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初級原素術学

 多数の窓から太陽の光が注ぐ広々としたアカデミアの教室でユリアウスは暇を持て遊ばせていた、彼の周りは皆若い学生ばかりである、自分は常日頃まだ若いと思っていてもこの様な状況に居合わせれば否が応でも年齢について考えさせられる、実際に既婚者であるし、子供ももうすぐ生まれるのだから若いとは言い切れない年齢なのであろう。年齢と言えば、気になる事は現在授業を行っているシシャーナ先生の御年齢だ、彼女はユリアウスがアカデミアに入学した時からずっと変わりない姿である、恐らく六十代であろうが、全く年齢が表に出ていない所が彼女が魔女と呼ばれている要因の一つであろう。そんな事を考えているユリアウスに気付いたのか、白い三角帽子をかぶったシシャーナ先生が彼と目が合うと同時に微笑んだ、これは彼女が生徒が答えるには難しい問題を出すサインでもあった、そこでユリアウスは問いかけに集中する事にした。

「それでは皆さんのお手元にあるサイフ(※1)をご覧下さい。」

そう彼女が言うと、周りは一斉に手元に置いてある水晶に手をかざした、するとそこに映像が映し出された。周りは滞りなく映像を映して出していたが、ユリアウスの隣に座る学生は映像が映らず慌てていた、ユリアウスは何も言わず学生の水晶に手をかざしたがやはり映らなかった、そこでユリアウスは手を挙げ先生に申し立てた。

「シシャーナ教授、このサイフには情報が入っておりません。」

それを聞くと先生はニコリと笑い、それを確かめる事もせずにすぐに新しいサイフを用意した。新しいサイフに学生が手をかざすと今度はしっかりと映像が映し出された。学生はユリアウスにお礼を言うと映像に集中した。ユリアウスも映像に目を向けたが、どうやら教材は去年の物と一緒らしい、それが彼の興を削いだ、とは言え質問までも一緒とは限らない、むしろ先生の性格からすると同じ質問をするとは思えない、彼は一応集中しながら映像を眺めた。

 サイフに映っている映像は男が基礎原素術(※2)の応用を実演している所であった、もちろんユリアウスは去年にこの映像を見ているのでそれ程驚いた訳でもないが、やはり凡人では決して届かない高レベルの原素術には興味をそそられる。水晶に映し出された状況は決して鮮明とは言い難く全てが半透明であり、さらにサイフによっては霧や靄の様なものに覆われている物もあった、これは公共のアカデミアであるから多少の劣化は仕方の無い事だと思い文句を言う生徒はいなかった。 最初に映し出された映像では男が両手で三角の形を作り原素を構築していた、男の両手からおよそ三十センチ程離れた場所に圧縮された原素により歪みが現れ、直後に地面に設置されていた木の樽が何かに押し潰される様に破壊された。そこでシシャーナ先生は一度生徒にサイフを止める事を促した後に質問した。

「この男性の使用した原素は一体なんでしょうか、分かる方?」

教室の前の方に座っていた若い生徒が即座に手を挙げ、先生は笑顔で発言を促した。

「使用されている原素は風だと思います。」

「ご名答、仕組みについての推考はありますか?」

若い生徒は若干考えた後に彼の意見を述べた。

「推測ですが、原素を収縮する際にあえて空間を狭め、そこに風の原素を流し込む事で空間の原素密度を高めた後に空間の一部を開放する事により圧縮された風原素が対象を押し潰したのだと思います。」

ユリアウスは感心しなが彼の意見を聞いていた、初めて見たであろうこの原素術をそこまで推測出来るのは今までしっかり勉強していた証拠であろう、しかし彼自身が生徒の答えに付けた点は七十点といった所であった。生徒の考えを実行に移すと、原素が集まり空間に歪みが生まれる所までは順調にいくが、その空間に穴をあけるだけでは集められた風原素が抜けるだけで運が良くてもカマイタチが発生する位である、部下に試させたので間違いない。案の定、先生は一言笑顔でおしいと生徒に告げた、その後に正確な答えを示した。

「彼の推考は半分以上正しいのですが、空原素は他の原素とは違い、重力による影響が極めて薄い原素です、ですので、ただ空間に点を開けるだけでは集められた原素が抜けるだけになってしまいます。ここで必要になる技術は原素が凝縮された空間を圧縮する技術です、圧縮する際にも空間に溜めこまれた原素圧を保ったまま即座にかつ正確に対象に向け放出させなくてはならないので、技術的には中級原素術の組み合わせですが、必要になる熟練度や技量は上級原素術と言っても過言ではないでしょう。」

そこまで答えるとシシャーナ先生は生徒たちに次の映像を見る事を促した。

 水晶の中の男は地面に向かい両手で再び三角形を作り集中し始めた、すると地面の中を蛇が這っているかの様に蠢きだし、前方に設置されていた樽に触れた瞬間、樽の周りがへこむと同時に土が樽の半分を飲み込んだ。ここで再びシシャーナ先生は生徒に問いかけた。

「さて、この原素術の仕組みが分かる方?」

先生は周りを見渡したが、挙手している生徒は先ほどの生徒のみであった、先生は一度ユリアウスに目を向けたが、彼は首を振り回答を拒否した、仕方なく先生は再び同じ生徒を指名した。

「これは地の原素を利用した技術で、大地に集めた原素を操り地面を掘り返しながら移動させ、対象に接触すると同時に土の密度を圧縮し、その後に圧縮を解く事によって発生する波で対象を捕えたものだと思います。」

ユリアウスは微笑んだ、先ほどの回答はかなり優秀なものであったが、今回の回答はごくありきたりの回答と言ってよいだろう、まず彼の理論では最初に土を動かす意味がない、さらに地原素を圧縮すると固くさえなれどあの様に穴を作る事はない。シシャーナ先生もやはり同じ説明をし、その後、解説に移った。

「今回の原素術は確かに地原素を使用した技術ですが、水原素術も含んだ極めて複雑な原素術です。最初に地面が盛り上がった事に気付いた方も多いと思いますが、あれは地原素を操ったのではなく、地面に含まれる水分を利用した水原素術なのです。周りの、主に対象周辺の水原素を集める事によって大地は膨張します、その後にも対象の周りの水原素の吸収を続けます、その為に膨張した大地があたかも地面を這っている様に見えるのです。そして一定の水原素を失った地面には空間が出来上がり、地原素を操る事で出来上がった空間を瞬時に取り除く事により対象を穴に落とした様な結果を生み出します。最後に必要になるのは先程集めた水原素を地面に再び戻す事によって元の質量に戻る大地の動きに合わせ地原素を操る技術です、その結果がご覧いただいた土の足枷の作り方です。これは単純な技術に見えますが、二つの原素を同時に操るという天性の才能に加えて自然の動きを理解していないと行えない極めて高度な原素術と言えるでしょう。」

 そう説明するとシシャーナ先生は再びサイフの映像を見る事を促した、しかし今度はユリアウスを見ながら笑顔で言っていた、彼はそれが何を意味するか分かっていた、次の問題は彼に答えてもらうつもりなのであろう。ユリアウスはアカデミア卒業後も仕事上講義を受けなくてはいけない事が多いので、自然シシャーナ先生の行動もよく理解出来ていた。どうせ次も去年と同じ映像であろうから問題はない、そう思っていたが、彼の予想は見事に裏切られた。全くもって初めて見る映像である、しかも水晶に映っている男は先ほどまでの原素術師ではなく、英知ある者(※3)である。ユリアウスはかなり焦った、現在まず間違いなく最高の原素術師であろうこの老人が行うのである、これは予想を遥かに上回る超難易度の術であろう、焦燥もあったが興奮もした、英知ある者の術などめったにお目にかかれないからである。

 水晶には老人が映つった、その老人は凛とした姿勢で肩を広げ、右手を滑らかに回しながら左手で扇ぐ様な動きをしていた、すると右手の辺りの空間に歪みが出来上がり、老人が手の動きを止め両手を合わせると先ほど出来た歪みの中に炎が渦巻いた、そして同時に力強く両手で三角の形を作り出し押し出す様な動きを見せた、すると歪みと炎は一線を描きながら前方にあった鉄の塊をドロドロに溶かした。その映像を見ながらユリアウスは呆気にとられていた、この様な原素術は異端中の異端であるからである、ここまで強力な原素術を人間が操れるとはにわかには信じられなかった、おとぎ話でもこれ程大層な原素術など出てこない、出てくるのは神話の中くらいだ。そんな茫然としていた彼だが、シシャーナ先生の声ではっとした、彼女は確実に自分に質問してくるであろうから考えをまとめなくてはいけない。そして彼の予想通りシシャーナ先生はこう言った。

「今ご覧頂いたのは英知ある者の称号を過去二十年以上も守っていらっしゃるセロフネフィス老師による原素術であります。セロフネフィス老師は国が違えども後世の育成の為にと、この様に現在最高の原素術をお披露目なさって下さいました。老師の恩に報いる為にも我々はこれからも原素術の向上に力を注がなくてはなりません。さて、余談はこれ位にしておきまして、老師の行った原素術が説明出来る...」

ここまで言うと先ほどから回答を繰り返している学生が手を挙げた、ユリアウスはこのまま彼が答えてくれる事に淡い期待を寄せていたが、やはりシシャーナ先生はそれほど甘くはなかった。

「そうですね、生徒諸君にも是非答えて頂きたいのはやまやまですが、今回の問題は我が国の安全を守る名誉あるメルギス(※4)警備隊の部隊長であるユリアウス隊長閣下にお答え頂きたく思います。」

教室内がざわめいた、アカデミアに入学する大半の者はメルギス警備隊に所属したいが為に来るのである、しかもその部隊長が同じ教室にいるのである。その事に驚いた者と今の内から隊長に自らを売り込もうと思う野心家のざわめきがユリアウスを更に緊張させた、シシャーナ先生を見ると屈託のない笑顔で彼を見ていた、学生達に自分の事を知られるのが嫌いな事を知っていて彼女はわざと大げさに紹介するのだ、きっと彼女に年齢を聞いた時の事を根に持っているに違いない。ユリアウスは仕方なく起立すると、瞬時に教室中の視線を集めた、年に一度アカデミアの授業を受ける決まりになっているが、上級過程は面倒なのでいつも下級過程を選択するが、問題はいつもこれだ、上級過程の者達はすでに幾度か警備隊の連中との接触もあるのであまり物珍しくはしないが、下級過程の者達はいつも盛大な反応をする。ユリアウスは心の中で深くため息をつくとぎこちなく笑顔を作った。シシャーナ先生は未だざわめく生徒たちを静かにさせると再度ユリアウスに質問した。

「それではユリアウス警備隊長、さきほどの原素術についてのご説明をお願いします。」

 ユリアウスは自信があった訳でもないが、とりあえず彼の推考を述べた、あれだけの超難易度の原素術だ、分からなくても仕方がないだろう、という一種の諦めもあったが、それでも闇雲に答えた訳ではなかった。

「私の考察では、老師の初動にあった両手の動き、右手で電原素を操り空間に圧縮させ、同時に左手で風原素を同じ空間に圧縮させます、両手を合わせるのは電と風の原素を組み合わせると同時に火原素に変化させ、その後に圧縮空間を先程見た風原素圧縮法と同様のやり方で圧縮空間内部の火原素を操り対象にぶつけたのではないかと思います。」

シシャーナ先生は満足そうに笑顔で頷いてはいたが、同時にこんな質問もした。

「なぜ初動で集められた原素は火原素ではなく、電原素であると思いますか?」

「理由は二つあります、一つはもし初動が火原素であった場合、空間に歪みは発生せずに火が生まれるからであり、もう一つは両手を合わせた時に発生した爆発的な火炎は高密度に圧縮された風原素に電原素が交わった時に起こる突発的な爆発に類似していたからです。」

ユリアウスの回答を聞いた後にシシャーナ先生は軽く拍手をしながら言った。

「素晴らしい模範解答でございます。学生の皆さんも日々の学業に勤しみ、将来はユリアウス隊長の様に市民の生活に貢献出来る人になって下さい。それでは本日の初級原素術学はここまでです。次の授業は近代原素学の歴史と発展になります、昼食後に三階のサイフ資料室での授業になります、決して遅れない様に。それでは、解散。」

 授業が終わると同時に多数の生徒達がユリアウスに近づいた、しかしそれを予見していたかの様にシシャーナ先生がユリアウスを呼ぶと生徒達は渋々ながら昼食をとるために教室を後にした、ユリアウスからしてみればこの状況を意図的に作ったシシャーナ先生ではあったが、恩師である上に生徒達からの質問攻めを未然に防いでくれる事も確かであったので、彼は苦笑いを浮かべながらシシャーナ先生の元へ行った、彼女を見ると笑いを堪えている様にも見えたしただ純粋な笑顔を浮かべている様にも見えた、この女性は昔から生徒を使って遊ぶ事が好きな人であり、本人には全く悪気がないので生徒達も苦笑いをするしかなかった。

「シシャーナ先生、あれは酷いですよ、もう少し簡単な問題を出してくれないと。」

「あら、そちらの事ですの?私はてっきり学生に貴方の役職を教えた事かと思いましたわ。」

先生は上品に口元を手で覆いながら目元を緩ませながら答えた、ユリアウスの知る限りシシャーナ先生の先祖はこの国が専制国家であった頃に優遇されていた特権階級の一族の生まれだそうである、それもすでに百年以上前の話ではあるが、彼女の上品な振る舞いから察するに家族は過去の栄誉を忘れる事なく生活している事が伺えた。

「それもあります、でも、それは少し予想が出来ていたので良かったですが...ところでどうしたんですかあのサイフ、まさか教育機関があの国に頼んだですか?」

「いえ、あれはセロフネフィス老師の個人的な寄贈ですの、理由は分かりませんが数日前に突然老師の使者がアカデミアにお越しになられて、先ほどの情報原素を無償で提供してくれましたの。」

それを聞いたユリアウスは若干眉をひそめた。

「ネグメゼフ(※5)の連中がですか?あの戦争狂が無償で情報提供なんてにわかには信じられないですがね。」

彼は警備隊という職業上他国に対する警戒意識は若干高いが、それ以上にネグメゼフの行動にいつも疑念を抱いていた、疑念というよりは不安を抱かされたといったほうが正しいかも知れない。ネグメゼフは今まで一度も他国と共同で作業をするという事は、原素術関連の大会以外では、一切せずに国内の情勢や状況等も機密として頑なに他国へ知れ渡る事がない様にしている国である、そんな国がいきなりこの様な行動に出た事はユリアウスにとってにわかには信じられない事であった、それどころか気味悪くさえ思えた。

「国家の方針と個人の信念が必ずしも一致するとは限りません事よ。それよりも如何でした老師の原素術をご覧になって?」

「まったく同じ人間だとは思えませんよ、選りすぐりの私の部隊の中から五人程、更に原素を増幅させる道具を何個か使用してやっと出来る様な事をいとも容易く一人で行うのですから、感服したとしか言い様がありません。」

実際にユリアウスはネグメゼフ国家には嫌悪感を抱いてはいたが、ネグメゼフ国民であるこの老師に対しては全く負の感情など覚えず、むしろ尊敬の念すら抱いていた。それはやはりこの老師が見せる人間の可能性に心が動かされたのであろう、ユリアウスは常日頃から人間の持つ限界と可能性について考えていた、人間が原素を扱える様になったのは千年程前であるという、あくまで歴史の教科サイフが教える情報なのでそれが真実かは分からないが、それ以前は原素という概念すらなく、すでに存在している現象のみを利用して生活していたという、確かに現在でも原素を扱えない者達は器用に色々な物を作り出してはいるが、原素の概念がない世界等彼には想像が出来なかった、しかしだからこそ彼は同時に人間の可能性に心を惹かれた。千年前には想像も出来なかった事が現在では当たり前になっているのだ、という事はきっと人間にはもっと可能性があるに違いない、そう思う事が出来た。そしてこの老師はユリアウスにその未知の可能性を見せてくれるのだ、そこには国家を超越した人としての尊敬と憧れがあった。

 少しの間、ユリアウスと先生は老師の原素術について語り合っていた、教育者として先生は老師の謙虚な人柄と後世の育成に尽力する姿勢に強く感銘を受けていた、彼女は幾度か老師の原素術をサイフ越しではあるが拝見した事があった、彼女はその時の話も交えながら実に楽しそうにユリアウスと会話を続けた。原素学についての話が一段落するとシシャーナ先生は突然思い出した様にユリアウスに尋ねた。

「そういえば、もうそろそろご子息が生まれるらしいですわね?」

ユリアウスは子供の話になると決まって顔を緩ませ笑顔になった、彼が結婚して三年になるが今まで子宝に恵まれずにいた、彼も彼の嫁も子供好きであったのでずっと子供を望んでいた、彼等の親の期待もあつかった、そして数か月前に分かった妊娠である、ユリアウスはそれが嬉しくて嬉しくて堪らなかった、その喜びは彼と嫁だけではなく、彼らの両親、親戚、友人、果てはユリアウスが部下達とよくいく酒場の連中さえも祝ってくれた程である。彼は目元を緩めながら答えた。

「はい、おかげさまで女房も腹の子も元気な様でして、早ければ来月の頭には生まれるそうです。」

嬉しい事ではあるが、いくつかの不安もあった、それは嫁の親がどうやら子供の名前をすでに決めている様なふしがあったからだ、しかし第一子の名前は譲れない、彼はすでに名前の候補があったし、嫁と毎晩それについて話し合っている程だ。しかし嫁の話から察するに義父母も簡単には諦めるとは思えない、しかも出産が近くなった最近ではほぼ毎日顔を出しに来ては色々とこちらの機嫌をとりにくるのだ、大変ありがたい事ではあるが命名は譲れない、しかし何にせよ子供の顔が早く見たくて堪らなかったのは皆一緒であった。

「それは喜ばしい事ですわ、奥様にもよろしくお伝え下さいませ。」

そんな顔の緩んだユリアウスを見てシシャーナ先生の顔も緩んでいた、教え子の幸せを知る事は教育者にとって喜ばしい限りである。その後も家族についての談話を楽しんでいたが、先生はハッとした様に時計を見た後に彼に聞いた。

「ところで、今日は午後の授業もお受けなさるのかしら?」

「いいえ、指示が出ているのは一教科のみですので、後は余暇を楽しみます。今日は本当ならば休日ですからね、国に文句は言わせませんよ。家にはまた嫁の両親が来ている様ですので、部下達の様子をちょっと見に行った後に酒場にでもいって一息つこうと思っています。」

ユリアウスと義父母の仲はとても良い、なのでこのまま家に帰っても良かったのだが、親子水入らずで楽しんでいる所を邪魔したくないという気遣いもあった、部下の様子を見に行くのも彼らが心配で行く訳でも、彼等が怠けていると思って行く訳でもなく、本当にただ部下達との他愛もない会話をしたいが為に行くのであった、勿論酒場がまだ開いていないので開くまでの暇つぶしも含まれてもいたが...

「ふふふ、部下思いでらっしゃって貴方ならしいですわね。あまりお酒も飲み過ぎてはいけません事よ。それではまた近いうちにお会いいたしましょう、ご子息が生まれましたら是非ご一報下さいませ。」

シシャーナ先生は上品な笑顔でそう言うと幸運を祈る意味合いを込めて風の原素を集めユリアウスの頬にそよ風を送った。

「勿論です、子供が生まれたら家族みんなでアカデミアに遊びに来ますよ。それでは今日はこれで、授業ありがとうございました。」

ユリアウスは笑顔で彼女に会釈すると教室を後にした。



※1:サイフ(Syph)・・・透明度の高い鉱石で情報原素を保存できる媒体、記録する間は情報原素を収束させなくてはいけないので熟練者でないと記録は難しいが、再生はどんな原素でも反応するので原素が扱える者ならば誰でも閲覧が可能。水晶が多くの場合に用いられる、純金で出来た物はサイファ(Sypha)と呼ばれシンボルステータスとして使用される、サイフの方が能力的に優れている。

※2:原素術・・・原素をコントロールし、色々な現象を起こす方法。近代原素学の進歩により派閥によって原素別けが異なるが基本はは火、水、電、地、風に分かれている。火の原素は電原素の一部であるという派閥も最近では多い。

※3:英知ある者・・・四年に一度行われる原素術を競う大会で優勝した者に送られる称号、四年に一度にあるのは総合原素術であり、二年に一度行われる各原素術個別の優勝者が総合原素術の大会に出場して英知ある者を決める、現在の英知ある者はネグメゼフ王政国家のセロフネフィス、ちなみに過去五回での総合原素術大会優勝者。

※4:メルギス・・・メルギス共和国家の略称、百五十年程前に王政独裁国家から民主共和制の国家に変わり、現在は民衆の代表達が議会を開き、国の方針を決定している。

※5:ネグメゼフ・・・ネグメゼフ王政国家の略称、完全独裁主義の軍事国家。軍事に費やす資金は国税の四割にもあたると言われている、その為歴史的にも度々飢饉や災害などで民衆に多大な犠牲が出ている。セロフネフィスを筆頭に多数の有能な原素術者達を輩出しているが、国の方針は徹底して秘密主義である為、あまり社会の役にはたっていない。


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