にのせたりんたは、お城に向かって走った。

 街にはもうプレゼントの準備を終えた子どもたちがアイスクリームなどを食べてゆっくりと休んでいた。

 りんたがお城の前につくと、扉は待っていたかのように開いた。

 中ではマリアが、りんたが来るのをずっと前から知っていたように、テーブルの向かい側に座っていた。

「こんにちは、りんた」

「こんにちは、マリアさん」

 りんたはクリスタルのように透明なイスにすわると、大切に両手で持ていた貝がらを見せた。

 お城に降り注ぐ光が、りんたの持っている貝がらに集まる。

 反射したまばゆい光は、地面に雪の結晶のような美しい光を見せては消え、また光っては消える。


「この貝がらは、お父さんがお母さんにあげたかったプレゼントだよね」

 マリアはうなずいた。

「そうよ、特別な海にしかない、音を閉じ込めることができる貝がら、それを用意するのに時間がかかってしまったの」

 マリアは眉を下げて首を小さくふりながらうつむく。

 お城の時計は十三時四十分を指している。地上ではあと二〇分程でクリスマスを迎える。

「大丈夫、思い出させてくれてありがとう」

 マリアがりんたを見つめる。真剣に、そして心から悲しむように。

「リングとわたしは感謝しているわ、そして、後悔もしています」

 それはお父さんにメルを診せたこと。

 りんたは首を横に振った。

「お父さんは嬉しそうだった。素敵なサンタクロースをしてきたって、笑ってた」

 りんたはポケットからキラッと輝くものを出した。マリアが目を丸くする。

「ぼくのお願いをかなえてもらうことはできる?」

 ほほえんでうなずくマリア。

「ええ、もちろんよ、少し待っていただける?」

 りんたがうなずくと、マリアはイスから立ち上がり、かつん、かつん、と数歩歩いてかすんでいった。


 五分が経ったころ、マリアがかつん、と高いくつの音を立てて再び現れた。

「よく成長しましたね、あなたは素晴らしいサンタクロースになるわ」

「ありがとう。マリアさん、ハッピーサマー・クリスマス」

「ええ、こちらこそ、ハッピーサマー・クリスマス」

 りんたは立ち上がり、マリアから輝くものを受け取った。

 そしてマリアにおじぎをすると、十四時ギリギリを指した時計の下を走り出した。

 『海の街』の子どもたちはみな、虹色の海に向かって歩き出していた。


 りんたはそこからラベンダー色の髪を探した。

 でも、当然というようにりんたが見つけるよりも先に、しえるがりんたを見つけ出した。

「りーんた!」

 びっくりするくらいの速さでりんたのもとに来ると、しえるは振り返ったりんたに何かをおしつけた。

「ハッピーサマー・クリスマス! りんた」

 それはくじらの飾りのついた、ラベンダー色の小さなチャームだった。

 驚くりんたの手に無理やり握らせると、いつものにかっとした笑顔を見せた。

 でもその笑顔はいつもより悲しげだったのに、りんたは気づいた。

「もう……ばいばいだね」

 うつむくしえるに、りんたはポケットから取り出した、ネックレスをしえるの首にかけた。

 驚くしえるの首には、海で見つけた輝く貝がらがかかっている。

 そして、その貝がらからはマリアとリングの美しい海の歌が絶え間なく流れていた。

「ハッピーサマー・クリスマス、しえる」

 驚くしえるに、りんたはほほえんだ。

 船の近くの砂に隠れるように落ちていた貝がらは、声を閉じ込めることのできる貝がらだった。

 それにマリアの歌声を閉じこめてもらい、チェーンを通してネックレスにしたのだ。

 りんたの唯一の特技である、素敵な貝がらを見つけ出すことが、ここで活かすことができたのだ。


「これ、歌が聞こえるよ!」

「うん」

「これ、りんたが作ってくれたの?」

「うん」

「これで、忘れないでいられる、よ」

 しえるの瞳に涙があふれてくる。

「忘れるのって、とっても悲しいことだって知ったんだ。でもぼくはしえるのおかげで思い出すことができたし、しえるのおかげでいまを大切に、次に進めることができたよ」

 しえるが驚いて、それでも幸せそうに見つめ返す。

「もし忘れちゃっても、これを聞いて、このサマー・クリスマスを思い出して、ぼくのことも」

 しえるは黄金色の瞳に涙をたくさん浮かべて、りんたに抱きついた。

「忘れるわけないよ! また絶対に会うの、絶対だからね!」

「約束だよ、ぼくはもう忘れない、きっと」

 しえるが照れを隠すように、はいっと授業であててもらいたい時のように手をまっすぐに上げた。

「わたしがサマー・サンタクロースに選ばれた理由、わかったの」

 しえるがりんたの目をまっすぐ見つめて言う。

 りんたはもうそらさなかった。

「たくさんの理由があると思う、でもね一番はやっぱり、りんたに出会うためだったんだと思う!」

 まっすぐそう話すしえるの言葉を、りんたはしっかりと受けとることができた。

「うん、きっとそうだ、ぼくもきっとしえるに出会うために一〇〇番目のサマー・サンタクロースになったんだ、いまやっとわかったよ」

 二人はほほえみ合うと、最後にぐっと手を握った。

 この虹色の海を越えたら、そこには幸せにする相手のもとへ行ける。

 周りの子どもたちがどんどんと勢いよく、笑顔で飛び込んでゆく。

 りんたはしえるにもらったチャームをしっかりとポケットにしまうと、しえると最後の挨拶をした。


「よいサマー・クリスマスを、またいつか、りんた」

「よいサマー・クリスマスを、またね、しえる」


 二人は同時に虹色の海へ飛び込んだ。





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