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美帆はそのまま入院した。


神山医師の話によると、進行した卵巣ガンの疑いがあるらしい。

詳しくはもっと検査をしたり、実際開腹手術をしてみないとわからないらしい。

その日は容態も安定しているので、二人は自宅に帰り入院の支度を整え、翌日再び病院へ向かった。

お腹が張っているとのことで、腹水を抜き取って検査をし、MRI検査も行うとのことだった。

医師によると、卵巣ガンはなかなか症状が出にくく「サイレントキラー」と呼ばれているらしい。

進行すると腹部の張り、頻尿の症状が現れるらしい。

言われて、二人には思い当たる節があった。

この3日間、美帆はよくトイレに行っていた。お腹も張ると言っていた。

どうして気付いてやれなかったと悔やむ公一に、神山は昨日今日気付いても結果は一緒だと慰めてくれた。


その数時間後、やはり思わしくない結果が告げられた。

「やはりステージ3以上の卵巣ガンのようです。3日後に切除手術を行いましょう。」

「先生、美帆は治るんでしょうか?」

神山は少し間を置いて答えた。

「とにかく開腹して、卵巣とそれに付随するリンパ節、腹膜を切除します。ただ・・・」

「ただ?」

神山は公一に向き直り、

「若年性の卵巣ガンはとても珍しいうえ、若ければ若い程進行が早いケースが多い。開腹した結果、手の施しようの無い状態だった場合は何もせず閉じる可能性もあります。その場合・・・。」

「その場合、美帆はどうなるんですか?」

言葉を遮るように公一は質問した。

神山は振り絞るような声で言った。

「その場合、美帆さんの余命は三ヶ月とお考えください。」

公一は全身から力が抜けていくのを感じた。

「美帆の手術、よろしくお願いします。」

凛とした声で由美子は神山に言った。

こういう時、母は強い。

「全力を尽くします。」

そう言って礼をすると神山は説明室から出ていった。



説明室から病室へと案内された。

美帆は検査が終わって個室へと移されていた。

本人への告知はしていない。

急性の膵臓炎と腹膜炎だと言ってある。

病室に入ると、美帆はベッド上で起き上がり、外を眺めていた。

公一達に気付いて、美帆は微笑んだ。

「大丈夫?痛みは?」

由美子が声を掛ける。

「うん、大丈夫。」

点滴に鎮痛剤が入っていると聞いていた。

今はそれが効いているらしい。

「美帆。先生から聞いてると思うが、3日後に手術をすることになった。」

「うん。」

少し弱気そうに俯きながら答える。

「炎症を起こしてる所を取るそうだ。そうすれば治る。」

公一は励ますように美帆に語り掛けた。

「治ったら、今度は横浜の中華街でデートだ!」

美帆は決意したように公一に向かって顔を上げ、笑顔で頷いた。

そして、由美子に向かって

「ねえ、お母さん。ヒロに電話したいんだけど。」

「あら、ダメよ。ベット上で安静でしょ?」

美帆は不満そうな顔をする。

「だって明日学校だよ?私が行かなかったら、ヒロ心配するもん。」

「じゃあ・・・。」

公一が遮って、提案をする。

「手紙を書いたらどうだ?」

「そうよ。そしたらお見舞いに来てくれるかも!」

由美子も公一の案に乗る。

ややあって、美帆は笑顔になった。

「うん、書く。おかあさん、レターセット買って来て!とびきり可愛いやつ!」


美帆は手紙を書いた。

神戸の旅が楽しかったこと。

その帰りにお腹が痛くなって入院したこと。

三日後に手術をして、しばらく入院するからお見舞いに来て欲しいこと。

どんなにヒロに会いたいかってこと。

書きたいことはたくさんあったが、書ききれなくなると困るのでキリのよいところで終わらせ、封をし、由美子に渡す。

「お母さん、お願いね。」

公一は立ち上がり、

「いや、お父さんが行ってくるよ。郵便局に行って速達で出してもらってくる。」

と、由美子から手紙を受け取った。

美帆は嬉しそうな顔をする。

「ありがと!お父さん!」


公一は郵便局へ向かい、手紙を速達で出してきた。

だが、そのまますぐに戻れなかった。

小一時間、病院の近くにある公園をぶらついて気持ちを整理した。


病室へ戻ると、美帆は眠りについていた。

その美帆の頭を由美子が優しく撫でている。

「寝たのか。」

「あなたが帰ってくるのを待つって頑張ってたんだけど、今日は検査をたくさんしたから、疲れちゃったみたい。」

公一は改めて美帆の寝顔を見る。

まだ少女らしい、少しふくよかなその顔を見ると、恐ろしい病魔に蝕まれているとはとても思えなかった。

「どこに行ってたの?」

由美子が聞く。

「うん、ちょっと公園を散歩。少し考え事をね。」

ベッドを挟んで由美子の対面に座りながら答えた。

「そう・・・。」

由美子はそう答えながら、美帆の髪を撫で続けた。



美しくも儚げな親子の姿に、公一には見えた。

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