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9月の由比ヶ浜は、喧噪も終わり穏やかだった。



浩輝は穏やかな海に向かって流木に腰掛け佇んでいた。

「ごめんな、美帆。10年掛かっちゃったよ。」

水面が太陽に照らされてキラキラと輝いている。


「美帆に出された問題、やっと答えが出たよ。」

海面の光の輝きが美帆の微笑みのように思えた。

「君も喜んでくれるの?」

ふと風が吹いて、浩輝の頬をすり抜けた。

「答えを伝えに来た。でももう少しこのままでいたいな。」

吹き抜ける風はまだ優しかった。




「どうして人は生まれて来るんだろう?君はそう言ったね。」

爽やかな風が頬を撫でる。


「人は、幸せを探すために生まれてくるんじゃないかな?」

浩輝は問いかける。


「幸せを探して、苦しんで、苦しんで、苦しみ抜く。」

一言一言噛みしめるように語り掛ける。


「だから、見つかったときは嬉しいし、今度はそれを守るためにまた苦しむ。」

浩輝は自分の言葉に頷く。


「でも、その苦しみが幸せなんだ。だから人は生きていける。」

また、風が浩輝の周りをすり抜けた。


「間違ってるかもしれないけど、俺はそう思う。」




ポケットからガラスの小瓶を取り出した。



「美帆!君の住む空のカタチは、ここと同じかい?」



浩輝はしばらく小瓶を見詰めていた。


やがて踏ん切りがついたのか、小瓶を持って、浩輝は波打ち際に向かった。




そのまま小瓶を波打ち際に置いた。



寄せた波が、小瓶を海へ連れ去った。



それを見つめながら、浩輝は呟いた。





「いつかきっと、君を見つけるよ。君の住む空の下で。」




海を見つめながら、浩輝は煙草を咥えた。

火を着けて深く息を吸い込む。

吐き出した煙が空に消えて行った。




「こら!」

くわえていた煙草を急に取り上げられた。

「!?」

振り向くと、微笑む顔があった。


(美帆・・・!?)









陽射しの中で亜弓が笑っていた。

「健康に悪いんだから煙草は止めなさい!」

いつのまにか迎えに来ていたらしい。

車道では裕太が手を振っている。



「わかったよ。」

振り返って亜弓に笑いかけた。

「行こう!」

亜弓が浩輝の手を取って先導する。

歩きだした瞬間、美帆の声が聞こえた気がした。




「ありがとう・・・。」




優しい風が浩輝の横を通り過ぎた。

庄司陽子先生

デニーズ春日部店

M・Yさん


に捧げます。

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