24
9月の由比ヶ浜は、喧噪も終わり穏やかだった。
浩輝は穏やかな海に向かって流木に腰掛け佇んでいた。
「ごめんな、美帆。10年掛かっちゃったよ。」
水面が太陽に照らされてキラキラと輝いている。
「美帆に出された問題、やっと答えが出たよ。」
海面の光の輝きが美帆の微笑みのように思えた。
「君も喜んでくれるの?」
ふと風が吹いて、浩輝の頬をすり抜けた。
「答えを伝えに来た。でももう少しこのままでいたいな。」
吹き抜ける風はまだ優しかった。
「どうして人は生まれて来るんだろう?君はそう言ったね。」
爽やかな風が頬を撫でる。
「人は、幸せを探すために生まれてくるんじゃないかな?」
浩輝は問いかける。
「幸せを探して、苦しんで、苦しんで、苦しみ抜く。」
一言一言噛みしめるように語り掛ける。
「だから、見つかったときは嬉しいし、今度はそれを守るためにまた苦しむ。」
浩輝は自分の言葉に頷く。
「でも、その苦しみが幸せなんだ。だから人は生きていける。」
また、風が浩輝の周りをすり抜けた。
「間違ってるかもしれないけど、俺はそう思う。」
ポケットからガラスの小瓶を取り出した。
「美帆!君の住む空のカタチは、ここと同じかい?」
浩輝はしばらく小瓶を見詰めていた。
やがて踏ん切りがついたのか、小瓶を持って、浩輝は波打ち際に向かった。
そのまま小瓶を波打ち際に置いた。
寄せた波が、小瓶を海へ連れ去った。
それを見つめながら、浩輝は呟いた。
「いつかきっと、君を見つけるよ。君の住む空の下で。」
海を見つめながら、浩輝は煙草を咥えた。
火を着けて深く息を吸い込む。
吐き出した煙が空に消えて行った。
「こら!」
くわえていた煙草を急に取り上げられた。
「!?」
振り向くと、微笑む顔があった。
(美帆・・・!?)
陽射しの中で亜弓が笑っていた。
「健康に悪いんだから煙草は止めなさい!」
いつのまにか迎えに来ていたらしい。
車道では裕太が手を振っている。
「わかったよ。」
振り返って亜弓に笑いかけた。
「行こう!」
亜弓が浩輝の手を取って先導する。
歩きだした瞬間、美帆の声が聞こえた気がした。
「ありがとう・・・。」
優しい風が浩輝の横を通り過ぎた。
庄司陽子先生
デニーズ春日部店
M・Yさん
に捧げます。