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勇者斬りの『無灯』  作者: 夕時雨
7/9

無灯6

 男の膂力。剣術の動き。踏込から攻撃動作までの流れ。その全てが流れるようでいて速い。

 この『来訪者』は強い、黒ローブは気を引き締めた。

 

「さーて、今度はこっちから行くぜ!」


 酒場の外まで押し出された黒ローブは路地裏に着地すると、剣を構えてダニエルの動きを見定めた。

 ドアを蹴破る勢いで飛び出してきたダニエルの動きは『来訪者』らしく規格外の速度と力を併せ持つ。

 完全なパワータイプだな、とダニエルの特性を見定めると自らの『スキル』を使って黒ローブは剣を振るった。


「―――ッ!」


 その黒ローブの一撃はシンプルでいながら、ダニエルの反応は一拍遅れた。

 かろうじで黒ローブの剣を受け止めたダニエルはすぐさま反撃に移ろうと剣を弾き返すが―――、


「んだとッ!?」


 再び黒ローブの剣が目前にまで迫っており、受け止めるので精一杯だった。

 そこからはダニエルの防戦が続いた。

 ダニエルが剣を受け止め、すぐに反撃に移ろうとするが次の一撃がすでに目前まで迫っている。

 そんな事が数合起きたところでダニエルは黒ローブから距離を取って舌打ちをした。


「―――なんの『スキル』だこりゃ」


「言うはずが無いだろう」


 反撃に移りたくてもダニエルが剣を受け止めた時にはすでに黒ローブは剣を振るっている。

 その全てが初動が見えないぐらい速い。

 だが、剣が目視できた瞬間から受け止める事が出来ている以上、その速度は『同等かそれ以下』の筈なのに剣の動きが見切れないのだ。


「―――剣がみえねぇってわけじゃない。別のからくりがある筈だ」


 どういうことだ? と顎に手をやって剣を構える黒ローブの姿を観察するダニエルだったが、


「おいダニー! なにやってんだ! そいつの剣はおせぇじゃねぇか! さっきの騎士のガキのほうが速かったぞ!」 


 という野次に疑問を強くした。

 こいつの動きが『遅い』? 初動が見えないぐらいに速いと言うのに。

 いや、そもそも本当に速いならば『見た』瞬間から防ぐのは不可能なはずだ。

 何故なら奴の初動や溜が見えないほどの速度ならば既に『見た』瞬間に斬られてもおかしくない。


「そちらから来ないなら」


 男が踏込み―――、


「こちらから行くぞ」


「ッ!?」


 瞬間、男の姿はダニエルの目前にまで迫っていた。

 まるで移動の瞬間が見えなかった。

 気づいたら剣の射程範囲にまで距離を詰められている。

 いくら『来訪者』が規格外の体力と膂力と脚力を持っていたとしても瞬間移動としか思えないほどの速度は出せない。

 いや、待った。

 まさか、


「瞬間移動か!?」


 ダニエルが盾を出現させて男と自分の間に置く事で剣劇を受け止める。

 だが、


「残念だがそこまで大層な『スキル』では無い」


 がぁん! と盾を思いっきり蹴り飛ばれた。

 その威力は確実に「速度が乗った重み」があり、そのままダニエルは裏路地の奥へと吹き飛ばされる。


「くそったれ! よくわからねぇが珍妙な『スキル』使いやがって」


「そういうお前は分かりやすいな」


 ダニエルが盾の陰で一息点くと、ゆっくりと男が近づいてきながら笑った。

 それは、余裕のある勝者の笑みだ。


「武器の想像。いや、『複製』か? それとも大容量の『倉庫』か? どちらにせよ、何もない空間から武器を出せる能力と見た。なにも無い空間から剣を出し、盾を出して見せた。だがそれらの能力は『人間が作れる一級品レベル』のものばかり。複製にしろ制作にしろ取り出すにしろお前が使える武器は『普通の人間が使えるレベルの物』だという事だ」


「―――チッ」


「この事からお前が得られる勝ち筋は『消耗戦』に限られる。お互いに武器を損耗し、相手に武器が破損してもお前は新たな武器を取り出せば済むしな。だが―――」


 男は大きく踏み込んだ。

 それはまるで死神の一歩のように軽やかで、その刹那ダニエルの視界から男の姿は消えた。


「俺の『スキル』とは相性が悪い。俺の『スキル』は武器を損耗しあう戦いをしない」


 盾の目前に現れた男は全膂力でもって盾を蹴り飛ばした。

 地面に片膝を突いた状態で準備をしていたダニエルは盾を維持する事が出来ず、盾から手を放してしまう。

 宙に舞う盾は大きく放物線を描き、その盾で塞がれた視界の向こうで男がほくそ笑み、大上段に振り上げた剣を振り下ろさんとし―――、


「残念だが、俺の『スキル』についての考察は50点ってところだ」


「―――なッ!?」


 盾に塞がれた視界。

 その盾が2人の視界から外れた瞬間、

 ダニエルはにやりと白い歯を剥いて笑ってみせ、

 男は「ダニエルの手に握られた見覚えのある鉄の塊」に息を呑んだ。


「―――んで、そんなもんが此処に!?」


「こいつこそが我らが合衆国の誇りだ!」


 撃鉄を起こし、

 弾倉をハンマーが叩き、

 火薬を着火させ、

 弾丸を射出する。


「西部開拓の象徴『コルト・シングル・アクション・アーミー』通称『ピースメーカー』だ!」


 その銃撃の爆音が路地裏に響き、男は躱そうと身体を動かしたが間に合わず肩口に一発喰らう。

 ぐっ、と息を呑み込み男は『初動を見せずに』二発目の銃撃を避けると路地裏の後方へと下がった。

 距離を取れたことに息を吐いたダニエルは手の中で『ピースメーカー』をくるくると回転させた後、薬莢を排出させずに構えた。

 残り4発。


「どうよ。俺の『武器収集家』の『スキル』は。お前の言う通り『普通の人間が使えるレベルの物』を再現可能だ」


「驚いたな。復元、再現のほうだと言うのは当たったがまさか「この世界にない武器まで再現可能」だとは」


「おうよ。俺が構造を理解している武器はほとんど再現可能だぜ。見ろよこの『バントラインスペシャル』の16インチの銃身は。ワイアット・アープが使ったって言う『創作上』の銃だ」


「創作上でも再現可能か」


 男は路地裏の角まで下がると身を隠して会話を続けた。

 どうやらポーションを取り出しているらしい気配を感じながらダニエルは不敵に笑ってみせた。

 いくら怪我を直したとしても脳天に叩き込めれば即死だ。

 初弾で決められなかったのは残念だが、此方の優位性を覆す物では無い。

 幾ら身体能力に優れた『来訪者』と言っても剣と銃とではその射程の開きに大きな隔たりがあるのだ。


「大体の構造は同じだし、レプリカとして商品化されていたからな」


「まったく、これだから『ガンマニア』は」


 男は路地裏の一角で溜息を吐くと、弾丸が抜けている事を確認した後にポーションを傷口に振りかける。


「だが、解せないな」


「あ?」


「なぜ、さっきの『正当防衛』で使わなかった」


 どうやら男はアビゲイル、ホタルとの戦闘を見ていたらしい。

 一体いつから見ていたのか。


「決まってるだろ。こんなもんを店の中でぶっ放せば「店が壊れる」。それに「ズル」だろ」


「――――」


 呆れたような気配。

 だが、事実剣で戦ったほうが店が傷つかないのは本当だし、何より「流れ弾が誰かに当たる」ことが無い。

 それに、ダニエルの心情として「この世界の人間と戦う時は極力銃は使わない」と自分に課している。

 ただでさえ『来訪者』という超越した能力を持っている身で、そこから更に『銃』なんてものを取り出せば相手に勝ち目が無いのは分かり切っている。

 そんな戦いをするのは「フェア」じゃない。

 しかし男にとってはそれが『甘さ』か何かに見えたのだろう。


「―――まあ、いい。お前が弱い敵では無い事を認識しよう」


「それはどうも。御託は良いからそこから出て来いよネズミ野郎」


「そうだな。そうするとしよう」


 と、言った瞬間に男の気配が動いた。

 角から顔を出した瞬間に頭をぶち抜いてやろうと『ピースメーカー』を構えたダニエルだったが、男が出てこない事に眉根を寄せた。

 しかし、角から気配が消えた事は『来訪者』としての鋭敏な感覚が告げている。

 つまり、男が消えた。


「逃げたか?」


「いいや、逃げていない」


「―――ッ!」


 男の声がしてダニエルは即座に銃を構える。

 声はどこからした? 前か? だが姿は見えない。慌てて上を見たがその姿は見えない。

 まさか瞬間移動を使って後ろに? と背後を振り返ったが誰もいなかった。


「透明になる『スキル』か? いや、だが」


「そこまで大層なもんでもないさ。お前は確かに俺を見ているぞ」


 男の声が近づく。

 かつん、かつん、と足音が鳴るのに気づいたダニエルはそちらに向けて銃を構えて―――、

 発砲。

 だが、銃弾は宙を駆け抜け、裏路地の奥の民家の壁に銃弾を埋め込んだだけだった。


「あと3発」


「クソが」


 ダニエルは舌打ちをしてもう片方の手に『ピースメーカー』を生み出そうとするが、その瞬間まるで虚空から現れたかのように男がダニエルの目前に現れダニエルの手を斬りつけ『ピースメーカー』を断ち切り、返す刃で生み出したばかりの『ピースメーカー』を叩き落した。まるで剣を振るい始めの溜も初動も確認できず、まして男が動き出す瞬間も近づくまで気づかなかった。

 一体いつの間に、と驚き後方に一歩下がったダニエルだったがその隙を逃さずに黒ローブの男の剣が宙を煌いた。

 一閃。

 

「―――やはり、お前と俺では相性が悪かったな」


 男が呟いた背後でダニエルが血を吐いてゆっくりと地面に倒れる。

 ダニエルより先に地面に落ちた『ピースメーカー』は光の粒子となって消えた。

 それを確認して男は剣をローブの中の鞘に納めると、フードの奥で笑った。


「―――『無灯』は灯りの無い暗闇を指す。灯りが無ければ目に映る事もあるまい?」


 そう男が嘯くと同時に、ゆっくりと夜の帳が裏路地に落ちたのだった。

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