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第0章

「子どもは寝かしたか?」金髪の、一見、まだ、青年と呼べそうな見た目の男がドアのほうを仰ぎ見て言った。

その先にいるのは黒髪に白髪交じりの男性である。

「あぁ、寝かしたさ。妻と一緒に寝てるよ」

そう言って、男性は青年風の男の前の長椅子に腰かける。すると、長椅子のクッションは沈み込み彼の身体に合うように形を変えた。もうすでに、夜、遅く。さらには冬。暖炉には火が燃え盛り、青年風の男が用意していたブランデーとグラスを照らす。周りを見渡せば、豪華な調度品がいくつか。どれもこれも、市場価格で一般庶民の年収が軽く五年分は吹っ飛ぶ代物である。

「冷えただろう」

そう言って金髪の男はブランデーを相手のグラスに注ぐ。

男性はグラスに注がれたブランデーを少し口に含み、音を鳴らして飲み込む。

ふぅ。男性は息を吐いた。

「うまいな。久々に会う友人と飲む酒は」

「そうかい。そりゃあ、良かった」

男性が今度は青年風の男に酒を注いでやる。

「だが、何年振りだい。こうしてお前と酒を飲むのは」

青年風の男は自分のグラスに注がれた酒を一息に飲む。

「訓練所以来だから、もう、二十年ぐらいか」

「もう、そんなになるのかい。その間に俺たちは大きく変わってしまったなぁ」

金髪の青年風の男が天井を見上げた。男性もつられるように天井を見る。

「確かに。変わったな」

「そうそう、お前は仕える国、俺は…」

「英雄から魔王へ、か」

「面白くねぇよなぁ。ほんと、ありふれてる」

「それは、お前の好きな漫画の話だろう」

現実で早々あるものではない。男性はグラスを傾ける。

「なぁ、仕事はどうだい?仕える国が変わったんだ。変わりはないかい」

「あったとしても、喋ってしまえば私は処分されてしまう」

「ここで、魔王城で、俺と酒を飲んでる時点で終わってるだろうさ」

そうここは魔王城。国の最果て。

「いや、私は、かなり自由な権限を持っているからね。それに、私は魔王と直接対話できる男として雇われている。そこまでは大丈夫だ」

「どうやって、お前が俺に情報を流していないって保証するんだい」

お前らバカなのか。そんな風に口の端をつりあげからかう魔王。

すると、男性は舌を出した。そこには紋様が刻まれている。

「なるほど、なるほど。口の中かぁ。俺も考え付かなかった。確かに普通に生活してるぶんには気づかれないだろうなぁ」

「これのせいで余計なことは喋れない。あとはお前と雑談できる」

「雑談ってお前。営業職じゃないんだぜ。いらねぇし、要件があるなら言っちゃえよ」

「なら、今度はどこを攻める?」

「お前の所じゃないぜ。お前、気づいてんだろ?俺がどんなところを狙ってんのか」

「何回も進言しているのだが、取り合ってもらえない」

「政治家は大変だねぇ。まず、自分の周りの説得が。次に世論を味方にすることが。最後に失敗した時の後始末が」

「確かに。私は周りの説得に苦労するよ。元々は別の国出身だから」

「くだらねぇ。侵略するってことに美学が感じられない。土地を奪って終わりかよ。人間同士、仲良くできねぇのかい」

「耳が痛いな。まさか、魔王に説教されるとは」

魔王と彼はお互いに酒を注ぎ、二人であおった。顔がほのかに赤くなっている。二人とも軽く酔っていた。

「なぁ、お前の子ども、可愛かったなぁ。何歳だよ」

「今度の誕生日で四歳だ」

「俺の娘と同じくらいか」

「あぁ、お互い、子どもがかわいい盛りだ」

「その通り。これは人間も魔王も関係ねぇ。子どもはかわいい。子どもの顔を見るとついつい笑顔になる。だらしない顔だ。部下には見せられないね」

「お前は魔王だから余計にそうだろうな」

「なぁ、人間と魔族の融和は可能だろうか?あの子たちが大きくなって…そうだな学校なんかに行くぐらいだ。どうだろうか」

「難しいだろうな。それは、たかだか、十年ぐらいでは達成できないだろう。孫かもっと先の世代までかかるだろうな」

「祈るしかねぇのか。どうか頼むぜ。神様」

「魔王が神に祈るのか。天敵だろう」

そう言って、男性はからかうように笑った。魔王も笑った。


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