表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえ貴方が地に落ちようと  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/117

第49話 うん、絶対に大事にします

 ようやく風邪が治り、デニスとの約束の日である水曜日がやってきた。

 

 この日はデニスの家ではなく、少し格式の高い料理店へと向かっていた。

 セヴェリ相手だったなら、入店を拒否してしまいそうなお店だったが、デニスとなら心置きなく入れる。デニス相手なら少々のマナー違反をしたところで、彼は気にもしない……というより気付かなそうだ。そんな変な安心感からサビーナは気楽に入店した。

 デニスは個室を希望し、誰にも見られぬように配慮してくれている。周りの客の目も気にしなくて済むので、さらに安心だ。


「風邪だったって? 大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫です。働き始めてからは気をつけてたんだけど」

「まぁ、気を付けてても風邪引いちまう時は引いちまうしな。ま、食おうぜ」


 目の前に出された料理に、サビーナは舌舐めずりする。しばらく質素な物しか食べていなかったので、これは嬉しい。


「なぁ、また今度うちに来てくれっか?」

「はい、もちろんです。ちゃんとお詫びもしたいし。今日はデニスさんの家に行くのかと思ってました」

「あー、まぁ、家族のいる場所じゃぁ渡しづれえからな」

「え? なにをです?」


 サビーナは食べる手を止めてデニスを見た。

 彼は嬉しそうに顔を綻ばせながら、無造作に己のポケットに手を突っ込んでいる。そしてジャラリと音を立てて、それを取り出した。

 そして差し出された物を見て、サビーナは固まってしまう。


「受け取ってくれ。あると便利だぜ」


 目の前に出されたのは、懐中時計だった。

 サビーナは、セヴェリに貰った懐中時計を内胸のポケットに入れてあるので、一見して懐中時計を持っているとは分からない。だから彼は、サビーナは懐中時計を持っていないと思い込んでしまったのだろう。


「えーと、でも……」

「気にいらねぇか? 周りに色々聞いて、女の子が喜びそうなのを選んだつもりなんだけどな」


 目の前に吊ら下げられると、つい手に取って見てしまった。

 ハンターケースの外側は透かし彫りで、内側は濃紺をベースに星空をイメージした宝石が散りばめられている。ケースを開けてみると、文字盤にはこのランディスの街の名所である時計塔がデザインされていた。


「どうだ?」

「う、うん。すごくいい……けど……なんで懐中時計を?」


 よりによって懐中時計を……とは言えず、少し眉を寄せながらデニスを見る。


「時計がねぇって不便だろ。住み込みメイドは門限もあるし、こうやって一緒に出掛けた時、いちいち俺に時間を聞くのも嫌じゃねーかと思ってよ」

「はあ、なるほど……」

「礼はいいぜ。俺が勝手にプレゼントしたいだけだったからよ。それよりこれうめぇぞ。食べてみっか?」


 目の前に料理のつけられたフォークを差し出されて、パクリと食いつく。


「モグモグモグ……うん、美味しい。けど、こんな高い物……」

「お、これもうめぇ! ほれ、食ってみろ」

「むぐ、モグモグ」

「お、こっちもいせるぜ」

「ムグムグモグモグ」


 デニスに次々と食べ物を放り込まれて、断る暇もなく結局受け取ってしまった。

 おそらく彼は、深い意味があって懐中時計をプレゼントしてくれたわけではないのだろう。

 サビーナが懐中時計を持っていないと思ったから、あると便利な物だから、買ってあげた。その程度の感覚に違いない。

 それにしては高そうな物ではあったが、サビーナはそう思うことにした。


 食事が終わり、帰る段階になってようやくサビーナはデニスに頭を下げる。


「ご馳走様でした、ありがとう。それに懐中時計も……」

「おう、使ってやってくれ」


 デニスは少し照れたように鼻をこすりながら笑っている。

 思えば、デニスからの初めての贈り物だ。嬉しくないわけがなかった。認めてしまうと気分が高揚してくる。


「うん、絶対に大事にします」


 そういうとデニスは並びの良い歯を見せて笑い、サビーナの肩をポンポンと叩くように触れた。


「ヘヘッ」

「……えへへ」


 互いを真正面に据えて、少し照れながら微笑み合う。

 デニスと一緒にいると、ほっこり出来る。

 そして……なぜか胸がきゅっとなる。


 しかし、そのかすかな胸の痛みの正体を言及しようとすると、なにかのセーブがかかるかのように、心に鎧戸が降りた。

 いくらリックバルドに実の母親の情報に惑わされるなと言われても。

 身についてしまった反応は、どうしようもなかった。


 サビーナは屋敷に帰った後、二つの懐中時計を握り締める。

 月見草の懐中時計と、星空の懐中時計。

 どちらも甲乙付けられないくらいの素晴らしい物だ。

 よって、どっちを身に付けるべきかなど、答えの出るはずもない。


 結局サビーナは、二つとも胸ポケットに入れることにした。

 宝物はひとつだけという決まりがあるわけでもない。

 両方とも大切な人からもらった、素敵な宝物だ。


 サビーナは増えた懐中時計を見て、ほくほくと心を温めさせる。

 顔はまるで焼きたてのスイートポテトを食べたかのようにニンマリとして、その新しい懐中時計を抱きしめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

男装王子の秘密の結婚
せめて親しい人にくらい、わがまま言ってください。俺に言ってくれたなら、俺は嬉しいですよ!
フローリアンは女であるにもかかわらず、ハウアドル王国の第二王子として育てられた。
兄の第一王子はすでに王位を継承しているが、独身で世継ぎはおらず、このままではフローリアンが次の王となってしまう。
どうにか王位継承を回避したいのに、同性の親友、ツェツィーリアが婚約者となってしまい?!

赤髪の護衛騎士に心を寄せるフローリアンは、ツェツィーリアとの婚約破棄を目論みながら、女性の地位向上を目指す。

最後に掴み取るのは、幸せか、それとも……?

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 騎士 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ