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僕の平凡な日常 なんちゃって。  作者: 絹川クーヘン
15/58

第15話 狼男と烏組結成!?


 体が痛むけれど、数斗は新聞配達の支度をする。

「いってぇ・・・(あの後・・・どうなったんだ。)」

外に出ると、からすながいた。

「怪我の具合はどうだ?」

「重傷みたいだ。結構痛む。」

「・・・そうか。今日は私も手伝おう。」

「サンキュ。」

2人が行った後。ぬりかべは起きてテレビをつけた。

「あの騒ぎが世間に出ていなきゃいいけど。」

「“・・・昨夜。富月容疑者の檻に人ではなく動物のような姿をしたものが現れ、逃走しました。檻には富月氏の遺体が無く、争った形跡もないことから警察は犯人を見つけるべく、捜査をしています。近くに住む住人の皆様は、外出しないようにしてください。・・・”」

「えっ!!」

妖怪の姿をニュース番組で流れてしまい、妖怪の存在が世に知られてしまった。

 数斗は新聞紙を握り締めた。ヤイバのいないボロアパートに到着したのだ。

「一人分あったって・・・もう・・・」

「数斗。投函しないのか?」

「・・・」

新聞をポストに入れるか迷っていると、誰もいないはずのアパートの扉が一つ開いた。

「「ん??」」

そして中から手が出てきて置いて行けと合図をしているように見えた。

言葉を失いつつ、数斗とからすなはドアに近づき、思い切ってドアを開いた。

「ヤッヤイバ!!??」

「あっあはは・・・よお!」

「おっお前・・・本当にヤイバか??」

「そうだよ。俺だ。」

「なんでいるんだよ。それにその怪我。」

「まあけがの原因は・・・その、脱走したからな。そんで、出来た怪我ってわけだ。」

裸の上に羽織っている長い衣装の中には、腹部に広く包帯が巻かれていた。

「バカか!!どうするんだよ!!」

「警察が街中歩いてるし。下手に出ねえようにするよ。」

「・・・はぁ。明日も来るからな。」

「おう。」

ヤイバはニッカリと笑った。クールに流した数斗も、内心安心した。

 それからつい長話をしてしまった。

「悪いからすな。さて、帰るか。」

「待ってくれ。瞬熄の家に行かないか。」

不安な表情を浮かべながら、からすなは言った。

「いいけど。何かあるのか?」

「・・・昨夜何があったか、数斗は知らなかったな。話すよ。」

 からすなは、数斗が気絶した後、どうなったのかを話した。

「そうか。瞬熄が・・・その時の状況を聞きに行くぞ。」

 家に着くと、瞬熄のお母さんが案内してくれた。その時初めて瞬熄が頭を打ったことを聞いた。

「無事か!?瞬熄!!」

「数斗さん。からすなも。」

「頭を打ったって?」

「はい。狼男にやられて、その反動で頭を打っちゃって。でも見ての通りピンピンしてますんで。あ!ついでに狼男の腹に蹴りを入れたんで、おあいこってことですかね。」

「腹に蹴り?・・・」

━━━━━「まあけがの原因は・・・その、脱走したからな。そんで、出来た怪我ってわけだ。」

ヤイバが負った傷痕は腹部だった。単なる偶然にしてもタイミングが合いすぎると違和感だった。

「・・・瞬熄、ゆっくり休め。あと、今夜は外に出るな。」

「えっ?数斗さん??」

数斗はそれだけを伝えると来たときよりも顔を曇らせ、瞬熄の家を出た。

すると丁度いいところにぬりかべがやってきた。

「数斗!!大変だ!!ニュースであいつの檻から動物が出てきたって言ってたんだ!!その映像には、狼男が映ってた。」

それを聞いて、数斗は確信した。

「先に帰ってろ。それで何があっても、今日は外に出るな。絶対だ。」

「数斗はどこに?」

「俺は、あいつを止める。」



 満月が少し欠けている今日の夜。来ることを信じて烏天狗は、森の中に一人いた。見えない木の上では、ぬりかべとからすな。それから瞬熄も気になって様子をうかがいに来ていた。

しばらく様子をうかがっていると、この前とは違い、足音が聞こえてくるのを感じた。

「ガルルル・・・」

狼男がやってきた。そして、烏天狗が視界に入ると、襲い掛かってきた。

「フッ!くっ・・・!!!」

槍で防御するが、鋭く長い爪は、交わしても身体に突き刺さる。

「ガルル!!」

「何とか動きを封じられれば・・・」

烏天狗は閃いた。

そして、狼男から距離を取り、生えている木の蔓をできるだけ長く伸ばして狼男に巻き付け、簡単には動けなくしたのだ。

「狼男、いや。ヤイバ!俺だ!数斗だ!」

数斗は変化を解いて、狼男を説得し始める。 その行動に、瞬熄たちは焦った。

「数斗?!」

「あんな無茶な・・・助けに!!」

ぬりかべが行こうとすると、瞬熄が止めた。

「相手の反撃が起きるまで、手を出すな。数斗さんならそう言うぜ。きっと狼男の人間である心に呼び掛けてるんだ。これ以上あいつを傷つけさせないために・・・数斗さん。」

狼男は動きを止めて、じっと数斗を見ていた。

「ガルルルグアアア!!!」

しかし、すぐに手を挙げた。

数斗はすぐに烏天狗となり、攻撃を槍で受け止める。それでも狼男の長い爪はあと数センチで烏天狗の皮膚に食い込みそうな距離にある。そんな状況にいてもたってもいられなくなり、瞬熄は木からジャンプし、狼男の背後に影で覆うような位置に着地し、ぬらりひょんへと姿を変えた。

その時だ。狼男の身体の一部が毛ではなく人間の肌に変わっていたのだ。烏天狗がいち早く変化に気付き、瞬時に思考を堪えて事の把握を済ませた。

「ぬらりひょん!!狼男の背中に影を作れ!!」

「えっ?わかりました!」

「待て!!だったらオイラが。」

ぬりかべは大きくなり、狼男の背後を影で覆ったのだ。同時に森の中にいるものたちを月の光が当たらないよう壁を作ったのだった。そう、烏天狗は狼男が月の光を浴びていることで妖怪の姿が解かれないのだと思考を練った結果、狼男の背後に回っていたぬらりひょんたちを見つけて上手く指示したのだった。月の光が当たらなくなると、みるみる体が人間に戻っていき、烏天狗が思った通り、ヤイバだった。



 次の日になっても、警察はヤイバを探していると報道されていた。本人は数斗の家で寝ていた。それも、鼾をかきながら。

「ああ~~こいつ~~他人の家にいるってことも知らねーで!」

「さすが狼男・・・声のでかさは大きい・・・ううっ・・・」

「近所迷惑になり兼ねないな。」

4人が耳の限界をぼやいていると、ヤイバが目を覚ました。

「ふあああああ~よーーーーく寝た。」

「やっと起きたか!この野郎!!倒れたお前を運んでやったのは誰だと思ってんだよ!」

「わかってるって。けど、月の光は意識しなくても、暴走しちまうんだよな~」

「・・・お前。妖怪に変化したときの記憶、残ってるのか?」

「そうなんだよ。まあ、お前らには迷惑かけちまったな。その肩の傷も。」

ヤイバは数斗の左肩を見た。

妖怪の姿になった身体の傷は対した傷でなければ、姿を解いたあと、傷が残らないのだが、狼男に引き裂かれた深い爪痕は、左肩にくっきり残っていた。

「心配すんな。このぐらいの傷。すぐ直るさ。」

「お前は強いな。重傷を負わせた相手が倒れても、助けるなんてな。俺も人助けがしてえよ。ヒーローみたいに。けど今は悪役だ。どうやったってヒーローにはなれねえ。」

「いや!慣れる!!ヒーローだって最初は普通の人間だったんだ!だから誰だってヒーローに慣れる!!例え悪魔になろうが、必ず正義が勝つんだぜ!!」

ヤイバには聴こえていないが、ぬりかべが必至で訴えていた。

「そうだな。お前には無理だ。強面のくせして弱音吐いてるんじゃ、ギャップを見破られたら負けだろうな。でもそれでも粘るのが、ヤイバって男じゃねえのか?」

数斗は思っていたことを素直に伝えた。ヤイバは強気で言った。

「誰も弱音なんて吐いてねえよ。」

「まあ落ち着きましょうよ?数斗さんもとびつきさんも。」

「おい。‘とびつき’って誰の事だよ?」

ヤイバが瞬熄に眼を飛ばした。

「富月だから、とびつきさん。あだ名どうです?」

「・・・かっけえな~~なら呼び捨てで構わねえよ。」

「アホか!」



 ヤイバはまっすぐ家に帰っていった。すると、警察が集い、その場でヤイバは連行されてしまった。

「捕まえたぞ!!富月!!」

「さあ、刑務所まで来い!!」

「ふう~。またか。」

抵抗する暇もなく、手錠をかけられ、車で行ってしまった。

 車のなかで警察官二人に囲まれて、手錠で縛られている間も車に揺られている沈黙の中。しばらく黙って外を見ていると、ビルの周りに人混みが出来ていた。ビルの上を見てみると、小学生の男の子がビルのわずかな足場に座り込み、今にも落ちそうだった。

「・・・っ!車を止めろ!!」

運転手はブレーキを踏んだ。

「なんだ!富月!!」

「外を見ろ!!ガキが落ちそうなんだよ!!」

「何??」

警察官はビルの方を向き情況を見ると、男の子が泣き叫んでいる姿を確認した。

「助けないとじゃねえか?」

「いや。今はお前の事情聴取が先だ。車を走らせろ。」

警察官の判断に、ヤイバは相手が警察官でも構わず胸ぐらをつかんだ。

「今どんな状態かわかってんのか?あ?ガキを見捨てるってのかおめえは!!」

「離せ!お前は指名手配中の犯人なんだよ。だから手柄を受けとるのが国の義務だ!」

「ばか野郎!!何が国だよ!今目の前で、助かる命を見捨てるなんてそれでもサツかよ!!!ガキ一人守れねえで偉そうにしてんじゃねえぞ!くそアマ!!」

ヤイバも手錠を付けられたままで外に出た。

ヤイバは裏口を見つけた。しかし内側から鍵がかけられており、中には入ることができなかった。

「くそっ!手錠さえ外せりゃあ・・・こうなったら、一か八かだ!!」

ヤイバはビルの中に侵入し、男の子がいる場所に向かった。

外では、親と思われる人が警察から事情を聴かされていた。

「うちの子が外に!!いったいどうして????」

「落ち着いてください!!大丈夫です。我々にお任せください。消防と救急車を呼べ!!子供に何かあったら大変だ!!準備を急げ!!」

 ヤイバは窓を開けると、男の子を見つけて呼びかけた。

「おい!大丈夫か?」

「うわああーーーこわいよー助けてーー!!」

子供はヤイバを見てさらに泣き出してしまった。その声に警察官が気づき、ヤイバがビルにいることを知った。

「あいつ。勝手な行動を!!おい!裏口から周り、富月を捕まえろ!!」

「はい!」

 「怖いのは我慢しろ!!今は手を伸ばせ!!小僧!!」

「いやだ!!」

「死にてえのか!!早くしろ!!」

「いやだ!!」

男の子はしゃがんだまま、立ち上がることすらできないでいた。

「待ってろ!動くんじゃねえぞ。」

 その状況は、事件に駆けつけたカメラで報道されていて、テレビを見た数斗たちも、様子を見ていた。

「数斗!ヤイバが大変なことに!!」

「何?あっ・・・ヤイバ・・・」

 瞬熄たちも。まりのたちも。冬華も見ていた。

 「ほら!手を伸ばせ!!」

「ううっ・・・」

ヤイバが限界まで伸ばす腕に、震えながらも男の子は手を伸ばす。とその時。急に風が吹き、男の子はふらついた。

「うわっあっ!」

すると、ヤイバは届かない分を身体ごと伸ばし、自分を支えるはずのもう片方の腕を外して手を掴み、男の子の落下を防いだ。自分の身体は大きくて分厚い足で固定していた。

「よかった・・・」

ヤイバがほっとすると、下で見ていた人たちが歓声を上げた。警官もほかの警察官たちにトランシーバーで伝えた。

「富月確保保留。富月を救出して、同時に子供も無事に救出せよ。」

「“了解”」

 無事に救助できたヤイバに、男の子はお礼を言った。

「ありがとう。お兄ちゃん。」

「おう。よく怖がらなかったな。坊主。さすが男だ。」

「うん。お兄ちゃん怖いけど、かっこよかったよ!!」

「ありがとな。ひひっ」

「富月。」

警官が突然呼び出した。

「はいはい。手錠だろ?悪い。」

渡したのはボロボロに砕けた手錠だった。

 そう。ヤイバは窓を開ける前に、狼男に変化し、手錠と扉を壊し、自分自身との耐久を乗り越え男の子を助けに向かったのだった。

「・・・お前、どうやって・・・」

「俺は昔ボクシングに柔道やってたんだ。だから瓦割りよりましなもんは、壊せる馬鹿力があるんだよ。」

「そういうことだったのか。」

「さあ。またつけてくれよ。」

「いいや。つけない。お前はもう人助けをした。だから逮捕する理由は無くなったんだ。上からの決断だ。お前を、釈放する。」

「・・・ハハハッそうかよ。警察も甘いな。」

そういうと、ヤイバは堂々と胸を張って帰っていった。



 夜。瞬熄の呼び出しで、数斗とヤイバは共に歩いていた。

「なんだよ急に呼び出しやがって・・・俺は眠いのに・・・」

「俺の従弟が、お前を紹介したいってさ。」

「ふーん。まあいいけどよ。一人で食うより旨そうだし。それはそうと、お前チームを作る気はないのか?」

「あ?チームって?」

「チームだよ!俺はお前と相性がいいと思うんだ。だからお前を組みたい。どうだ?」

「ちょっと待てよ。別にチームを作らなくても、敵が現れたときに一緒に戦うなら、それでいいと思うんだけど。」

「それじゃあダメなんだ。親から聞いたけど、親は昔一匹オオカミで行動してたんだが、ある日妖怪百鬼夜行が現れて、そこで、百鬼の中の一人として、力を尽くして戦ったそうだ。仲間と共に戦っていくことは自分自身に磨きがかかるっていうことが分かったらしい。そんなことを教えてもらったけど、実際百鬼夜行なんてはいれるわけねえし。チームだったら、俺も、仲間たちと戦うことができるかなーってな。まあ、小さい俺の夢だけどさ、数斗が作らないなら、他を当たるよ。」

ヤイバは、チームを作ることを夢に見ている。だけど、その夢は自分でも作れるはずだ。

「とびつき、お前がチームを作ったらいいんじゃねえの?」

「・・・それはできねえよ。俺がチームを作ったって、自分をコントロールできないし・・・」

ヤンキーでも、小さな夢を追いかけている。なんて

「かっこいいな。」

「ん?」

「小さな夢から、いつか大きな夢に変わるための第一歩を、お前は踏み出そうとしてるんだろ?百鬼夜行。いつかその“チーム”に、仲間入りしようぜ。ヤイバ。」

「それって、チームを作るってことか??」

「ああ。そういうことだ。」

「・・・数斗・・・おめえはやっぱ最高の男だ!!!」

数斗はこうして、百鬼夜行への道を作り出したのだ。

「よし!チームは"烏組"!どうだ!かっこいいだろ。」

「いや。直球過ぎるだろ・・・」

2人は瞬熄の家まで、夜道を歩いた。


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