10話「虚栄なる小人③」
初めにこれを投稿します! もう少しお待ちください!
01
「え……」
アスファルトには綺麗とは程遠い色をした血液が生き物みたいに一定の粘度を持って進み、広がっていた。
「ど、どうしよう。兵藤君!! 兵藤君!! 」
『息はまだあるみたいだけど、この出血量じゃ数分で駄目になっちゃうよ』
「アル君、何か良い方はないの?? 」
『ある事にはあるんだけど……まだ僕は幼年期だから力が弱い、それに今はあの骨野郎を倒さないと春馬の命は無いよ』
ただでさえ虚栄なる小人のせいで息が苦しくなっているのに致命傷を負ったとなると、悠長にしている時間はない。
明日香の目の前にいる黒装束の骨は第二の門番、第一の門番の牛は全長3mで炎を纏っていて特徴がわかりやすかったが第二の門番を一言で表すなら遊園地内に広がる霧と同じだった。
「お困りのようだね、明日香」
「き、霧崎さん!? どうしてここに!! 」
明日香の目の前に現れたのは彼女が住んでいる洋館の管理人 霧崎だった。
だが、明日香が知る霧崎は異能もなにも知らないただの一般人だ。しかし、霧崎からは笑顔が似合う清楚な女性ではなく眼力だけで目の前の敵を殺せる力のある女性の雰囲気が感じられた。
「ん? ああこの姿は分かりにくいか。これならお前に馴染み深いだろう」
霧崎はひらりとターンをした瞬間、背丈や髪の長さが先程とは大きく変わっていた。
金色の髪、ルビーと同じような真紅の瞳。その少女の顔は霧崎とは少し似ているものの、魔力の量がこの場にいる誰もを凌駕していた。
「あの時の幼女!? でも姿が違う……」
「説明してやりたいが今はこいつを倒さなきゃいけない」
「私にはなにがいるのかわからないよ! 」
明日香には何もない空間で春馬が傷ついたように視えていた。魔眼の異能者ではない限り、姿を消す相手には勝てない。
「明日香にやれとは言わん、お前は春馬を守っとけ。私に任せておけば大丈夫だ」
推定年齢8歳の幼女は目の前にいる不可視の骸骨を睨みつける。幼女に睨みつけられたモノは生きていても生きて|い
《・》なくても異能が使えなくなる。
姿を現した骸骨は黒衣を纏っているせいか死神に見えていた。手には人の身体を簡単に切れるような鎌を持っており、膨大な魂を持っているだろう幼女に目がまるであるような感じで熱い視線を送っていた。
「そう熱い視線を送られても人間に作られた亡者には興味ない。視ているんだ|ろ
《・》う、幻術使い、私に現世の人間の力を見せろ」
『言ってくれるじゃない、糞ババア。その姿で言われると腹が立つわね』
骸骨からは想像できない声が聞こえてきた。魔法使いは使い魔の視野を共有はできるが、使い魔を通して声を通す事は出来ない。
それをできる桜は相当実力があるのだが……
「たったそれだけか。この世界を創れている事は評価をしているが使い魔の性能が弱ければ術者の底が知れる」
『知ったような口を挟むな!!! 』
桜は自分の魔力を骸骨に注ぎ、目の前にいる生意気な幼女の首目掛けて鎌を振った。
その場から動かない幼女は見ているだろう桜に向けて別れの言葉をつげる
「――儚き夢を抱く白雪姫」
幼女の後ろから現れたのは誰もが小さい頃に読んだおとぎ話のお姫様。
そのお姫様は魔女の毒林檎により眠りに落ち、救世主の王子様が来るまでずっとずっと待っていた。しかし、王子は来なかった。
お姫様の姿を視た者は彼女の味わった永遠をその身に食らう事になる。
『近くにいないのに何故身体にダメージが……』
明日香や春馬を除いた全てのモノを一瞬にして凍らせる。どんなに助けを求めても永遠に来ない。
「私もこれを扱うのは久しぶりだからな、加減を間違ったかもしれんな。ハッハッハ」
『くっ……貴様は』
桜はなにか告げようとしたが、骸骨は凍ってしまった為に声は届かなかった。
「さてと……明日香。君にはある決断をしてもらうよ」
「ちょっと待って。貴方の名前を前に聞きそびれちゃったから教えてくれないかな」
「確かにそうだな。私の名前は沢山あるがルナ・セレーネとだけ名乗っておこうかな」
『ルナ、春馬の様子が変だよ』
明日香のおかげで血は収まっているが、春馬は何かに怯えているのかうなされていた。
「やはり春馬は一度切りつけられた時にナイトメアに落されたようだな」
「ナイトメア」
「本人のトラウマを悪夢として体感させる趣味の悪いものだ。ただこれは通常の解呪では相当の年月をかけるが、不死鳥の不死身の力を持っていればすぐに解呪できる」
ルナは春馬の服を捲って背中を出し、ある魔法陣を描き始めていた。
この魔法陣は思春期の女の子にとっては鬼門のものだ。
「どうすればいいの!? 」
「キスをする際に出る唾液か、自分の純血を捧げた時に出るものでこの呪いは解かれる」
「苦手なんだけどなぁ……この術は」
明日香の叫び声は園内中に響き渡っていた。彼女にとって恥ずかしい事だが、この行為は魔法使いにとって当たり前のものだ。
02
「さぁ、明日香。春馬を救うにはそれしかないのだ」
『明日香お姉さん、やるしかないよ! 』
「本当にやるしかないの? 」
明日香は自分の純潔や初キスを表面上しか知らない春馬にあげてもいいのか悩んでいた。
だが、しなきゃ春馬の命はない。躊躇していたら人の命を無駄にしてしまう。
「明日香、お前も魔法使いなら頭を使って考えてみろ。純潔という言葉の意味を理解してみな」
「早とちりしてたわね……少し恥ずかしい」
明日香は自分の腕を近くにあった氷柱で傷つけた。腕から出た血を春馬の背中に描かれた魔法陣に注ぐ。
魔法陣は赤く光り、悪夢にうなされている春馬に明日香の魔力を体中に回していった。
「うっ……」
「兵藤くん!! 」
「レ、レベッカ!? アイツらに変な事はされてないか!! 体は大丈夫か!! 」
春馬は起きてすぐに明日香の肩を掴み、寝坊けているのか誰かの名前を叫んでいた。
「レベッカ? 私は明日香だけど大丈夫? 」
「ん? ああ……ごめん。少し寝坊けてたみたいだ」
「良かったぁ……兵藤君が倒れてから凄い大変だったんだから!」
「周りをよく見れば大体想像できるわ」
春馬は自分達以外の場所が生命を感じさせないほど凍結しているのを見て肝が冷えた。
「さて、明日香。春馬君に私の事を説明してくれないか? 私は説明が苦手だな」
「まぁ、ルナちゃんに言われたら仕方ないな。うへへ」
明日香は年齢不詳幼女のルナに大して可愛い動物を愛でるように口調が柔らかくなっていた。
「明日香お姉さんの浮気者」
「アルヴァトス、アイツはそういう女だ諦めろ」
アルヴァトスの嫉妬に春馬は微笑ましくなった。この後、ルナの自己紹介を終えて、明日香達は桜が待つ場所へ向かう。