第18話 弊六、神様になる!?
花のみやこに社さだめず
あらぶるこゝろまします
神のさわぎ出給ひしにやと
夢心におもひぬ
誰かは、神を信じるだろうか━━━━━
俺がまだ小学生のころの出来事。神が現れた。
「お前は神を受け継ぎ、神社の守り神と成れ。」
神はそう言った。まだ幼くて訳が分からなかった俺に。
続けて神は言った。
「まだ小童だからな。受け継ぐのは早きこと。そうだな・・・12年後にまた聞こう。お前は十分成長しているだろうからな。その時に、お前の気持ちを聞かせてくれ。」
他の記憶は忘れかかっているけど、その出来事だけは最近の事のように覚えてる。
でもその答えは、俺はまだ決まっていない。
答えを出すまで、魂の片割れとして神に奪われた左目を返してもらう。いいや。"預けられた"というのが正しいかな。
約束の日が、明後日に近づいていた。
俺はスマホのカレンダーを見た。
「なんだ小十郎。デートの約束でもあるのか?」
瞬熄に予定を見られてしまった。
「いっいや・・・って、瞬熄と違うよ。」
「なんだよ!俺だってデートの約束なんてしてねえよ!冬華以外とは。」
瞬熄には見られてしまったけれど、幸い予定の内容を書いてなかったので、神様の事はもちろん。俺が“妖怪”であることは気付かれなかった。
「なあそれより小十郎、髪切ったらどうだ?ずっと気になってたけど、お前左側だけ伸びてるよな~整えれば・・・」
「触るな!」
瞬熄が前髪をかき分けようとしたので、とっさに手を掃ってしまった。
「・・・ごめん。」
その後。ホームルームのチャイムが鳴った。
放課後。あっという間に今日が過ぎた。明後日もあっという間に終わると思っていたんだ。
「・・・はあ。」
自然とため息が出る。そこへまりのが話しかけてきた。
「こーくん。帰ろう!」
「あっ・・・うん・・・」
楽しいはずのまりのとの帰り道も、なんだか気持ちが落ち着かない。約束の日のことでいっぱいだった。
「・・・くん?・・・こーくん!!」
俺は呼びかけに気付いた。
「聞いてた??」
「ごめん。何の話?」
「えーそこから??」
意識がボーっとしていたみたいだ。そんなことも気付かずになっている。
「・・・?こーくん?」
「えっ、何?」
「もうこーくん家だよ?」
「あ・・・そうだね。じゃあまた明日。」
家の神社までの間の記憶がない。まりのもきっと、変に思っているに違いない。
「(どうすればいい・・・俺は、ずっとこの神社を守ってきたつもりだ。でも・・・)」
何が俺の道なのか、それさえも見つからない。迷っているとき、まりのは最後に俺に言った。
「あ!UFO!!」
「えっ?」
思わず空を見上げた。でも、空には雲以外に何もない。すぐに嘘をつかれたと見抜いた。
「やっと、顔を上げたね。こーくん。」
まりのの一言に驚いた。
「どういうこと?」
「こーくん、今日ずっと上の空で、ずっと俯いてたから・・・こーくんが悩むって珍しいし。あえて聞かないでおくけど何か力になれることがあったら言ってね!あっ、あと、俯かないで顔を上げて!そうすれば、スッキリした気持ちになると思うから。それじゃあまた明日!」
俺は思わず笑ってしまった。だって、俺がまりのの気持ちに気づくことはあるけど、まりのが俺の悩みに気づくなんて、お互い隠し事はできないなと距離が近づいたように感じたからだ。
俺は道具を置いて、気晴らしに外に出た。町が見える通りを歩いていると、ふと妖気を感じた。
「この気配・・・うわっ。」
突然突風が吹き荒れたかと思うと、烏天狗が風と争っていた。
「この!!」
烏天狗が必死に攻撃しているが切っても切れない。なんせ実態ではないのだから。
「これじゃあ倒せねえ。」
それをみた俺は、その場で姿を変え、妖怪の姿となった。
烏帽子に白い着物。手には御幣を担いだ妖怪へと変化した。
「そこの妖怪!下がれ!」
烏天狗は別の妖怪が現れたことで、手間が増えたと感じたものの言われた通り、風から距離をとった。
妖怪は札を取り出し、その場で空に舞い上がると、風に向かって札をかざした。
「滅せよ。天へと昇れ。」
すると、風は光となって空に降り注いだ。
「・・・これは・・・」
「大丈夫。害は無いよ。あれは精霊風という妖怪なんだ。」
「しょうろうふう?」
「死者の霊から生まれたものだから実態は無いんだ。けど、恨みの塊だ。風に煽られたものは病に倒れるっていうよ。」
妖怪とは全てが悪から生まれるわけではない。死者の復讐や、願いが込められているものだっている。その願いを、俺は代わりに果たしたい。精一杯の力で。
「・・・お前、妖怪に詳しいんだな。」
「そりゃあ・・・“大切なもの”を守らないといけないし・・・この御幣には人々の願い事が書かれているんです。書かれた思いは、俺が叶える定め。それを脅かす (おびやかす)ものが誰なのか、知っておかないといけないから 。」
「・・・まっすぐな志だな。今日はお陰で助かった。ああ。俺は烏天狗。お前は?」
「俺は幣六です。」
名前を聞いて、烏天狗ははっとした。
「もしかして、この近くにある神社の守り神か?」
「はい。よくご存じで。何かあれば俺に言ってください。力になりますんで。」
「あいつがまりのの言ってた妖怪か。見たところ敵だと思われてはねえが・・・」
幣六の口調を思い出すと、明らかに年下に見られている感じに聞こえた。
「そんなにあいつ、‘年老いてる’のか?」
烏天狗と別れた幣六は。
「・・・‘守り神’か・・・そんな風に言われるほど、大きくないのに。」
夜空を見上げて星を眺めた。
翌日、約束の日の授業中。一枚の紙切れを受け取った。
“今夜、花火をやろうぜ!場所は小十郎の家の近くの公園で!”
本来なら嬉しいが、生憎今日は約束の日。みんながいるんじゃ場所にいけない。でも、せっかくみんなが楽しみにしているのに中止にさせるのはもったいない。俺は断ることが出来なかった。
放課後。瞬熄たちがやってきた。
「小十郎!5時に公園な?」
「・・・おう。わかった。」
参ったな。俺は悩んだ。
時間は5時になり、夕方になった。
「誰かライター持ってないか?」
「えっ?瞬熄持ってるんじゃないの?」
「その・・・家の中探したけど無かったんだ。」
「早く言ってよ!!」
「いいよ。まりの。わたし買ってくる。」
ひかりが立ち上がると、冬華が言った。
「一人じゃ危険よ。わたしも一緒に行くわ。」
「ありがとう冬華ちゃん。」
それから10分後。ひかりたちが戻ってきて、やっと花火を開始した。
みんなは楽しそうに遊んでいた。俺も花火を持っていたが、気持ちがのらなかった。
花火も終わりを迎え、残りは線香花火のみとなった。
「最後はお約束の、線香花火だ!」
「いいね~~」
「絶対最長記録にするんだから!」
「よっしゃあ!誰が一番か決めようぜ!」
やってみると、みんな1分以上続いたが、一番最初に瞬熄が落ちた。
「あああ!!」
次にひかり。
「あちゃあ~・・・」
次にまりの。
「うわ~~!」
次に冬華。
「あっ・・・」
最後に小十郎。
「・・・」
「あーあ。こーくんも落ちちゃった。」
線香花火が終わっても、俺はボーっとしていた。
「こーくん?」
「小十郎?」
「・・・はっ何??」
みんなは心配そうな眼差しで俺を見ていた。
「・・・小十郎。なんか変だぞ?お前らしくないっていうか・・・」
瞬熄がそういった瞬間。
「ほっといてくれ!!!大体、花火で遊んでる場合じゃないんだよ!余計なことに、巻き込まないでくれよ・・・!!」
みんなに背を向けて、俺は神社に戻った。
「・・・はあ・・・はあ・・・」
胸が苦しかった。ふと時計を見てみると、約束の時刻はとっくに過ぎていた。
むしろ抜け出すことが出来てよかった。
神社の裏に行くと、滝が見える崖がある。そこには既に神がいた。
「やっと来たのか。幣六。」
「はあ・・・神、遅くなってすみません。」
「構わない。しかし会議は終わった。主役が10分も遅刻したんだからな。」
厳しいことに、俺は何も言うことが出来なかった。
「まあいい。結論を聴こう。12年前の出来事。忘れてはいないな?」
「はい。俺の答えは・・・」
「こーくん?」
声に驚いた。振り返ると、そこにはみんながいた。
「まっ・・・りの・・・」
後ろにいた神は姿を消していた。
しかし追い風が俺の髪を靡かせる。その拍子に隠れていた左目が見えた。
それを見たみんなはゾッとした。そう、俺の左目は空洞に。瞳が無い。
「・・・こっ・・・小十郎・・・お前、目が・・・?」
「っ・・・!(しまった・・・)」
みんなに見られてしまった。もう後戻りが出来なくなった俺は、正直に話した。
「そうだ・・・俺は妖怪だ。」
「「「「えっ!」」」」
全員が驚いた。
「俺は今日まで、神になることを望むかで、迷ってた。いつかその答えを伝えるときまで、代償として左目を預けていたんだ。それを取り返す日が、今日だったんだ。」
「・・・こーくん。ずっと黙っていたの?」
「・・・っ・・・」
黙っていたことは悪いと思っている。だけど、そんなことよりも幼馴染みであり、今まで一緒に過ごしてきたまりのにも黙っていたことが知られてしまったことが一番辛かった。打ち上げようと思ったことが何度思ったことか。
すると、姿が見えない神の声が聞こえた。
「幣六。何か言わなければならないことがあるんじゃないのか?」
「えっ?」
「自分の今の状況を説明するよりも、他に皆に言うことがあるのではないか?お前が私たちの会議に遅れたことと、同じように。」
そうだった。俺は自分の正体を知られる以前に、みんなに言わなければならないことがあった。
「まあまあ、深いわけがあるみたいだけど、今日誘っちまったのは俺だ。小十郎、悪かっ・・・」
「違う!!謝るのは・・・俺の方だ・・・妖怪だろうが関係ない・・・でも、みんなに‘ほっといてくれ’なんて、言って・・・本当にごめん!!どうか、怖がらないで・・・このまま、みんなとずっと、友達でいたい・・・!!!」
俺は幼い時の出来事から、これまで生きてきて、他人から見たら怖い子供にしか見えていなかった。そんな俺に関わって、共に笑って、はしゃいで。たくさんの感情が、今の俺に勇気をくれた。俺にとって友達は、みんなは、‘神’だ。
瞬熄は言った。
「もちろんだ。怖くなんかねえよ。小十郎は小十郎だ。だろ?みんな。」
「ええ。」
「いつもの小十郎くんのままでいいんだよ?」
「そうそう!これからも友達だよ!こーくん!」
「みんな・・・」
怖がらずに俺をこれからも友達でいてくれると言ってくれた。その気持ちが嬉しかった。
「良き友を持ったな。幣六。」
「神?!」
「お前の答えはわかっていた。神にはなるのか迷っておるのだろ?」
「・・・」
「左目は返してやろう。答えを決められなかったのは、お前の覚悟がま足りぬということだ。それがお前のすべきことだ。」
「・・・神・・・」
「今夜の出来事は全て彼らの記憶から消しておこう。それから、この力も授けておく。使い時が来るやもしれないからな。」
大きな光が覆い、弊六の胸に溶け込んでいく。同時に神は消えていた。
本当は神になると決意を表明したかった。けれどまりのやみんなに見られながら答えるのは、らしくないけど動揺を抑えられなかった。神の言うとおり、まだ神になる覚悟が足りないのかもしれない。
気が付いたときには、俺は神社で眠っていた。
「・・・んん・・・夢・・・だったのか・・・?」
俺は起きて洗面で顔を洗い、鏡を見てみると自分の顔の左目に瞳があることに気付いた。
「夢じゃない・・・」
決意を決めて俺はハサミを持って、ずっと伸ばし続けていた前髪を切り、右側と均等になるように整えた。
そして登校する。
「おはよう。」
みんなは俺に視線を向けた。
「おはよう!こーくん!前髪切ったんだね。似合ってるよ!」
「そうかな。」
「ああ!似合ってるぜ!モテんじゃねえの??」
「うるさいな。」
これからも俺はみんなのことを守るよ。
神がくれた
願いを持つ、すべての“モノ”へ




