Act.9 4日目の朝
なにかが、俺の体を揺さぶってるな・・・。
俺は、この2日間の野宿で疲れてるんだからほっといて欲しいもんだ・・・・・・。
って!!
「スクワッシュ、どうした?」
足跡の痕跡もほぼ完璧に隠し、森の中に見つけた小さな洞で、試験日3日目の夜を過ごした。外は明るいがまだ、日が昇って間もないころだろうか?鼻をくんくか動かし続けているスクワッシュに起こされたのだった。
「左右と中央にいぜ、ただ、どう匂っても5つの臭いがある。くそっ!!足跡は完璧に隠したはずだ。」
洞の壁をドン!!という音をたて殴りつけたスクワッシュは追跡者といえるだけのスキルを持っているはずだ。そして獣人である視覚、聴覚、嗅覚を使い獲物を追い詰める。逆に言えば、逃亡者として、痕跡を隠すことにも慣れており、それでも俺たちを捕捉したということは・・・。
「臭いか魔法だろうな。虎人よりも嗅覚が鋭いなら犬族の獣人か、嗅覚がするどい召喚獣か。後はなんらかの追跡系魔法だろう。」
「えぇ~、見た感じぃ~。魔法じゃないですよぉ~。魔法だったら独特の魔力がぁ~、付き纏いますからぁ~。」
アサギは、スクワッシュと真逆で、緊張感も焦りすらないいつもの口調だ。そもそも焦るという感性を持ち合わせてるかどうかもわからないが。
「5体の臭いとは、変わってるな。召喚獣を2体も使役しているのか?」
「そうかもな右手の方に、似たような生臭い匂いが2体と別の1つがあるから召喚主と召喚獣かもしれないな。どっちを殴る?」
「2体相手のほうがどうにかなるかもな。」
「えぇ~。後ろに撤退しないのぉ~。」
アサギは撤退して、極力避けたいのだろうが、もし召喚獣がいるなら走る速度は、ただでさえ足の遅いアサギより速いだろう。追いつかれ、相手のペースで戦うよりか、2手に分かれてる相手の片方だけを相手にしてそのまま逃げるか、余裕があれば、追いついてきたもう片方も叩き潰すかがいいだろう。理想は、片方の足をつぶして逃走かな。
「あぁ、とりあえず殴るぞ。スクワッシュ。」
「待ってたぜ!!」
俺の言葉で、肩を落とすアサギとうれしそうにしているスクワッシュは、本当に両極端だ。
「今回はアサギも準備しとけよ?支援と治療は任せたよ?」
「うん、アッシュ君がいうならぁ~、がんばるよぉ~。」
アサギはマジックポーチから分厚い魔法書を取り出してる。というか、出すのではなくて、緊急時に対応するため普通は、随時手に持っているものだが、そんな常識を持っていない緊張感の無さは、アサギ特有だろう。
「スクワッシュ、アサギの速度に合わせてくれよ。孤立は避けること。後、血を上らせすぎないこと。わかってるな?」
「あぁ、わかってるよ。お前が腰に下げてるものをまた嗅ぐのはいやだからな・・・。」
スクワッシュは、俺の腰にぶら下がっている小さな包みに目をやると露骨に顔をしかめている。きっと以前の俺との喧嘩を思い出したんだろうな。スクワッシュ対策に作ったこの包みは、日々俺の腰にぶら下がっている。スクワッシュが血を上らせて、誰かに怪我をさせないように持ち歩きだしてもう癖になっているのだ。
「スクワッシュ先頭に俺、アサギだ。じゃ、行くぞ!!」
俺たちは、寝床から一気に駆け出した。
「いた!!」
スクワッシュが声を上げ俺に敵の存在を教えてくれる。隠れもしていない敵が2人。片方は黒フードをかぶり姿がわからないが、もう片方とその武器には見覚えがあった。
槍剣の男だ。
「意趣返しか?にしても相棒の雰囲気が違わないか?」
「さぁーな。俺はあのへんちくりんな槍の男を殴りにいくぜ!!」
俺の指示など待たず、少し方向転換したスクワッシュが槍剣の男に向かっていった。ならば、おれが相手するのは、あのフードの奴か。
「アサギは、後、気にしつつ、俺とスクワッシュの両方援護できるところにいてくれ!!」
アサギの返事を待たず、俺は六角棍を強く握り黒フードに駆け寄り、一気に振り下ろす。
「んー、その程度?」
フードから洩れた言葉には、嘲笑が含まれていた。事実、体を軽くひねり最小限の動きで、俺の棍をかわしている。ただ、それだけで接近戦の技量がまるで違うのがよくわかる。
「まだまだ!!」
俺は、振り下ろした棍を横になぎ、フードの頭をねらうが、先ほど同様あっさりと屈んでよけられた。
「ここだ!!」
俺は、相手がかがんむのを誘導するため、ないだのだ。盾など防具があるなら最初の一撃をよける必要は無いはずだ。足元が不安定な森の中では、避けるよりか、受けるほうが良いだろう。ならば、相手は、頭部を狙った横なぎに対して、かがんで避けるか、後ろに下がるかの択一の行動にでるはず。不安定な足場で下がるよりか、しゃがむほうが楽に決まっている。もちろん、俺に向かって進んでくるということも可能だが、その可能性を頭に入れておけば、対応できるので、問題視してなかった。
すばやく、右手で、投げナイフを2本掴み、右手にあった俺の影に向かって投げ入れた。このゼロ距離なら威力も減らず、相手の影から出現する。さらにこの奇襲攻撃に対応できるとは思えない。そして念のために回避しづらいかがんだ状態への攻撃を避けれる人間などまずはいない。とおもっていた。
「ん、それ知ってるよ。」
フードは、まるで予期していたかのように後ろに転び、影から出現したナイフを避けた。
「!?」
必殺のタイミングともいえるあの攻撃を避けられる事など、予想範囲外すぎた。避けられたということを理解できるまでの少しの間は、相手には十分すぎる時間をあたえてしまったようだ。
「っ!?」
「アッシュ君!!」
一瞬のことで理解は出来なかったが、アサギの呼ぶ声が聞こえた時には、自分の身に何が起こったかは理解できた。フードは、後ろに転がりつつ両手をばねのように使い放ったドロップキックは、俺の胴体へまともに当たり、俺は、後ろに跳ね飛ばされたようだ。追い討ちの来るでもなく、その場で立ち上がった相手は、ドロップキックのためか、フードが落ちて素顔が現れていた。その素顔には、残忍な笑みを口元に浮かべ、切れ長の黒い目に黒い髪をオールバックにした男だった。
「・・・。同族か?」
「んー、そういうことになるね。はじめまして、従兄弟さんかな?」
アサギが俺の元に駆けつけようとするが、手で制した。勇者の血を引くなら異能を持っている。どんな異能かわからないならば、近寄るのは危険でしかない。
「あっちの戦士のチームにお前は、いなかったはずだが?」
盾を持った男とねずみのような出っ歯の男がスクワッシュが、対峙している男の仲間のはずだ。
「んー、そかな?そんな昔のこと覚えて無いよ。」
どうでもよさそうに両手を広げて肩をすくめている。
「んー、何だっけ?あ、そうだ。お父様より伝言があるんだよ。」
男は、急に思い出したようにぽんっと手を叩いた。お父様って誰だよ。




