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勇者斬りの『無灯』  作者: 夕時雨
2/9

無灯1

 『来訪者』動乱が集結して50年。

 それなりにこの世界で『来訪者』達との距離の取り方が落ち着いてきた頃の話である。


 『来訪者』。

 所謂『召喚された者達』は本来魔王討伐の為の勇者召喚の召喚術によって呼び出された者達を指す。

 だが、勇者が魔王を倒した後どうする?

 伝説には勇者達は自分の世界に帰るとされるが、召喚された勇者達はそういう人物では無かったようだ。

 曰く、帰らずにこの国に残る。

 そう国の王に願い出たと言われている。

 言われている、というのはその国がすでに存在しないから本当のところを知りようが無いからだ。


 結果として、自分達の世界に帰らなかった勇者達は自分達の欲望を満たす為に他の国へ侵略し、

 それに反抗した連合国が新たに『勇者』を召喚し、それに呼応するかのように他の国でも『勇者』を召喚し。


 いつしか、魔王を倒す為に使われるはずだった召喚魔術は国が特別な能力――『スキル』――を所有する『来訪者』を保有するための手段となった。


 この『来訪者』を使った戦争は数十年と続き、最後は魔王を討伐した『勇者』をある『来訪者』が倒したことで戦争は終結した。

 

 だが、その勇者を討伐した『来訪者』を召喚したのがどこの国だったのか。

 また、その『来訪者』の名前や性別までが不明だった。

 ただ、分かったことは『類まれなる剣術の使い手』だったこと。

 そして、『無灯』というスキルを持つ存在だったということだけだった。



「だから、私は『無灯』に会わなければならないんです!」


 そう、叫ぶ少女がカウンターに思いっきり両手を突いた叫んだのを見て、なんだなんだ、とその場に居合わせた冒険者達の視線がその少女に向いた。

 白金の鎧に身を包んだ少女である。全身鎧に身を包んでいるのでそれなりの重量があるはずなのだが、その少女の動きにぎこちなさや鈍さは見られない。

 全身鎧を着て生活する事に慣れた騎士としての所作が身についていた。


「そう言われましても私共も居場所の把握などはしておりませんし、そもそも冒険者であるかどうかも――――」


「でしたら捜索願を!」


「――――すでに国家予算で組まれている事業の1つに『無灯』探索の依頼は出されていますが、まったく情報が入りません。すでに死んでいるか、あるいは秘境にて隠居しているか」


 申し訳なさそうな顔をする冒険者組合の職員に業を煮やした少女は「もういい!」と踵を返した。

 背を向けた少女にあからさまにほっとした顔をした職員だったが、少女が振り返るとビシリと背筋を慌てて戻した。


「もし見つけたらアビゲイル・コトナーまで連絡を!」


「わ、わかりました」


 職員がコクコクと頷くのを確認したアビゲイルは再び踵を返すとそのまま冒険者組合の入り口から出て行く。

 少女が出て行くのを確認した冒険者達はたった今怒った珍事について情報交換を始めた。


「おいおい、コトナーっていうと先日家長が殺されたっていうコトナー男爵家じゃないか?」


「成り上がりの騎士の家だっけか?」


「知らないのか? コトナー家ってのは騎士爵位での男爵だから準男爵っていうんだよ」


「つまり、家長殺された以上、家が貴族じゃなくなるってことか」


「そうなるな」


 そう言い合った冒険者達はエールを片手にそっと入り口を再び窺った。

 だが、そこには先ほどまでの白金甲冑の少女の姿は無い。


「そのコトナー家当主を殺したのが『無灯』を名乗ってるらしいぜ」


 え? という顔をして冒険者達の視線が冒険者組合に併設された酒場の中の奥まった席に腰かける男に目が向いた。

 その男は全身黒いローブに身を包んだ男で素顔を伺う事は出来なかったが、冒険者の中でそういった格好をする者は珍しくない。

 冒険者組合併設の酒場は一般人の利用はできず、入店する際に冒険者組合所属の組合証を提示する決まりになっている為、冒険者である事は間違いないからだ。


「じゃあ、あんなに若い子なのに仇討が目的だってのか?」


「騎士が賊に討たれたなら、その賊を討たなければ家督が継げないっていう話は聞いた事があるが――」


「相手があの『無灯』だというのが本当なら――」


 無理だよなぁ、と思った冒険者達は天井を見上げて溜息を吐いた。

 だが、


「いやいや、そもそもそんな伝説級の『来訪者』がこんな街にいるわけないだろ」


 と誰かが言い出し「それも違いない」と笑い合った。

 それほどまでに『無灯』という存在は常識外れで伝説的な人物なのだ。

 こんな田舎町にいるわけない、と笑った冒険者達は「お前もそう思うだろう?」と先ほどコトナー家当主を殺害したのが『無灯』であると発言した男に視線を向けると、そこに男の姿は既に無かった。

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