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整然性ゼロの短編集

Departure

作者: カヤ

 風が、吹いていた。


 冷たくて、しかしどこか暖かい、そんな寒暖見極められぬ風が。

 僕は、そんな風の中の野原に立っていた。

 空は黒い悪魔的な雲が流れている。一方で爽やかな蒼い碧空も覗ける。

 目の前の大地には華美な花々が際涯なく乱れ咲いている。逆に後ろには殺伐とした地面むき出しの大地が僅かな植物と共に垣間見えていた。

 太陽光の恵みは花畑のみに降り注ぎ、荒れた大地には薄暗い、雲越しの間接的な光しか届いていなかった。


 裏と表、白と黒、光と闇、前と後ろ


 ここは対局する二つの勢力が同時に存在する、二律背反な世界だった。

 僕はその中立的な場所、言わば二つの境界線に立っていた。

 どちらにも属さず、身を寄せない。

 中途半端な立場だった。



 ―――ここはどこだろう?



 僕はそう思った。

 生きているとも死んでいるともいえない世界。時が止まっている、いやそれは適切な表現ではない。僕が止まっているのだ。動かなくなった人形。そんなイメージを抱かせる。

 首を動かすこともままならない。息をしてるかすら検討もつかない。

 それはまさに人形と呼ぶのに相応しい。



「ここは…始まりと終わりを司る場所」



 声が、聞こえた。

 幼く、だが凛とした女性のもの。



「あなたは…どっち?」



 目の前に少女がいた。

 幼い外見で本を抱える神秘めいた彼女を。



〈君は、誰?〉

「私はこの世界の管理者。鍵であり、門である」



 少女は語った。それは荒唐無稽な話だが、この超現実な風景がその信憑性を高めている。



「全ての始まり、創始を産み出す無限の卵。全ての終わり、終焉を齎す底無しの壺」



 言葉は続く。



「ここに来るモノは少なからず終わりか始まりを体験したもの。次に紡ぎ出す新たな扉を探るためやってくる」



  問う。



「あなたは…どっち?」



 無表情で訊いてくる。機械的な質問。こればかりが仕事だという風に、予めインプットされた文句を吐き出す風に。僕は…



〈……わからない〉


 

 と、答えた。

 実際彼女が何を言っているのかてんでわからない。なま暖かさと冷たさを含めた異質な風が一際強く吹いた。



「わから…ない?」

〈うん。君の言っていること、何一つ〉



 率直に答えた。これが僕の内なる心からの解答だった。

 少女は暫く手を顎に当てて模索している様子だったがおもむろに顔を上げて、



「そう…あなたは《迷子》なのね」

〈まい…ご?〉



 不思議な響きだった。水面に水滴を落としたときに生ずる波紋のようにそれは僕の心に強く波打った。波紋は僕の心に素早く伝播し、あっという間に席倦した。

 知りたい。そんな欲求が。



「あなたは迷ってる。生まれ出るか、消え去るか。命を産み落とすか、命の灯火を吹き消すか。そんな葛藤に苛まされている」



 ならば、どうしろというのだ。無意識のうちに二つの欲望に駆られ、この終始を司る世界で留まってしまった哀れな魂をどう扱ってくれようか。

 他の魂はおそらくだが問題なく通過するだろう。

 だが、問題児たる僕をどのように処遇してくれようか。


「探せばいい」

〈え?〉

「あなたの正直な思いを。悩んでるその意味を。考えてるその価値を。全部この世界で見つければいい。ここには足りないものが多いけど…あなたの探し物ぐらいは見つかると思う」



 甘美で、だけど過酷な提案だった。無いものを探す。無いもの見つける。落とし物を探すのとはワケが違うのだ。彼女は気楽に言うがそれは決して楽な道のりでは無い。むしろ茨の道だ。



「けど安心して」

〈え…?〉

「私も一緒に探してあげる。失った心を探したり、迷える魂を導くのも私の仕事だから」



 ふいに空が明るくなった気がした。自分の立っている場所に光が差したような、暖かい日差しのようだった。


 僕は手を伸ばした。動かないはずの身体は徐々に遅々としていて、だが確実に伸びていった。赤ん坊が生みの親にすがりつくような、一種の甘えだった。

 そして彼女の手と触れ合った。僕はその手を離さないようにぎゅっと握った。確かな温かさがそこに存在するのを感じ取った。彼女も握り返して来た。



「行こう…あなたの行き先を探しに」



 いつしか身体は完全に動かせるようになり、足を一歩踏み出していた。

 それは小さく弱々しいものだったが、確実な一歩だった。

 これから僕がどうなるかは全く判らない。僕自身知らないし、彼女も知らないだろう。僕は、イレギュラーな存在だから。苦しむだろう、挫折するだろう、もういやだと喚くかもしれない、彼女に迷惑をかけるだろう。

 それでも、



〈僕は、知りたい〉



 何故自分がここにいるのか、どうしてこの世界に存在するのか、存在する意味はなんなのか、境界線に立っていた意味は―――僕は、知りたい。 

 彼女はクスリと笑って、歩き出した。僕の手は握られていない。彼女は先行する。ついてこいと言っているようだ。離れないよう後をついて行った。

 いつしか周りは花だらけになっていた。千差万別、春夏秋冬違った花があちこちに乱立している。暖かい風がふわっと吹いた。太陽光が眩しい。生きているようだった。命が生まれ、新たな生命が宿る。目の前の花畑はこんな美しいものだったのか。 


 僕は歩く。

 どこまでも。

 この始まっては終わる世界を。

 知りたい。

 自分の示す道標を。

 そして―――その、先を。

二度目の投稿です。一度目の投稿から二時間くらいしか経ってません。

前回の投稿より解りにくい内容となっております。仕方がないのです。僕はこんな内容の短編小説しか書けないんですから。いつか連載モノも書きたいなーと思う所存です。いつになるでしょうかね…

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