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老いたコウモリが地の底について考えるお話

作者: しぐな

幼い頃に母から聞いた話では、

私はコウモリと言う獣であるらしい。


宙を飛び回り、天に足を付け、虫などを食うて生きてきた。

若い頃からそうしてきた。老いた今もそうして生きながらえている。


私は死期を悟りつつある。それももうすぐにであると。

身体は震え、血潮は冷たく、最後に目覚めてから虫一つ口に出来ていない。

こうした今、ふと考えるのは、私は何処へ行くのだろうと言う事だ。




若かりし頃のいつか、我々は遥か昔に土より生まれたと耳にした。

この世界を覆う硬い岩などでは無く、下に下に、ずぅっと下に、柔らかい土というものがあり、

そこから命が生まれたのだと。

我々が死する時には、この世界をずぅっと下り落ちて行き、また土へと帰るのだと。そう耳にした。


今より溌溂と羽ばたいていた在りし日の私は、この世界の底と言うものへ辿り着き、

『土』と言うものを目にしたいと、そう思い立った。

その旅は長い長い旅であった。

道中、虫を食みつつ只管に下り、それはもう只管に下った。

1日を30重ねても稀にしか見ない、とても旨い虫を旅路で5つは食うた。

世界の果てとは斯くも果てしないものかと、4つ食うた辺りでそう思うた。


旅の途中のある日、私はあるものを目にし、またあることにはたと気が付いた。

私が見たものは、私と同じコウモリが、私とは違って老いたコウモリが、死してひゅんと落ちる姿であった。

「ああ、彼は私より先に世界の果てを見るのだ」そう思った。

気が付いたことと言えば、それは嫌な予感であった。

…彼が世界の壁にぶつかる音が、何日経っても聞こえないのだ。

間抜けなコウモリが天に頭をぶつけた時の様な、あのような音がしないのであった。

そこで私は思うた。「この世界の底に、世界の果てなど存在しないのではないか…」と。


それからはもう私は怖くて怖くてやまず、30を7つは重ねた旅路を3つ程で帰った。




…今私は、あの頃の旅路を再び辿ろうとしている。

この足が天を離した時に、自然と私は落ちて行くだろう。

あの日聞いた、『土』と言う底の世界の話を、私は思い出している。

この世界に底なんて無かったのではと思い至った若き日の旅を、思い出している。

我々が生まれ帰ってゆく、そんな空想の世界を想っている…。


…これから私は何処へ向かうのだろう。

そも我々は、どこから来たのであろう。

母は、友は、あの日見た老人は、何処へ向かったのであろう…




1匹のコウモリがぽっくりと果てて、

ほら穴の中を、どこまでもどこまでも落ちていった

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