意気地無し
「僕は死にたいんだ」
「死ねばいいじゃないか」
「一人で死にたくないんだ」
「俺が一緒に死んでやろうか?」
「いいのか?」
「ああ。但し、俺のやるべきことを手伝ってもらう。死ぬのはそれが終わってからだ」
「でも、一緒に死んでくれる人も死ぬことを望んでいる人がいいんだ。我が儘だろ?」
「今まで沢山の自殺志願者に会ってきたが、自殺志願者は大抵我が儘だ。悪口でなくて、事実として」
「そうか。以前、一緒に死のうと申し出てくれた人がいた。しかし彼はいよいよというところになって泣き出した。死にたくないと言って逃げた。僕は一人になって、準備も整っているからじゃあ死のう、と、練炭に火をつけた。だが心配して戻ってきた彼のせいで失敗した。彼は一緒に死ぬどころか僕の自殺の邪魔をしたんだ。あのときは結構上手くいってたのに。彼は自殺撲滅委員会の人間ではないだろうか」
「そのところは問題ない。やるべきことが終わったら、きっと俺も死にたくなっているだろう」
「それはよかった」
昔のことを思い出していた。
彼は死んだ。きっちりとやるべきことを終えて。
僕はまんまとタダ働きをしたわけだ。
僕にあれだけの話術があったならば、もう少し生きていくのが楽だったろう。
今では、彼も自殺撲滅委員会の人間だったのではないだろうかと思っている。