第51話 お見合い相手はサスペンス?!
久しぶりに更新。一年ぶりじゃないか!?
まだキャラたちの愛着は消えてません、スリルのある物語をどうぞ!
長期間の休みを終え、仕事場に配達する新聞紙を取りに、会社にやってきた。
「すみませんでした。」
「いいのよ~、間ちゃんが楽しめたんならそれで。」
そして早朝、新聞配達を済ませてベッドに横になり、もう一度眠りにつく。
もう少しで深い眠りに入りそうになったタイミングで、部屋の窓ががらりと空き、涼しい風が入り込んできた。
「・・・・・・おっおお初にお目にかかります!!わたし!!・・・」
「おいおい。ちょっと閉めてくんないか。寒い・・・」
「あっすみません・・・・・・えっと。」
窓を閉めてくれたおかげで、風は来なくなった。
1分くらいでやっと体を起こして現状をみつめると、窓に知らない女性が立っていたのだ。二度見してしまうほど驚いてしまった。なぜなら女性には数斗と同じように黒い翼が生えていたのだ。
窓を閉めてどこに移動すればいいのかあたふたしている女性に、数斗は座布団を取り出した。
そこに腰かけ、改めて名乗り出た。
「お初に、お目にかかります。わたし、尼天狗の時渡苑と申します!この度は、お見合いに参りました。よろしくお願いいたします!!」
「「・・・お見合い?!?!」」
数斗とぬりかべは驚愕する。お見合いの話は初耳だったのだ。
「はい・・・えっ、この写真は間数斗さんですよね?」
苑という女性は、一枚の少し大きめの写真を見せてくれた。そこには笑顔でピースする、カメラ目線の数斗が写っていた。見た目は今とは全く変わりがない部分から、つい最近取られたものだと判明できた。
一体いつ撮った写真なのか。数斗は実家に帰り、写真を撮られた記憶を思い返して浮かび上がったのが、圭太が試合に出場した日。最後に家族みんなで記念撮影したこと。
「あの時か・・・」
数斗は母に連絡して、どうしてこういう経緯でこうなってしまったのか尋ねることにした。
「あれ?話してなかったっけ。実はお見合い募集があったから応募してみたのよ。お見合い相手の・・・」
「時渡さっ」
「そう!時渡さんとも直接話をしてね。彼女27歳らしいわよ~若いわよね~あっ!応募したのには年齢ちゃんと書いておいたんだけど、本人には“大学生”って伝えてあるから。」
「はあ??」
「それじゃあ、穏便にね。」
そういって、一歩的に切られた後、お見合い相手にもう一度自己紹介をさせてほしいと繰り返し名乗る。
「えと、烏天狗の間数斗です・・・大学生・・・です。」
「わたしは、尼天狗の時渡苑といいます・・・はあ。今度こそちゃんと言えた!」
「・・・ん???今、“尼天狗”っておっしゃいました?」
何度も紹介してくれて、既に聞いたことだが、きちんと耳の穴をほじくって聞いてみるとある単語がよぎった。
「数斗、"尼天狗"ってなんだ?」
ぬりかべが訪ねてきた。数斗にとってかなりマイナーな言葉なのが、ぬりかべには聞いたことがなかったらしく、こそこそと伝えた。
「尼天狗ってのは、俺たち天狗族では有名な種族で、女だけが属す妖怪だ。特に恋愛に至っては“嫉妬深い種族”として印象深く、俺が聴いた話だと浮気された男に無理心中をしてこの世を去った者。他に好きな女が出来て別れ話を切り出したのはいいが、それから毎日通信機器にはGPSを付けられて、別れた男を監視していたらしい。」
「・・・妖怪よりも怖いじゃんか。」
「まあ妖怪だからな。あと、特に要注意なのは“性格の良さ”なんだ。第一印象は文句なしで噂を知っていても男は騙されやすくてな。すぐ虜になっちまって、婚約したらさっき言ったことになりかね無くなるってことだ。その相手が俺の初お見合い相手なんてな・・・」
自分も殺されるかもしれないという相手と同じ空気を吸うのは、寿命が縮みそうだった。しかし、ここは母が忠告とまでは云わないが穏便に済ませようと数斗は話しかける。
「あの、今の話、聞いてたかもしれないんですけど。俺、貴方との今日のお見合い、知らなかったんです。だからこの話はなかったことに・・・」
苑は沈んだ表情を浮かべた。凶器を持ち合わせていたらどうしようかと、窓側からすぐに出られるようにはしていた。
苑はすぐに返事を返してくれた。
「そうだったんですね。すみません。わたしも慌ただしくお邪魔してしまいましたし。今回の話はなかったことにしましょ!お互いに!」
「そっそうですよね~~~アハハ・・・」
話がすんなり通ってほっとした数斗は、元着た場所から見送ることにした。
「それでは、失礼しました・・・・・・きゃあっ!」
苑が天狗界へ移動する空間に入ろうとしたときだった。突然壁のようなものに跳ね返され、数斗の胸に倒れ込んだ。
「おい!どうした??」
「・・・帰れないんです。何か、見えない壁が・・・」
すると、空間の奥から数斗の母が現れた。
「あら。時渡さん。もう帰るんですか?」
「お母様・・・今回は数斗様とのお見合い話は見送らせていただくことになりまして。」
「それは困るわ。時渡さん、しばらく帰れなくなりますよ?だってこの空間、特別に条件付きで通れるようにしたんだから。」
苑も数斗も一緒に話を聞いて目を見開いた。
「二人が“キス”しない限り、時渡さんも数斗も、戻ってこれないようにって条件をね。」
数斗は雷を打たれたように失神した。しかしここでくじけていては、どうすることもできないと意識を取り戻して母に相談する。
「なんつー条件つけてるんだよ!!!てか、それ以外に方法はないのか?今すぐ帰らせてあげたいんだけど!!」
「無理よ。じゃ!お二人さん、頑張ってね~」
「待て、この人尼天狗なんだぞ。それでもいいってのか?」
「え?そんなの聞いてないわよ。」
母との会話が途切れた瞬間、数斗は小声で聞いたことを撤回したいと思った。彼女は尼天狗だということを母には隠している。きっと母にばれると、尼天狗というだけで拒否されてしまうとたくらんでいるのだろうと。お互いの表情を見ることが出来なかった。しばらく沈黙が続いた。
「・・・てっ手っ取り早いほうが良いだろう。じゃあ・・・」
「はっはいっ!!・・・・・・」
数斗は苑の真正面に立ち、肩に手を置くと、顔を唇まで近づける━━━━━
僅かで唇がぶつかりそうになった時、息をこらえる喉と肩の震えに、数斗は動きを止めた。閉じていた目を開けた時、数斗は思い切って訪ねた。
「・・・・・・初めてなのか?」
「・・・は・・・い」
赤面になっている苑に強引なやり方で返すわけにもいかず、恐怖心はあるが数斗は正反対の事を述べた。
「なら、お前がしたいと思うまで、ここに居てもいい。俺から手は出さないから。これだったらしばらく居れるだろ。」
ちょっとした言動が、自分の命が失われる原因になりかねないこの状況で発した意味は、相手に悟られずに承諾を貰うことが出来た。
「じゃあ、とりあえず出かけるか。」
苑は驚いた。しかし、嬉しそうにはしている。
数斗の考えとしては、外出先で苑を迷わせ、再び家には帰ってこないようにして身を引くつもりでいるのだ。
妖怪の姿をした苑は他人には見えない。そのおかげで、買い物付き合いは苦痛だった。
「これかわいいです。あっ!これも。」
目の前には目を輝かせて衣服を選んでいる苑が見えているのだが、人間から見てみれば、数斗一人で女性もののブティックに足を踏み入れているのだ。
女性店員と女性客の視線は気にしないように目を瞑っていた。
「これいいな~あの、数斗様はどう思いますか?」
「あー!!それ、触ったら・・・」
妖怪が触れたものは、透明人間がいるかのように物体だけが浮遊している状態になるので、下手に触られると困るのだが、苑は笑みをこぼした。
「大丈夫です。わたしは現世界のことはよく知っております。妖怪が触れたら人間にはどう見えるかとか。ですから、こうやって霊体にすると実物に触れる心配はないんですよ。」
こんなことができるとは知らなかった。実物には触れず、人間には存在がばれないように霊体をうまく使いこなしているなんて。
「でもさすがに着ることはできないですけどね。」
それはそうだ。そのまま身に付ければ金なんて減らない。
店を出て今度は2階へ上がる。すると、見覚えのあるカップルが見えた。楽しそうに男性物のブティックを選んでいる瞬熄と冬華だった。
「(あいつらにばれても、俺の隠し事がばれないようにしねえとだ。)・・・あ、俺お手洗いに・・・」
「あ。ならわたしも。」
後ろから付いてくる形で、お手洗いに入ることになり、直接瞬熄に近寄ることが出来なかった。
個室に入った数斗はスマホで瞬熄に経緯を軽く文章にして、大事なことを送り付けた。
曲が店内に流れている中、メールの着信に気づいたのは瞬熄ではなく冬華だ。
「瞬熄、メールがなったみたい。」
「え?耳がいいな~えっと数斗さんからだ。“デパートでいるの見かけた。分け合って女といる。俺の事は”大学生“っていうことにしてくれ。”なにこの文章。」
その意味は今わかった。
数斗と一緒にいる女の人が歩いているのを目撃したのだ。
「あれのことじゃない。」
「ほんとだ。とっとにかく・・・くっくくくっ。」
「瞬熄・・・笑いすぎ。」
メールの文章を読んでくれていたらすれ違っても問題ないが、辺りは騒がしい曲ばかりが流れている。コーナーをみていたら気づかない可能性もある。
冷や汗が滴って、早歩きになった。
「数斗様。体調がすぐれないんですか?」
汗に感づかれたが、ここはなんとかスルーして、再び黙った。苑はただ数斗の顔色を窺っていた。
実家では、天狗界のニュースが流れていた。
「先程、女性が男性と共にビルの上から急降下し、地面に転落しました。病院に運ばれましたが死亡したとのことです。警備隊は二人が離婚相談で口論になり、自殺を図ったとみて事件の経緯を調べています・・・」
ニュースでは詳しい詳細は伝えてはくれないが、新聞記事は細かく書かれていた。
「この事件は、女性が尼天狗だったそうだ。」
「やっぱりね。多いわよね。」
「あれ?お前は・・・」
「わたしは“烏天狗”よ。お父さん。」
「・・・そうか。」
父は思わず当たり前に知っていたことを聞くほど、女性の恐怖を感じているらしい。
「ん~そういえば、数斗は時渡さんのこと、尼天狗って言ってたけど・・・」
「え??数斗のお見合い相手、あの尼天狗なのか??」
「そうみたい。わたしと話した時は“烏天狗”って言ってたんだけどね・・・詐欺かしら。」
正体が曖昧な時渡苑という女性は、母にも理解しがたい部分が浮かび上がり、謎が深まるばかりだった。
小腹が空いた苑の提案で、お茶をすることになって、正面に座る相手と目を合わせないようにコーヒーを小刻みに飲む数斗。
「(いや。なほりがいるわけじゃないし、目を合わせても問題ないんだけど・・・無理だ。相手の視線が俺に向きすぎて・・・つら。)」
「・・・数斗様って・・・アホ毛可愛らしいですね!!」
「え・・・」
始めて言われた自らのアホ毛。これは整えているわけではないが、異性にはそうみられていたのかと硬直した。
「ああっごめんなさい!!その、別に深い意味はないです!!ただただ、可愛らしいなと。」
「いいよ全然。それよりもっと食べなくていいのか?お腹空いてたんだろ?」
「でっでも・・・数斗様は、何もお食べにならないなと。わたしばかりが食べていて、迷惑なのでは・・・?」
「そんなの気にしなくていい。俺はあんたの腹が心配だ。もっと食べたほうが良いぞ。そんなに緊張するのは疲れるし、腹が減るだろ?」
言う通りだった。苑の腹の虫は静かに鳴いている。
「・・・では。すみません!レアチーズケーキ1つと、ショコラケーキ1つ注文いいですか!」
余程遠慮していたのか、今度は遠慮なしにパクパクとほおばる姿を見せてくれた苑に、数斗は苦笑いしてしまった。
そんな二人の空間に、空気を読まないで割り込んできたのは瞬熄の声だった。
「へえーーー数斗さん、イチャイチャしちゃってますね~ラブってる~」
「しゅっ瞬熄!!?いつの間に。」
「てか、クフフッ・・・」
必死にこらえている笑いだが、吹きだしてばかりだった。
「ごめんなさい。数斗さんが女の人といるイメージがないので・・・このデパート、カップルが多いので可愛いお店がいっぱいあります。楽しんでください。」
頼りにならない瞬熄よりも、偽ることが苦手そうな冬華が予想外に配慮してくれたので怪しまれずに済んだ。
結局今日はこれにて帰宅することとなった。苑とは逸れることが出来ず、作戦が失敗してしまった。
「はあ・・・」
「疲れましたか?すみません。いろいろ見て回りたくて。」
「楽しめたならそれに越したことはない。久しぶりだっただろうしな。現世界に来るのも。」
「えっ?なんで知って・・・」
「だって霊体を使いこなせるのは、だいぶこっちに通ってたからだろ?」
そうでないと、ちょくちょく来ただけで使いこなせないと数斗は睨んでいた。
「そうなんです。久しぶりで。見たことがない建物もできていましたし。」
「晩飯、何か食べたいものあるか?」
「いいえ。なんでも大丈夫です。」
「わかった。座って待っててくれ。」
ベッドに腰かけるように伝えた数斗は台所に移動した。一人にさせたいと思ったのだ。疲れているのに緊張で落ち着かないのも悪いということもあるが、第一に自分自身が深呼吸したかったからだ。
「荷が持たねえ・・・明日にはキスしねえと・・・・・・焦ってたら変態だよな。」
部屋にポツンと座っている苑のことを、ぬりかべは物陰から窺っている。
「(ばれないようにして、この女の正体を掴んでやる!!)」
「あの・・・そこがお好きなんですか?」
身を隠しているつもりが、すぐにばれてしまった。ぬりかべには、妖怪ははっきり見える。たとえ数斗の気持ちがこわばっていても。
「・・・ああ。だーいすきだ!!ここが落ち着く!!!!」
姿を見せたら、いざという時感づかれてしまうため、声だけは相手と対話した。
「あなたは、数斗様とどういうご関係で?」
「相棒だ!!」
「相棒・・・?」
「ああ!!数斗は、この世界に潜んでいる妖怪退治をしてるんだ。そのためには相棒の力が必要なんだ!!」
「・・・そうなんですか。」
口を滑らせてしまった事に気づかないぬりかべ。これで数斗がこの世界に居座る事情を、謎の女性に知られてしまったのだから。
晩御飯を二人で済ませると、これ以上何事も起きないように、早めに床で眠りについた数斗に、苑は尋ねた。
「数斗様?ご自分のベッドで寝ないのですか?」
「俺はあまり疲れてないから。あんたがベッドで寝るといいよ。」
「・・・そんな・・・」
「いいから。たまには俺も床で寝たいし。」
「・・・おっお言葉に甘えさせていただきますね。」
布団に潜り込んだ相手の様子をみて、数斗は一先ず部屋を閉めた。
やっと気持ちが安らぐ時間になり、ぬりかべも別室に避難してきた。
「やっと気が休まるぜ~」
「明日も続くんだろ?どうするんだよ。」
「・・・俺が言った以上約束は守らねえとだ。これで今夜殺されるんであれば、俺の寿命はそれまでだったってことだ。」
「それで受け止めていいのかよ。」
二人の会話は、数斗のベッドで眠っていたはずの彼女が別室のドアの向こうで聞いていたにもかかわらず、止まらなかった。
翌朝の早朝。数斗は普段よりも早めに起きて、仕事を始めた。
「(こういうとき仕事があってよかったわ。なんとか一時持ちこたえられる。)」
苑という存在がある以上。少しでも限られている生命を大事に生きようと思った。
「よう、数斗。」
もうヤイバの家の前までやってきていた。どうやらこれから出かける様子のヤイバに問いかける。
「よお。どうしたんだ?その荷物。」
「ああ・・・しばらくさよならだ数斗。俺、これから出張なんだ!!!」
数斗はぽかんと表情を緩めた。
「“出張”って、お前んとこ工事現場だろ?なんで地元以外の手伝いなんて。」
「金持ちボンボンの増築なんだとよ。まあ、弁当代が弾むっていうんで、喜んでいくって言っちまったんだけどよー考えてみたら数斗たちと会えねえじゃんかってな!!数斗も寂しいだろ??なあ!!?」
自分の死をすぐに知ることはできないという、ヤイバのタイミングに数斗はやはり、そういうことなんだと思い知った。
「ああ。寂しいよ。」
「え?数斗・・・ううっ!!!俺だぢ!!!ぜっっっってえにまた会おうぜ!!!!!」
大げさなヤイバに、いつもならうざいと感じるものだが、それもまた別の意味でいいものだと感じた。
この時家で眠っていた苑が目を覚ました。がばっと布団を捲り、数斗を見てみると、姿が無かった。
苑はまるで獲物を逃がして悔やむ前の顔をしていた。そんな中、からすなが窓を突いた。からすなに気づいた苑は、不思議に思いながらも窓を開けた。
「あれ?貴方はどちら様ですか?」
からすなの鳴き声が、普通に会話として通じるのは苑も同じだった。
「それより貴方は、数斗様の何ですか?」
自分と会話ができると知り、からすなは警戒態勢に入った。その隙を待ち望んでいたぬりかべはからすなに瞬時に、窓から離れるように叫んで、身体を大きくさせたのだ。
圧迫感が襲い掛かり、苑は窓の外に追い出されたのだ。
あまりの急な出来事に、羽を広げる暇なんてなく、地面に落ちていく。
叩きつけられる直前で、自らの羽を纏って痛みを軽減させた苑に、ぬりかべは大きな四つ足を覆い被せて苑の身体の自由を奪った。
本来の姿と化したぬりかべは、生憎会話をすることが出来なくなる。だから三つの瞳で思いをぶつけた。懸命に。なのに本当はこんな手荒な真似はしたくない。少なくとも。数斗と同じ烏天狗の種族をここで殺すことはまるで、数斗を殺すかのように重ねてしまうから。
「・・・・・・数斗様のこと、大好きなんですね。」
予想もしなかった言葉を掛けられた。その目は優しかった。
ヤイバを見送った後で、瞬熄から着信があった。
「もしもし。なんだ?」
「数斗さん、元気そうで!」
「嫌味を言うためにかけてきたのかよ。」
「いやそうじゃなくて。昨日はすいませんでした。俺・・・フハハッアハハハだめだっアハハッ」
思い出し笑いで、電話の奥でばかうけしている瞬熄に、はっきりと物申すよう叱ると、瞬熄は反省した。
「すいません。だって数斗さんが大学生って、無理があるなってアハハッ。」
「お前の代わりに一役買ってくれた冬華に、よろしく伝えてくれ。お前より助かったってな。」
「はい。あれ?数斗さん、来年卒業でしたっけ??」
「俺は32だっつの。馬鹿にしてるだろ・・・げっ。」
電話をしながら歩み進めていた数斗の視線の先に、からすなとぬりかべ、苑も立っていたのだ。
ぬりかべはそわそわしていた。それよりも手が震えてしょうがないのは数斗の方だった。
「数斗様、今の、どういうことですか?」
言葉は敬語のままでも、怒りがこみあげているのは間違いない。だから声がのどに突っかかってしまい、思うように出せない。
その時、小さなガラスが割れる音が鳴り、苑がぶら下げていたネックレスから不気味な鳥たちが舞い上がった。
「しまった・・・早く戻さなければっ!!!」
苑が一歩動き出す前に、数斗は黒い羽根を纏い、烏天狗となって上空へ飛び上がったのだ。
あまりのスピードに苑は動揺した。
「(微かに妖気を感じる。周りに広まらねえように、肩を付ける!!)」
「傷つけてはいけません!!!」
風を起こし、飛び交う鳥たちをひとまとめに封じ、抹消させようとしていたとき、苑が叫んだ言葉に、つい気が緩み止めを刺さず、封じ込ませた塊を苑に差し出した。すると、出現元となったネックレスに、鳥たちは吸い込まれていき、元の形を取り戻した。
「・・・調査はここまでですね。」
「・・・・・・詳しく聞かせてもらおうか。」
「止むを得ません。わたしは、鞍馬紹介所のサブマネージャー、時渡苑と申します。大変お見苦しいところを助けていただき、ありがとうございます。」
「ってことは、あんたお見合い相手じゃないってことか!?」
「はい。」
「話はオイラたちも聞いたんだ。」
ぬりかべに話してくれたことを、もう一度苑は語った。
「そういえば初めてのご利用でしたよね?わたしは、数斗様のことを監視するためにこの世界にやってきました。紹介所には女性のお客様が半数以上を占めておりまして、みなさん尼天狗なのです。世間に広まっているように嫉妬深く、殺されるかもしれないという恐怖心から、お断りする男性が多い今、実際に交際してみたらどのような反応をされるのか、女性たちは知りたがっておりました。そこでわたしが相手の方。今回は数斗様を調査し、この球体にはいわば、カメラの様なしくみになっておりまして、お客様に映像を拝見できるようにしていました。ですから先ほど、数斗様が年齢を偽っていたということを告げられ、皆さんの怒りが実方雀となり暴走してしまったのです。」
実方雀とは、思いが募るほど、それが形となり行動に移してくれる妖怪なのだが、限度を越してしまうと暴走してしまうのだ。
「数斗様のことを、皆さん良いとおっしゃっていたのですが・・・」
「俺のどこがいいと思ったんだよ・・・」
「昨夜の会話、聴いていました。」
それは、数斗が苑をベッドで寝ていると思い、ぬりかべと二人で会話した内容。
「・・・俺が言った以上約束は守らねえとだ。これで今夜殺されるんであれば、俺の寿命はそれまでだったってことだ。」
「それで受け止めていいのかよ。」
「ああ。尼天狗だって、好きで人を殺してるんだろうからな・・・いや。今のは語弊があるかもな。なんていうか。相手の事を想うから、手放したくないから、つい動いてしまうんだろうな。独り占めしたいから・・・」
数斗は掌を見て、軽く握りしめた。その表情は切なそうに想いが言い出せない少年の切なげな顔をしていた。
「お前、恋したことあるのか?」
「・・・ああ・・・ってあるわけねえだろ。ドラマでやってるからな。こういうの。」
この一言には、尼天狗たちが言いたくても言い表せなかった答えが見つかり、誰もが数斗の虜になっていたのだ。
「わたしもいいと思いましたよ。“相手のことを想うから、独り占めしたい”いい表現ですね。」
数斗は改めて自分の言葉の発想に、脳みそを掃除したいくらいだった。
「でも、年齢をごまかすのであれば、中途半端な年齢は止めた方がいいですよ。本当は“高校生”ですよね?大学生まで偽って。更に32だって言いふらしているなんて・・・」
苑の言葉はいつも言われることだが、こればっかりは後々違法と言われるのが癪だったのでちゃんと伝えた。
「俺は高校生じゃねえ。32だ。資料にはちゃんと記載されてるらしいから、俺の個人情報を調べてもらえばわかる。」
苑は唖然としていた。幼く見えるのは童顔だからだと。
そして数斗は、気になったことをもう一つ訪ねた。
「あんたは・・・尼天狗なのか?」
結局どちらかははっきりできていない。思い切って耳を傾けた。苑は微笑んで答えを述べた。
「わたしは、烏天狗です。」
母に告げたことは、間違ってはいなかったのだ。




