6話 「一般人と異能者」
だいぶ文章量を増やしました! 二話更新は少し時間かかります
01
4月9日
オルタナティブに参加して3日が経とうとしていた。明日香は自分で解決できるなら自身の生活を守る為にオルタナティブを止めに行こうとしたが想像以上に規模が大きかった為、明日香は諦めてオルタナティブに参加する事にした
悪魔の門を司る者や嘆きの巨人との戦いやアルヴァトスと契約、兵藤春馬との出会いなど。ほんの1ヶ月前の明日香ではありえない日常を今の彼女は体験していた。
「ねぇ、明日香!」
「ん?なに香澄? 」
「さっきから凄いぼーっとしてるけどもうすぐ明日香が指される番だからちゃんと教科書見とかないと」
1限目 国語総合、今はある物語を出席番号順で音読をしているのだが、まだ4月中旬なせいか一部の生徒達は春の陽気にやられて寝てしまっていた。明日香もまた一部の生徒達と同じようになりかけていたが香澄のおかげでなんとか正気を保っていた。
「ありがとう、香澄。でもまだ私の番は回ってこないから大丈夫大丈夫」
「はぁ……まあ良いけど。話変わるけど昨日のオルタナティブ観た?」
「え……まあ観たよ。女の子と男の子頑張ってたよね」
明日香は香澄から昨日の話題を振られて少し驚いたが学校全体で話題になっている以上はしょうがないと諦めていた。香澄は自分が興味ある話題でも相手が興味ない場合はその話題は出さないが、明日香はどっちつかずの反応をするので香澄はオルタナティブの最新話が更新される度に明日香に話題を出していた。
「昨日のあの人達は力強い戦いをしたのはかなり驚いたけど別の話に登場した人もびっくり」
「別の最新話?」
明日香と香澄は小さな声で話している為、先生には聞こえていなかったが隣人には聞こえていた。
「なんだ?明日香お前オルタナティブ観てんのか。凄い意外だな」
明日香の隣の人物、彼の名前は千葉鷹。噂を集めるのが趣味でよく男達から頼りにされているが女子から敵認定を受けている悲しい人物である。
「私も現代娘だから観るに決まっているでしょ」
「アンタと明日香をいっしょにしないでよ。つい最近までネットに疎かった癖に」
「香澄!お前それは言わない約束だろう!!」
「ば……馬鹿うるさいって!」
「まーた千葉がちょっかいかけてるのか。次騒いだら職員室な」
「ぐ……」
香澄ではなく千葉が注意されたので教室中は笑いに包まれていた。千葉はお調子者なので本人がなにもやっていなくてもすぐ千葉のせいになるのだ。
このさりげない日常こそが明日香が守りたいもの、魔法使いとしての明日香が憧れていた普通の少年少女の学園生活は明日香を拒む事なく優しく受け入れてくれた。
「なに笑ってるんだよ」
「いやなんでもないよ」
「まぁ……いいけどさ。明日香に少し助言があるから耳貸してくれないか? 」
なんだろうと疑問に思いつつ、明日香は耳を貸した。一瞬息を吹きかけられるのではないかと思ったが予想は大きく外れた。
「明後日の夜、君の歳より一つ上の女性幻術使いには気をつけろ」
聞こえてきた声は思春期特有の甲高い声ではなく、小鳥の囀りと同じような声で明日香に囁いた。
その声はどんな人物でも必ず深い眠りへと誘う魔法「眠り姫」だった。
「千葉……くん?」
千葉鷹は自らの体をファスナーで開けていった。下に千葉鷹の皮は置きながらそこに現れたのは明日香よりひとまわり年下のか弱い幼女だった。幼女は外見は可愛いが雰囲気が1000年以上生きているのではないかと第三者に思わせるぐらい大人びていた。
明日香はその姿を見た後に「眠り姫」の効果で深い眠りへと落ちていった。
「――めんどくさい役割を押し付けたな……彼奴め」
02
「ここは……」
眩い光を受けながら重たい瞼を開けた明日香の目に写ったのは色どりの花達が咲き誇る煌びやかな丘だった。
「ここって1回来た覚えがあるような気がする。不思議……」
明日香は自分の頭をフル回転して過去を振り返ってみたがこの場所は覚えがなかった。
立ちとまっていてもしょうがないので明日香は歩きだした、色々と辺りを散策するがすぐに元にいた場所へと戻ってきてしまう。
「いったいここはどこなのよ……」
いったん地面に腰を下ろして明日香は独り言を呟いた。見覚えがあるのに記憶にはない。薄気味悪く感じた明日香だったが妙に心地良くなってしまい、自分自信に困惑してしまう。
「そりゃあ当然だよ。だってここは君の世界なんだから」
突如として目の前に現れたのは自分よりひとまわり年下であろう幼女だった。
「貴方いったい……もしかして敵!?」
幼女を前に後ずさるのはどうかと明日香は思うが、この幼女からは人間とはいえない雰囲気を曝け出しているせいか本能が怖がっていた。
「いや、安心したまえ。私は君のお母さんの友人だ、彼女に頼まれて君に会いに来た」
「お母さんに!? 生きてるの?」
「いやぁ……生きてる事は生きているんだが中々難しい事になっていてね」
「どういう事?」
明日香の母親 美咲は生きている、明日香にとってこの言葉はどれ程待っていた事か。
――しかし、この幼女は明日香をさらに深い闇へと落としていく
「美咲は前回のオルタナティブに参加した時に事故に巻き込まれて体と精神を別々にされたんだ」
「展開が早すぎてついていけないんだけど」
美咲は前回のオルタナティブに参加していて、何者かに体と精神を別々にされた。ここにきて一気に母親に近づく道が出来上がったのだが明日香には自信がなかった。
「君の言う事もわかるが時間がなくてね。美咲の頼みで君を早く強くしないといけないんだ」
「今の状態じゃダメなの?それなりに戦えるよ! 」
「確かに強いが今の君は異能が使えるただの一般人、異能者として自分の異能と向き合わなきゃ君は母親を救えないよ」
「自分の異能と向き合うってまるで生きているみたいなって……」
「異能は君達の負の感情だ、それを理解してあげられなきゃ異能を使いこなせない。ちょうど君は自分の心象世界にいるから負の感情と出会えるよ」
明日香が今いる世界は色どりの花達が煌びやかに咲く暖かい心象世界。そんな場所に負の感情がいるのだろうかと明日香は疑問に思っていたが、心象世界に歪みが確認できた。
「まさか、これが私の異能……? 」
明日香の目の前には黒いもやが現れ、やがてそれは明日香と同じ姿をとった。
『一般人になっているつもりかもしれないけど、貴方は一般人という着ぐるみを着ただけでそれを脱いでしまえば貴方はただの異能者。貴方は何度も何度も一般人の着ぐるみを着ようとしてるけど私から見たら貴方はとんだピエロだわ、そんなに一般人になりたいならお母さんを探す願いをやめて自分の異能を無くせば貴方が好きな一般人になれるのに』
「……」
「異能者は彼らを認める事で初めて異能を本当の意味で使えるようになるんだ。だから明日香君、彼らを認めてあげてくれ……」
目の前にいる負の感情が呪詛みたいに延々と呟いているが、これは明日香が思っていた感情だ。だけど明日香は自分の負の感情を認めずに心の奥にしまい込んでいた。
負の感情を認めなければ正義の感情しかない空っぽな人間になってしまう。そうすれば異能は消えてしまう。
「これが私……」
『貴方が自分を偽ったから私は生まれたのよ。私の元に来る貴方の感情は苦しみ悶えるぐらい痛かった』
「貴方だけに辛い思いをさせてごめんなさい。これからは私達でいっしょに共有をしよう」
そっと抱き着かれた負の感情は驚きはしたものの、明日香が放った言葉を噛みしめながら消えていった。
「あの幼女さん! 私の負の感情消えっちゃったんだけど!?」
「ん?ああ大丈夫、持ち主を認めたから消えていっただけだから。これで君はオルタナティブにて勝ち抜く為の力を身につけた」
「ありがとうございます。あの……お母さんを見つけるにはどうすれば良いかわかりますか? 」
「うーん、詳しい事は話せないがなんかペンダントが必要だとか。まあ、オルタナティブを順調に勝ち進めば遺跡がでてくるだろうから君は頑張るんだ」
「ペンダント……」
明日香は首にかけているペンダントを見て固まっていた。まさか、目あてのペンダントを既に手に入れてたとは幼女の建前上言えなかった。
「明日香君?」
「な、なんでもないよ! それより貴方の名前は」
「いずれまた会えるからその時にね。バイバイ」
幼女は泡となり消えていった。可愛いものが好きな明日香は今の幼女の年齢を考えていたがなにか嫌な予感がする為、すぐに考えるのをやめた。
「あ、どうやったら元の世界に戻れるか聞くの忘れてた!?」
意識を失ったのは1時間目の朝の時間帯、幼女が戻り方を教えていればすぐに戻れたのに明日香は律儀に夢が醒めるまで待ってしまった。
――――
「はっ!? ここは」
「明日香!?」
時刻は既に12時、どうやら明日香は3時間以上深い眠りについていたようだ。
香澄は1時間目の授業が終わったあとずっと明日香を看病していた。
「ここは保健室よ。いきなり倒れたからびっくりしたわ」
「そういえば千葉くんは?」
「千葉君? そんな人この学校にいないけど……大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。もう少し寝てようかな」
「ダメだよ、明日香5時間目はちゃんと受けないと。でも明日香が大丈夫そうで良かった、明日香がいなくなってたら私は……」
「香澄?」
「ううん、なんでもない。大丈夫そうなら教室行きましょう」
香澄の言葉に疑問を持ちながらも明日香は教室に向かうことにした。スマートフォンのメールに気づかずに……
『MISSION 1 幻術使いを討伐せよ。
討伐した者には褒美を出す』