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僕の平凡な日常 なんちゃって。  作者: 絹川クーヘン
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第8話 不可思議な少年、トロール


「じゃあ、行ってくる。」

「おう!」

「それからからすな。今日はここに居ろ。」

「ああ。」

「悪いがこいつら頼んだぜ。瞬熄。」

「任せてください!面接、受かるといいですね。」

 異邦連盟が現れてから二週間が経ち、数斗はドラキュラが壊した窓ガラス代を直すための費用と、その他の生活費を稼ぐためにアルバイト探しに励み、今日がその面接日だ。

ところが、ぬりかべたちを家においておくのも窮屈な思いをさせてしまうのではと、急遽瞬熄に世話を頼んだのだ。

 「さて。ぬりかべとからすな。何して遊ぶ?」

「オイラ、鬼ごっこしたいな~数斗の家より広いし。走り回りたい!!」

「おっ、それはいいな~じゃあからすなは何したい?」

「私は遠慮する。」

「そんなのつまんないだろ。じゃあ、からすなは逃げる方な。ぬりかべと2人で鬼やるよ!」

「「えっ??」」

「そんなことしたら、2対1になるじゃんか!」

ぬりかべとからすなは驚くと、瞬熄はいたずらに笑ってこういった。

「誰も3人でやるって言ってないだろ?おーい!お前らも一緒に遊ばねえか~~?」

部屋の中に呼びかけると、何十匹もの妖怪たちが出てきた。

「なっなんだ??こいつらは。」

「ああ大丈夫。俺の"(しもべ)たち"だから。みんな!これから鬼ごっこするんだ。やり方は前に教えたよな。じゃんけんして鬼をあと8人決めようぜ!もちろん、陸でも天でも、範囲は問わないからな。」

瞬熄の家で、妖怪たちは大勢で鬼ごっこを始めた。



 同時刻。まりのは家で料理を作ろうとしていた。

「今回はハンバーグ作ろうかな~ママ、材料ある?」

「もう。材料ぐらい、揃えれるようになりなさい。えっと・・・あら?玉ねぎがきれてるわ。ひき肉はあるから。」

「わかった。買い物にいってくるね。」

まりのは近くのスーパーまで歩き始めた。その途中で学校の前を通らなければならなかった。

そして学校の前に来た時、誰かが校舎を見つめているのが見えた。

近くまで来ると、パーカー姿にフードを深々と被っていて顔がよく見えなかった。

「・・・?」

まりのに気付いた相手は、まりのを見た。

「こっこんにちは・・・あの、誰か待っているんですか?でも今日は休みっ・・・えっ」

話を聞かず、相手は手を伸ばすとそっとまりのを抱きしめた。

「ちょちょっちょっ・・・」

「会えた・・・君に・・・」

「まっまっ待って!!あなた勘違いしてる!!わたしは知らない!だから人違いだよっ。」

まりのは相手の腕の中から身体を離した。

「そっそれではっ!!」

まりのは急いでスーパーまで逃げた。

 無事に買い物を済ませて、再び学校の前を通った。パーカーの人はいないかと警戒しつつ辺りを確認した。けれどパーカーの人はいなかった。

安心して、家に帰ろうと思ったその時。聞きお覚えのある声がした。

「見つけた。」

後ろにはいつの間にかパーカーの人が立っており、まりのは肩を掴まれた。その肩は大きく震えていた。震えているのに気付いた相手は、動揺したのか掴んだ手をそっと離した。

「だっ・・・大丈夫?ぼくの事、覚えてない?」

「えっ・・・???」

 まりのは、やはり自分に似ている子と間違えていると確信した。ところが相手はなかなかまりのから離れない。最終的にはお店まで付いてきてしまった。

「おかえり。買ってきたの?ん?あなた・・・」

「あっ、ママっこの人・・・」

「トロちゃん??まあ~~変わらないね~~」

「えっ、知りあいなの?」

福美は相手のことを知っていた。ところが、福美のことに相手は首をかしげていた。

 「トロちゃんはね、トロールっていう妖怪なの。どうやら人の輪郭は把握出来るけど、パーツまでは特定できてないらしくて。きっとまりのがわたしの娘だから、オーラで捕らえて見間違えたのかもしれないわね。」

「オーラ?」

「人にはそれぞれ異なるオーラが存在するわ。だけどそれは当たり前には見えない。感じとるものだから目には写らない。そのオーラをトロちゃんは見ることができる。その人の感情の変化も見抜くことができるのよ。ていうか、トロちゃんわたしのこと覚えてないの??」

気が付けば、トロールはぽかんとした顔で福美とまりのを見ていた。

「・・・君が、2人?」

「違うってば!いい?トロちゃん。わたしが昔会った“君”で、こっちはわたしに似てるけど娘なの。わかってくれた?」

必死でトロールに説明をすると、やっと理解してくれた。

「・・・君は・・・変わったんだね。」

「そうよ。トロちゃんが羨ましいわよ。不老不死の生き物だもの。若さも衰えも一生感じないなんて憧れるわ・・・あっ今からハンバーグを作るの。まりのが作るんだけど、手伝ってあげたら?」

「「えっ??」」

まりのとトロールは顔を見合わせた。



 瞬熄たちは、鬼ごっこの次にジェンガをした。

「そうーっとだ?そーっと。」

「そっとーー。」

ぬりかべはピースを一つ外した。

ジェンガは動かなかった。全員は止めていた息を静かに吐いて肩を下した。

「次は・・・げっ」

瞬熄は次の順番に反対した。なんと大きい妖怪のやる順番だったんだ。

「お前はやめろ!!おい!!」

「ああーーー・・・これを・・・あっ」

野太い声でピースを選び、決めたピースを取ろうとすると、少しぶつかっただけでジェンガが倒れてしまった。

「んんん~~~~あーーーー!!お前は細かい作業には向いてないんだって!!!」

「すみませーん。若ーー」

「次は全員でできるもんがいいな。ん~~」

みんなで悩んでいると、瞬熄のお母さんが入ってきた。

「みんな随分楽しそうね。でも、はしゃぎすぎて、そろそろお腹空いたんじゃないかと思って。カステラよ。一人1個食べてね。」

全員腹の虫が鳴った。



 ハンバーグを作る工程を、トロールに的確に指示しているまりの。

「材料を入れたら、こねる。」

まりのが手を使ってこねていると、トロールは興味津々にしていた。

真似をするように伝えて手作業をさせてみる。

「そう!上手いよ。トロール。」

笑ってまりのは褒めてくれた。トロールはクスクスと笑った。

「次は円い形を作って、焼きやすくするんだよ。」

「・・・。」

 しばらくして、やっとハンバーグが完成した。

「できた!それじゃあ、いただきます!」

「・・・いただきます。」

まりのの言うことを続けて発してから、トロールはハンバーグを口に含んだ。自分たちで作ったハンバーグはとてもおいしかった。

「おいしい~~~~!!トロール。おいしい?」

「うん。おいしい、おいしいよ。」

「よかった。」

一人で作るよりも、誰かと一緒に作った方がなんだかおいしく感じた。

 食べ終わった後、後片付けをしていると、福美がトロールに小さな紙飛行機を飛ばしてメッセージを見せた。

“まりのにトイレに行くって言って、抜け出せる?聞きたいことがあるの。”

書いてある通り、トロールは、まりのに断りを入れてから、福美のところへ行った。場所を変えて話を始めた。

「あの時、公園でかくれんぼをしていたあの日、どうしていきなりいなくなったの?」

その時の記憶が浮かんだようで、トロールは目を見開いて口籠った。

「・・・あの時は、仕方がなかった。ぼくは、支配者の手の中で操られていたんだ。今もそうだけど。」

「詳しく教えてくれない?」

福美の真剣な眼差しに、トロールは全てを伝えることを決めた。

「君と出会う前から、ぼくには“支配者”がいた。支配者はぼくを仲間に誘ったが、断った。」

「どうして?」

「あの人には、オーラが無い。透明なんだ。死んでいるのに生きている。関わったら、後ろを振り向くことができないと思ったんだ。とにかく仲間になりたくなかった。」

「だったら、はっきり言えばよかったのに・・・」

「うん。けど、支配者はぼくの心臓を奪って、今でも、ぼくを支配している。」

「っ・・・!!?」

福美は衝撃を受けた。トロールは自分自身の心臓を囮にされていることに。生きる上で必要な物を失って、今ここに立っているんだということを知り、何も声が出なくなってしまった。

「ごめんね。君には重い話だよね。ぼく帰るよ。」

帰ろうと席を立つと、福美が腕を強く掴んだ。

「・・・“帰る”って・・・まさか・・・」

声が掠れて震えている福美に、トロールは優しく掴んだ手を握り締めた。

「ぼくなら大丈夫。」

まぶしい笑顔でそう言って、手を離したが、福美には切なく見えてしまった。

 台所に戻ってくると、まりのがいなかった。トロールは部屋を見回していると、後ろから慌てた様子でまりのが来た。

「トロール!!探したよ?トイレに行くって言ってからなかなか出てこないから。」

「迷ってたんだ。そろそろ、ぼく帰るよ。」

「あっ、途中まで送るよ。」

福美とのことは、まりのには決して言わなかった。



数斗は、面接を終え、帰るところだった。

「あ~すげー緊張した。思ったより募集した人数が多くて・・・あいつら、迷惑かけてないだろうな。」

早歩きで帰っていると、突然妖気を感じた。

「この気配・・・」

それは確かにドラキュラの気配だった。しかし、姿は見えなかった。

「一体どこに・・・」

「数斗さん?こんな時間におかえりですか?」

声の主はまりのだった。

「ああ。っ・・・」

数斗は隣の少年に嫌な予感がした。気配がドラキュラと同じなのだ。

「そいつは?」

「ああ。こちらはトロール。妖怪だけど、ママが慕ってる子なんです。トロール。こちらは数斗さん。わたしの知り合いだよ?」

「よろしく。」

「・・・どうも。」

ぎこちない挨拶を交わす数斗とトロール。

「じゃあ、ぼくはここでいいよ。」

「そう。じゃあね!」

「うん。」

トロールはまっすぐ歩いて行った。

気配が遠ざかったのを感じた数斗は、まりのに尋ねてみた。

「まりの。お前大丈夫だったか?」

「へ?」

「何も異常はなかったかって聞いてるんだ。」

「いいえ。何も・・・??」

「そうか。」

そういうと、数斗は歩き出した。

「・・・??わたしも帰らないと。」

まりのも夜の帰り道を歩いた。



 数斗は瞬熄の家に着き、2匹を引き取った。

「迷惑かけてないか?」

「全然。むしろ楽しかったです。また遊びに来いよ。」

「おう!」

「ぜひ。」

ぬりかべとからすなは、とても楽しかったらしく、帰る途中でぐっすりと数斗の腕の中で眠っていた。


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