8話 「虚栄なる小人①」
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01
「ここで戦う気!?」
「ええ、そうよ。でも周りにいる人が邪魔ね、もう始めちゃうか」
本城は自分の周りにいるモーモーランドの客に手を向けて言葉を紡ぎだした。
それを見た彼らはモーモーランドでオルタナティブの撮影かと舞い上がっていたがまさか自分達が利用されるとは思ってもいないだろう
「――現に忘却されし者達よ。人間を欺き、世界を欺いた汝達は誰からも愛されない。故に我が愛そう、全てをさらけ出し世界を騙せ、誰かの記憶に刻みつけよ」
「チッ、クソ!!」
春馬は桜に向けて多くの弾を撃ち込むが彼女はそれを嘲笑うかのように呪いの言葉を言い放つ。
「――虚栄なる小人」
その言葉を告げられた世界は正気ではいられない。桜の周りから出てきた霧は絵の具で塗られたような真っ青な空を黒く塗り潰した。周りにあるアトラクション達は霧に包み込まれて、元のアトラクションとは違った形状に変化していた。
「明日香、アルヴァトス無事か? 」
「ええ、なんとか大丈夫。でも周りにいた人達が……」
「……魂を抜かれているようだね」
モーモーランドにいた客達は霧に包まれ、壊れた人形のように地面に倒れ伏していた。
彼らは明日香や春馬みたいに自力で魔力を生成できないので、霧に包まれてしまえば何も抵抗はできない。何時間もこの霧の中にいなければ話は別だ。時間がたてばたつほど霧は明日香や春馬の魔力生成にすぐに追いつき、二人を死に追いやる。
「彼らには私の魔法の為に力を貸してもらった。私の魔法には多くの魔力が必要でね、君達を倒すにはしょうがなかった」
「しょうがなかったって、何もしていない一般人を殺す事はないでしょ! 」
「君、同じ魔法使いにしちゃ珍しいね。一般人なんて私達にとっちゃただの使い捨てなんだから」
「貴方といっしょにしないで。彼らは彼らなりに普通に生きてきたんだ。自分の道具として扱うなんてどうかしてるよ!! 」
「おい、そこまでにしとけ明日香。相手の思うつぼだ」
「兵藤君は何とも思わないの? 魂を抜くという行為を近くでされて」
異能者は一般人の事を虫けら以下だと思わなければ情に流されて肝心な時に役に立たない。 普通の異能者であればそうだが、明日香の場合は少し違っていた。
「確かに見過ごせはしない」
「じゃあ……」
「だけどな明日香、異能者は一般人をいちいち助けてたらきりがないんだよ。俺らとアイツらは生きている場所が違う。今回だけだ、一般人を助けたりするのは」
「明日香お姉さん、覚悟は決まった? 」
春馬は明日香に最後の忠告をした後、何も言わなかった。アルヴァトスの一言で考えがまとまった明日香は
「――これが終わったら色々とアンタには聞かなきゃならないから! 」
「あいよ、その時は答えるよ」
静かにアルヴァトスと憑依経験し、闘志を燃やした。いつもと炎の燃え方が違うが、春馬は気がついてなかった。
「やっと終わった? 君達含めた10人倒しときたいんだけど。この霧貴方達の命まで刈り取っちゃうよ」
「永遠に燃え盛る火!! 」
明日香は本城に目掛けて以前コステロにやった炎をぶつけるが、本城の体をすり抜けた。
「現実の世界なら致命傷になりかねないけど、今の私は幻術の世界の住人。世界を壊す様な異能じゃない限りは私の魔法は破れないわ」
「これが幻術魔法!? ここまでの規模は聞いた事ないぞ!! 」
「そんなに珍しいの? 」
「本来の幻術魔法は相手を惑わすだけの低級魔法、だがコイツの魔法は世界を騙している。こんな事はありえない」
幻術魔法は相手に自分の虚像を植え付けるだけの魔法で、1人前の魔法使いならすぐに解呪できる。
何故なら自分が騙されているからだ。
ただ、彼女が使う虚栄なる小人は世界を騙しているが故に解呪はできない。
「私的には貴方達にすぐに死んで欲しくないからこの霧から逃げられる方法教えてあげる。特に明日香ちゃんは」
「私? 」
「この遊園地の何処に霧を解除できる核があるから、それさえ潰せばすぐに私と戦えるよ。その場所にいる番人を倒せたらだけど」
「待て!! 」
桜はそれだけ言い残し、陽炎のように姿を消した。春馬や明日香は罠だと思っていたが、早くこの霧を無くなさない限り自分達の命がない為先を進む事にした。
02
モーモーランドは一日歩き回っても足りないぐらい、沢山のアトラクションがあるので明日香や春馬はだいぶ苦難していた。
理由としては地図を使って場所を探ってもアトラクションの内容や形状が変わっていて意味がなかったからだ。
「明日香やアルヴァトスは何か発見できたか? 」
『いや、全くだよー』
「気のせいか霧の濃度が濃くなってきたような……」
桜が消えてから10分が経っていた。周りのアトラクションは生き物と同じように蠢いており、マスコットキャラ達はこちらを嘲笑うかのように何度も手を振っていた。
霧はまだ薄いものの、少しずつ体の自由が効かなくなっている。
「しょうがないあの手を使うしかないか」
「あの手? 」
「動き回っているマスコットキャラ達の中に焼肉君がいるからそいつを利用して視覚を共有する」
「確かにあのマスコットキャラ達の中に焼肉君がいるね、他のマスコットキャラより魔力が高い。
前から思ってたけど兵藤君魔法使いだよね? 」
焼肉君は焼肉に腕と足、目がついている気色悪いマスコットキャラクターだ。焼肉君は肉の焼き目や肉を大切にしない人にかなり厳しいがそれ以外の人には美味しい肉の部位を教えてくれる
「明日香、お前は異能者の事を知らないからしょうがないど、
固有魔法を使えない他の異能者も補助魔法は使えるんだよ」
話を逸らしたように春馬は異能者の知識をさらけ出した。魔法使いは家から継ぐ固有魔法と誰もが使える補助魔法が使えて、他の異能者は自分の異能が持っている弱点を補う為に補助魔法を使っている。ただし、人数は少ない
『何か誤魔化されたような気がするけどいいの明日香お姉さん』
「まあ、いずれ秘密は教えてくれるでしょ」
「なんか言ったか? 」
「いや、なんでもないよ」
「じゃあ行くぞ……視覚強奪」
近くにいた焼肉君の目と合わせ、自分を焼肉君だと思いこみ視覚を強奪する。
動きも意識してやらなきゃいけないので相当疲れる魔法だ。
「なにか視えた? 」
「えーと……デカいかなりデカい」
「どんな奴? 」
「――ミノタウロスが燃えてる」
「え? 」
「言葉通りだ、燃え盛るミノタウロス。お前にとっちゃ相手がかなり悪い」
オルタナティブに参加して、初の相性が悪い敵に遭遇した明日香はどのように立ち向かっていくのか……