14話 「転校生」
眠いです。
01
4月12日
モーモーランドの戦いが終わって一日が経っていた。明日香はいつも通り身支度をして、学校に向かおうとした。
「ん? 隣町で失踪事件? 」
だが、テレビにやっていたあるニュースに明日香は興味が出てしまった。内容は隣町でK高校の学生数人が昨日から帰宅していないという。これだけならやんちゃをしているんだなと片付けられるが少し事情が違っていた。
「一カ月も帰って来てないって……これはマズいでしょ」
アナウンサーが言うには被害者達は全く非行をしない学生という事で事件性が深まり、本格的な捜査を開始するらしい。
青葉町は隣町の事件を受けてパトロールを開始しようとしているみたいだが、それは無理だろう。
「運営委員会が上手く誤魔化すようだろうし、まあいいか。それより早く行かないと遅刻しちゃう」
「待って、明日香! 」
「ん? アルくん……ワォ……」
明日香は玄関で靴を履いて扉を開けようとしたが、後ろからアルヴァトスに呼び止められた。
以前ならアルヴァトスを小さい可愛い動物を愛でるように頭を撫でていたが、変化した後のアルヴァトスは明日香の身長を軽く超えていた。
見た目年齢は12~14だろうと明日香は推測した。彼女自身アルヴァトスが可愛らしい天使みたいな子供からギリシャの彫刻のように彫りが深い美しい少年に成長しているとは予想していなかった。
最初の頃より肌は幼い子供のぷにっとした感じではなく透き通った肌になり、顔は大人の雰囲気を感じられたが、まだ少年のようなあどけなさが残っていて明日香は満足した。
「ど、どうしたのアル君? 」
「今日学校行くのかい? もしそうなら今日は行かない方がいいよ」
「どうして? 今日は何もないと思うけど……」
「なんだか嫌な予感がするんだ。 学校に良くない者達が来るかもしれない」
明日香はアルヴァトスの変化に驚きを隠せずにいたが、アルヴァトスがただならぬ雰囲気を出していたのを見て息を呑んだ。
「アル君が私を心配しているのはよくわかったけど、憑依経験して学校行くのは厳しいよ? 」
「明日香、まだ君に話していないけど僕は人間形態以外にも変化できるようになったんだ。 だから僕を連れてってくれ」
「そこまで言うなら仕方ないけど…… あ、ダッシュで行かなきゃ間にあわないかも!! 行くよアル君! 」
「OK! 」
明日香の掛け声と同時にアルヴァトスは人間形態からかなり小さい鳥のキーホルダーに変化した。
明日香は登校する際にはリュックサックなので、持ち物検査などで引っかかるようなアクセサリーではない事に明日香は安堵した。
「ルナちゃん! 行ってくるね! 」
「今日は早めに帰ってくるんだぞ」
「はーい! 」
明日香とアルヴァトスが話していた音に気づいたルナは玄関に移動して母親のように明日香達を見送る。その際に紡いだ言葉に明日香は生返事をして、洋館をあとにした。
02
「な、なんか学校に凄い人だかりができてる……!! 」
登校時間の8時30分はとっくに過ぎているので、明日香はゆっくりと学校に向かっていた。
いつも通りだと思っていた学校には青葉高校の制服ではない男女達が大勢いた。
『裏門から行った方がいいかもね、明日香』
「そうだね……ん? あれって香澄? 」
裏門に向かう途中、香澄が何やら酷く神妙な顔つきで体育館に入っていた。
『――心配なのはわかるけど、今は教室に向かわないと』
「わかった……けど、なんか香澄の様子が変だったなぁ」
少し香澄の事を気にした明日香だったが、今はアルヴァトスの言う通り自分の教室へと向かっていく。
階段を登っていくと、徐々に今回の騒ぎの原因が発覚してくる。周囲の人達が言うには明日香のクラスと他のクラスに有名な人物が転校生として来たという事だ。
僅かながらも明日香はどういう人物が転校生として来たのか気になり始めていた。
「おはようっ!? 」
「待ってたよ! 竜宮寺さん!! 」
教室のドアを開けると同時に一人の少女が明日香の元に駆け寄っていく。
だが、少女の制服をよく見ると男子の制服を着ていた。
「貴方が転校生の……」
「僕の名前は火野翼。 今年芸能界デビューしたばっかりのアイドルさ」
火野翼は同じ日本人の筈なのにどこか異国じみた雰囲気を醸し出していた。
男性なのに目がどの女子よりもパッチリとして、少し長い髪は動く度に甘い香りを漂わせる。
鼻や唇は外国の女性かと見間違えるぐらいに美しかった。
少女だと思わせるような少年 火野翼が薄い唇で言葉を紡いだ瞬間、周りにいた女子や同性の男子は彼に釘付けになる。
「凄い綺麗だね……私も見習いたいぐらい」
「そんな事ないよ。君も僕に引けを取らない美しさを出しているから自信持ちなよ」
一瞬の束の間、火野翼は明日香の目の前に立っていた。明日香は後退りしようとしたが、足が動かなかった。
それをいい事に火野翼は明日香の耳に聴き惚れるような美しい声で囁いた。
「――村正様が望み理性がない世界を創る為には君の力が必要なんだよ。 可愛い僕に似たお人形さん」
甘い香りが漂っていると思っていたのは大きな間違いだった。火野翼からはこの場には不相応な死者の香りがしていた。