7話「遊園地」
遅くなりました。
追記 明日に前半の内容変えます。変更前と展開は同じですので
01
4月9日
「疲れた……」
明日香は香澄に言われて5時間目の授業に出た。5時間目は体育で、体調が悪い明日香には運が悪いと誰もが思ったのだが、明日香はそんな事を感じさせない運動能力を女子生徒達に見せつけた。
体育が終わった後、理事長の秘書である桜ノ宮さんに呼ばれて理事長室へと向かっていたところ同じように呼ばれた春馬と出会った。
「まさか明日香もか?」
「兵藤君も同じみたいだね…」
明日香は理事長の性格を理解しており、トラブルが起きそうな気がしてならなかったが春馬は何故か神妙な面構えをしていた。
「あの人の事だ、なんか企んでいるに違いない」
「ねぇ、前から気になってたんだけどなんで学校だと戦ってる時みたいに性格を切り替えてるの? 」
「明日香、お前はあの人をただの面白い人だと思っているだろうがあの人はそんなんじゃない。切り替えてなきゃ俺はあの人を……」
「その言葉を私の前で言ったら殺すわよ兵藤君」
明日香達が理事長室の前に着いた瞬間、理事長秘書 桜ノ宮は春馬の後ろに立っていた。
「桜ノ宮さん!? いつの間に! 」
「……桜ノ宮さん、苦しいんですが」
「あらあら、ごめんなさい。つい手が出ちゃったわ」
微笑んでいるものの、桜ノ宮の目は笑っていなかった事に気づいた明日香は見ない振りをした。
春馬は話題を変えるため、桜ノ宮に理事長が自分達を呼んだ目的を聞く。
「それは中に入ってからで。兵藤君は態度に気をつけてね」
「桜ノ宮さんって意外と怖いんだね」
「あの人を怒らせると大変だからな、明日香も気をつけろよ」
桜ノ宮に聞こえないようようにボソッと話をして、理事長室の扉を開ける事にした。
――――
「やあ、待ってたよ。明日香君、春馬君」
「なるべく手短に話して下さい、理事長。僕らHRがあるんで」
「望み通りに簡単に話すよ。君達はミルミルランドに行って、コンビネーションを学んでくるがいい」
理事長は明日香や春馬にミルミルランドという最近出来たばっかりの遊園地のチケットを渡した。
チケットには牛と牛肉というなんとも趣味が悪いマスコットキャラクターが描かれていた。
「え、えっと理事長これは? 」
「何ってミルミルランドのチケット二枚だよ、君達の為にわざわざ朝早くに行って買ってきたんだから感謝しなさい」
「は、はぁ……」
明日香は即座にスマートフォンを出してミルミルランドを検索した。ミルミルランドは世界主要都市にあって、大人や子どもに大人気の遊園地という事らしいが明日香にはミルミルランドの好かれる要素が見当たらなかった。
「兵藤君、こんな遊園地が人気だなんてありえなくない? 」
「……」
「兵藤君? 」
明日香は嫌な予感を春馬に感じていた、春馬は性格を二つに分けている以外はまともだと明日香は思っていたがその思惑は外れる。
「理事長……まさか貴方に感謝する日があるとは……」
春馬は理事長から貰ったチケットを握りしめ、何故だか感極まって泣きそうな様子で明日香は頭が混乱し始めていた。
「なんで、ミルミルランドで泣くの!? 兵藤君大丈夫?! 」
「ああ……なんだか懐かしくなってきてな。昔、優しかった両親と行った時が最後だからついね」
「優しかった両親? 」
「明日香君、春馬にも色々あるから無意味な詮索はよしたまえ。私がミルミルランドを選んだのは、
カップルが楽しめるアトラクションがあるからお互いの息を確かめる為にちょうど良いと思ったんだ」
「か、カップル?! 」
「なるほど……お互いの息を合わせる為にはカップルのアトラクションは丁度良いね」
明日香は今までにこういう体験はしていなかった為、異性と遊ぶ事に抵抗はない。対して春馬は何故か余裕そうなのを見るに相当女慣れをしているのだろうと明日香は考えていた。
「明日香君、君はまだ負の感情と正の感情を理解していないからこれを機に春馬に色々と聞きたまえ」
「理事長が言うんでしたら説明します。明日香、普通の人間には正の感情と負の感情があるのはわかるよね? 」
「要は自分の中にいる天使と悪魔みたいな事でしょ? 」
「そう、その通り。普通の人間には今の二つがあるんだけど僕達異能者にはどちらか片方しかないんだ」
「片方って……もしかして」
「明日香の場合だと君は良い心しかない。これは良い事なのが一般人に紛れて生活するにはいささか不便だ。だから、僕達は異能を自分達の負の感情や正の感情の代わりにするんだよ」
「私から少し付け加えると正の感情と負の感情には少し区別があってね、明日香君の魔法や私の力は負の感情に分類されるんだよね」
「?? どういう事?」
「つまりは……」
春馬は理事長室にあるホワイトボードにある図を書いていた。それは正の感情と負の感情に属する異能達についてだ、正の感情には五大属性魔法、強化使いなどが入っている。対して負の感情には明日香の魔法 「季節は巡りゆく」など色々とあるらしいが、HRの時間が近づいてきたので春馬はやめた。
「正の感情や負の感情を認めないと、この二つは持ち主の異能者を乗っ取り始めるから気をつけてね」
「そこはちゃんと気をつけるよ、でもなんでこんな大切な事を教えてもらえなかったのかな? 」
明日香は初めて自分の異能を使った日の夜を思いだしていた。最初はオルタナティブに参加しないと決めていたが、負の感情によって出てきた行きたい欲を認めなかったせいで暴発してしまった。
春馬の講座で異能について再認識した明日香はもう二度と自らの異能を否定しないように決めた。
「もう時間ないから早く待ち合わせ時間決めよう」
「おっと、時間は私に決めても良いかな? 」
「別に構わないですよ理事長」
「9時ならすぐに入場できるよ」
「じゃあそれで良いです、行こう兵藤君。さすがに時間がないし」
「楽しみだな、明日香! 」
疲れ気味の明日香は春馬を無視して時計を見た。あと10分でHRが始まるようだったので、急いで理事長室を出る事にした。
「二人で楽しんできてね」
二人の背中を見送った理事長の顔はおよそ人間とはいえないような笑顔だった
02
4月11日
「まさかここまで人が多いとはね……」
「おい、明日香。次はアレ乗ろうぜ! 」
「春馬待ってよー、僕の身長でも乗れる乗り物にしようよ」
待ち合わせの時刻通りにお互い来たのだが、ミルミルランドが予想以上に人混みで溢れていた事に明日香は驚いた。
春馬はアルヴァトスみたいにおどけてるとはいわなくても、歳相応にはしゃいでいたので何故か安心していた明日香だった。
「そんなにミルミルランド楽しいの? 」
「ああ、楽しいよ。子どもの頃に戻ったみたいだ」
「わぁ! 」
春馬に両親の事を聞こうとしたその時、アルヴァトスはミルミルランドの客とぶつかっていたので急いで謝りに行こうとした。
お母さんは子どもを連れている時はこんなに大変なんだなと思っていたが、そんな考えはすぐに消えてしまう。
「君達が香澄の友達ね」
「なんで香澄がここに? 」
「私は香澄の姉 本城 桜よ。妹から貴方の事は聞いているわ」
「――明日香お姉さん気をつけて、あの人なんか変だよ」
目の前にいる少女は一般人しかいないミルミルランドには異質な存在だった。
明日香や春馬も一般人とは違うのに自分達は一般人なのではと錯覚させる程彼女のオーラは異色だ。
「明日香!! ソイツから離れろ!!」
「心外だなぁ……私は香澄の友達に忠告するだけだよ? 」
「貴方は自分の考えで戦っているの?」
「自分の気持ちに素直になったからわかるけど、私は異能者だから自分の願いの為だったらなんだってする」
「例え誰かを殺す事になっても? 」
「――願いを叶えるという事はなにかを代償にしなきゃいけないんだ」
「そう……その言葉を聞いて安心したわ。遠慮なく殺せる」
遊園地という今まで戦った事のない舞台で少年少女は立ち向かっていく。それが誰かの脚本であっても