第20話 勇敢なる刃
成人2人は久しぶりにわらしに来店した。
「ああ~~~旨い!サイコーですよ~~女将!!もう一杯!」
「はいはい。つまみもサービスするわね。」
「おっありがとうーございます!」
「ヤイバ、飲み過ぎだっての。」
「いいのよ。久しぶりに顔を見れてわたしも嬉しいから。」
「すいません・・・朝からバイトもありますし。忙しくて・・・」
「何だか前の数斗くんと変わった気がするわ。とってもたくましくなった。」
数斗は顔が少し赤くなった。
「あれ~??数斗照れてんな~~?カワイイとこあるじゃんかよ~~」
「うるせーよ酔っ払いが。まあ、俺も酔ったかもな。」
酒が注がれたグラスを置くと、氷が解けた。
翌朝、久しぶりに飲みに行ったせいか、二日酔いに襲われた。
「気持ちわりい・・・ううっ・・・」
「おい!ここで吐くなよ??」
数斗はベットでうずくまった。すると、からすなが窓を開けた。
「おはよう。ん?どうしたんだ?」
「昨日飲み過ぎたんだと。」
「ああ二日酔いか。数斗は酒に強いはずだが・・・まあいい。それよりバイトは大丈夫なのか?」
「・・・今日は休みだ。」
「珍しいな。」
そう。俺がバイトに朝急がないのは珍しいこと。しかし、毎日のようにあっても、休みがないのは法律に反する行為。ということで月に 1 度ではあるが配達が無い日があるのだ。
そうとは知らないヤイバは、昨日の酔いはもう冷めたみたいで、新聞配達にくる数斗を待ち望んでいた。
「(昨日飲み明かしたけど、あいつちゃんと配達出来てんのか?・・・おっ来たか)」
人影が見えるのを確認すると、すぐに駆け寄った。
「おう!数斗。ちゃんと配達してっか?」
「ひいいいいっ!!」
よく見ると、数斗よりも背が低く、明らかにヤイバよりも年下の男だったのだ。
「お前・・・誰だ?」
「ごっごごっごめんなさーーーーーい!!!!!!」
男は新聞を上に投げて逃げていってしまった。新聞をキャッチしたヤイバは毎度のことに呆れた。
ピピーーと試合再開のホイッスルが鳴った。学校ではバスケをしていたのだ。
「小十郎!パス!」
「任せた!」
「よしっ・・・うっ・・・」
ボールをシュートできず、瞬熄は微かに腕の痛みを感じた。ボールは枠の外に出てしまった。そこで丁度よくタイムアップになった。
休憩タイムに、瞬熄は腕を抑えた。
「・・・いって・・・」
「まだ腕痛むの?」
「ああ。まあな・・・・・・って、なんで小十郎がこのことっ?!」
授業が終わり、昼休みの時間帯に屋上にて続きを話す。
「ええええ~~~~~~~!!!!!!!!じゃあ、幣六の正体は小十郎だったのか!??」
「気付いてなかったのか。てっきり俺があの神社に現れたことで、正体がばれたと思ってた。」
「さりげなく正体を明かしてくれていたのか・・・まあそれならそれで話が早い。やっぱり傷が深かったみたいで痛むんだ。」
「完治させた訳じゃないから無理は禁物だよ。」
「サンキューな・・・なあ小十郎、俺ら"烏組"っていうチームに入ってるんだけど、よかったら仲間になってくれないか?」
助けられたとき、弊六の姿をした小十郎に敵でもなく味方でもないと言われたことを思い返した瞬熄は、味方になって共に戦って欲しいという意味を込めてチームに誘った。
「もちろん。よろしくな。」
手をグーにして互いの拳を当てた。
「てか、誘うの遅いよ。」
誘ってくれたのは嬉しかったが、やっとのことで小十郎は烏組の一員になれたのだ。
「あーここにいたの。二人とも。」
長い髪が風で揺れながら、それを掻き分けて屋上にやってきたのは冬華だった。
「昨日から屋上使えないの、知らなかったの?」
「使えない?なんでだよ。」
「なんでも、台風が近づいてきてるらしいの。」
「台風なんて、どうせ小さいのだろ?」
「そうじゃないの。今回の台風は“神出鬼没”するって噂よ。」
「「はあ??」」
冬華が“神出鬼没”の意味を話している間にも、森の中に住み着いている何かが、動き出そうとしていた。
その気配に気付けたのは"幣六"とぬりかべだけだった。
「なんだ。この妖気。」
ぬりかべには何の妖気だかわからなかった。
「・・・羅刹か。まさかあの“封印”が・・・」
幣六は、主である限り、神社から出られない。この気配の事を知らせることも、助けに行くこともできず、ただ小十郎が無事に帰ってくることを祈った。
ぬりかべは、数斗の帰りを待っている間、気配を確実に突き止めようと瞑想していた。
そして、数斗が帰ってきた。
「ぬりかべ、たまにはニュース見せろよ。今台風が近づいてるって初めて知ったぞ。まあ、こんな時に電球が切れるなんて、それもどうかと思うけどな。」
「数斗・・・ヤバいぞ・・・」
「何がだ?」
「鬼が来るんだよ!!!」
ぬりかべは数斗の胸倉で血相をかいて訴えてきた。
その瞬間、どこかで封印が解かれたのか、空が真っ暗になった。
「なっなんだ?」
瞬熄たちも、異変に気付いていた。
「空が急に・・・」
「とにかく、教室に戻ろう。ここだと危険だ。」
「ああ。冬華も行くぞ!」
「えっええ。」
瞬熄は、冬華の手を掴んで教室まで走った。
教室に戻ると、みんなぐったりと倒れていた。
「あっ、瞬熄!冬華!こーくん!どうしよう・・・みんなが急に倒れて・・・ひかりまで・・・」
「・・・小十郎、ちょっと来てくれ。冬華とまりは、ここでみんなのことを見ててくれないか?」
「どこに行くつもり?」
冬華が尋ねると、瞬熄は何の迷いもなく答えた。
「職員室だよ。先生に言ってくる。」
冬華にはそういったが、本当は妖気を感じていた瞬熄。そこで、まりのを冬華に預けて小十郎と共に退治を試みたのだ。
「小十郎、お前にもわかるか?」
「ああ。とてつもない妖気だ。」
「急ぐぞ。」
「うん。」
2 人は妖怪の姿に変化し、妖気が強く感じる場所まで向かった。
数斗たちも外に出ると、ヤイバが家の前にいたらしくぶつかってしまった。
「何やってんだよ。ヤイバ。」
「数斗!!向こうの山が、台風が集まってんだ!!」
数斗は山の方を向くと、ヤイバが言うように一か所にたくさんの渦巻きが出来ていた。
「あれって、予報で言ってた神出鬼没の台風なんじゃ・・・」
ヤイバが異変に気づいたおかげで、場所が特定できた。
「ヤイバ、掴まれ!」
烏天狗に変化した数斗は、ヤイバを連れてその場所へと飛び去った。
森に着くと、そこには無数の鬼がいた。
「烏天狗!とびつき!」
ぬらりひょんたちと合流した。
「じゃあ、みんな揃ったところで・・・結界!」
幣六は森の全範囲に結界を作り上げた。
「これで、外部からの侵入はできても、内側からは抜け出すのは不可能になりました。鬼たちが街に出ることはありません。」
「ならここで争うのに、遠慮はいらねえよな?」
ぬらりひょんと共に、全員で戦闘を開始した。
烏天狗は翼を広げて鬼たちを上空に持ち上げると、一匹残らず仕留めた。ぬらりひょんは自慢の素早さで、ちらついている鬼を切り裂いていった。
強い仲間たちの動きに圧倒されるばかりのヤイバ。
「(すげえ・・・あいつら、何十匹もの敵を一気に倒していくなんて・・・)うおっ!」
距離があるものに気を取られていたせいで、目の前にいた鬼に気付かなかった。瞬時に交わすことができないヤイバ。しかし、幣六が盾となった。
「幣六・・・」
「丁度よかった。伝えなきゃいけないことが。実はとびつきさんには、妖怪になることで力が発揮される“地縛霊”が付いていたんです。」
「地縛霊?」
「はい。でもこの前の一見で俺が成仏させましたので、今のとびつきさんならきっと、自由に力を使えるはずです。 」
「・・・けど、俺は月の光を浴びねえと・・・妖怪には・・・」
ヤイバの言葉を聴いて、幣六は小さな結界を作り、鬼たちを少数相手ができるように環境を作った。
「いいえ。とびつきさん自身が妖怪になることを強く望めば、力が発揮できるはずです。やってみてください・・・うっ・・・」
「幣六!?どうしたんだ!?」
幣六は地面に膝をついてしまった。
「何分、結界を3つも開いているので、体力が持たなくて・・・ううっ・・・」
「(体力が消耗してる・・・あいつらも。他のみんながこんなに必死で戦ってんのに。俺は、何やってんだ。俺のちっぽけな恐怖心に比べりゃあ、あいつらの方がよっぽど・・・)ううううううああああああああああああああウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!」
大きな遠吠えが響き、大きな牙と大きな鉤爪を持つ狼男と化した。
そして、素早い動きで鬼たちを鋭い爪で切り裂いていった。勢いでぬらりひょんの目の前に迫った。
「狼男・・・頼む!今はやめてくれ!!!」
「グアアアアアアア!!!!!!」
ぬらりひょんに大きな爪を向け、切り裂いたかと思うと、周りに群がっている鬼たちを攻撃したのだ。
「狼男、もうやめろ!!!」
烏天狗は気をそらそうと、呼び止めた。
「グルルルル・・・ガアアアアアアア!!!!」
「・・・っ!・・・」
烏天狗は息を飲み、狼男の牙を真っ向から受ける形となった状況になっても逃げることはしなかった。
「お前言ってたよな。ヒーローになりたいって。ひかりを守るって。あの言葉は出任せなのか?お前の信念ってやつはそんなもんなのかよ。いい加減戻ってくれよ!」
耳元でも、爪が木に突き刺さる音が聞こえた。直前で目を閉じた烏天狗はゆっくり見開くと、その爪の先には鬼がいた。そう、狼男は烏天狗の真後ろで今にも攻撃しそうな鬼を退治したのだ。
「狼男・・・まさか・・・」
「心配すんな。烏天狗。ヒヒッ」
「ヤイバ、ヤイバなのか??」
「おお。ちゃんと意識はあるぜ。」
狼男は自分の意志を保っていた。妖怪の姿になっても襲いかかってくることはなくなったのだ。
「っしゃあ!行くぜお前ら!!!!」
「「「おお!!!」」」
烏組は、残りの鬼たちを蹴散らした。そこへ小さな鬼たちの身の危険を察知したのか、体長3mはある大きな赤鬼が姿を表したのだ。
手には金棒を軽々と持ち歩いていた。
「ボスのお出ましみたいだな。みんな気を付けろ。」
「待てよ。俺に任せろ。」
赤鬼と狼男は対等な位置に構える。先に動いたのは赤鬼だった。持っていた金棒を地面に突き刺して素手で狼男に挑む構えだ。
侮るなと訴えかけるように、狼男は顎と手首の骨を鳴らして準備運動を終える。
互いの掌ががっしりと握ると、奇声を上げて、どちらかの背が後ろに倒れるまで押し続ける。まるで手押し相撲の押し続けバージョンのようだ。
狼男よりも体格が広い赤鬼は余裕の表情だが、狼男は全身に汗をかきつつも掌はどんなに滑ろうと離しはしない。
「ぐぬぬぬ!」
思い切り家からを蓄えようと、上げていた顎を沈ませて肩からの家からを与えるように手を押す。
相手に見えないようになったと裏をかいた赤鬼は伸ばしていた腕を曲げて、狼男の頭上に口が来るようにと近づいた。
そして狼男の耳に微かに吐息がかかった瞬間、狼男は顔を勢いよく上げて、赤鬼の顎に頭突きをした。痺れが全身に行き渡ったとき、相手はゆっくりと背中から倒れていき、地面に横になった。
「やっと全部倒したぜ~」
「これで、謎の神出鬼没な台風は消えたかもね。」
「ああそれそれ。俺さ、神出鬼没の原因って鬼没なだけに“鬼のせい”なんじゃないかって思うんだけど。」
さりげなくダジャレを言った瞬熄に、みんなはシラーとなった。
「けど、今回は狼男のおかげだな。お前のおかげで鬼たちを退治できたわけだし。ありがと。」
「俺も、チームの一員として妖怪に立ち向かえるしな。」
「おお。頼りにしてるぜ。」
「じゃあ、俺たちは学校に。」
「ああっそうだった・・・」
瞬熄は学校からの異変で現場に来たことを忘れていた。
教室に入ると、みんな意識が戻っていた。
「遅かったじゃん!もう!」
「瞬熄!小十郎も!どこ行ってたの?」
「えっ?だから職員室に・・・」
「んんーー??」
冬華は 2 人が嘘をついているようにしか思えなかったが、疑うのをやめた。
「まあ、怪我がないみたいだし。無事でよかったけど。」
「「アハハハッ・・・」」
「さあみんな。遅くなったけど、授業始めるぞ。」
「ええーー!!」
時刻はまだ午後一時。学校に通う生徒の時間は、まだまだ続く。




