二幕 異変
日が昇ってから間もなく、ユリアウスは帰る支度も終えてハスタラフの小屋を出発するところであった。昨晩は実に有意義な時間を過ごせた、酒を楽しめる相手に恵まれた事もそうだが、アカデミア出身ではない者があれ程上手く原素を扱えるなど思ってもいなかったので本当にいい勉強になった、今後は部下が自らの能力をアカデミアのせいになどした時にはハスタラフを見習えと言ってやろうとさえ考えていた。愛馬ルシュテナの手綱を持ちながらユリアウスはハスタラフに礼と別れを言うと、ハスタラフは森の入り口まで送っていくと言っていたが酒が抜けきっていない彼の顔を見たユリアウスは提案を断った、ユリアウスは日頃から酒を嗜んでいるのでなんら問題はなかったが、飲みなれていないハスタラフにとっては許容量を超えていた様だ。確かに森は複雑で迷いやすいかも知れないが方向感覚が良いユリアウスに加えルシュテナも一緒なのだから問題はないと思えた事も提案を断った大きな理由になった。そして二人はまた近々飲む約束を交わすと腕同士を打ち付け合い(※19)ユリアウスは森へと向かい、ハスタラフは頭痛を我慢しながらも友人が見えなくなるまで扉の前に立って見送った。そして友が見えなくなった後に彼はふと空を見上た、雲がぽつぽつと目立つそんな空に何故か虚無感に近い切なさを覚えた様な気がした。
昨晩とは違い荷物も少ないのでルシュテナに乗る事も出来たが、跨ると頭に木々の枝がぶつかりうっとうしいだろうと思ったので歩く事にした、静かな森の中を黙って散歩するのも気分がいい、ルシュテナも早朝の自然を満喫している様で表情が穏やかに見えた。補整されていない森の入り組んだ道は確かに迷いそうでもあったが、昨日の足跡が残っていたので問題なくそれを辿る事が出来た、人間達の足跡だけでは若干見にくかったかも知れないがルシュテナの蹄はくっきりと地面に残っていた。森の中の空気とは清々しいものだ、アカデミアで習った事だが周りに木々があると原素を集めやすいのも何となくだが納得がいく、そんな事を考えながらしばらく歩いていると湧き水が流れて出来上がった小さな泉を見つけた。丁度寝起きで喉が渇いていたので愛馬と共にその泉で小休憩をとる事にした。両膝をつき、透き通る様な美しい水を両手に汲み上げ飲んでいると自らが酒好きな為か戦神の話(※20)が頭に過り、嫁やもうすぐ生まれる子供の為に酒を慎もうかと苦笑いを浮かべた、ふと目を横にやるとルシュテナがユリアウスを見ながらあたかも彼の考えを読んだかの様に頷きながら水を飲んでいる。
木陰で心地よい風が吹いている静かな森の中でユリアウスは何も考えずにただ座って愛馬が水を飲み終えるのを待っていた、たまに聞こえてくる虫の声や木々の囁きに交じって微かではあるが人の声が聞こえた様に思えた、気になったのでよく耳を澄ませて見ると昨日聞いた老人の声に似ている、ユリアウスは立ち上がると声の聞こえる方角へ歩いて行った、ルシュテナは一度水を飲むのを止めて主人を見たが主人は特に急いでいる様子でも無かったので再び水を飲み始めた。昨晩座っていた場所とは違う、日の光が降り注ぐ開けた場所で老人は同じ様に座って同じ詩を詠んでいた、森の静寂と降り注ぐ太陽の光が相まって神秘的な存在感が老人から出ている。ユリアウスは声をかけてみようと思ったが、耳が聞こえないのでは仕方がないとも思えたし、何か邪魔してはいけない様な雰囲気が老人にはあったので思いとどまり、遠目からただ黙って老人の詩に耳を傾けているだけにした。老人の詩を最後まで聞くとユリアウスは踵を返して戻ろうとしたが、その直後彼は足を止め振り返った、老人が詩の続きを詠みはじめたからである。
「月の女神が愛おしい 金に光るに憧れて 青く光るに妬ましく 赤く光るに悔やむのみ 始まりあるから苦しくて 終わりあるから潤おしい 廻れよ廻れ 月の女神を望むなら...」
昨日老人はこの節は詠んでいなかった、部下のサイフにも記録されてはいなかった、ユリアウスは詩の先を老人が詠うかも知れないと思い、そのまま傾聴したが老人は最初の節とこの新しい節を繰り返し詠い続けるだけであった。ユリアウスは詩の新しい節を聞きながら、昔の思い出があたかも壊れかけたサイフの色あせた映像の様に断片的に頭に浮かんでは消えていった、それはやはり神話を話してくれた祖父との思い出であり、思い浮かぶ記憶の断片から高慢や妬みを悔やむ様な感情が生まれ、その感情がさらに彼の後悔した人生経験の数々を思い出させていた。思い出は今でこそ後悔の念が浮かんでくるが当時の自分ではその様な事は微塵も考えていなかった、殆どの後悔すべき出来事は一時の感情的な反応から起こした行動ばかりだ、『もしあの時、少しだけ冷静になっていれば...』そんな事を考えても無駄ではあるが、同じ過ちを再び繰り返さない為には必要な事かも知れない、長い人生の間に同じ様な場面には幾度となく出くわすだろう。ユリアウスは感傷的な気分に浸りながらも神話の内容を思い出そうと努力をしたが、幼い頃の記憶なので細部までは思い出せなかった、しかしやはりその神話を聞いた時に今感じている様な悔恨の念を生み出す様な話であったはずだ、幼いながらにひどく感情的になっていた様に思える。ユリアウスはその場で老人の詩を聞きながら色々と思い出される過去に一喜一憂しながら思いにふけっていたが、水を満足するまで飲んだルシュテナが隣に来たので老人に一礼するとその場を離れた。ユリアウスは黙って歩きながら詩の内容を考えてはいたが満足する様な結論が出ないまま森の入り口付近まで来てしまった。若干うつむきながら考えていたのであろう、ユリアウスは森を出てルシュテナが甲高く嘶くまで異変に気付く事はなかった。
ユリアウスが顔を上げると目に映ったのはメルギスから昇る黒煙であった、その瞬間彼の全身に冷や汗が流れた。『なんだ?火事か?』最初に思い浮かんだ事は至極単純な考えであったが日中であるにも関わらずにはっきりと目視出来るという事は只事ではない、そこに気が付くと彼の楽観は足元から崩れ去り不安と恐怖が彼を飲み込んだ、恐怖は彼を焦らせすぐさま愛馬にまたがると全速力で家へと走らせた、いつもならばルシュテナの限界までスピードを出す事等しない、しかし今彼が考えている事は彼の愛する嫁とお腹の子の事のみであった。心臓が口から出てきそうな激しい嫌悪にさいなわれながらも自らを必死に落ち着かせようと努力をしていた、しかし距離が縮まるにつれて見えてくる故郷の痛ましい姿に彼の焦燥と動揺は抑えられない程強まっていった。疾風のように大地を駆けながら、ユリアウスは血の気の引いた顔を強張らせ体の震えを必死に止めていた、一度体が震えだしたらもう二度と止まらない様な脅迫観念さえも抱いていた。自らの感情を誤魔化す様に必死に愛馬を走らせた、後ろから悪夢が彼を追いかけてくる様な感覚(※21)に襲われその悪夢から逃れる為に必死だった、悪夢から逃げても前にあるのは残酷な現実である、しかしそれでも現実ならば何かしらの希望が見いだせるかも知れない、だから彼は後ろを振り返らず(※22)必死に現実に向かっていった。
何が起きているか一切見当がつかない、それが彼の恐怖を更に煽った、未知の恐怖程恐ろしい事はない。彼を追ってくる悪夢は徐々に大きくなりながら彼を追いかけてきた、悪夢は決して急がずユリアウスの逃げる速さより少しだけ早く追いかけて来た、彼が少しでも不吉な事を考えれば悪夢はその考えを増長させ彼を苦しめた、楽観的な考えなぞ思い浮かぶはずもない、思い浮かんだとしてもそんな考えは瞬時に悪夢が取り込み醜悪な形となって彼を更に苦しめた。ユリアウスは自身の心持ちを抑える事に必死であった、彼は愛する嫁やお腹の子、家族や仲間の安否、色々な事を考えていたが彼を飲み込もうとしていた不安の要素は他者に対する思いからだけではなく、彼自身が作りあげた虚像に対する負の感情である事も事実であった。ユリアウスの頭の中は恐れと焦りから今まで学んだ事や経験した事が全て混ぜ合わせられ現実的な考えか空想的な考えかの区別もつかない程混乱していた、そしてそんな状況が彼を盲目にした。ただ一つ目に見えて理解していた事はこの状況の重大さのみである。国が近づくにつれて見えてくる、悪夢から逃れる為に向かっていた先は皮肉にも自らが最も恐れていた『悪夢の現実』である事に、それでも彼は進んだ、そこに少しでも希望の光があるのならそこに向かうしかない、目の前にあるのは悪夢の様な現実かも知れない、しかし現実でならばこそ希望もまた存在するはずだ、希望の光が存在しない悪夢そのものに飲み込まれるよりもずっといい、そう思いながらも状況の悲惨さが目に見えてくるとユリアウスは目に涙を溜めながら自分を保つ事に必死になり、ただただ祈っていた、普段神に祈る事などしない、それを急に祈りだすなど都合がいい事かも知れない、しかしユリアウスはそれでも何かにすがりたかった、それがどんなに利己的であると罵られようが否定されようが彼は祈るしかなかった。
『ヒュリーラ!お願いだ!無事でいてくれ!アマノフスよ頼むヒュリーラとお腹の子を守ってくれ!オルフトスよ頼む!まだ二人を連れて行かないでくれ!ジャヴァスの神よ!二人が無事ならば貴方を絶対の存在として敬い崇め続ける!だから!だからお願いだ!ヒュリーラ無事でいてくれ!彼女と子供さえ無事なら俺の命などくれてやる!だから!だからお願いだ!』
彼は何度も何度も祈り続けた、ルシュテナも主人の思いを受け懸命に走り続けた、遠目から見た限りでもはっきりと分かる、正門は破壊されている、黒煙の量や昇り方を見ても被害は尋常ではなかった、こんな事が自然現象のわけがない、どこかの国から侵略されたのだ、ユリアウスは侵略された事を事実と受け入れたがどちらの国が攻めて来たのかを考える事はしなかった、いや、出来なかった、今彼の頭にあるのはヒュリーラとお腹の子だけである、ここまでくるとその事しか頭になかった、最悪の状況ではあったがヒュリーラさえ無事であれば国が滅びてもいいとさえ考えていた。
無残にも破壊された門を走り抜け、昨日まで人が住んでいたなど信じられない様な焼き崩れた民家の数々を無視してユリアウスは一心不乱に愛する嫁のいるはずである家に向かった、昨日までは人々が活気を与えていた通りも今ではただ赤と黒の悲惨な色合いで染められている...ユリアウスの心臓は握り潰されているかの様に彼を締め付け苦しめた。
どんなに周りが悲惨な状況でもユリアウスの中には未だに希望があった、それがどんなに非現実的な考えであったとしてもユリアウスの中に存在した『もしかしたら…』そんな淡い希望。人はどんなに非現実的な思考でも自らの精神を落ち着かせる為にはその淡い可能性を信じようとする、そして結果が目に見えて表れるまでは光が見えるものだ。しかしその淡く弱々しい光も朽ち果てた我が家を見て消え失せた。その光が消えると同時に彼は茫然自失に陥いり、目の焦点をどこにあわせるでもなく力なくその場に崩れ落ちると目の前にある残酷すぎる現実をどうにか否定しようと必死であった。
彼の背後では悪夢が待っている、彼が再び動き出す事を待っている、悪夢は望んでいるのだ彼が再び希望を見つける事を、そうすれば再び彼は動き出す、そして動き出した獲物を嬉々として追いかけるのだ、まるで無邪気な少女が蝶をただ追いかける様に。夢の女神は決して自ら手を下さない、人間が疲れ果てるのを楽しみにしながら無邪気にただ追いかけるだけだ、そしてもし獲物が動くのを止めたなら再び動かす為に夢を与える、希望という名の明るい夢を見せる、そうすれば獲物は再び動き出す、餌に向かって歩み始める、悪夢から逃れる為に走り出す、夢の女神は人が必死に足掻く様がたまらなく好きなのだ、彼女は決して残酷ではない、ただ必死になっている者が愛おしく見える、ただそれだけだ。
ユリアウスは失意の中で必死に自らの求める答えを探した、何があったのか全く分からない、ヒュリーラが無事なのかどうかも分からない、町の人間達が見当たらない理由も分からない、誰がこんな事をしたのかも分からない、しかしそれでも彼は欲しかった、何か理由が欲しかった、彼が生きる為に必要な希望が欲しかった、それがどんなに理不尽な希望でもいい、崩れ落ちてそのまま朽ち果てたい欲求を打ち負かす淡い希望が欲しかった。しかし彼はその希望も見いだせないまま彼はただ茫然と焼け落ちた我が家を眺めている事しか出来なかった。混乱した頭で状況を飲み込もうとしてもそれは泥沼から真水を汲み上げようとしている様なものだ、虚無と失意に打ちのめされ虚脱状態の主人を見かねたのか、ルシュテナが頭でユリアウスの背中を押すと前両足で地面を二三度踏みつけた後に勇ましく嘶いた。ユリアウスが愛馬の目を見るとそこに希望の光を見つけた様な気がした、まるでルシュテナが彼に『希望とは待っていても見つかる物ではない、自らが動いて始めて輝きだす物だ。』こう言っている様に思えた。ルシュテナに激励されたユリアウスは我に戻ると立ち上がり愛馬の頭を撫でると生存者を探し始めた。
ユリアウスは廃墟と化した町で愛馬と共に練り歩いた、唸り声等は聞こえていたが火傷や外傷が酷いすでに手後れの者達がほとんどであり、話しが出来る状態の人間を見つける事も出来ないまま、立ち上る黒煙を吸って何度もむせ返りながらも探索を続けた。そしてようやく微かではあるが助けを求める声を聞いた、急いで声の方に向かってみると一人の老婆が家屋の下敷きになりながらも右腕で何かを守りながら左腕を必死に動かしながら瓦礫の山から這い出ようともがいていたのが見えユリアウスはすぐさま駆け寄り老婆を救けだした。老婆が自らの身体を挺して必死に守っていたのは五歳程の少年であった、ユリアウスは焦る気持ちを抑える事が出来ずに老婆に事情を聞きたい一心でたずねた。
「一体何が起きたんです!昨日は平穏だったのに、一体誰がこんな事を!?」
老婆は、震えながら泣いている孫と思われる少年を抱きしめながら、弱々しい声で答えた。
「火事があって…それが急に町に広がって…そしたら兵隊が攻めてきたんじゃ...抵抗した連中もみんな連れていかれちまった...ジャヴァスの法衣を着た連中も一緒になって町を焼いて、逃げる者達を捕まえてった...孫だけは守ろうと隠れてたんじゃが...連中は町を焼き尽くしていった...」
泣きながら震える声で老婆は少年を強く抱きしめながら続けた。
「連中はカナハザの化け物(※23)じゃ...この子の親も、息子夫婦も連れていかれた...」
「どこに!どこに連れて行かれたんですか!」
激しい感情を抑える事が出来ず、ユリアウスは老婆を揺さぶる様に手を震わせながらたずねたが、老婆は泣きながら首を横に振っているだけであった。ジャヴァスの法衣を着ていたという事はセフィトメアの連中が攻めてきた可能性が高い、いち早くセフィトメアに駆けて行きたかったが、老婆と少年をこのままにしておく事は出来ない、そこでユリアウスはルシュテナに跨ると二人を抱き抱えながら西の森に走った。走っている最中に今の状況について考えていたが、未だに不明瞭な事が多すぎた、しかし五里霧中であった少しばかり前の状態よりは若干考える事が出来た。
『どうやらこれはセフィトメアの連中が感謝祭の準備を口実にして画策した侵略計画の様だ、火の手が一挙に回ったという事は恐らく感謝祭の用意にみせかけて火計の準備をしていたのに違いない。しかし理解不明な事も沢山ある…侵略が目的ならなぜ国を全て燃やした?近年友好関係であったはずなのに、それが何の前兆もなくいきなりこんな狂った事を行えるものなのか?そして何より、なぜ人々をさらっていったのだ?』
その他にも気になる事がいくつもあった、しかし最も気になる事は愛する嫁の安否である、故郷が滅んでしまってもヒュリーラさえ無事でいてくれればそれでいい、彼女さえ生きていてさくれれば全てを失ってもいい、ユリアウスはそう強く願いながら愛馬を走らせた。
森の入り口に着くと二人を下し、泉のある場所を教えた、この二人も森の泉ならば安全だし落ち着くはずだ、人として正しい事をするならばハスタラフの所にまでこの二人を案内するべきなのだろうが、今の彼にはその時間が惜しかった、少しでも早くヒュリーラを助け出したい、その思いしか彼にはなかった。そこで老婆にハスタラフの事を教え彼は味方だから安心する様にと伝えた、もし会わない様ならばその泉で待っている様に教えると、彼はセフィトメアへと急いだ。
『連中が人々をさらって行ったと言うならばきっと奴隷にするつもりのはずだ、それならばさらわれた人々はまだ無事なはずだ、ヒュリーラもきっと無事だ、お腹の子もきっと無事だ、無事に決まっている!直ぐに助け出してやるからな!』ユリアウスは心に希望の光を灯らせ、力強い目をセフィトメアの方角へ向け走った。
希望を胸に力強く悪夢から逃げ出して行く人間を眺めながら、夢の女神はきっと無邪気に微笑んでいるだろう。逃げる人間の後ろを嬉々として追いかけながら、人間は知る由もない、自らが望んで走っているのか…走らされているのか...走る事を強要されているのか…走らざるを得ない状況に貶められたのか…だがそんな事は彼女(※24)にとって重要な事ではない、喜ぶべき事は人間が動き出したという事だ…
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※19:腕を打ち合う・・・元は戦場で共に戦う戦友同士がお互いを鼓舞する為に使われたジェスチャー、神話にも出てくるが一貫性がなく後世が脚色したと思われる。
※20:戦神の話・・・夢の女神ミェフテストルムが戦神オグルジィドに恋をする話、一目惚れした夢の女神はオグルジィドに彼女の夢を毎晩見せたが、彼の興味は酒にしか向かなかった。そこで彼女はオグルジィドが酒に殺される夢を毎晩見せ、酒に嫌悪を持たせようとしたが、逆に自分を殺す程の美酒だと勘違いしたオグルジィドはその酒を自ら作り飲んでしまい、自らが酒と同化してしまった。
※21:悪夢が追いかけて来る・・・夢の女神は気分次第で悪夢を人々に見せ(これは寝ている時だけでは無く悪い考えや想像も彼女がもたらすとされた)その反応を楽しんだ、そしてそれは彼女が飽きるまで執拗に繰り返されるため、追いかけられるという言い回しが用いられた。
※22:後ろを振り返らず・・・神話の中に登場する逸話の中では後ろを振り返ると不幸な結末を迎える話が多く、別れ際でも振り返る事は縁起が悪いとされていた、しかし、ここでの解釈はキシャラテが竜の怪物と戦った際に止める村人達の方を振り返らず一心不乱に竜に向かっていきそれが実はトカゲの生み出した虚像であったという話に基づき、前を見る事が希望に繋がる事を意味している。
※23:カナハザの化け物・・・カナハザという島に住み着いていた者達は非常に好戦的で島に上陸する者達全てを捕えて奴隷として酷使するか賭け事の対象として道具として扱われたり、時には儀式の生贄にされるとされ、忌み嫌われる対象になっていた。歴史的に実際にその様な部族があったかは依然不明である。
※24:彼女・・・夢の女神ミュフテストルムの事。