9話「虚栄なる小人②」
少し書きだめをするので更新速度は落ちますが、なるべく早く出せるように頑張ります!!
01
「ふむ……私と別れてから20分ぐらいで第一門番を見つけたのね、中々早いけどあの子を倒せるかしら」
「早く楽しませて欲しいけど悶絶する姿も見たいしな……」
桜は今現在、虚栄なる小人によって隠された城に居り、モニターで明日香や春馬を監視していた。
彼女は黙っていればダイヤモンドみたいに目鼻立ちが整っていて明日香にも劣らない美しい少女なのだが……
「……私、他人に見られるのは嫌なんだけど」
「どの口が言うのかしら」
突如出現した泡の中から桜の前に現れたのは葉隠理沙の秘書 桜ノ宮、普通の人間なら虚栄なる小人の霧に入った時点で魂は吸われるハズだが彼女は例外だ。
何故なら彼女は人ではない、異能者は人とは違う能力を持っていても所詮は人間だ。この霧にいる以上は死が待っているハズが桜ノ宮は死んでいない。
「貴方は一体なんなの? 人間ではないのはわかるけど」
「さぁ、なんでしょう」
まるで小悪魔みたいな笑顔を振りまきながら桜をおちょくるが彼女はそれに乗らなかった。
「今ので大体わかったけど……桜ノ宮さん貴方はあの理事長といつまでいるつもりなの? 」
「あの人はねただの人間と一緒にしちゃいけない。あの人の願いはオルタナティブを利用して……」
桜ノ宮から理事長の願いを聞いた桜は笑いが溢れそうになったが、実際に笑ってしまえば命は無いと桜は直感していた。
「――あの人本気でそんな事を考えてるの? そんな願いは自分という存在を消す事になるのよ」
「そうならない為にあの子の力がいるのよ、竜宮寺明日香。彼女が器としての力が高まる程、理事長の願いが叶う可能性が高まる」
「もしかしてあの娘……」
「普通の人間だったらオルタナティブを運営している会社に直接乗り込んで、母親の事を聞き出せばいいのに彼女はそれをしなかった。何故なら」
「都合の良いように使われる為に作られた操り人形だから」
桜は桜ノ宮が告げた言葉に驚きはしたものの、明日香がこの城に辿り着いたらこの事実でプライドをズタボロにしてやろうと考えていた。
自分が異能者でも人間でもない事実を告げられてどういう顔を見せるかを桜は想像した。
「本城さんには竜宮寺明日香を器として強くしてもらいたいけど、いいかしら? 」
「別に構わないけど、どんな手段でもいいの?」
「ええ、もちろん。でも気を付けてください、竜宮寺明日香を護ろうとしている者がいるのでその人物には注意を」
「兵藤春馬ではなくて? 」
「彼はそんな大したことないので大丈夫ですが、歳はだいぶご老体なのに若い姿で誤魔化している魔女がいるので気をつけなさい」
桜ノ宮はその魔女の事を話すと、先程の柔和な表情とは一変して復讐に燃えた悪鬼のような顔をしていた。
よほどの事がない限り「人」はそういう表情はしない。
「私は学園に戻りるので、健闘を祈ります」
出現した時のように桜ノ宮は泡に包まれ姿を消した。その姿を見届けた桜は少し安堵していた。
「自分も老体なのに何を言っているんだろう、あのババア」
もし、桜ノ宮が残っていたら呪い殺されていただろうと桜は自分で自嘲していた。
02
「グォォォォォ!!! 」
「そりゃあ!! 」
明日香は全身3mある牛を相手に見事な腹パンをかましていた。モーモー展示会に入ってから数分しか立っていなかったが、明日香と牛の戦いは凄まじかった。
「グッ……モェ」
牛は圧倒的な攻撃に為す術もなく、苦悶の声を出すが明日香はそれを聞かずに鋭い蹴りを食らわす。
「なんかあっけなかったけど早く見つけたからかな? 」
「あ、ああそうかもな」
春馬が言葉を詰まらせるのも無理はない。何故なら最初は牛の方が有利だったからだ。
ある程度の金を払えば高級な肉を食べれるモーモー展示会に着いて、待ち構えていた牛と早速対峙したがその実力差は圧倒的だった。魔法使いは自身の魔力を使って分身の使い魔を創り出すが、本城桜は「虚栄なる小人」で自分以上の実力がある使い魔を創り出せるから弱いわけがない。
牛は明日香の攻撃を意に介さずに受け止め、カウンターで明日香の身体を再生不可能にするぐらい切り刻んだ。
誰が見ても勝敗はついたのが、明日香はまだ生きていた。
「明日香、お前どこかで鍛えたのか? 」
「え? 鍛えてないけど」
「一刀両断されたと思ったら切られたところから炎が燃えだして再生するんだよ。ビックリしたよ」
『いや、僕も明日香お姉さんの身体が炎と一体化するとは思わなかったよ! 』
春馬は驚きのあまり性格のスイッチを切っていた。無理もない、不死身なのはわかっていたがまさか炎になるとは思ってもいなかった。
「兵藤君、あの化け物は私が倒したきり動いていないよね? コステロみたいに死んだモノを動かせたりしたら私でも倒せなくなるよ」
「大丈夫だけど。明日香お前自分の変化に気づいてないのか? 」
「変化って?……ああ、なんか急に身体が炎になったという事でしょ? 別に少し驚いたけど今はそんなに気にならない」
『明日香お姉さん、僕も少し変化しそうかも』
「え? アル君進化しちゃうの!? というか使い魔って進化するの」
「聞いた事ないな……」
春馬は自分の頭をフル回転しようと試みたが、明日香の頭上になにやら黒い靄がかかっている人か動物かよくわからないモノが明日香の頭に何かを投げつけていたのを見てやめた。
「明日香!! 上を見ろ!!」
「え? 兵藤君どうしたの? 」
あいにく明日香は自分の頭に向かってくる鎌に気づいていなかった。いや、視えていない
明日香はアルヴァトスと憑依経験する時は自分の魔力をアルヴァトスに流しているから不死身になれる。
だが、幾ら不死身でも頭の中にある脳みそを狙われたら命が危ない。魔力をアルヴァトスに通していたら治りが遅くなるだけだが、今は気を抜いて魔力を通していない。
「目の前で失うのはもうウンザリだ! 」
「神速の大英雄の目!! 」
春馬は無意識に自分の負の感情の封印を解いた。自分の目の前で少女を二度も失うなうのは春馬にとって我慢ならなかった。
「ひ、兵藤君!?」
「くっ……」
春馬は流星のごとく明日香の元へ駆けつけ、不可視の刃の餌食になった。
不可視の刃の持ち主はその姿をいつまでも気色の悪い顔で見守っていた。




