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僕の平凡な日常 なんちゃって。  作者: 絹川クーヘン
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第41話 家族と舞


 なほりは、玄関にある靴を見て苦悩に陥った。

「あ。なほり~おかえり。」

居間から出てきたのはモデルの姉の方。

「・・・なんで、帰ってるんですか。」

「あー・・・それよりほら!ご飯できてるよ。食べよ。」

「いりません!!」

勢いよく二階に上がっていき、部屋のドアを強く締めた。

「なほり!!」

「アカナ。そっとしておきましょ。」

「でもっ・・・そうだね。」

 部屋に入ったなほりは頭痛に頭を抱えた。

「どうして・・・こんな時間に。」



これはわたしの日常を表した話です。昔の話だけれど、わたしが小学生の頃にお姉ちゃんたちがモデルの活動を始めていました。お姉ちゃんたちは中学生でした。

わたしはモデルになるのを嫌がったので、普通の小学生と同じく過ごしていたのだけれど、お姉ちゃんたちは中学生ながらに165センチ以上の身長がどちらも兼ねそろえていたのですが、わたしは小学生ながらも小ぶりに育ってしまい、たったの143センチ。入学したときにお姉ちゃんとわたしの存在を知った子たちからはよく質問されていました。

「なほりちゃんはお姉ちゃんと家族じゃないよね?」

「全然似てないもん。」

「嘘は行けないんだよ。」

違うのに。わたしはお姉ちゃんたちと血がつながった姉妹なのに。でも確かにどこからどう見てもお姉ちゃんとは差があって、家族じゃないといえばそう見える。

 ある日、わたしの参観日の日ができた。忙しいお姉ちゃんたちにはそのことを話す間もなかった。だからテーブルにプリントを置いていつでも帰ってきたときに目が入るようにしたつもりだけれど、プリントは翌日には無くなっていた。ごみ箱に捨てたのかと思ったけれどなかった。きっと、捨てようと思ったけれどゴミ箱だったらわたしに見られるからと避けたのでしょう。

そして参観日当日は、お姉ちゃんたちは2人とも来なかった。お仕事でも仲がいい姉妹モデルとして広まっているからきっと2人揃って仕事が入ったのでしょう。

でもその時のわたしにとっては、たとえ無言で見てくれていたとしても、家族の誰かが見ていてくれてわたしが振り返ると微笑みかけてくれる。お姉ちゃんたちは笑顔を絶やさなかったから、きっとこの場でもそういう対応をしてくれるはず。そう信じているけれどそれを見たことは結局一度もなく、参観日が行われる年齢を過ぎ、今の高校生の自分がいるのです。それから、小学校を卒業してからは送り迎えはさせずに━━━━━いいや。してもらえなかったから、お姉ちゃんたちのことは秘密にするようにした。そしたら誰も攻めてこなくなったものの、今度は髪の毛が邪魔をする。

 長年伸びてくる髪の毛。しかし、わたしの場合はカットすることができない。もししたとなればそれは自らを死に追いやることになるからです。

メデューサ━━━━━その特徴は髪の毛から生えた無数の蛇たち。その子たちは生きる糧となっているんです。

 お姉ちゃんに髪を切ったことはあるのかとおもむろに聞いたことがあって、答えてくれた。

「切ったことないよ~あたしもどんだけカットしたいかと思ったか。でも髪の毛を切ることは、自殺するってもんよ。」

「わたしも切ったことが無いけれど、長いほうがいいこともあるのよ。憧れの的にもなるし、綺麗に見える。女の子なら目を奪われるものよ。」

今でも髪をまとめたり、自然におろしています。でもわたしにはどんなふうに見えるかなんて考えたこともなかった。だってわたしはその反対に「見られたくない」と思っていたから。

 もうお姉ちゃんたちとは価値観が違うだけじゃなくて、思う感情までもが違うことが明らかになったんです。

 それからいつしか、お姉ちゃんたちを見ると日常を過ごした時に感じた怒りが沸き上がってきて、その怒りを抑えようとわたしに降りかかるのは頭痛。

いつか壊れそうな自分との葛藤に、わたしは毎日生きている。



 朝。リビングに入ると、食器は綺麗に下げられていて、あるのはわたしの分の朝食だけでした。でもわたしはそれには一切手を付けず、自分で卵を焼いて食べる。それがわたしの日常です。

「あ・・・昨日は何か約束があった気がする。」

昨日の放課後は、瞬熄たちと教室で盛り上がり時間も遅くなり、帰ることになった時。同じクラスの男の子から話があった。

「なほり。明日予定とかある?」

「いいえ・・・」

「よかった。せっかくだから誘おうと思って。」

渡してきたのは祭りと書かれたポスターでした。

「俺の家神社なんだ。」

「えっ??凄いですね!」

「変わってるよね。それで初めてお祭りを開催しようと思ってるんだ。お客さんも少なくなってきたからこれを気に知ってもらいたいと思ってね。他のみんなも来るっていうからどこかで待ち合わせしてみてよ。」

でも、他の人たちは友達と楽しそうにしているのを見かけて、そこで話しかける勇気がでませんでした。困ったことに一緒に行く人と予定を立てられず、あの人の神社がどこにいるのかも、今いる方向からどっちに行けばいいのかわかりません。

 とりあえず一歩踏み出してみるが、すぐにしゃがみました。

「カアー」

すると聞いたことがあるカラスの鳴き声。

 違いが判るのはカラスはそれぞれ鳴き声が異なるので。低温の鳴き声や人間に近いおかしな声を出すカラスもいます。

その中であのカラスの鳴き声はフクロウのように低く、カアという一声が妙に耳に響くものでした。

俯いていた頭を上げると、そこには首を少し傾げているカラスがいた。

「カラスさん・・・?」

からすなだった。しゃがみこんでいるなほりを見つけて空から降りてきたのだ。他のカラスと判別できるようになるべく人の言葉を理解していると思わせるよう、からすなは頷いた。



「あの時のカラスさんですね!あの、源さんの神社をご存知ですか?今日お祭りに誘われまして。でも場所がわからなくて。」

一瞬からすなは“源”とは誰の事かと思った。ところがその後の“神社”で誰の事だか理解できた。

からすなは空中に飛び、なほりの頭上を一回りしてから低空飛行で飛んで行った。なほりはとにかくからすなの後を追いかけた。

 からすなは人気があると、怪しまれないようにその場にある建物に止まったりしながらゆっくりとなほりを源のところへと誘導させた。



 約束した時間に間に合った。

「あ。なほり。よかった。場所分かるか不安だったんだけど・・・あれ?もしかしてからすな?」

まりのがいち早く気づいた。

「からすながいたなら大丈夫だな。さすが。」

「皆さん、カラスさんのことご存じなんですか?」

「ご存じって。まあな。数斗さんの相棒だし。」

名前には憶えがあった。最近出会った男の子。

「あ!噂をすれば。」

瞬熄は数斗が来たことに気づき、手を振って居場所を知らせた。数斗もそれに気づいて近づいてくる。

「もう始まってんのか?」

「今からですよ~」

瞬熄がいたずらに笑ったのを見て、数斗はイラッとしたのか二の腕を軽くつまんだ。

「イッテッ!!つねらないでくださいよ!!」

「あれ?お前。」

数斗はなほりに気づいた。

「あっあの、かっ数斗・・・さん。」

「ん?」

「わっわわっわたし!ななな長島なほりといいます!!!よよよっよろしくお願いいたします!!!」

震えながらも全力で自己紹介をした。瞬熄たちが敬語で話す口調を聞いて、みんなよりは年上なのだと区別がついた。

「おっおお。そういや名前聞いてなかったもんな。俺は間数斗だ。」

「・・・はっ間さん。」

名前から名字で呼び始めたなほりに、数斗はなぜか違和感だった。普段は名前のさん付けされているのに、初めてと言えば初めてだった。名字で呼ばれること

「言いづらそうだな。」

「・・・はい。でも、名字のほうが良いといいますか・・・」

わたしが名字で呼ぶのは、ある程度の距離を置いてみんなを傷つけないためなので、この方がわたしは・・・

「気にしてるのか?」

小声で聞こえた声は数斗だった。いつの間にか周りにはクラスのみんなはおらず、数斗とからすなだけだった。

「俺の事なら気にしなくていい。こうして今、動けてるんだから。」

「(この人は、わたしの能力を知ってしまった。)」

なほりはゆっくりと口を開いた。

「わっわたし、メデューサという呪われた子なんです!この力のせいで・・・人を傷つけてしまうし、わたし自身も・・・傷ついて。本当はみんなのように可愛くなりたい。決して自分の事は嫌いには慣れませんし、向き合うことなんかとても・・・でも!一番傷つくのは、この気持ちを誰にもぶつけられないこと!!お姉ちゃんに言いたくても言えない。叫びたいけどこらえてしまう!!!この苦痛は一体、誰に伝えればいいのでしょうか?」

 わたしの力を知っている人ができたら、いつかは自分を告白したかった。どうすればよいのかもわからず、いつか壊れてしまいそうな自分を、誰かが、救ってほしかった。

数斗は、着ていた衣類をなほりに被せた。

「こんな楽しい祭りで涙を流す奴があるか?とりあえずここは暗いから、泣き止むまで居てやるよ。」

なほりは手では拭えないほどの涙を流していた。それでもいつものように痛む頭。でもこの痛みはなんだか終わりを知らせてくれるように感じるのはどうしてだろう。

 涙を流した後も辺りは暗いし、なほり自体あまり顔を伺えないようになっているので目が赤くなっているのに誰も気づかないだろうと数斗は笑いに変えた。

「本当に申し訳ございません!」

土下座をして謝るなほりを強引に引っ張り上げて、姿勢を正した。

「いいから顔をあげろ。それよりも俺が気になるのはメデューサ。」

なほりは急に静かになって、一言もしゃべらなくなった。

「・・・自分が妖怪なの、自覚してるんだろ?」

「へ?」

 なほりはずっと知らずにいたのだ。自分が"妖怪の血を引いている"ということ。ずっと自分が呪われた子だと思っていたからだ。無理はない、だってどんな時も一人でいたため、学校で学んだことはわかるけれど家の事柄などは自分自身の事であっても誰も教えてはくれなかったからだ。

今日始めて、面識が少ない人から自分の正体を聞いて驚いたけど、数斗も自分と同じく妖怪の血を引いているとわかり、気持ちが楽になれた。

「瞬熄たちと合流しないとな。この先の広場で落ち合おうってメールが来てた。おっさんと一緒でいいなら、見て回るか?」

「そんな。おっさんなんて。まだお若いのに・・・」

なほりにも感じたみたいだ。童顔だということを。



 やっと瞬熄たちと合流することができた。

「数斗さん。なほり。遅い!!」

「悪い。少し時間がかかってな。」

「でもちょうどよかったですよ。面白いゲームが思いついたんで、その構成に俺たちも時間かかってたんで。よし!全員そろったし、ゲームを始めるぜ!」

自分たちしかいない空間。それは小十郎が作り出した空間だった。もちろんそこにはまだ祭りを楽しむ人々がいる。

「これからゲームを始めるよ。ルールはシンプルに、なほりが個々の名前を言うまで、オクラホマミキサーをやる。なほりが名前を呼ばない限り、踊り続けるっていうルール。」

「カット。それさ、ストイックすぎやしないか?」

「数斗さんはご心配なく。もう名前で呼ばれてるから、対象者ではありませんよ。」

まりのが丁寧に教えてくれたが第3者からの目線で見ることになってもあまりにもストイックすぎるこのダンス。

「まずは俺からだ。覚悟はいいか~なほり。」

瞬熄から踊り始めた。BGMにオクラホマミキサーをかけて踊りだす。

「ぬっ・・・ぬら・・・」

「ブーそれは名字だよ。」

「ううっ・・・」

なほりの手から緊張感が伝わっていた。ガチガチに固まっているなほりに、至近距離に立つ瞬熄は語りかけた。

「なほり、俺はお前の印象は正直暗いと思った。でもこれから一緒に学校に通う仲間なわけだし仲良くなりたい。だから、なほりがいいなら俺の事、頼ってくれないか。」

瞬熄は固まっている手を軽く握りしめた。なほりはそれに答えるように呟く。

「(奴良)瞬熄さん!」

初めて呼んでくれた名前は、まるで親しみのある人から呼び止められたかのように。数斗のときは震えながら全力で名前を呼んでいたが、瞬熄を呼ぶときは震えずまっすぐな音でスッと耳に響いた。

「ありがとう。」

続いてまりのの番。

「わたしが、男役やるね!」

まりのは男の立ち位置になって踊り始める。

「わたしの名前は何かな~??」

「やっ(屋城)まりのさん。」

「おお!もうコツでも掴んできた?」

「まあ。」

照れながらも小声で、名前を呼ぶ前に心の中で名字を呟いているというコツを話してくれた。

「何それ~」

なほりは面白いことを言ったわけではないのに、まりのがクスクスと笑っているので不思議でならなかった。

「なほり。わたしはなほりの味方だよ。言いにくいことでも何かあったら相談に乗るからさ。」

「よろしくお願いします。」

「あ、わたしのこと“まり”って呼んで。その方が呼びやすいでしょ。」

とても親しみを込めた雰囲気を作り出したまりのとの踊りは終了した。続けてひかりがリードした。

「ひかりだよ。えっと、わたしあんまり踊り上手くないけど。なほりちゃんはこういうの楽しい?」

なほりは少し考えてから「はい。」と返事をした。

「よかった。これからも楽しく学校生活、過ごしていこ!よろしくね!」

「こちらこそ。ひかりさん。」

なほりにだんだんと明るい表情が継続されるようになってきた。次は小十郎。

「じゃあ、お手をどうぞ。」

「はい。」

小十郎は緊張のあまり、柄じゃないことを呟いてしまった。

 そもそも、この計画は弊六が考えたものだったのだ。

 小十郎たちが頭を悩ませていると、姿が見えないのを云いことに小十郎に近寄り、語り掛けてきた。

「主。悩み事か?まああえて聞かぬが、俺の案を述べてみてはどうだ?」

「どんな案だ?」

「俺の言葉をそのまま主たちに伝えろ。」

そういうと、弊六の一言一言を小十郎なりに自分の言い方に変えて、弊六の代わりにみんなに言った。

「みんな、俺にいい提案があるんだ。」

小十郎に注目の視線が向けられる。

「これから、踊りを踊る。そこで、一人一人が相手と踊って、名前を言わせる・・・ってえっ???」

「つまり、リズムに乗せてというか、名前を言わせるタイミングを計らうようにして、なほりを密かに説得させるってことかしら。」

とっさに言った内容に、ハッとしていると、冬華がなんとか内容をまとめてくれた。しかし自分らしくないかなりのドSな提案に、怪しまれるかと思ったのだが意外にも受け入れてくれた。

「いいかも!リズムに乗ってた方が、言葉が出やすいし。」

「リズムに乗りながらッて面白そうだな!」

「さすがこーくん!でもなんでそんなこと思いついたの?」

「いっいや・・・」

弊六の方を睨み付けると、そこにいたはずの弊六の姿はなく、既に木の上に移動しており

そこで嘲笑っていた。

 なほりに簡潔に、自分がこのゲームを考えたことを伝えた。

「ごめん。なんか。強引なやり方だよね。」

「この曲って、こんな風にみんなと踊る曲なんですよね?」

小十郎はいきなり関係なくもないことに変えたので驚いたが、改めてオクラホマミキサーだと教えた。

「ずっと気になってはいました。そしていつか、友達ができたら踊りたいなって。」

「夢だったのなら、叶えられて何よりだよ。」

「はい!ありがとうございます。みなもっ・・・小十郎さん。」

危うく名字で呼ぶとこだったのを急いで言い直した。

「なんか時代劇みたいな名前に感じる。」

二人はお互いに苦笑いをした。

 最後の踊り相手は冬華だ。

「だいぶ慣れたみたいでよかったわ。」

「・・・はい。」

「どうかしたの?」

「・・・わたし(山吹)冬華さんのこと、苦手だったんです。そのわたしの嫌いな人とちょっと似てまして・・・冬華さんには関係のないことなのに、ごめんなさい。」

冬華は、今まで自分が一番慣れ親しんでいるのではないかと少しでも感じていたのだが、それは真逆のことだったことに動揺した。

「そっそうなの。でもそんな素振りは全く感じられなかったから心配しなくても大丈夫。それでも、こうして今初めて会った時よりも、なほりが嬉しそうでわたしも嬉しい。」

なほりも冬華を見て、今思うことを自分の口から伝えた。

「でも今は、冬華さんが大好きですから!」

「ありがとう。なほり。」

 無謀なゲームは終了し、なほりはみんなと打ち解けることができた。



 翌日。

「あ!おはよう!なほり!」

「おっおはようございます。屋城さん・・・」

昨日とは打って変わって、結局距離は縮まったが、名前で呼び合うまではまだ難しいなほりの日常はこれから続く。


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