Act.3 川へ
アサギを促してそのゲートに俺も入っていった。
ゲートをくぐるとそこは、うっそうと茂った森特有の薄暗さの中だった。
巨大樹の森といえどもすべてが巨大樹で出来上がっているわけではないようで、見慣れた樹もいくつかある。地面は、踏み固められておらず、踏み出した地面は軽く沈んでいる。木と木から見える小さな隙間から見える空には、大きな鳥が旋回しているのが見えた。
「「あれは・・・・。」」
アサギとスクワッシュが同時に口を開いた。
「うまそうだ・・・。」
「鬼大鳥ですねぇ~。」
しかし、次に口にした言葉は、ぜんぜん違う。
「鬼大鳥?聞かない鳥だね。」
「えぇ~。海にもぐって大魚を捕まえますぅ~。海が荒れてもぐれない時は、漁師の村を襲うこともあるといわれてますがぁ~、あまりぃ~、報告例がないんですぅ~。」
「やっぱりうまいのか?」
「さぁ~?料理の本でぇ~、素材として乗ってるのはぁ~、見たこと無いですぅ~。」
さすが、食う寝る闘うのスクワッシュらしい質問だが、もう少し考えて欲しいものだ。
「で、アサギ。ここはどこかわかったのかい?海岸でもなんかヒントあったんだろ?」
「はいぃ~、もし鬼大鳥がぁ~、巣を作っているならぁ~、この島だと思いますぅ~。」
アサギが開いた本に地図が描かれている。巨大樹の聖地 ヤヒサ島。あの海岸からは見えなかったが、円形の島に中央に山がそびえ、その周囲を森が覆っているようだ。地図には、3本の川が描かれ、海岸は、1つ以外は、絶壁になっているようだ。気候は温暖だが、雨が多いとあった。自由都市レルカから南西に60キロほどの島になるらしい。
「さすが、アサギ。」
「えへへぇ~。」
アサギは、下を向いて照れている。運動能力は、皆無でも知識量は半端ない。この知識量で、彼女は訓練所の費用免除という特待生になっているのだ。
「とりあえず、スクワッシュ、木に登って山がある方と特徴のありそうな地形を見て来てくれ。」
「ん?良いけど、この試験終わったら例の肉食わせろよ?」
「了解。その分従ってくれよ。」
喧嘩ぱやいスクワッシュが、俺と組んでる理由の一つが、対価としてこの肉を食えるからだ。スクワッシュを魅了してやまない肉。それは親父が残した手記にあった、特殊な野草をスパイスとして焼いた肉なのだ。あの野草を使うと肉のうまみが引き出され、食べたことのないほどの旨みを引き出した。それを食べたいが為、スクワッシュはある程度の命に従っている。
スクワッシュは、手足の爪を出し、木を上って行き、すぐに降りてきた。
「山は、あっちで、逆のほうにでかい石が森から突き出てたぜ。後は、でっかい木がところどころ見えてたぜ。」
「天柱石って呼ばれてる岩ですねぇ~。じゃ、現在地はここぐらいでしょうかねぇ~。」
アサギが、さした地図の場所を見てみると山に向かって、北は右手、天柱石は後ろ、開始地点の砂浜は左手になっている。
「さて、どうしたい?セオリーどおりの水場確保には、南東にも北側にも川はある。ただ、流域には、他チームに遭遇か、待ち伏せされる恐れもある。山に登れば、野宿の煙が見れるだろうが、これは、巨大樹で代用できるだろうし、他チームも煙を派手に立てるところは少ないか、あっても他チームに狙われるから狩るチームに曹禺戦も考えられる。」
状況を一息に告げ、2人の顔を交互に見比べてみる。
「アッシュ君に任せるよぉ~。」
「おぅ、極力強いのとあたってくれ!!」
予想通りの回答だ。強力な接近戦能力と大量の知識保有という個性的な2人。その2人をうまく使って、どうにか試験合格しなければいけない俺ってところかな。
「このままできるだけ最短で、北の川に向かう。」
「おぅ」
「はい」
・・・・・。理由すら聞かない2人。少しは考えて欲しいものだ・・。
「先頭は、スクワッシュ。その耳と嗅覚で前方の敵と特に罠を警戒してくれ。アサギは、どちらにでも支援できるように中央に。支援系の魔法の準備は怠らないように。最後尾に後方警戒しつつ、俺が行く。あっと。明るいうちに野営場所も見つけないとな。」
この3人ならこの隊列が一番だろう。深い森を注意深く、でも速やかに進んでいく。定期的にスクワッシュに木に登ってもらい方向を確かめ、時折、親父の遺品である手記で見た役立ちそうな野草を見つけると摘んでいき川を目指し進む。
日が傾き出したころ。川に到着した。
一気に開けた視界。大きな川ではないが、水を確保することはできそうだ。
「スクワッシュ、ここら辺で、川の音が邪魔にならない程度の距離を保てる野営場所を見つけようか。そこで野営しようか。」
他のチームにもアサギのように島を理解し、地図を持っているかもしれない、それに彷徨って偶然川に出るチームもあるだろう。川原は危険すぎるのだ。
しばらくして戻ってきたスクワッシュの案内でたどり着いたところは、大きな岩に倒木が屋根のようになっている場所だった。3人とも携帯食で食事を済ませ、見張りの順番を決め、1日目を過ぎるのを待つのであった。