15話 「闇」
ラストスパート頑張ります
01
「貴方……父様の部下なのね」
「村正様の命令でね、君の監視とここの理事長の監視を任されたんだよ。 流石に一人では無理だからもう一人いるけどね」
「父様の考えてる事がわからない……」
今まで干渉して来なかった村正が重い腰を上げた事に明日香は戸惑いを隠せなかった。
「ほらお前ら早く席つけ! 授業始めるぞ」
「今日は君達の力を試す為にあるモノを仕掛けたんだよ。 楽しみにしててね」
そう言い残し、火野翼は自分の席へと戻っていった。明日香はプレッシャーから解放されたおかげで体が身軽になったが、なにか違和感を感じていた。
「何故誰も注意しないのかな……」
本来なら男子生徒が嫌がっている女子生徒に言い寄っている光景を見れば少なからず止めに入るものだが、周りの生徒達は皆何かに取り憑かれたように一点を見ているだけだった。
一方、春馬もまた火野翼と同じ一風変わった人物と関わっていた。
―――――
「話ってなにかな? 氷室さん」
「学校だと口調は大人しいんですね、兵藤君は」
春馬は自分のクラスに転校してきた氷室彩華という少女に会って早々、体育館裏に連れてこられていた。
氷室彩華は火野翼と違って容姿は美麗とは程遠い。長い髪で片目を隠しており、肌にはそばかすがある。そして、見る人を不快にさせるような陰気臭い雰囲気を醸し出していた。
「その口振りだと俺を知っているのか? 」
「悪い人ですね……貴方と同じ隊だったじゃないですか」
「いや知らないな……俺が知っている氷室彩華は他人を騙し討ちするような人間じゃない」
春馬は自身の背後から現れたモノを振り向かずに魔力を撃つ。不意に現れたモノは何も行動が出来ずに綺麗に砕け散る。
「あーあ。 せっかく君も彼女と同じように同じ仲間にしてあげようかなって思ってたんだけど」
「生前の彩華はもっと明るかったんだけどな。 アンタのボスは趣味が悪い」
「そんなふざけた事を言ってられるのも今のうちだよ……本城さん、兵藤君を少し懲らしめてあげて」
「はい……」
異能者の家系は子供が二人の場合、優秀な方を選んで自分達の家系が継いできた異能を授ける。
優秀な方ではない子供は自分の家がどういう事をやっているのかを知らされずに育てられる。だが、異能を継いだ子供が死んでしまった場合は家系を存続させる為に選ばれなかった方に異能を授けなければいけない。
「マジかよ……」
「じゃあ私はクラスに戻ってるから後はよろしく。 兵藤君は頭痛がして早退した事にするから」
陰気な姿に似つかわしくない陽気な素振りで氷室彩華は体育館裏から去った。
春馬は自分の懐にある筈の補助魔法用の鍵を探すが、運悪く今日は知り合いの女性に調整を頼んでいた事を思い出した。
「しまった……こういう時にスペアを作っていれば……」
試行錯誤をしていた春馬はかなり遠くに明日香の姿を発見した。
春馬は香純と友達である明日香に上手く取り繕ってもらおうと考えて、声をかけようとした。
「明日香には私達の姿はもう見えていないから助けを乞おうとしても無駄だよ」
「何!? 」
「使い魔の子は気がついていたけど明日香がここで戦ったら学校が大惨事になるからね。 私は学校が無くなるのは嫌だから姿避けを使ったんだ」
「わかったわかった。 場所を変えよう、俺は生憎様人避けの結界を貼れる程の力は無いから人気が少ないところで勝負しようじゃないか」
「いいわ。 明日香に聞かなければいけない事があるから貴方は早急に殺してあげる」
「彩華が言っていた事は本当だったのか……」
春馬は香純の何処かに埋め込められた使い魔を探す。自分がもし、氷室彩華の使い魔の迎撃に失敗していたら香純みたいに恐ろしい程に好戦的な感じになっていただろうと想像した。
02
「今回はこの場所に遺跡が出現したのね……」
「理事長、まだ参加者がそんなに減っている訳でないのに遺跡に入っていいのですか? 」
葉隠理沙と桜ノ宮は青葉町郊外の森に出現したとある遺跡へと出向いていた。
その遺跡は本来なら参加者が半分以下に達すると出現するものだが、今回はイレギュラーが生じていた。
「君は知らないだろうが、この遺跡には怪物が封印されている。私は奴の封印を解いて、私の異能で奴の体を侵食する」
「……失敗する可能性はないのですか」
「私の能力を忘れたか? たとえ失敗したとしても、既に私の代わりは用意している」
「……どうかご武運を」
そう言い残し、桜ノ宮は遺跡から立ち去った。葉隠理沙は自分に起こるだろう未来を感じ取りながらも、遺跡の中へ進む事を止めなかった。
彼女にはどうしても譲れない願いがある。その為には大真面目にオルタナティブの参加者を始末するのではなく、遺跡で封印されているモノを呼び起こさなければ彼女の願いは叶わない。
「私はこの世から異能を消さなければ……生きている意味なんか無くなる」
オルタナティブに初めて参加する者は最後まで残った者の願いを叶えてくれると思っている。だが、世の中はそんなに甘くないのだ。
その事実を知るものは理事長の葉隠理沙と竜宮寺明日香の母親のみ




