13話「虚栄なる小人 終」
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01
「な、なに!? 」
明日香の胸元にあったペンダントは突如輝き始めていた。やがて光は人と同じ形を取り始め、明日香より少し高いぐらいの背丈になった。
徐々に光の中から顔や両腕、両足などが現れていた。その姿はまるで蛹から羽化する蝶と同じように美しかった。
『貴方はまだ諦めては駄目』
「貴方は……誰? 」
『まだ正体は言えない……でも、君は良く頑張ったよ』
明日香の目の前に現れたのは向日葵のように朗らかな笑顔が似合う少女。
その少女は明日香を見るなり強く抱きしめた。
「え、お姉さん?! 凄い苦しいんだけど! 」
『私が不甲斐ないばかりにこの娘を……』
「お姉さん!! 」
『ああ、ごめんごめん。少し考え事してた』
明日香の言葉で少女は我に返り、抱擁をやめた。都合良く明日香は少女が呟いた事に全く気づいていなかった。
『今、君はこの状況をどう打開しようと考えている? 』
「アル君の力を借りて、この空間事燃やそうと思っているけどアル君の反応が薄くて……どうすればいいんだろう」
『それはね君の魔力が膨大になっているからだよ。そのアル君は君の魔力に耐えきれなくて弱っているんだ』
「じゃあ、どうすればアル君は助かるの!? 」
『アル君を新たな段階へと進化させるんだ。異能には展開、変化と分かれていて、さっきの女の子がやっていたのも変化だ。変化は簡単にいうとアル君の力を全力で使えるって事』
『意識を集中して、自分の中にある膨大な魔力を抑えなさい』
「集中……集中……」
明日香は自分の体で暴れている魔力を抑えようとした。が、暴れている魔力は闘牛と同じ。それをいなす為に明日香はフルパワーで押さえつけるが上手くいかない。
「どうして上手くいかないの?! 」
『君は自分が人間ではないと知った時、なにを思ったの? 』
目の前にいる少女は敢えて明日香の傷を開こうとした。明日香はきっかけが掴めていない。
展開はいわば異能から少し魔力を借りている段階で、本人の魔力が未熟の時に使うもの。本人の魔力が展開より上回ってしまえば異能はそれに耐えれなくなり消失する。
――要するに容量が足らなくなったら新しいモノに変えるのだ。
「私は自分の行動が意味がないんだと思い絶望した。だけど私はある事に気づいた」
明日香は自分の体の中で暴れている魔力に轡をつける事に成功した。ここからが正念場だ。
「――オルタナティブが続いてしまえば私みたいな子がまた生まれる事になる。それだけは絶対に許しちゃいけないんだ!! 」
明日香は自身の覚悟を魔力に注ぎ込む。暴れまわっていた魔力は治まった。魔力は形を大きく変化していき、アルヴァトスの元に流れていく。
容量に耐えきれなくて弱っていたアルヴァトスを魔力は母親の優しい抱擁のように包み込んだ。
アルヴァトスは姿を幼い子供から少年の姿に変化していく。
『明日香!! 遅くなってごめん。 君には色々と聞きたい事あるけど話はここから出た後だ! 』
「あ、アル君!? 」
姿はまだ明日香には把握できていなかったが、声が以前のような可愛らしい声ではなく変声期を迎えた少年の声になっていた。
『驚いているところ悪いけど手元を見てくれないかな? 』
少女の言う通り明日香は手元を見てみると、そこには槍が出現していた。
槍は明日香の炎を纏っており、煌びやかに燃え盛っていた。明日香の身長160cmより大きいそれは神を殺しただろう槍と同等の神秘さを感じられた。
「これは……もしかして私が出したの!? 」
『ああ。生贄として作られた者には膨大な魔力が封印されていてね、人間ではないと自覚したら封印は解かれるんだ。そうすれば他の異能者よりも強力な変化ができるんだ、それみたいにね』
「凄い綺麗な槍……じゃなくてここから出ないと」
『明日香が握っている槍に名前をつけないと能力が発現しないよ』
「名前か……」
明日香は手元で握っている槍をじっと見た。色々と良い名前はないかと明日香は複数の案を考えていたが、早急にナイトメアから出ないといけない為に適当な名前にした。
「焔の槍よ 力を現したまえ! 」
焔の槍と名付けられた槍は明日香の言葉が終わると共に先程よりも炎が強くなり始めていた。
やがて槍から出た炎は少女以外の空間を燃やし始め、その光景はさながら地獄を彷彿させた。
『私の出番はここまで。君は外にいる友達を救わないと』
「待って、貴方の名前は……」
『私の名前は竜宮――』
明日香は少女が言った名前を聞こうとしていたが、燃えている音で最後まで聞き取れなかった。
だが、明日香はこの少女が自分が求めていた人物だと気づいていた。
ナイトメアは徐々に形を保てなくり、外で戦っている春馬達の姿がみえ始めていた。
02
「な、明日香の体が急に燃え始めた!? 」
「なんだと!? 」
春馬と桜は既に体は満身創痍でどちらかがトドメを刺しに行ことすれば戦いのゴングは鳴り響く筈だったが……
「うおおおおお!!! 」
炎の中から出てきたと同時に明日香は桜の肩に槍を刺し、その場所から離れる。
「燃え盛れ!! 不滅の槍」
「体が……霧が制御できないっ……!! 」
槍に刺された箇所から一気に炎が溢れ出し、桜の体を包み込んでいく。その炎は血肉に飢えた野生の獣と同じようだ。
吸血鬼の特性を持つ桜にとって永久に燃え盛る炎は難敵であり、太刀打ちができない。普通の炎では倒しきれないが今の明日香は不死鳥の力を完璧に引き出せる。
「貴方……どうしてトドメを刺さないのかしら? 」
変化が解かれた桜は既に体は重傷で言葉を放つのもやっとだった。
桜に問われた明日香はあたかも当たり前のような顔をして応える。
「だって香澄のお姉さんだから。あの子の悲しい顔は見たくない」
「フフッ……香澄も良い友達を持ったわね」
そう言い残し、桜は最後の力を振り絞り霧となり消えた。桜の力が弱まったおかげで遊園地の周りを囲んでいた虚栄なる小人は太陽の光で薄まっていた。
「おい! 待てよ」
「行かせてやるがいい、あの小娘にはもう戦う力がない」
モーモーランドから出てきたルナの言葉で春馬を落ち着きを取り戻した。彼自身桜とは決着がまだついていなかった為か、少し悔しそうだった。
『なんかモーモーランドの空気がまずい』
「おえ、なんか気持ち悪い……」
先刻の戦いでモーモーランドには濃度の魔力が染み付いていた。複数の異能者の魔力が混ざっており、周囲の人間は大量の虫に体を犯された感覚に陥る。
「まだ明日香は慣れていないから仕方ない。が、気持ち悪いわやっぱり」
「オルタナティブの運営委員会なんか異能者が戦った跡をいつも洗浄しているんだ。それに比べたらマシだろう」
「疲れた……早く帰ろうよ」
「賛成。ルナ頼むよ」
「今回だけだ」
明日香や春馬は既に体がボロボロで今すぐにでも倒れそうだった。
それを見たルナは指を鳴らし、空間にゲートを創った。
「我が拠点 へ 移動せよ! 」
ゲートはルナや明日香達を飲み込んだ後、瞼を閉じるように静かに消えていった。
「あの老人……俺に気づいていていながら無視したのかっ……!! でもまあいいさ。村正様の言う通りあの女を始末したから今の事は水に流そう」
建物の影に隠れていた男は悔しげに歯ぎしりをしたが、その後に血塗られた顔で歪んでいる笑みを浮かべていた。




