始まりの前
「ねーねー、今日は何を教えてくれるの?」
ちょっと長めの、耳が隠れるほどの髪の可愛らしい顔をした男の子が、好奇心溢れる目をして目の前に座る老人を見つめている。
男の子からの熱い視線を受けて、どこか楽しげな老人。
しかしその姿は、手入れしてないボサボサの髪、身に羽織った薄黒い衣、猫背ぎみにだらし無く座り、まるで浮浪者のような格好をしている。
だが男の子はそんな事は気ににせずに老人の横に座り、老人の顔を覗き込む。
「そうだな、今日は神様の話をしてあげよう」
老人が笑顔でそう言うと、男の子は頬をプクッと膨らませる。
「それはもう聞いた!」
「……じゃあ、レイア戦争の英雄の話を」
「それも聞いた!」
「じゃあ、じゃあ、不老不死になった錬金術師の話を!!」
髪をいじりながら必死になっている老人を、男の子はジトッとした目で見る。
「……さすがのワシも、一年間毎日来られたらもう品切れだよ」
老人は大きく息を吐き、力なく首を前に垂れる。
「じゃあ、再入荷してきてよー」
容赦ない男の子の言葉に老人は苦笑いで答える。
そんな姿を見て、男の子はつまらなそうな顔をして後ろに倒れる。
「今日のおじさんはつまらないー」
「そんなこと言われてもなぁ……」
力ない言葉に諦めがついたのか、男の子はゆっくりと目を閉じる。
老人も空を見上げ、2人の間に沈黙が流れた。
「真実を話してあげよう」
不意にそう言った老人は、空を見上げたまま、ポリポリと頬をかいている。
「真実って……なにの?」
起き上がり首を傾げる男の子に、老人は軽く笑いかけるる。
「この世界の真実だよ」
それを聞いた男の子は首を傾げたまま難しい表情になる。
老人はそれを見て再び軽く笑い、羽織っていた薄黒い衣を男の子に掛ける。
「君は私の言葉を信じているかい?」
「うん、信じているよ!」
男の子は掛けられた衣をばたつかせ、元気いっぱいに即答する。
老人はそんな男の子の頭を優しく撫でてやる。
しかし、その表情はどこか悲しげだった。
「2年後、君の前には大きな鎌のような武器を持った女性が現れる。その人に着いていくがいい」
その唐突もない発言に、男の子はキョトンとして老人を見つめる。
老人が男の子と目を合わせると、男の子の目にじんわりと涙がにじんでくる。
「……お別れ?」
そう言うと男の子は目を反らし、掛けられた衣で涙をぬぐう。
老人も正面を向き、悲しげに口を開く。
「その女性は、欲深く、傲慢で、嘘つきで、嫉妬深い。だけど、今の君に無い物を持っている」
男の子は目を細め、両手で衣を力いっぱい握りしめている、その体は小刻みに震えている。
「真実は、教えてくれないの?」
口を開くごとに溢れる涙を拭いながら男の子はそう言う。
「ワシは半分しか教えられなかった、もう半分は彼女からしか学べない」
老人はそう言うと立ち上がり、尻を手で軽く払いゆっくりと歩き始める。
「真実は君が全てを学んだときに教えよう」
その言葉を聞いた男の子はうずくまり、泣きじゃくってしまう。
老人は少し下を向き、男の子を見ないようにフラフラと遠ざかっていく。
「またね……」
男の子は、離れていく老人に小さく手を振った。
初小説です。
自信ないです。
感想下さい。