11話「虚栄なる小人④」
テスト嫌です
01
「な……なんじゃこりゃあ……」
モーモー展示会を出てすぐの事だった。制限時間が刻々と迫っている中で、モーモーランドは姿を変えようとしていた。
それはさながら既存の色に別の色を足したばかりのなんの色にもなっていない状態だ。
時間が経つにつれてモーモーランドのアトラクションや近くにいたマスコットキャラクター達は新たな色に対応する為に姿を変態していく。
「まさか外に出たらいきなり違う場所になっているなんて幻術使いって恐ろしい……」
「ふむ、彼奴は虚栄なる小人の魔力をあげる為に色々工夫したみたいだな」
瞬く間にモーモーランドは姿を変化していた。内部はアトラクションではなく、西洋を彷彿させる騎士像があった。
他に辺りを見渡すと何処かの王様を描いた絵画や歴史を感じられるアンティークなど飾られていて、すぐさま中世ヨーロッパの城だとルナは気づいていた。
「この屋敷の最深部に彼奴はいる……私は少しやる事があるから先に行ってくれないか」
『明日香お姉さん、春馬。ルナの言う通り先に行った方がいいかもしれない……』
明日香は自分の体の中にいるアルヴァトスが恐怖で震えていると思っていたがそれは違っていた。
「え? どうしてアル君」
『例えるのは難しいんだけど周囲から人間や動物を不快にさせるような嫌な魔力を感じるんだ。だからここから離れた方がいい』
「確かに……ここに残ってたらマズい。胃の中がムカムカしていて気持ち悪い」
「私はそんな事は……」
「明日香、気持ちは嬉しいが君にはこの魔法を解いて一般人の魂を戻すのが先だろう。相手はかなりの幻術使いだ、何があっても自分を貫けいいな? 」
ルナは明日香が普通の人間なら感じられるだろう違和感が明日香にはない事を春馬に隠す為に明日香の言葉を遮った。
「そうだよね! 私はどうも目の前の事に集中していると大切な事を忘れちゃうから気をつけないと」
「行くぞ明日香! 」
ルナは明日香と春馬が階段の方へ向かって行く姿を見届けた後、気配を隠しているつもりの不愉快なモノの方へ歩んでいく。
『後を追わなくていいの? あの子達を守らないと死んじゃうわよ? 』
「なにを焦っているか知らないが随分私は人間じゃないものに好かれてしまうな」
「余裕ぶっこいていられるのも今のうちよ。貴方を排除できればあの子達は強くなれないからね」
「私にご執心なのはわかるが何故君はここまでするのかな? 人間というものを知っておきたいから教えてくれ」
ルナの目の前には大量の使い魔達が隊を組んでいた。その中には明日香が倒した筈の燃え盛る牛や黒衣を纏った骨、焼肉君などがいた。
彼らは先程より魔力の供給が多くなったのか姿や雰囲気などが変化して不気味になっていた。
『――私はこの戦いに勝つためなら何でもするわ。一般人を犠牲にしてでも私は自分の願いを叶える』
「君になにかがあったからそういう性格の人間になったのは理解した。だが、今の言葉を聞いたら明日香はどうなるかな? 」
『――チッ、謀ったな!! ババア!! 』
ルナは桜がいる部屋は恐らくかなり厳重に幻術をかけている事が何となくわかっていたので、敢えて相手の神経を逆撫でるような言葉をかけていた。
術者の集中が切れれば魔法の精度は落ちる。ルナはそれを狙っていた。
「さて。ここにいる使い魔達を片付けるとするか」
背丈は使い魔達と比べると小さいがルナから溢れ出る魔力を感じ取った使い魔達は蛇に睨まれた小動物みたく怖気ついていた。
中には背中を向けて逃げ出すモノもいたが、ルナはそれをなにかで握り潰した。
「少しだけ私の真の姿を見せてやろう。本当の私に惚れるなよ? 」
02
「――チッ、謀ったな!ババア!! 」
桜はルナの罠にハマってしまった自分に苛立っていた。冷静にならなきゃいけないのに自分のせいで虚栄なる小人に欠陥が生じるようになっていた。明日香の魔法「季節は巡りゆく」は使い魔を宿して自ら戦うが、桜の場合は自分の神経を集中してラジコンと同じように虚栄なる小人を操作する。
故に集中が途切れるような事が出てしまえば魔力が優れている人物でもこの魔法の制御は難しくなる。
「そこまでよ!! 香澄のお姉ちゃん!! 」
「無闇に飛び出すなよ明日香」
「部屋を隠していたつもりだけど……運命には抗えないのね」
「それじゃあ……!! 」
「でも私はそんな運命を壊す。妹が魔法に関わらないように私は誰かの道楽で生まれたようなオルタナティブに参加した。だから貴方達には消えてもらうわ」
桜から溢れ出る魔力は人が感知できる域を超えていた。どんな魔法を持っていたとしても自分の体から溢れ出る魔力は人に害を成す事はない。だが、人間の域を超えてしまえば話は別だ。
「――世界を欺いた虚栄なる小人よ、世界は我らの手にある。故に今だに抗う者がいたら幻影で救済せよ、旧世界の常識など新世界への変化には追いつけず。我らは不滅なり」
「虚栄なる小人 変化 」
「――くっ、なんなの!? 」
桜が欠陥が生じ始めていた虚栄なる小人を吸収し始めたせいで辺りは暴風へと化していた。
桜の体に飲み込まれていく幻影達は彼女の姿をある伝説上の化け物に変化させようとしていた。
「明日香!! 下がれ!! 」
春馬は空中にありとあらゆる銃を展開させ、化け物になろうとしている桜目掛けて多くの弾を連射させていく。一部の弾には石化能力が含まれており、強力な異能者でも対処できないのだが……
「そんなモノで私を殺そうとしたのか? 」
「石化が効いていないだと!? 」
虚栄なる小人を吸収した桜は容姿や雰囲気などが変化していた。歯は鋭利な形になり、目は真紅の色に。その姿は伝説上の化け物 吸血鬼そのものだ。
「憑依経験と同じ……」
「やり方は違うけどタイプはいっしょね。まさか貴方だけしか使えないと思ってたの? 」
妖艶な笑みを浮べながら明日香にとって見覚えのある化け物を自らの体の中にある霧から創りだす。
「燃え盛る牛!! 」
『明日香お姉さん! さっきと比べると魔力の量が桁違いだよ。気をつけて! 』
「言われてなくてもわかってるよ! 神の炎!! 」
明日香は補助魔法で腕を硬化した後に炎を纏って、燃え盛る牛を一刀両断を仕掛けようと試みたが想定していなかった事が起きた。
「牛が白刃取りだと!? 」
燃え盛る牛は明日香の腕を丸太と同じぐらいある腕で受け止めていた。
燃え盛る牛は術者からの魔力供給が強力だと性能が大きく変動していく。
「くっ、離せ!! 」
「明日香!! 」
春馬と明日香は燃え盛る牛に対して抗おうとするが燃え盛る牛はびくともしない。
燃え盛る牛は主人である桜の命令があるまではこのままだ。
「グララン、明日香にナイトメアよ」
「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォ!!! 」
タイミングを見計らっていた桜は燃え盛る牛 グラランにナイトメアを命令した。
ナイトメアを食らった事のある春馬は明日香を助けようと神速の大英雄の目の能力を全開放しようとしたが既に遅かった。
「ひょう、どうくん……」
明日香は深淵たる闇 ナイトメアへと落ちていく。その姿は美しい白雪姫のようだった。




