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ⅩⅣ しえるのサマー・クリスマス


 りんたはしえると街を歩いていた。

 背中には砂浜で眠ったよいんを残すように砂があちこちについている。

 二人の手にはヒトデアイスが握られている。

 海でずっと泳いでいた疲れが出て、りんたの足はじょじょに遅くなってゆく。

 しえるも疲れたようで、二人は街のあちこちにある貝がらのベンチのひとつにすわった。


「りんたはさ、これからどうするの?」

 りんたはヒトデアイスの最後のかけらを食べ終わると、木の棒を近くのごみ箱に捨ててベンチにもたれかかった。

「海に行くんだ、そこにぼくが見つけないといけないプレゼントがあるんだ」

「へえ! 場所はわかるの?」

「たぶん、わかると思う」

 明るい顔で話すりんたに、そっか、としえるは嬉しそうにうなずく。


「しえるは?」

 そう聞くりんたをちらっと見て、しえるはポケットから何かを取り出して、りんたにつきだす。

 よくわからず、とりあえずそれを受け取るりんた。

 手にのせられたのは、何を表しているのかわからないほどいびつな形をした白いかたまり。

「えっと……なに、これ?」

 しえるは肩をすかしてみせた。

「りんたはさ、わたしのことを何でもできるって言ったけど、それはちがうんだ」

 突然話し出すしえるに、りんたはただ手にのった何かの魚の骨のような、なんとも言い表しがたい物体を見つめた。

「それさ、りんたが海から帰ってきてずっと寝てた時に街で試したの、クリスマスプレゼント、くじらの形を作ろうと思ったの」

 しえるが作ったものだった。

「何でもできる人なんて、きっといないもん。わたしは一人で行動ができなかったし、自分のことも相手のこともしっかり考えることだって苦手。それにりんただって、すぐに行動する勇気が足りなかったり、人見知りだった」

 自分のことを率直に言われると、りんたは胸が沈んだ。

「だから、思ってることを言い合って自分だけじゃ見えない自分を教えてもらって、しっかり自分で考えて、努力して、自分のだめなところを変えていくんだ」

 しえるは自分に言い聞かせるようにつぶやく。その言葉に、りんたは浜辺でしえるが言った言葉を思い出した。

――「話さないとわからないよ」――

「本当に、そうだ、自分でも自分がわかんないのに、友だちにだったらなおさらちゃんと伝えないと、なんもわからないね」

 りんたはくすっと笑ってうなずいた。


「でしょ? ……わたしね、一人が嫌いで、いつも誰かがいないと行動ができなかったの」

 しえるがぽつりぽつりと話していく。夜のこない街の真っ白な空を見上げて。

「わたしね、もっと小さいときに新しい街に引っ越したの、そのとき本当にさみしかったの、友だちも最初はぜんぜんできなくて、一人ぼっちの経験をしたの」

 自分のひざをじっと見つめて、背中を丸めたしえるはまるでしえるじゃない別の誰かのようだった。

「だから、りんたを浜辺で待ってたし、りんたがいなくなったときはすっごく悲しかったんだよ」

 ぱっと顔を上げて、りんたを笑いながらにらみつけるしえるに、りんたはごめん、と口ごもるしかなかった。

 少し前のことなのにその時の自分が恥ずかしくてできればりんたは思い出したくなかった。

 でも、としえるはつぶやいて、にかっといつもの太陽のような笑みを広げた。


「りんたはいまを大事にするって決めたから、わたしも昔のいやな思い出に振り回されないで、一人でも勇気を持てるようになるんだ!」

 それはしえるの決意にも近かった。

「やっぱ、しえるはすごいや」

 りんたはしえるの笑顔につられて笑った。

「だから、すごくないって話しをしたんだよ?」

 少しふくれて言うしえるに、りんたは首を横にふった。

「前向きに自分のすごくないところを見つけられるのが、すごいんだ、ぼくはいつも後ろ向きだったから」

 りんたの言葉に、しえるは髪をはらってにやっと笑いながら肩をすくめた。

「ま、ほめられるのは好きだから、しっかりうけとめるわ」

 お互いに目を合わせてくすくすと笑い合うと、しえるはベンチから立ち上がって伸びをした。

 のどから気持ちのいい声をだすと、よしっとこぶしをにぎって気合を入れなおした。

 りんたも同じように伸びをすると、自分を見ているしえるにうなずいた。


「お見送りするよ」

 りんたとしえるは虹色の海に戻ってきた。

りんたを見つけて浜辺に近づいてきたメルと目を合わせるとうなずいた。

「メル、連れて行って」

 その瞬間、金色の水しぶきが上がった。

「わお!」

 驚くしえるに、りんたはうなずいた。

「ぼくはいまいるお母さんを大切にするよ、それから、大切な友だちも」

 りんたは海に飛び込んだ。呆気に取られているしえるは少しだけ顔をあかくして、嬉しそうに笑いながら、いってらっしゃいと手を振った。




 パウルの店内で小さな火花が散る。

 しえるの身長ほどの大きな楕円形の貝がらをドーム状に並べた店内で、しえるはずっと作業をしていた。

 ジジジッ うす暗い部屋に貝がらとサンゴがぶつかって小さな火花が舞うたびに、パウアの貝がらがきらっときらめく。

 パウアのアクセサリー店では貝がらのチェーンとその飾りを作ることができる。

 サマー・サンタクロースが始まってもう五日が経った。

 しえるがここでチェーンを作るのは十回目。


「しえるさん、うまくなりましたね」

 しえるの手元をのぞきこむパウアが嬉しそうにうなずく。

 しえるの作ったきれいな形をしたチェーンの飾りがテーブルの上にならんでいる。

 それらを見つめ、しえるはため息をついた。

「まだまだだよ、ちゃんとしたものを贈りたいの、心を込めないと、なにも伝わらないから」

 サマー・クリスマスまであと二日しか残っていない。

 チェーンを一つ作るのに三時間はかかってしまう。

 パウアはふふっと口元に手を当てて、紫色に輝く髪を耳にかけた。


「わたしは、しえるさんがなぜサマー・サンタクロースに選ばれたか、わかった気がします」

「え、教え……なくていいよ、それはわたしが自分で見つけるから」

 よっしゃと自分に気合を入れなおすと、しえるは頭も手もフル回転させてもう一度サンゴと貝がらの機械を動かした。


「みんなを幸せにするぞ!」








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