表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえ貴方が地に落ちようと  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/117

第100話 もう少しだけ、このまま……

「暑くなりそうねぇ……熱中症にならないように、水分はこまめに取るよう注意喚起をお願いします」


 プリシラが、ひまわりの咲き誇る迷路前でそう言った。

 今日はひまわり祭りが開催される日だ。前日からの宿泊客が、すでに迷路前で今か今かと待っている。

 救護テントはその迷路近くに設営された。長時間迷路に入っていたら、なにが起こるかわからない。すぐに対応できるようにするためだ。

 その近くでは、シェルトとケーウィンが控えている。二人は迷路の全容が頭の中に入っているので、笛が鳴った時、すぐに助けに行く役目だ。

 サビーナは十箇所ある入り口のひとつで、紙と笛を渡す係だ。祭りが始まると、かなりの人が押しかけて来た。


「リタイアする時や、気分が悪くなってしまった時はこの笛を吹いてくださいね。係員が参りますので。もし近くでこの笛を鳴らしている人がいれば、声を掛けてあげてください」


 一人一人に簡単に説明し、紙に入場時間を記載して送り出す。二十分以内にクリアした人には、次回以降に使えるクスタビ村の無料宿泊券がプレゼントされる仕組みだ。

 途中、リタイアを知らせる笛が何度か聞かれたが、体調不良で鳴らした人はほとんどいなかったようである。

 街の人たちだけでなく、この迷路には村の者達も入っていた。特に独身者は積極的に動きなさいという、セヴェリからのお達しである。いい出会いがあればいいなぁと思いながら、サビーナは彼らも送り出した。

 大きなひまわりは、時間毎に少しずつ向きを変えながら、迷路を行く人を見守っている。

 そこで出会った者達を照らす太陽のように燦然と輝いていて、観光客はひまわり迷路の中を楽しんでいるようだった。


 陽が暮れると、シェルトとケーウィンが迷っている人を全員外に出して、ひまわり迷路は終了となる。

 街に帰ってしまう人達もやはりいたが、テントの貸し出しの方も盛況のようだ。見知らぬ者同士が協力してテントを設営していて、その風景に顔を綻ばせた。

 ふと見ると、設営に苦労している女の子達にケーウィンが近付いて手伝っている。


「ありゃあ、途中でリタイアしてた子だな」


 後ろから黒髪で半眼のシェルトがそう話しかけてきた。その口の端は、少し釣り上がっている。


「へぇ、そうなんだ。どの子?」

「真ん中のピンクブロンドの、やたら髪の毛巻いてる女の子。目がでかくてキャピキャピしてる奴」

「なるほどー、可愛い子だね。私達より年下かな」

「ケーウィンの奴、趣味悪ぃ……俺、ああいうの苦手」

「シェルトの好みは、素朴で真面目で、ショートカットの大人な女性だもんねー?」

「うっさい、黙れ」


 思いっきり睨まれてしまったが、無視してクスクスと笑う。

 そうしながらケーウィンの様子を見ていたが、どうやら手伝いに行ったものの、一人でのテント設営は苦戦を強いられているようだ。


「手伝ってきてあげなよ、シェルト」

「気乗りしねぇ……」

「友達でしょ! ほら、行ってきなさい!」

「ったく面倒臭ぇな……」


 シェルトはぶつぶつ文句を言いながら、ケーウィンの手伝いに行っていた。ホッと一安心だ。

 それが終わると、キャンプ参加者でのバーベキューが始まった。迷路と並行して野菜狩りが行われていて、それぞれに取ってきた野菜を切って焼き始める。肉は村の方で用意していた。もちろん、テントの貸出料に金額を上乗せしているのだが。

 わいわいと老若男女入り乱れてのバーベキューが終わると、キャンプファイアーが焚かれる。空には今にも落ちて来そうな星空が煌めいていて、燃え上がる火の粉と混ざって美しい。

 しばらくざわざわと騒がしかったキャンプファイアーの周りから、音楽が流れ始めた。街で雇ってきた、小さな楽団だ。明るくて軽やかなメロディが流れ始めると、誰からともなく踊り始めた。

 大きなキャンプファイアーの周りに幾重もの円ができ、統一性のない踊りが繰り広げられている。

 その中にケーウィンとピンクブロンドの女の子も発見した。二人は楽しそうに、笑顔を絶やさず踊っている。

 逆側を見ると、シェルトがプリシラの手を引っ張っているようだった。プリシラは困った顔で拒否しながら、引き摺られるように連れ出されている。

 これは見ものだと身を乗り出してニヤニヤしていると、後ろから声をかけられた。


「遅くなってすみません、サビーナ。色々と駆け回っていて」

「あ、セヴェリ! お疲れ様でした!」

「なにを見ていたんですか?」


 そう言われて、視線を元に戻す。しかしそこにはプリシラの姿はなく、ポツンと残されたシェルトがいるだけだった。


「あ……今、シェルトがその……女の子を誘ってたんですけど、どうやら振られちゃったみたいです」

「そうですか……それは残念でしたね」

「でも、ケーウィンの方は上手くいってますよ。ほら、あそこで踊ってます」

「本当ですね。楽しそうだ」


 若い二人を見て目を細ませるセヴェリ。そして今度はその瞳をサビーナに向けてくれる。


「私達も踊りましょうか」

「ええと……私、学校の授業でしか踊ったことがなくて……もうステップも忘れてしまいましたし」

「適当でいいのですよ。みんな自由に踊っているでしょう?」


 セヴェリは再びキャンプファイアーの周りの、統一性ゼロの人々に目をやった。一人で飛び跳ねる者、ただクルクルと回るだけのケーウィンとピンクブロンドの女の子、チークダンスのようにゆったりと時を過ごす者、実にそれぞれだ。


「じゃあ……少しだけ」


 サビーナはセヴェリの手を取ると、輪の中に入った。どうやって踊ろうかと迷っていたら、アンゼルード帝国では定番の初心者の踊りをリードしてくれる。

 学校の授業では全く上手く踊れなかったというのに、リードしてくれる人が完璧だと、自分まで上手く踊れた。実際には踊りのテクニックはないに等しいのだが、『もしかしたら私って上手いのかも』と勘違いしてしまいそうである。


「上手ですよ、サビーナ」

「た、楽しいですっ! 踊りって、こんなに面白かったんですね!」


 興奮が収まらずにそう告げると、サビーナはセヴェリに高く抱き上げられた。


「きゃあっ」

(くぐ)って!」


 そう言うと同時に勢いを付けたままグーンと下され、サビーナの足は地面を削るようにセヴェリの長い足の間を潜る。

 と同時に彼の背面から手が伸び、それを掴むとまた高く抱き上げられた。


「あは、あははは! 楽し〜い!!」

「そんなに喜んでもらえて、私も嬉しいですよ」


 涙が出そうなほどケラケラと笑っていると、セヴェリはサビーナを抱き締めてクルクルと回った。


「キャンプファイアーが終わるまで、踊り続けましょう」

「はいっ!」


 少しだけと言ったことも忘れ、サビーナはその夜、セヴェリと最後まで踊りを続けた。

 次の日、サビーナが筋肉痛になったのは言うまでもない。







 ひまわり祭りが終わると、村の中でも何組かのカップルが生まれていた。

 村にいた独身男性の何人かと、ケーウィンである。ピンクブロンドの女の子はミアナという名前だそうで、ケーウィンはもうその子にメロメロだ。絶対に大学に合格して街に行くと息巻いている。

 大学に行く動機が不純になっているのが気にかかるが、それでも勉強に熱が入っているのだから良しとすべきだろうか。

 村にいた四十代独身の男性は、すでに相手の女性と籍を入れてこの村で暮らしている。バツイチ女性だそうで、幼い子と共に移り住んでくれた。

 他の上手くいった村の男達も、結婚を前提にお付き合いを進めているらしい。一気に人口が増えるというわけにはいかなかったが、まだまだこれからだ。


「今日はいい報告がありますよ」


 村の定例会議で、セヴェリはそう話を始めた。みんなはなんだろうとキラキラした瞳でセヴェリを見上げる。


「ブロッカの大商人ソサルさんが、ミラン食堂の支店をここに出したいと言ってくれました」


 大物商人の名前が出て、みんなは「おおー」と声を上げる。

 祭りの後も観光客が途切れぬ様子を見て、儲けられると踏んだらしい。確かにこの村では祭りの時に出る屋台以外に食べられる場所はないし、重宝することだろう。サビーナにしても村に食堂ができてくれれば、夕食を作るのが面倒な時は外食できると思うと有難い。

 村のみんながそれに反対することはなく、斯くしてミラン食堂クスタビ支店は間もなくオープンとなった。

 その際、食堂で働く者とその家族が、クスタビ村に移住してくれた。一気に三家族が増え、子どもの数も増えた。

 そしてサビーナは、ブロッカのミラン食堂ではなく、クスタビ支店のミラン食堂で働けることになったのである。今までは週に二度しか会えなかったセヴェリに、毎日会えるようになったことがなにより嬉しい。

 ただ、ブロッカでは皿洗いだけだったのに対し、注文を取ったり出来上がった料理を出したり……という仕事もしなければならなくなったのだが。


「はあ……疲れた……」

「大丈夫ですか?」

「うう、今日も注文を取り間違えてしまって……ラーシェさんだったので、笑って許してもらえましたけど……」

「大変そうですね……どうしても慣れないなら、ブロッカの街に戻りますか?」

「いえ! ここで働く方が、セヴェリ様と毎日一緒にいられますので! 頑張ります!」


 そう断言すると、セヴェリはクスクスと意地悪に笑っていた。どうやら、そう言わせたくてわざとブロッカの街に戻るかと聞いたようだ。

 意図が読み取れたサビーナは、プウッと口を膨らませる。


「もう、セヴェリ様……っ」

「私はなにも言ってませんよ?」


 やっぱりクスクスと笑いながら、サビーナの髪を撫でてくれた。


 もう駄目……この手から、離れられないかも……


 温かいセヴェリの手から、どうしても抜け出せない。

 実は、業者に支払うための前金はすでに貯まっていた。後は行動を起こすだけなのだ。

 セヴェリは今でもキクレーのところに出向いては色々と学んでいて、クリスタとの関係も良好である。早く覚悟を決めて、彼を貴族に戻さなければいけないと分かっているのだが、あまりの居心地の良さに、決心が鈍ってしまっていた。

 もしかしたらアンゼルードからの追手など、放たれていないかもしれない。あれから二年近く経とうとしているのだ。とうに諦めているのではないだろうかという、甘い想像をしてしまう。


 もう少し……もう少しだけ、このまま……


 いつか振り切らなければいけないその手に甘え、サビーナは自分からセヴェリに抱きついていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

男装王子の秘密の結婚
せめて親しい人にくらい、わがまま言ってください。俺に言ってくれたなら、俺は嬉しいですよ!
フローリアンは女であるにもかかわらず、ハウアドル王国の第二王子として育てられた。
兄の第一王子はすでに王位を継承しているが、独身で世継ぎはおらず、このままではフローリアンが次の王となってしまう。
どうにか王位継承を回避したいのに、同性の親友、ツェツィーリアが婚約者となってしまい?!

赤髪の護衛騎士に心を寄せるフローリアンは、ツェツィーリアとの婚約破棄を目論みながら、女性の地位向上を目指す。

最後に掴み取るのは、幸せか、それとも……?

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 騎士 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ