侍女というものは忙しいのです、……はぁ。
設定だけふと思いついて勢いで書いたもの。
…主人公のキャラを愛してくれる人がいるといいなぁ…
読んで下さって有難うございます!!
いつも通りの変わらぬ早朝。わたしは何時ものように主より早く起き、何時ものように朝のお茶を入れ、何時ものように主の部屋へ向かい、何時ものように―――――――――どれだけ揺らしても起きる様子の無い主の華奢な身体をベットの上から蹴飛ばした。
「酷い……私仮にも主なのに」
「仮にもって言っている時点で自覚はしているんですよね。それに主なら専属侍女の手を煩わせないよう、せめて起こしたら起きてください」
朝食を食べながら小さく零す主に返答しながら、私はカップの中身を注ぎ足す。子供のようにむくれる主はそれでも食べ方は綺麗で、そこは流石だとそう思う。
腰を覆うほどまで伸びた、緩くウェーブを描いている銀色の御髪。明かりや太陽ではなく、月光の下でこそ美しく輝くそれはわたしとは全然違うものだ。夜空のような瑠璃色の瞳こそ同じであれど、わたしの平凡な直毛の黒髪とは似ても似つかない。…だからこそ主と同じように垂らしておくのが恥ずかしくて、わたしは左耳の下に結わえているのだから。それに正直、主の世話をしていて結んでいないのは邪魔なのだ。
軽い朝食を終え、手を合わせる主を確認すると、わたしは主に着替えを促し、制服の着装を手伝う。主が通う学園には上級家の子女も多く通っており、彼らは総じて侍女や執事を連れている。そういう生活が当たり前であり、それを鼻にかけているのだが、わたしはそんな彼らを正直言って軽蔑していた。…だって一人で満足に着替えも出来ない人が何を出来るというのだろうか。わたしの主はそんな輩とは違い、自分のことは自分で出来る。ただそう義務付けられているから形式的にわたしが手伝っているに過ぎない。
本当にわたしの主は最高だ、と思ってしまうのは親バカに近い感情だろうか。しかしやっぱり拗ねたようにむくれている主は可愛いもので、思わず主の頭を優しく撫でる。
「こづきぃ~」
「はいはい、何ですか望様」
甘えるように抱きついてくるのを甘受し、首元に顔をうずめる主のさらさらとした手触りの良い髪を指で弄る。拗ねた主はこうした後立ち直るので、心配はいらない。
「抱っこぉ~」
「それは体格的に無理があります主」
……いらない、筈。
ただ幼児退行化するのが痛いところだろうか、可愛いけど。
しかし主とわたしの身長差は目で見て解るほど。いくらわたしが主を守れるよう鍛えているとはいっても、筋肉はどうにもならない。わたしにできないことなんて幾らでも有るのだから。
「じゃあもう少し抱きついとくぅ~」
むぎゅっと、強くなる背中にまで回された腕。まぁ、それは何時ものことだから別にいい。これではまるで主のペットであるが、いまさらもう慣れた。主以外にもペットのように可愛がられるのも、悲しいことに慣れた。だから体制的にはどうでも良いのだが――――――…いかんせん、
「でも主様、もう出ないと遅刻ですよ」
時間が無いのである。
叫んで渋る主の背中を押して、門前で待機してくれていたリムジンに放り込む。それから主の荷物を手にわたしも乗り込んで、迷惑を掛けてしまった運転手こと佐野さんに謝罪をした。それをにこにこ笑って受け入れ、「いつも大変だね、お疲れ様」と労ってくれる佐野さんは本当に気のいいお兄さんだと思う。また不機嫌になった主だが、わたしがここまで働くのは大半貴方のせいですよ、主様。少しくらい我侭な方が可愛いし働き甲斐もあるから問題ないけどさ。
横で私の髪を弄って遊んでいる主を視界の端で確認しておきながら、本来主の横でやるべきではないけれど、乱れてしまった身支度を整える。わたしの着る着物とメイド服が合わさったような侍女服は主が準備した、いわば主の趣味のようなものだが、体型がお粗末なわたしにはとても着易くて動きやすいので、意外と重宝している。腰の辺りできつく占められている感覚が何とも言えない安心感を生み出している。スカート形式ではなく袴形式なので戦闘にも特化しており、足を出すのが苦手なわたしが一番好きな部分でもあった。その上から所々にレースのあしらわれたエプロンを着けているので、料理などでも汚れにくい。
…と、気に入っている仕事着のことを考えていれば、髪を弄っていた主が何やら長い布を結び目に巻きつけ、結んでいた。手が離されるなり自分の手で触って確認してみれば、ゴムの上からリボンで蝶々結びがされているようだ。肩に垂れた長い部分を指で持ち上げてみれば、わたしや主と同じ瑠璃色に染められたリボン。「湖月、貴女は私の所有物であることを忘れたら駄目よ」と告げられた言葉で、このリボンは主からのプレゼントであると共に首輪なのだ、と思った。
……佐野さんと会話していたことで拗ねたのは、わたしが佐野さんに懐いたと思ったからなのか、納得。
「大丈夫ですよ」
と言えば、どこか不安そうだった主の表情がはっとしたモノになる。
「わたしは間違いなく望様の所有物です。貴女の為に生き、貴女の為に死ぬ。主が願うならどんな相手だって殺して差し上げましょう……例え、どんな相手でも」
「…………そうね」
主の顔が、まだ浮かない。どうやらわたしの返答は、主の期待したものではなかったようだ。もっとがんばって主の思いを察することが出来るようにならないと。
到着するとわたしは佐野さんに礼を言って、先に車から降りる。
そういえば余所の家では運転手が降りて扉を開けるそうだが、わたしにはその必要性がわからない。どうして侍女や執事がいるのにわざわざ運転手が降りるのだろう。運転手なのだからそれ以上の仕事をする必要ないのに。
余計な音を立てないようにそっとリムジンの扉を開け先に降りて、わたしは主へ手を差し伸べる。その手に華奢で白い手を乗せた主の降車を手伝い、荷物を腕に抱える。…ちなみに言うがこれの中にわたしの荷物は入っていない。ならわたしの荷物は何処だと言われれば、そんな両手を塞ぐものを手に持っているはずも無く、侍女服のあらゆる所に仕舞いこんである。…戦闘も出来る侍女が持っているのは、短刀や拳銃だけでは無いんだよ?
降車した主には、様々な視線が集中する。これも何時もの光景だ。それは尊敬だったり思慕だったり、嫌悪だったり嫉妬だったり、憧憬だったり好奇だったりする。これらの視線は当然で、陰陽道を中心としたこの学園では、主は中心となる人物だ。
―――――――陰陽の対をご存知だろうか。陽と陰。昼と夜。光と闇。そして、太陽と月。
陰と陽にはそれぞれ力の根源ともなる龍脈の力を直に受け取る巫女が居り、彼女達を太陽の巫女、月の巫女と呼ぶ。……そしてその月の巫女が我が主、葛龍望様である。
主曰くこれらの設定は、この世界とは違う不思議的力が無い世界で、前世の主がやっていたらしい“おとげー”というものと同じらしい。前世、というものをわたしは持っていないので良く解らないが、主の早熟であったところはそのせいだと思うと妙に納得する。主は自分のことを“てんせいしゃ”だと言っていたが、『へぇ』と軽く流したときは暫く復活しなかった。……まぁ、その前世の記憶があるということはわたしにしか言っていないようで、幼児化したり時折変なことを呟くという様子もわたしの前でだけ出すところ、それなりに気に入られているのだろうか。
……うん、それはかなり嬉しい。
と、わたしの私情は置いておいて。
主が言うこの世界は、どうやらゲームの物語であるらしい。女性の恋愛を模擬的に体験する乙女ゲームというもので、主人公が複数居る男性と恋愛をしていくものだとか。本来は誰か一人を選ぶものらしいが場合によっては複数の男性と同時に恋愛をする“るーと”というものも存在するらしく、どうやらこの世界の主人公である太陽の巫女…虎珀旭はこれを目指している節が見られるらしい。
そして一番問題であるのが、このゲームにおいて我が主は主人公の好敵手であるということ。
好敵手、というと正々堂々競いあっているように思えるが、ゲームの中の主様は使える力を全て使って主人公を蹴落とす悪質なキャラクターであったらしい。けれど自らの手を汚すことは無く、最後には主人公と思慕する男性の交際を認め祝福するという、ゲームの終わりがけに好感度が上昇した意外といい人キャラ。
…けれど、唯一そうではない“るーと”が存在するそうだ。それが、この世界の主人公が目指している“はーれむえんど”。これではゲームの主様が自らの手で制裁を施し、そこを主人公が攻略対象の方々に救われるという。その後主人公は幸せな終わりを向かえ、主様は学園を追放。月の巫女としての権利も剥奪され、路頭に迷うらしい。
主人公に関わらなければ良いのでは? と言ったところ、主人公に盲目的な愛を注いでいる男性方が裏も取らずに主人公の言葉を信じる可能性があるらしい。…わたし的には主がどこからそんな知識を手に入れてくるのかとても不思議です。これも前世が関係しているのだろうか。
一応一通りその攻略対象の名前を教えてもらったが、その中に会うたび飴をくれるお兄さんが入っていたことに驚いた。…優しそうな人だったけど、彼も主を追い詰める可能性がある人なのだろうか。
危険があるならことが起こる前に排除しておいた方がいいのだろうかと考えていたところ、それは止められたので取り合えずわたしは静観しておくことにする。けれど主に何かあったら、間違いなくわたしは動くだろう。
「物騒なこと考えてないわよね、湖月」
ふと、前を歩く主がそう言う。わたしはそれににっこりと今出来る最上の笑みを浮かべて「まさか」と返した。主はため息を吐いて諦めたように黙して颯爽と歩く。
『考えているに決まっているじゃあありませんか』
それは、口には出さなかった言葉。けれど言わなくてもその答えは主には解ったらしい。
…まぁ、仕方が無い。
わたしには主の感情をそのまま理解することは出来ないけれど、主にはわたしの感情の全てが伝わる。不公平でもなく、ただわたしが未熟であるだけ。
それを何時か、何時の日か理解できるようになれば良いな、と、……わたしは一人そう思うのだ。
「こんにちは」
「…こんにちは」
目の前に立つその人は、わたしを見つけるなりにこにこ笑って近づいてきて、そうあいさつする。それに同じ言葉で返せば、お兄さんは右手を懐に突っ込み、取り出したときには飴の袋を手に持っていた。
どうやら今日は、桃の味の飴らしい。
「どうぞ」
「…どうも」
主に頼まれた仕事中ではあるが、目の前のその人も主に関係する敬わなければならない相手であるので、『美味しいから食べてご覧』とでもいうような視線を向けられれば、今口に放り込む他無い。
ころり、と飴が口の中で転がって、仄かに桃の優しい香りがする。いつも色々な味の飴を貰うが、今日のこれも美味しかった。
「おいひいでふ」
素直にそう言えば、とても嬉しそうにするお兄さん。お兄さんのわたしに対する扱いもペットに近いものがあるのだが、やっぱり何も思わない辺り慣れてしまったようである。
「今日も葛龍のお使いかい?」
ころころ口の中で飴を転がすわたしにお兄さん…真田木蓮はそう問いかける。主の情報でも探っているのだろうかと心の中では全然可愛くないことを考えながら、疚しいことの何も無いわたしはその問いに答える。
「はひ。あぅじひゃまにひぇいとかひのようふをみひぇこひと…」
あれー、全然まともな答えにならないやー。仕方ないよねー、飴舐めてるもんねー、殆ど命令だったもんねー。
「ごめん、飴舐めてるのにこの質問は無粋だったね」
わたしの答えが解らなかったらしいお兄さんは、そういえばそうだったと、苦笑する。こういうところ引き際を心得ていると、わたしは感心している。
…別に主の情報渡さないように業としている訳ではないよ? ただ答えようとしたら様々な要因が重なって結果何も教えてないだけだよ? わたしは腹の探り合いとか苦手だもん。素直だもん。
「でも君と会うたびにお使い中なことが多いから今日もそうなんだろうね。…葛龍は人使い荒いのかい?」
わたしは口を開くとまた伝わらないので、首を振って否定する。ころころ飴を転がして少しでも早く溶けて小さくなるように奮闘した。雑談を続けてくれるお兄さんには、時間稼ぎをしてくれて感謝する。
どうしてわたしが主のお使いを早く済ませるためにお兄さんと別れようとせず雑談を続けているかといえば、お兄さんが主からのお使いである相手、生徒会の一員であるからである。しかも生徒会長。
主から任されたのは、最近太陽の巫女に感けて正常に機能していないらしい生徒会の様子を見てくること。それで何処にいるかも解らない太陽の巫女とその他大勢を探すより、生徒会室を見たほうが早いだろうと向かっているところでお兄さんに会ったのである。…メンバーに鉢合わせれば、当事者から聞いた方が早い。
しかし態々聞かなくても生徒会の現状は、何時もみたいににこにこ笑っているお兄さんの目の下に出来た隈で大体想像できた。
……噂通り、確かに生徒会は機能していないのだ。
だからわたしは、ようやくまともに話せるようになって、真っ先に聞く。
「お兄さんは、太陽の巫女のことをどう思ってますか?」
わたしの質問に、お兄さんは驚いたように目を見開いた後、言い辛そうに口を開く。
「…そうか、君は今の生徒会の現状を知っているんだね。」
口が重いというように、一瞬閉じられる口。しかし決断したように顔を上げると、葛龍にも伝えて欲しいと前置きして言った。
「今生徒会は、生徒会長である僕以外仕事をしていない」
期限が近いものから僕が片付けているが、終わらなくてね。と、困ったように笑う。
「原因は君が言ったとおり太陽の巫女。僕以外の生徒会は彼女に何かしら言われ、彼女なら自分を理解してくれると、仕事を放棄してまで彼女に構っている」
まるで太陽の巫女の取り巻きだ。と、お兄さんは吐き捨てた。
「僕も彼女に妹のことを言われたが、どうして妹のことを知っているのかと逆に恐くなったよ」
近づきたいとは思わない。と、少し身を震わせてそう言った。
「身内の恥を晒すようだが、僕ももう我慢できない。―――――助けて欲しい。」
最後は、懇願するように。泣きはしなかったけれど、今にも泣いてしまいそうだと、そう思った。いつだって笑顔の仮面を被って素顔を見せないお兄さんがここまで素顔を剥き出しにしている。
言わなかった救いを求める声を、上げている。
…今答えるべきだ。そう思った。
主からは言われている。わたしがお兄さんと接触するようになったことを伝えると、生徒会が機能しなくなってきたことを知っていた主は、これからお兄さんが精神的にも肉体的にも追い詰められていく可能性があることを示唆した。そして、もしプライドが高く人に頼ろうとしないお兄さんが助けを求めたら。
「安心してください、とは言えません。でも、主はお兄さんの言葉を待っていました。“たすけて”って言うのを、ずっと待っていました。一緒に頑張りましょう。お兄さんは一人ではありません、これからは主も、わたしもいます。一人で溜め込まないで下さい。お兄さんを支えたい人だって一杯居るんですから、助けを求めた手を握り返す人はきっと多いはずですよ。……わたしも、この小さい手で良ければお力添えします」
―――――――――――――――――――その時は、手を取ってやれ、と。
呆然として呆けていたお兄さんの頬に、一筋透明な涙が流れる。くしゃりと整った顔を歪めて、お兄さんは人間味溢れる色々な感情が入り混じった表情を作り上げた。…そして一言。
「……ありがとう」
きっと、一杯一杯だっただろう。
仲間を信じて、期待して。一人で頑張りながら待っていたのだろう。
…けれど、彼等は帰ってこなかった。
諦めと、消えない期待。その二つの板ばさみになり、どれだけ神経をすり減らしたか。
主もそんなお兄さんの姿を見て、攻略対象をゲームの登場人物だと思っていた感性を、後悔していた。でも主は、お兄さんと一緒でわたし以外には意地っ張り。自ら手を差し伸べることが出来なかった。
…だからわたしを、お兄さんへの橋渡しにした。
幸いにも子供好きなお兄さんは、どうやらわたしを気に入っていたようだから。
………そしてちゃんと、助けを求める声を受け止めることが出来た。
「その言葉はわたしが受けるものではありません。主に伝えてください」
微笑んで、わたしは言う。
そう、わたしはそんな感謝の言葉を受ける資格は無い。だってお兄さんの言葉を受けたとき、わたしは安堵した。お兄さんを助けられるからではなく、これで後悔を挟んだ主が立ち直り、前へ進められるから。
わたしの中心は、やっぱり主だ。
その為ならこうやって縋ってきたお兄さんでさえ利用し、使用し、もしもの時には斬り捨てる。
…こういう所が、きっと主は気に入らない。
でも変わることは無いだろう、とわたしは自分でそう思う。
「――――――――お兄さんは助けを求め、わたしはそれを主様の名前で受け入れました」
良かったですね、また後悔する前に手を取れて。そう言ったわたしに、主は「そうね」と一言返した。その声が心なしか震えており、微かに混じる嗚咽に、泣いているのだと理解した。
「有難う、湖月。感謝するわ。あの人は直接私に助けを求めることはなかっただろうから」
意地っ張り同士、本当相性が悪い。
…けれど主は、そんなお兄さんを好きになってしまったのだ。
自分と良く似ていて、いつかゲームの主人公が現れたとき目の前から消えると解っていて、好きになってしまったのだ。…感情は、自分では抑えられないから。
だからゲームとは違って主人公の基へ行かなかったお兄さんに、安堵した。そして、キャラクターとして見ていたことに後悔し、罪悪感を感じ、遠目で見守ることしか出来なかった。
「……よかった、ほんとうにっ…」
これで、助けられる。そうかすれた声でそう言って、主はすすり泣いた。声にならない声で、まだ物語の終わりになんて到達していないけれど、心底安心したように泣いた。
――――――その背中を、わたしはゆっくり撫で、彼女の身体を抱きしめる。
小さなこの身体では足りない。支えにもならない。だからわたしは、わたしの代わりにお兄さんが支えてくれることを期待している。
…斬り捨てさせないで欲しい。この人が本当に大切に思う人は、とても少ないのだから。
「大丈夫」
わたしは言う。侍女ではなくわたしとして。月の巫女に仕えるものとしてではなく、わたしという一人の人間として、言う。
「大丈夫だよ、あの人が支えになるまではわたしが守る。あなたは幸せにならないと」
不幸になる未来なんて、わたしは認めない。ゲームのわたしがどんな子かは知らないけど、今ここに居るのはわたしなんだから。
「―――――――ねぇ、お姉ちゃん」
物心付いた時から、わたしは貴女の背中を追ってきた。
わたしの前を歩む貴女は、双子であるのに似ても似つかなくて、わたしは名前の通りに貴女の鏡にはなれなくて。
あなたはわたしの憧れだった。
わたしが望めない姿を、わたしは貴女に見出した。
月のように美しく、孤高のようでいてそうではなく、静かに周りを照らしている。……あなたには、わたしのような影にはなって欲しくないの。
だから。………だから…ねぇ、
「―――――――――笑って?」
月の巫女の片割れとして生を受けて、気が付けば一番近い存在として傍にいた。
いつしかわたしは影になり、わたしは自ら姉の侍女を志願した。
一番近くで見たかったの、あなたが笑う姿を。
あなたが……幸せになる姿を。
わたしが運命を切り開く。
だから傍で見せて。
お願い。
お姉ちゃん、あなたはわたしの光なの。
見ることの無い夢を見せてくれるのは、あなたなの。
……だからわたしは今日も、侍女服を閃かせて主のお使いに励む。
「―――――――――嗚呼、侍女というのは忙しいですね」
《おまけ》
※望と木蓮の会話。
木「ねぇ、君のところの侍女気に入っちゃったんだけどうちにくれない?」
望「私の所? さぁ誰のことか解らないわね」
木「毎回名前聞くと誤魔化されるし、君の情報聞くと何故か何かしらの要因が重なって結局聞けないし。業となのかそうでないのか、どちらにしても優秀だね、君が良くお使いに走らせてる小さなメイドさん」
望「……あげないわよ」
木「えー、飴を転がしてる姿とかとっても可愛いんだけどな」
望「何それ私見てないっ、ずるいっ」
木「…君ってあの子に関してだけ素が見えてくるよね」
ただの主人公に構う人たちの親ばかな会話でしたー、終了ー。