Act.7 天柱石戦 後編
思いっきり振り下ろした六角棍で、槍剣をもった男を沈黙させた。
どうにかタイミングをあわせれたかな。たぶん、俺の髪や眼を見られていないから異能の血統によるカウンターとは気がつかないだろう。
フードをおろし、周囲を確認する。今は、この異能を知られるのは、限りなく不利になる。
俺の異能の力は2つある。一つは、影に投げつけたものを他人の影から出現させる性能ともう一つは、かなりの魔力を消費するが、自分の影を起こし、飛び込んできたものを吸い込み任意の影から出現させる性能だ。どちらも影がないと発現できないのと致命傷を与えるのには、難しい性能だ。もしかしたらもっと別の使い方もあるかもしれないが、修練不足なのか、それともただ、気がついてないだけなのか、それとも別の使い方などないのかはわからないが、今は、この影を起こす異能が切り札だ。知られると簡単に対策を立てられるだろう。
にしても槍剣か・・・。珍しい武器をつかうな。しかもさっきの構えは正式な訓練を受けているっぽいし、どこかの国に所属してたのかな?
「とりあえず、縛ってっと。あの二人は大丈夫かな・・・。」
へへ、最初に見つけた奴が、ザコっぽくてよかったぜ。リュッツ隊長は、あー言ってたが、女がいたら、隊長が付く前に楽しんでしまえば良いのさ。ドライルの奴も運良く、隊長よりも先に来たら楽しませやろうか。
ドライルとはもうゲイルマ国兵士になった時からの十数年の付き合いだ。リュッツ隊長よりも長い付き合いだし、隊長のおかげで、ここまで逃げ延びれたが、今はもう国はなく、上官でもないリュッツ隊長にすべて従う必要は無いしな。お楽しみが優先だ。
おいらは、散開した地点から適度に離れ、岩に近づいていく。もちろん、岩場からの奇襲や足元に罠がないかきちんと確認しながら進むが、何もなく、岩の下までたどり着くと、上のほうからかすかな音が聞こえる。人影が1つ見つけた。暗くて顔まではみえないが、どうやら小柄な影から察するに女っぽいな。運がいいぜ。
人影に見つからないように、岩肌に背中を当て、身を隠した。
べちゃ!!
「???」
岩肌から何か張り付くような音がした。
な?なんだ・・・?ん・・・?
おいらは、岩から離れ確認しようとしたが、背中がいや、正確には、革のよろいの背中部分が離れない。
なんだ?なにがあったんだ?引っかかっているのか?
おいらは、手を岩にあて突っ張った。離れない背中を離そうとした。が
べちゃ!!
ん?なんなんだよ!!
岩に左右に腕を広げ、手がついたと思ったが、先ほどと同じ音と同時になにか冷たいねっとりとした感触に触れる。
く、くっついちまった!!はなれねぇ!!
いくら力を入れても手も背中も張り付き、上半身は十字状態で、動けない。
「あぁ~。無理ですよぉ~。それはぁ~、リヒルの実をよぉ~く噛んだ物ですからぁ~」
頭上から緊張感の無い間延びした声が聞こえる。姿を確かめたいが、背中が張り付いた状態での視界だと確認はできないが、透き通った声から予想できるのは小さな足跡の持ち主の女だろう。
「リヒルの実!?なんだそれは、それよりも離せ!!離しやがれ!!」
「えぇ~、知らないんですかぁ~?噛んだらですねぇ~。そんな感じにぃ~、張り付いちゃうんですよぉ~。本当はですねぇ~、」
「っるっせい!!女!!はなせ!!」
「そんなにぃ~。騒がないでくださいよぉ~。アッシュ君にできるだけ静かに罠にかかるのぉ~待てってぇ~、言われてるんですか・・・。あっ、もう罠にかかってるんですねぇ~~。あはは♪」
「あははじゃねぇ!!犯すぞ!!」
「えぇ~、私ぃ~アッシュ君とがいいですぅ~。」
この緊張感の無い間延びした話し方にわけのわからない返答。きっとこいつの頭は、ゆるいんだろうな。おいらは、四肢に力を入れ引き剥がしにかかるが、引き剥がせない。
「あぁ~、無理ですよぉ~。リヒルの実の粘着力はぁ~、巨人族さんたちでもぉ~、のがれられないですよぉ~」
「はぁっ!?」
「あ、でも乾燥したらすぐぅ~、はがれちゃいますからぁ~。晴れたらぁ~、お昼ぐらいにはぁ~、はがれますぅ~。安心してくださいねぇ~。でもぉ~~。」
「でもなんだ!!とっとと言え!!」
「とりあえずぅ~、アッシュ君の作戦でぇ~、気絶してくださいぃ~。うぅ~、えい!!」
頭上から何か岩肌を転がってくる音が聞こえる。落石か!?いあやこれは!!
「わ、わぁーーー!!」
ドスン!!
そんな音を立てて、目の前に人の頭くらいの岩が落ちてきた。岩で削られた破片かまだぱらぱらと落ちては来るが、身の危険はないだろう。
「っはぁーははっは・・。あたらなかったら意味ねーな!!仲間が来たら犯してやるからな!!」
「だからぁ~あなたとはぁ~嫌ですぅ~。あ、まだまだありますからぁ~当たるまでがんばりますねぇ~。」
「はぁ!?」
その後13個の岩が、付近に落ちてきた。14個目の音は聞いたが、その岩をおいらが見ることは無かった・・・。
リヒルの実 リヒルの樹になる硬い緑の実。無味だが、唾液と混ぜ、しばらくすると強力な粘着力を持つ、乾くとすぐぼろぼろになり、粘着力を失うが、巨人族ですら引き剥がせない粘着力は非常に強力。
岩肌にいくつも貼り付けたようで、アッシュ・スクワッシュの顎は、かなりの負担がかかったようです。(アサギには、硬くて噛めませんでした。)