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美帆の告別式は、通夜よりも盛大だった。



式は滞りなく終わり、いよいよ火葬場へと運ばれることになった。


閉棺。


参列者が美帆の亡骸に花を手向けていく。

あちこちで啜り泣きが聞こえてきた。

浩輝はそれを遠巻きに眺めていた。

なんとなく不思議な気分だった。

「浩輝君。」

公一が声を掛けるが、浩輝は首を振って遠慮した。

頷きながら、公一が近寄ってくる。

「指輪とペンダントは入れられないそうなんだ。どうする?」

浩輝は無表情のまま答えた。

「もし許されるなら、美帆と一緒にお墓に入れてやってください。」

「・・・わかった。」

公一も無表情のまま答えて、その場を離れた。


美帆の棺に釘が打たれていく。

浩輝はそのまま立ち尽くしていた。


そして、美帆の棺は親族の男性たちの手で運ばれていった。


公一の喪主挨拶は素晴らしかった。

参列したほとんどの人が涙を流した。


やがて出棺を迎えた。

浩輝が公一に近付く。

「お父さん。」

遺影を抱えた公一が振り向いた。

「すいません。俺、ここで待ってていいですか?」

公一は一瞬驚いた様な顔をした。

「いいのかい?」

「はい。」

「・・・わかった。」

美帆が焼かれる所に立ち会いたくなかった。

浩輝の気持ちを察した公一は、浩輝に微笑むと車に乗り込んだ。


やがて霊柩車はクラクションを鳴らす。

その音は悲しげに春の青空に響き渡った。



葬祭場のすぐ横に、満開の桜で溢れる公園があった。

浩輝はそこのベンチを見つけ、腰掛けた。

しばらくそこで佇んでいた。


やがて意を決したように、胸ポケットに手をやると美帆からの手紙を取り出した。


「ヒロ。


ごめんね。一緒にいられなくて。

お父さんたちと一緒に、嘘に付き合ってくれてありがとう。

でも、私は弱っていく自分の姿をヒロに見られたくなかった。

だから・・・ごめんなさい。


私ね、初めてヒロを見た時、ヒロとずっと一緒にいたいと思ったんだ。

最初はあんな出会いしか出来なかったけど、話すきっかけが欲しかった。

でも、そんな私をヒロは見つけてくれた。

嬉しかった・・・。


ヒロが大好きだった。

ヒロの大きな手が大好きだった。

ヒロの笑顔が大好きだった。

ヒロの声が大好きだった。

ヒロの背中が大好きだった。

ヒロの・・・唇が大好きだった。

書ききれないほど・・・ヒロの全てが大好きだった。


私はヒロにいっぱい幸せを貰いました。



これから私は、ヒロとは違う空の下に住みます。

その空は、どんなカタチをしているんだろう?

こことは違うカタチなのかな?


この空の下で、ヒロはいっぱい幸せになってください。

私はこの世界ではその役目が果たせなくなっちゃうけど、違う空の下でヒロの幸せを祈ってます。

だから、ヒロはちゃんと自分の幸せを見つけてね。




そして生まれ変わって、もしまだ私のことを覚えていてくれたら、私を見つけ出してね・・・。



その時までバイバイ!



大好きだよ!




美帆」



浩輝の目に涙が溢れた。

やっと泣けた。


手紙の最後の方には涙が滲んでいた。

きっと泣きながら書いたのだろう。

おそらく絶望の中にいたであろう美帆が、この手紙を書いた時の想いに浩輝は思いを馳せた。



そのまま浩輝は空を仰ぎ見た。



咲き乱れる桜の花は、まるで美帆の命のように儚く散り急いでいた。




車列が戻ってきたのを見て、浩輝は葬祭場に戻った。

そのまま初七日法要を行い、美帆の葬儀の全てが終了した。


礼服から着替え終えて、浩輝は公一たちに挨拶に向かった。

「一緒に行かないのかい?」

公一が尋ねた。

「いえ、ここで・・・。」

「そうか・・・。」

答えると、公一はポケットからガラスの小瓶を取り出し、浩輝に差し出した。

「これは?」

「美帆の遺骨の一部だよ。」

「・・・。」

小瓶を見てみると、中に白い欠片が一片入っていた。

「君に持っていて欲しい。君の好きにしてくれていい。君に任せるから。」

由美子を見ると、由美子も頷いている。

「わかりました。ありがとうございます。」

瓶をポケットにしまうと、公一が握手を求めてきた。

美帆を愛した二人の男が手を握りあう。

「いつか、大人になったら飲もうな。」

「はい。」

笑顔で言葉を交わす。


結びつけるものを失った両者は別れを告げた。




駅に向かう途中、再び先程の公園に立ち寄った。

桜を見上げながら、ポケットの中で握りしめていた小瓶を取り出した。

コルクの栓を開けると、浩輝は左手から指輪を外し、小瓶に入れて栓をした。

振ってみると、ガラスが小気味いい音を立てた。


浩輝は小瓶を再びポケットに突っ込むと、足早に駅へと向かった。

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