表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/24

17


大学病院を退院して、美帆が自宅に戻ってきた。


その翌日、浩輝が美帆の見舞いに訪れた。

美帆の部屋に上がると、美帆は勉強机のイスに腰掛けていた。

「寝てなくていいのか?」

ガラスのテーブルの前に座りながら、心配そうに浩輝が尋ねる。

「そんなに重病じゃないよ!」

そう言うと、美帆も浩輝の正面に座った。

「ヒロ・・・。ごめんね。」

「ん?」

「ヒロの誕生日だったのに・・・。」

自分の体より、浩輝の誕生日を気にしていた。

「ぜんぜん。美帆が無事なのが何よりだよ。」

そう答えると美帆はホッとしたように息をついた。

「・・・ありがとね。」

「何が?」

「救急車でずっと・・・手を握っててくれてたでしょ?」

「ああ・・・。」

意識が無かった筈なのに。

「よく覚えてないんだけど、ヒロの手の温かさはわかってたんだ。」

「そう・・・なのか?」

「うん。だから、不安じゃ無かったよ!」

笑顔で答える。

美帆が一層愛おしく思えた。


「ねえ。」

「うん?」

美帆は机の上から包みを取り出した。

細長い箱はラッピングされ、豪華なリボンが付いていた。

「5日遅れでゴメンね。」

浩輝は受け取ると

「開けていい?」

「うん。」

浩輝は包みを開ける。

中には細長い化粧箱が入っている。

「開けてみて!」

美帆が嬉しそうに言う。

開いてみると中にはペンダントが入っていた。

金色の鎖にヘッドは水晶のペンタグラム。

「へえ、綺麗だな。」

取り出してしげしげと見る。

「着けてみて。」

浩輝はたじろいだ。

ペンダントなんか着けたことがない。

それでも悪戦苦闘する。

あたふたする浩輝を見て、美帆は笑った。

「もう、貸して!着けてあげるから。」

そう言うと美帆は立ち上がり、浩輝の正面にひざまづいた。

浩輝からペンダントを受け取ると、美帆は浩輝の首に手を回してペンダントを着けた。

着け終わると同時に、浩輝は美帆を抱きしめた。

美帆は驚いたが、そのまま浩輝に身を預けた。

「美帆。ありがとな!」

そう言うと、美帆は浩輝の顔を下から見上げながら

「誕生日おめでとう!」

そのまま軽くキスをした。


「ねえ、ほら。お揃いなんだよ!」

浩輝の胸の中で、美帆は自分の首に掛かるペンダントを持ち上げた。

そこには浩輝と同じペンタグラムが光っていた。

「ホントだ。お揃い二つ目だな。」

浩輝は自分の左手の薬指にはまっている指輪を親指で弾いて見せた。

「うん。ヒロとはなんでも一緒!」

そのまま美帆は浩輝の胸に顔を埋めた。

「そして何でも半分づつな。」

「え?」

美帆の体をギュッと抱きしめた。

「嬉しい事も悲しい事も。」

「うん。」

「幸せもな。」

「うん。」

浩輝はもっと強く美帆を抱きしめた。

公一からの電話で、美帆の病気の進行は聞いていた。

元気そうに見えるが、胸に抱いた美帆が少し小さく、細く軽く感じられた。

美帆がぼそっと呟いた。

「水晶ってね、体の悪い気を吸い取ってくれるだけじゃなくて、願い事も叶えてくれるんだって。」

「へえ。凄いね。」

このペンダントが美帆の病気も治してくれたらいいのに・・・。

「じゃあ、美帆の誕生日に何かお返ししなきゃね。」

「え?」

「4月3日だったろ?」

「うん。」

「何がいい?」

美帆は考え込む。

「ほら、何?」

「そんなに簡単に思い浮かばないよ。」

頬を膨らまして反論する。

「じゃあおまかせ?」

「うん。ヒロと一緒にいられれば何でもいい!」

美帆の笑顔が弾けた。




浩輝は美帆の見舞いに毎日訪れた。

いつも笑顔で迎えてくれる美帆は、しかしながら日に日に弱っていっているように感じられた。

だんだんベッドの上で出迎える事も多くなってきた。



浩輝がいない時、美帆はたまに遠くを見つめ、何か考え込むような事が多くなったように由美子は感じていた。



3月に入って少し経った頃、その日は唐突にやってきた。



大学病院で診察を待っている時だった。

由美子が受付を済ませて美帆の元へ戻ってきた時、美帆がベンチにうずくまっていた。

「美帆!どうしたの?」

由美子は慌てて美帆の元に駆け寄り、美帆の肩を掴んだ。

美帆は由美子の腕を強い力で掴んだ。

「お母さん・・・お腹が・・・痛いの・・・。」

顔色が真っ青になり、ガタガタ震えている。

そのまま力が抜けるように崩れ落ちていった。

「美帆!美帆!!」

「どうしました?」

看護師が駆け寄ってくる。

「お願い、先生を!」

由美子は泣きながら哀願した。



その騒ぎを感じながら、美帆は意識を失っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ