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第1章 王の間

エルダスは呆としていた。自分が話の中心に据えられているようであるのに、自分の心情的には全くの蚊帳の外だったからだ。そんな彼を置いてけぼりにして議論は熱くなってゆく。


「大体、あいつは、2年も姿を晦ましていたのです!剣もろくに振れるかどうか」


金融大臣のアルマンドは猛反発だ。自分の禿げ頭の恨みというよりも彼の能力に対して不信を抱いているようだ。


「外務大臣の私としては、すでに、この城にこいつがいることが問題だ!聖教会からはデッド・オア・アライブ指定で身柄を引き渡すように周辺各国に要請が来ている。今の情勢で聖教会を敵にすることは国益に反する!」


「…周辺諸国が戦争を始めようとしているって噂話。本当の所はどうなんですか?陸軍大将」


ここで指名されたのは陸軍大将ジョージ・メニスン。彼には多くの逸話が残っているが、あえて一つ挙げるとしたら15年前メンス地方での電撃作戦を史上初めて成功させた切れ者だ。


「ふぅん。はっきり申し上げまして、根も葉もないデマ、とは言えません。我々の右隣のイースどもが武器を大量に生産できる設備の導入を進めておるようです。加えて北側のゲイル連合国がイースを警戒してかゲイル南部に兵が集結しています」


「もし、彼らが我々を攻めようとしたら、どれくらいで国境を突破するのだ」


「第一陣が最速で8時間でしょうね。そのあと本隊が到着するのがそこから一日でしょう」


「今までに比べて随分近い。噂が流れるのも当然か。民衆が不安がるのも無理はない」


「だからこそ、民衆は聖教会を頼りとしています」

情勢的には危険。戦争が始まるかもしれない不安から民衆は聖教会を頼りにしている。


「ふむ。まぁ、王である私の意見を聞いてくれないか。エルダスは勇者なのだぞ?勇者とは国が聖教会に推薦し聖教会が認定した傭兵のことだ。しかも、彼を慕う声は未だに上がり続けている。彼の実力が2年前と遜色がないことを示せれば、民衆の不安は薄れるのではないかね?」

「で、ですが」


「大体、身柄の引き渡しは聖教会が秘密裏に各国へ要請していることだ。先に、エルダスを民衆の救いの象徴にしてしまえば、いくら聖教会といえども手出しはできない」


「私は彼の実力を不安視しているのです!2年というのは勇者がぼんくらに成り下がるのに十分な時間です」


すると、王は我が意を得たりとばかりに口の端をつりあげた。


「…わかった。では、神前試合を組もうではないか。相手は我が親衛隊隊長のユカ・マイア。聖教会には私じきじきに依頼しよう。これで、実力の問題も聖教会がエルダスの身柄の引き渡しを要求していることも解決する」


王は大臣らを眺めた。異論は出なかった。正確には王の眼光は反論を認めるほど易しくはなかった。


「よし!!決まった。神前試合を組むぞ!エルダス、君の実力を証明してくれ」


「それをお受けする前にお聞きしたいことがあるのです」


「じゃあ、質問への答えを神前試合の報酬としよう」

王はやはり口の端をつりあげていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~


「ギフェルト王」


「どうした?アレグレ。そんなに汗を滴らせて」


今はそんなに汗っかきではありません。外務大臣トスカン・アレグレは王の戯れに“大人な対応”を忘れるほど慌てていた。


「何故、神前試合を組むのですか」


「君のその質問には“そんな悠長に構えて何を考えているんだ”という君の思考がありありと浮かんでいるからそれに答えよう。答えは単純。彼の実力を確認するのに最も客観性がある方法だからだ。神前試合は多くの人の前で競技場という自分以外に頼るもののない状況で戦う。さらに、相手はあのユカだ。競技場ぐらいの大きさだと彼女には今まで敵がいなかった。それをエルダスが打ち破れば、だれも彼の実力にいちゃもんをつけれない。しかも、神前試合を行うことを事前に聖教国に漏らせばエルダスがここにいることを知らせることになる。まさか、聖教国も我々を悪くはしないだろうさ。ただ、聖教国はエルダスを捕えろと命令していることを一般人に知られたいとは思っていないだろうからエルダスここにありと知らしめた時点で彼の安全は保障できるだろう?」


「どうしても、やるのですか?」


「もちろんだとも。ユカはなぜあんな奴が勇者で最高のクラスになっているのかとぷりぷりと腹を立てていたからねえ。そこを納得させてやりたいと思うのだ。勇者エルダスのファンの一人としてね」


「ひょっとすると、エルダスが真っ二つになりあいつのはらわたをぶちまけることになるかもしれませんよ」


「いやあ、無いね。あいつに限って。それにあいつの強みは決して剣の腕と肉弾戦の強さではないよ」


「王はエルダスが勝つと、自分を長年守護してきたユカが劣るというわけですか」


「…くどいぞ。何を熱くなっている。ユカに惚れたか?」


「すいません。惚れたとかそんな純心なものではございませんよ。ただ、エルダスの身を心配するばかりでございます」


「大丈夫さ」


ギフェルト王はそういうと前に向き直り歩みを始めた。一歩、一歩を踏みしめるように。


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