16話「やり直し」
三人称練習作「双極の魔法使い」はこれにて終了です。
打ち切りみたいな終わり方ですがこれは予定通りです。
次の作品から少しやり方を変えてみます
01
「ここが最深部ね」
理事長が遺跡に入ってから既に一時間が経過しようとしていた。最初の階層は苔が生い茂っていたり、木の幹が生えているなど自然を感じられていた。
だが、下に降りていく内に自然は消えていた。下の階層からは誰が描いたであろう壁画や道具などが多々あり、人為的なモノを理事長は感じていた。
「本当にあの悪魔がいるのだろうか」
理事長は補助魔法で明かりを点けて辺りを探索する。足元がおぼつかないまま、奥へ進んで行くと見慣れないものへと辿り着く。
「前回の時はこんなものはなかったはず……」
目の前には理事長の身長を超える大きな女神像が二体佇んでおり、後ろには固く閉ざされた扉があった。
理事長は二つの像を確認した後、自分の異能でどう開けられるかを他のルートから探した
「わざわざ血を垂らして魔法陣を作らなきゃいけないのはめんどくさいわね……」
理事長は他の世界の自分が解いたトラップの答えを今の自分にコピーをした。
理事長の能力は他の世界にいる自分の異能を借りてきたりする事ができる。ただ、異能は一人一個なのでどんなに強い異能を得たとしても他の世界の自分が異能を発動してしまえば意味が無くなる。
血で魔法陣を描いた事により、像の後方にある扉は開いた。彼女自身、ここから先はいくら展開を知っていても足の震えは止まらない。
「やはり、まだ不完全か」
扉から出て少し先を歩いた後、それはいた。 理事長が近づけば近づく程、それは言葉にもならない呻き声を遺跡中に響き渡す。
人間の形をしていながら、身長は人間の域を越えていた。もし、仮に外の世界に出てしまえば怪獣として扱われるだろうと理事長は思っていた。
髪は長髪で片目を隠し、淀んだ色をした目で理事長を睨みつけている。
誰かが封印したのか、両手はドーナツ型の手錠で繋がれていた。
「……おかしいな、次に明日香のお父さんが私を後ろから刺すはず」
辺りを見回す理事長はある異変に気がついた。目の前にいる怪物の近くに一人の亡骸が転がっていた。
「既に怪物と……そうだとしても私がやる事は変わらないわ」
理事長は怪物に手を向けた。大気中の小魔力を吸収し、体内で大魔力に変換。 怪物を乗っとるには相当な量の小魔力を吸収しなければいけない。
「――人間の始祖よ、我の問いに答えよ。 巫女ではない部外者に力を貸す事を許すか? 」
理事長の問いかけに反応したのか目の前にいる怪物は了承したのか大きな咆哮を上げた。怪物の胸元に大きな穴が出現したと思いきや、中から干からびた人間が落ちてきた。
「!? 村正先生……怪物の力を乗っ取ろうとしていたのですか」
理事長が声をかけるも村正は何も反応しない、既に死んでいた。村正の事を気にはしたが、自分の願いと天秤をかけると村正の優先順位は低い。
「私はカインだった怪物の力を使ってこの世から異能を失くす……」
カインは理事長の思いを感じ取ったのか、理事長と同調しても拒否反応はしなかった。
「さぁ、もう異能者の時代は終わりだ」
掛け声と同時に理事長の意識は途絶えた。その後、カインは街全体から国全体に異能に異常をきたす瘴気を放った。
02
「で、あるからして……」
「眠い……」
明日香は最後の授業を半分眠りながらも受けていた。前の方にいる火野は普通に授業を受けていたのを見て、苛立ちを感じていた。
(この感じは…… ルナちゃんの異能? でも以前とは少し違うような)
明日香はルナと一番最初に出会った時の幻術に気づけるようになっていた。
だが、少し様子がおかしい事に気づいた。
「明日香!! いるかい!」
何の躊躇もせずに明日香がいる教室に場違いな風貌をしているルナが現れた。
「どうしたの! なんか凄い慌てるけど」
明日香は当然のようにルナに話しかける。ルナの幻術のおかげで誰の視界にも入らない。
「この学園の理事長が禁忌の技を使って異能者の力を大幅に下げているんだ」
「理事長が? どうして」
「私にもわからないがこのままじゃ異能が無くなってしまう。 そうなれば私達は以前の私達ではなくなるから早く! 」
「ちょ、ちょっと! 」
ルナに強引に引っ張られて明日香は戸惑ったが、ルナが初めて焦っていたので事の重大さに気づいた。
「今から私の一回限りの力で朝の時間に戻る! 戻ったらすぐに私の元へ来てくれ」
「時間を戻せるのも驚きだけど、今はそういう暇ないよね……理事長室に一緒に行くの? 」
「奴が何を考えているかわからないからな、念には念をだ。 校庭に術式があるから急いで行くぞ」
明日香は次の戦いからは今までの通り上手くいかないだろうと実感していた。
理事長は何故、異能を失くそうとしているかが明日香は気になった。




