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僕の平凡な日常 なんちゃって。  作者: 絹川クーヘン
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第31話 狼男の職探し


 富月ヤイバ、24歳。職歴はゼロ。

「ふあ~~~~~なんかいい仕事ねえかな~~」

 今の今まで、なぜ彼が仕事を探さなかったのか。そして今なぜ仕事を探しているのか。それは、3時間前にさかのぼる━━━━━



 とあるホテルで、ヤイバの同級生たちが集い、同窓会が行われた。

「この寒気は・・・やっぱり!!富月だ!!!」

ヤイバが会場に入るなり、全員が端に避けていった。

 ヤイバは当時、名の知れたヤンキーと言われていた。もちろん自分の“族”も持っており、みんなはあまり関わらないようにしていた。

「お!ヤイバ!」

「ああ?誰だてめえ。」

「おいおい~まあそれもそうか。あれから変わったからな~」

「どういうことだよ。」

「俺、就職先が決まってよう。なんつーか、生活が変わったんだ。」

「・・・お前・・・もしかして・・・ハチか???」

 ハチという男は、ヤイバと同じヤンキーだったが、あれから6年が経ち、その姿はがらりと変わっていた。ツンツンと尖っていた髪型は短く切りワックスで軽く固めており、ヒョウ柄で身を包んでいた服装は普段はわからないが、スーツで決めていた。

「思い出したか。当たり。まあお前は当時と変わってないからな。いつもその恰好してるのか?」

「ああ。これが俺の素だからな!」

「そっか。んで?就職は?」

「そんなのやってねえよ。」

「はあ!?お前、やばいんじゃないのか?悪いことは言わねえ。就職しろって。じゃないとやっていけねえぞこれから。」

「富月くん?」

ヤイバの名前を呼んだのは、きれいな女の人だった。ピンク色のドレスがとても輝いて見える。

「もっもももしかして!?みなみちゃん??」

「お前、俺のことは気づかなかったくせに。初恋の相手は気づいっ・・・んぐ!」

「黙れ!!!」

「元気そうで何よりだよ。あの時とちっとも変ってないね。」

「みっみなみちゃんこそ・・・変わってなくて・・・」

「ううん。わたしは変わったよ。みて。」

みなみは左手の甲を見せてきた。その薬指には、指輪が付いていた。

「わたし、結婚したんだ。卒業してから一緒に働いた人とね。」

その話を聞いて、ヤイバは心が真っ白になった。

 ずっと好きだった初恋の相手が、ついに結婚してしまい、幸せに暮らしていると聞かされたダメージは、とてつもなかった。

「みなみちゃん、言ってやってよ。こいつ、就職もまだ決まってないらしいんだ。」

「そうなの??じゃあ、この雑誌あげるよ。ここなら自給とかもいいのが載ってるし。きっと、富月くんに合うところあるとおもうよ?」

みなみから紹介されたタウンウォークを手に取り、ヤイバは今に至る。



 タウンウォークと睨めっこをしているヤイバの家に、ピンポンが鳴った。

「ヤイバ、何してんだよ!一昨日、釣りに行くって予定立てたろ?」

数斗とぬりかべだった。

「ああ。わりいな。考え事しててよ・・・」

数斗はふと、ヤイバの手元を見てタウンウォークがあることに気付いたが、その時は何も言わなかった。



 釣りにやってきた男たちと、上空にはからすなが見張りをしていた。

「なんでからすなが見張りなんだ?」

「ここはたくさん釣れるスポットで有名な場所なんだが、ウミネコたちが多すぎて全部喰われちまうんだ。けど、俺の場合、からすなの見張りのお陰で関係なしに釣りができるってもんだ。

「じゃあ、オイラも見張りやるぜ!釣りより楽しいだろうからな~」

 留守番が嫌で何度も釣りに付き合ってきているぬりかべだったが、内心はただ付き合うのが退屈していたのだ。

 ぬりかべがいなくなり、ヤイバと数斗だけになると、数斗が口を開いた。

「なあ、ヤイバ。お前、仕事探してんのか?」

「えっ!?なんでわかったんだ!??」

反応が大げさだった。

「いや・・・家でタンウォみちまって。で?いいところでもあったか?」

「全然だ。」

そこで会話が終わった。

 上空のからすなに、ぬりかべは尋ねた。

「からすなーどうだ?ウミネコはいたか?」

「ああ。きたぞ。」

「お!オイラも加勢するぜ!クウォオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!」

妖怪の姿となったぬりかべは、姿が見えない代わりに、海に近づけさせないよう壁ができた。



 小魚が一匹釣れたのは、数斗の方だった。ヤイバの方はというと、魚はかかっているのだが、釣り人が意気消沈しており、魚がすぐに逃げてしまった。

「・・・ヤイバ、お前、“夢”とかなかったのか?あったなら、それに近づけるような仕事を探せばいいんじゃねえか?」

「夢・・・?・・・・・・」

「なかったのなら無理に考えるな・・・あ、前に警察に世話になっただろ。知り合いもできただろうし、そこに勤めたらどうだ?」

「・・・いやだ!!!」

やっと意識が目覚めた。

「警察!???俺はヤンキーで日本一の男になるって決めてるんだよ!!」

「・・・ある意味・・・夢あったじゃねえかよ。・・・ん?」

その時、数斗は波の動きに変化があることに気づいた。

「(・・・なんだ。この気配。)」

 日が暮れてきて、手の間隔でしか釣りの間隔がわからなくなってきた。

「結局釣れたのはこんきだけか。からなすなーぬりかべー、帰るぞー」

立ち上がったとき、ヤイバが意を決して尋ねた。

「数斗、教えてくれ。。なんでお前は、新聞配達のバイトを始めたんだ?」

 考えてみれば、考えたこともなかったなと数斗は改めて感じた。始めたきっかけは、ドラキュラと出会って、家の窓を壊された時に、直す費用を集めるために始めた仕事。でも今は身の回りの生活などに使っている。

でも、新聞配達の仕事じゃなくたって、他にも稼げる仕事がある。それなのに心の中では「この仕事はやめたくない」と思っている。

「なんでだろうな。ただ今は、この仕事を続けたいって思うんだ。」

「・・・意味が分からねえな。」

珍しく数斗の表情に、曇りが現れた。



 行きも通りがかってきた道のりに、工事現場ができていた。

「さっきまでなかったのに。」

「工事は、俺たちが知らないところで頑張って働く仕事だからな。まだ暑いってのに。ご苦労様だ。」

すぐに通り抜けようと思ったが、工事の人たちの会話が聞こえてきた。

「人手が足りねえわ。」

「まったくだ。この前も辞めていったし。」

ヤイバは、進入禁止のコーンを掴んで、叫んだ。

「あのーー!!!!!俺に!!!!!手伝わせてください!!!!!!」

ヤイバを見た全員が驚愕を受けた。

数斗は、ヤイバの行動に。工事の人たちは、もちろんヤイバの見た目に驚いたのだ。

 その日のうちに、面接日が翌日に決まり、明日に備えて深い眠りについた。昼間数斗たちが釣りをした海で異変が起こっていることにも気づかずに。

 夜中であろうと、からすなは起きており、海辺をパトロールしていた。

「異常はなさそうだが・・・あのウミネコたち・・・」

 昼間、ウミネコたちが現れたが一匹のウミネコだけはただ飛んでいるだけだった。その理由をからすなは尋ねていたのだ。その理由が。

「今日の海はおかしい。魚たちには害は起きないと思うが、あまり立ち入らないほうが身のためだぞ。)」

ということだった。長年海に生きるウミネコがそういうなら、海の異変は確実だ。からすなはそう思い、海周辺を飛び回った。

 その時、突如白い霧に覆われ、不気味な船が彷徨っていた。

「あれは・・・遊覧船?・・・ぐあっ・・・!!!」

からすなは、黒い影に飲み込まれてしまった。




 翌朝。新聞配達に加えて、ヤイバの家にやってきた。

「バイトとはいえ、面接があるからな。あいつも意外な格好になってるかもな。」

「ん?意外な格好?」

「まあ、俺はいつもと変わりなかったし。スーツに着替えりゃ様になるが、ヤイバは。」

服装。

髪型。

グラサン。

あと口調。

まとめれば全部だ。

 そのすべてが無くなる姿こそが、“リクルートスタイル”なのだ。



 家に入ると、鏡に立つヤイバの後ろ姿があった。

「あ”っ・・・」

そこには後ろ姿からでもわかる。ヤイバだと。

「おお~数斗、ぬりかべ。どうだ?俺のこのリーゼント。今日ほど決まった日はねえぜ!」

「馬鹿野郎!!!!!!!!」

数斗の怒りが噴火した。

「てめえ!!!舐めてんのか!!!あ!!!?普段のままでいいと思うなよ!!!待ってろ!!!!」

数斗は飛び出して、すぐにぬりかべにまたがった。

「急げ!!!ぬりかべ!!!」

「なんでオイラまで・・・振り回されんだよ~」

それから20分後。

「ほら。俺のスーツ貸してやるから、今すぐ風呂入ってこれに着替えろ。」

珍しく怒っている数斗の言葉に、ヤイバはすんなり聞き入れた。

そしてリーゼントの髪は後ろで結わいても変に思われないように結び直し、スーツを着させた。それからサングラスも取り上げた。

「できたー。」

「どれどれ・・・誰じゃおめえ!!!!!」

サングラスまで外したヤイバは面影がまったくなく、別人だった。

「時間何時からだ?」

「11時から。」

「あと30分か。間に合うよな?」

「あっああ・・・なんとか。」

支度し直したヤイバは、どこか凛々しく見える後ろ姿で歩いて行った。

 ヤイバを見送った後、数斗は今日も釣りにやってきた。

「またかよ~」

「昨日は釣れなかったからな。それに、あの違和感も気になる・・・」

小声で呟くと、竿に魚がかかった。

「おっ!きたきた!!!」

これは大物だと確信した。



 面接が始まったヤイバ。面接官はあの時の男の人だった。

前日見たときは、迫力があった格好が今日は普通の格好をしていて、ギャップが好印象になったらしい。

「今日から働いてくれないか?人手が足りたくて困っていましたし。何より、君のような力自慢が来てくれて感謝してるんだ。」

「・・・ぜひ!!!おねしゃす!!!!!あっああ・・・いえ。その・・・」

「いいよ。君らしいのが一番だ。」

「あっ・・・あっ・・・あざーーーっす!!!!!!」

ヤイバはついに、アルバイト先をみつけることに成功したのだった。



 日没になっても、竿の魚は釣れるどころか逃げもしない。

「くそっなんなんだこの魚・・・釣れねえな!!!!」

「暗くなってきたぞ?もう手放したらどうだ?」

「釣りには“見逃し”なんて負けも同然なんだよ!」

力を振り絞り、竿を引き上げるとプツッと音がして、先端が切られた竿が海から飛び出たのだ。

その反動で、暗い景色が白くなり深い霧がかかった。

「数斗!!妖気だ!」

「やっぱりか。気配は昨日から感じてた・・・っ!」

霧の中から大きな遊覧船が現れた。続いて黒くて丸い生き物が突如現れた。同時に妖怪の姿に変化した烏天狗。

「“杓子を貸せ・・・”」

生き物が低い声でそうつぶやくと、烏天狗に攻撃を仕掛ける。槍で受け止めても、まるでスライムのように液体が垂れてくる。

「こいつの身体、物体じゃねえな。」

「烏天狗、この妖怪は“海坊主”だ。油断は禁物だな。クウォオオオオオオオオオオン!」

ぬりかべも妖怪の姿に変化し、烏天狗の応援を要した。

 烏天狗は槍を掲げ、強い風で相手の動きを止め、一気に仕留めようと武器を尖らせた。ところが海坊主は手のような形をのっそりと向けてきた。なんとそこにはからすながぐったりと倒れていたのだ。

「てめえ!!!」

「ヤアヤア」

言葉では表せないが、相手は笑って楽しそうにしているようだった。

「雑魚が・・・俺の相棒を返せええええええ!!!!!!!!!!!!!」

烏天狗は槍で突っ走った。今にも身体に突き刺さりそうになると、海坊主は口を大きく開けて烏天狗は飲み込まれてしまった。

海坊主の外側から烏天狗が見えた。

「クウォン!!!!クウォーーーン!!!」

ぬりかべが鳴き声で、二人の意識を取り戻させようと訴えかけた。しかし、届かない。

「クウォン!クウォン!!!!・・・」

喉が潰れそうなくらい泣き続けるぬりかべ。その時だ。頭をなでられた感触がした。

「・・・よく頑張ったなぬりかべ。あとは俺に、任せとけ!!!」

狼男が前に出て、海坊主に拳を構えた。打撃をしようとしている狼男をとめようと、ぬりかべは元の姿に戻り、くいとめた。

「・・・待ってくれ!狼男!そいつには攻撃は通用しないんだ!」

「そうなのか??じゃあ、これでもどうだ!!」

拳を力強く前に出すと、波動が放たれた。

ところが波動の振動が多く、海坊主と距離ができてしまった。

「何やってんだ!!あれじゃあダメージを加えられても、距離が遠くなっていくじゃねえかよ!!!」

「それもそうか。」

「おい!!」

うっかりしていたヤイバは、倒す術をなくした。考えるべく煙草を吸い始めた。すると煙草の煙を嗅いで、海坊主の身体の色が変色した。

言葉にならない鳴き声を出して、海坊主は海と一体化し、そそくさと闘争した。

「・・・・・・・・・ちょっとまて!!!!俺が来た意味ねえじゃねえかよ!!おい戻ってこい!!!!」

「まあまあ。結果オーライだな。」

 海から引き揚げた烏天狗とからすな。二つの烏は、無事に助けることに成功した。

 その後ヤイバは、しばらく続く大工のバイトに夢中で取り組む日々が始まった。


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