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街中にはクリスマスソングが溢れていた。


鎌倉へ向かう電車の中、

浩輝の横に座る美帆は、浩輝の肩に頭を預けかすかに寝息を立てていた。

今日はクリスマスイブ。

世の中の恋人たちにとって、一番大切で一番楽しい日だった。


美帆を迎えに行った時に、公一から言われていたことがあった。

最近、美帆は多少貧血気味だから十分気を付けてくれと。

確かに最近の美帆は少し疲れやすくなっていた。

だんだん、美帆の命の火が削られていっているのだろうか?

そんなことを考えながら、浩輝は美帆の寝顔を見つめていた。


「どうしたの?」

そのままの態勢で美帆が囁いた。

「起きたのか?」

「うん。」

顔を上げて、浩輝の顔を見上げた。

「もうすぐ着くよ。」

「うん。」

美帆は再び浩輝の肩に顔を寄せる。

その少し弱々しい美帆の肩を抱き寄せた。


やがて電車は鎌倉駅のホームに吸い込まれていく。

駅を出ると、駅前の店々のショーウインドウにはクリスマスの飾り付けが溢れている。

「綺麗ね・・・。」

「ああ。」

今日はあまり二人の会話が続かない。

二人とも今日の雰囲気に浸っていた。


駅前の喫茶店で軽く昼食を済ませると、二人は江ノ電のホームへ向かった。

今日はやはりカップルが多い。

誰もが楽しそうに腕を組んだり手を繋いだり、幸せそうな空気が漂っていた。

電車が発車し、しばらくすると目の前に鎌倉の海が広がった。

海面が陽射しでキラキラと光っている。

「うん。今日も綺麗な海!」

美帆が嬉しそうに呟いた。

「そうだな。」

なんだか浩輝も嬉しく思えた。

やがてその四両編成の小さな電車が七里ヶ浜の駅に着いた。

「どうする?タクシー呼ぶ?」

美帆を気遣い、尋ねる。

「ううん。歩きたい。」

美帆が笑顔で答える。

「そっか。じゃあ歩こう。」


坂道をゆっくりと、手を繋ぎながら登っていく。

途中のスーパーで食材を購入し、さらに坂を上っていく。

坂を上り詰めると、少し細い道を左に曲がる。

少し行くと、オレンジ色の外観の建物が見えてきた。

「着いたー!」

美帆が嬉しそうに言う。

美帆は玄関の鍵を開け、先に中に入っていく。

「わあ、なにこれ?」

リビングの方から美帆の声が聞こえる。

浩輝が遅れてリビングの方へ上がっていくと、美帆がリビングの真ん中であたりを見回していた。

キッチンには調理器具と食器やグラスが揃っていた。

アイランドキッチンのカウンターにはスツールがふたつ。

窓の近くに目をやると、大きなもみの木が置かれている。

飾り付けは完了している。

どうやら公一が気を利かせて設置していったようだ。


暖炉の横には薪や新聞紙が置かれ、その前にはクイーンサイズのベッドマットにシーツが敷かれ、二つの枕と布団がセットされていた。

「私たちの新居みたいね!」

美帆が嬉しそうに言う。

ああ、この笑顔を俺は見ていたいんだなと浩輝は思った。

「コーヒー入れるね。」

そういうと、美帆はキッチンに向かい準備を始めた。

浩輝は暖炉に向かい、火を起こし始めた。

薪を組み、下に新聞紙を配し、火を着ける。

しばらくして火が大きくなり、パチパチと薪が音を立てて燃え上がってきた頃、薪の燃える香りに混じってコーヒーのいい香りが漂ってきた。

「コーヒー入ったよ!」

暖炉の前で座り込んでいた浩輝のもとへ、トレーを持った美帆がやってきた。

どんどんいい匂いが近付いてくる。

美帆は浩輝の横にトレーを置いて、その横に座り込んだ。ふたりは暖炉の炎を見つめながら、コーヒーに口を付けた。

ふたりを薪の燃える音が包み込む。


コーヒーを飲み終わると、二人はベランダに移動した。

相変わらず素晴らしい展望だった。

眼下には町並みが広がり、その先には輝く海が覗く。

風もなく穏やかな陽気だが、やはり12月の外気は少し冷たかった。

「寒くない?」

浩輝が尋ねると、美帆は海を向いたまま

「抱きしめて!」

と答える。

浩輝は美帆の後ろから覆い被さるように抱きしめた。

「うん。あったかい。」

美帆がケラケラと笑う。

しばらくそのまま、ふたりは海を眺めていた。


陽が少し傾いてきた。

美帆はキッチンに向かい、料理を始めた。

「何が出来るの?」

「内緒!」

美帆が笑いながら舌を出す。

「わかったわかった!」

そう言いながら、浩輝は風呂の準備をしに行った。

風呂はこの家の三階にある。

少し大きめのジャグジーになっている。

窓からは絶景が広がっていた。

風呂を沸かしキッチンに戻ると、美帆は圧力鍋をコンロに掛けていた。

「ねえ、ヒロ見て!」

美帆は言いながら冷蔵庫を開く。

中には七面鳥の丸焼きと、大きなクリスマスケーキが入っていた。

その下の段にはシャンパンが一本。

「お父さんが用意してくれてたみたい。」

「粋なお父さんだ。」

そう言い合いながら、浩輝はキッチンに立つ美帆を見つめた。

本当に夫婦のような感じがした。


窓の外が夕焼けに染まっていく。

キッチンやリビングも暗くなってきたので、電気を付けた。

「出来たよ!」

美帆が嬉しそうに言う。

浩輝は食器の配膳を手伝った。

カウンターの角を挟んではす向かいに座る。

目の前には七面鳥。

そしてサラダとパン。

「はいどうぞ。」

美帆が圧力鍋からよそったのはビーフシチュー。

「旨そう!」

「お母さん直伝だからね!自信あり!」

自慢げに腕まくりしながら答えた。

「ヒロ!シャンパン!」

「おう!」

浩輝はシャンパンのコルクにナプキンを被せ、栓を抜いた。

ポンッ!っと小気味良い音を立てた。

ボトルの中に泡が立ち上るのが見える。

グラスにシャンパンを注ぐと、美帆がそれを掲げる。

「あ、ちょっと待った。」

浩輝は思い出して、ツリーに向かいイルミネーションの電源をコンセントに差した。

パアッとツリーが光に包まれる。

「キレイ・・・。」

「美帆。キャンドルに火を着けて。」

美帆はマッチを擦り、カウンターの上の燭台に乗ったキャンドルに火を着けた。

浩輝はリビングとキッチンの電気を消した。

「うわあ・・・。」

美帆はうっとりしたような声を上げた。

「美帆、見て!」

浩輝がベランダの先へ視線を促す。

そこには眼下に街の明かりが広がり、イルミネーションの様だった。

「すごい・・・。」

浩輝が美帆の横に座り、グラスを持った。

「メリークリスマス!」

「メリークリスマス!」

グラスが甲高い音を立てて重なる。

晩餐が始まった。


美帆のシチューは本当に美味しかった。

料理に舌鼓を打って、最後にケーキの登場。

「お父さんはこのサイズ、二人で食べきると思ったんだろうか?」

浩輝が笑いながら言う。

「見栄でしょ!」

美帆が笑いながら答える。

切ったケーキとコーヒーを持って、再び暖炉の前に座る。

そこで、ふたりはたくさんの話をした。

お互いの小さい頃の話や、ふたりの思い出話。

話題は尽きなかった。


どれくらいの時間が過ぎただろう。

「そうだ、お風呂沸いてるぞ。」

浩輝が言うと、美帆は少し恥ずかしそうに

「うん・・・。」

と答えた。

その後に待っていることに思いを巡らせたようだ。

「先に入って・・・。」

浩輝が意地悪げに聞く。

「一緒に入る?」

「バカ・・・。」

暗くても、美帆の耳まで赤くなるのがわかった。

「わかったよ!」

笑いながら、浩輝は先に風呂に向かった。




先に風呂を出てパジャマに着替えて浩輝が戻ると、美帆はキッチンの片付けを終わらせていた。

手際の良さに感心した。

「上がったよ。美帆も入っておいで。」

「うん。」

美帆はエプロンを外しながら答え、風呂に向かって階段を上がっていった。

浩輝はその姿を見送ってから、カバンの中から小さなケースを取り出し、枕の下に隠した。


少し時間が経って、美帆が階段を降りてきた。

真っ白なパジャマに身を包んだ湯上りの美帆は美しかった。

浩輝は息を呑んで見つめた。

その視線に気付いた美帆が呟く。

「そんなにジッと見ないで・・・。」

浩輝はハッとして、美帆をベッドに手招きした。

美帆を自分の左隣に座らせた。

ふたりを暖炉の火が照らし出す。

「キレイだよ、美帆。」

美帆の瞳を見つめながら囁くと、美帆は目を閉じた。

浩輝はキスをした。

最初は一瞬。

再びキス。

今度は長めのキスだった。

キスをしながら、浩輝は枕の下からケースを取り出した。

唇を離すふたり。

目を開けた美帆は、目を潤ませていた。

「美帆・・・。」

浩輝は美帆の目の前にケースを取り出した。

「何?」

少し驚いた表情に変わる。

浩輝はケースを開ける。

中には指輪がふたつ。

「え・・・?」

美帆が息を呑む。

「美帆。」

浩輝は美帆の目を見つめながら言葉を繋ぐ。

「美帆。結婚しよう。」

言った瞬間に美帆の目から涙がこぼれ落ちた。

「ヒロ・・・。」

美帆は浩輝の胸に顔を埋めた。

小さく震えていた。

「ちゃんとお父さんにもお願いしたよ。美帆をくださいって!」

言い終わる前に、美帆は浩輝に抱きついてきた。

しばらくそのまま、美帆が泣き終わるのを待った。


しばらくして、美帆が呟いた。

「いいの?」

「ん?」

「私で・・・いいの?」

今度は見上げながら尋ねた。

この顔に弱かった。

浩輝は微笑んだ。

「美帆じゃなきゃダメなんだ。」

言いながら、美帆のおでこにキスをした。

そして美帆の左手を取り、薬指に指輪をはめた。

美帆は指輪をはめた左手をウットリと眺めている。

「さあ、美帆も俺に着けて!」

もう一つの指輪を美帆に渡すと、美帆は震えながら浩輝の薬指に指輪をはめた。

浩輝は美帆の両手を取り、美帆の目を見つめた。

「俺は、美帆を死ぬまで愛します。いや、永遠に美帆を愛します。」

また、美帆の瞳から一筋の涙が流れた。

「幸せに・・・してください・・・。」

そのまま、美帆の方からキスをしてきた。

激しいキスだった。

二人はお互いの唇を貪るようにキスをした。

そのままベッドに倒れ込む。

浩輝はそっと唇を離し、美帆の目を見つめながら囁いた。

「美帆のすべてが欲しい・・・。」

美帆は静かに頷いた。


美帆の白い首筋に唇を這わすと、その口からかすかなため息と、愉悦の囁きが聞こえた。

そのまま浩輝は美帆のパジャマのボタンを外す。

美帆はブラジャーをしていなかった。

パジャマの下から、小柄な割に豊満な乳房が覗く。

「恥ずかしい・・・。」

消え入りそうな声で、美帆が呟く。

「綺麗だよ、美帆・・・。」

そういうと、浩輝は美帆の乳房のてっぺんにある蕾を口に含んだ。

美帆の胸が大きく息を吸って盛り上がる。

「ああ・・・。」

声を上げる美帆。

美帆のすべてが愛おしかった。


その夜、ふたりは初めて結ばれた。





朝日に包まれて、浩輝は目を覚ました。

横には美帆が穏やかな寝息を立てている。

まだふたりが結ばれたことが夢のようだったが、ふとシーツに目をやるとそこにはうっすらと破掻の後である血痕が滲んでいた。

浩輝はそのまま美帆の寝顔を眺めていた。

この時間が永遠に続けばいいと思った。


美帆とひとつになった時、暖炉の火に浮かび上がる美帆の裸体の美しさに息を飲んだ。

その美しい裸体が自分の動きに合わせて艶めかしく動く様は、今まで見たこともない美しさと妖艶さだった。


そんなことを考えていると、美帆も目を覚ました。

自分を見つめる視線に気が付いた美帆は、浩輝を見つめながら腕を広げる。

浩輝が顔を近づけると、美帆は浩輝に抱きつき、唇を貪った。

大胆に変貌した美帆に驚きつつ、浩輝は身を委ねた。



その日は一日中、お互いを貪り合った。

風呂に一緒に入ってはひとつになり、ベッドに戻ってはまた抱き合った。

お互いが一瞬たりとも離れたくなかった。

もうすでに、美帆は体を合わせる快楽に酔えるようになっていた。

浩輝は自らの精を、美帆の体内に解き放っていた。

悲しいかな、美帆はもう子供が出来ない体だった。

しかし、浩輝はこのまま奇跡が起きて子供が出来て欲しいと思った。


そうして、次の日ふたりの新婚旅行は幕を閉じた。

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