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痴漢

「きゃあ!」

 少女の悲鳴が車内にこだました。

 車両の全ての人に聞こえるくらい大きくてはっきりとした悲鳴だった。

「こ、この人!この人、痴漢です!お、お尻触られました!」

 そういって、少女は震える指先を突きつけた。

 普段、見てみぬ振りをされる痴漢も、ここまで大声で騒がれたら無視出来まい。一瞬にして、車内は騒然となった。

 いまどきこんな大きな声で痴漢を摘発できる少女もそう多くはあるまい、と感心している自分こそが、少女の指先が示している人物であることに気付いたのはあと30秒ほど後のことだ。

 朝の通学・通勤ラッシュのときの出来事であった。


 その後、数名の男性の協力を得た少女は、次の駅で僕を鉄道警察に突き出した。こういうときだけは協力的な男性という生き物は実に汚い。

 少女は未だ落ち着きを取り戻せていない様子で、怒りを露にして僕の非道さを訴えていた。汚されただの、社会不適合者だの、酷い言い草で、それを聞いた鉄道警察の男二人もなにやらうんうんと頷いている。

 一通り少女の証言が済むと、今度は僕の番が回ってきた。

「君はどうして少女に猥褻な行為を行ったのかね?」

 右の男の言い草は、あたかも僕が犯人であることが事実であり、仕方が無いから形だけ弁解を聞いてやろうという、とても平等とは言えないものだった。

 だから僕はこう言ってやった。

「答えられません」

 男たちの驚いた表情が滑稽だった。こちらの意図を理解出来ていなかったのだろう、彼らは気の触れた人間でも見るような目で見てきた。

 とはいえ、このままでは変人かつ変態の烙印を押され、何かしらの刑罰を課せられてしまう。早急に説明する必要があるようだ。

「僕はやっていないのだから、理由なんてありません」

「はぁ!?」

 案の定、少女が噛み付いてきた。

「アンタ、私のすぐ後ろに立っていたじゃない!」

「後ろに立っていたのは確かに僕だ。だけど、僕だけじゃない」

「な!そんなの言い訳にならないわ!」

 今にも殴りかからんばかりの少女を、男たちはあわてて抑えた。なんて血の気の多い少女だろう。

「それともう一つ。君、本当にお尻を"触られた"のかい?"当たった"のではなく」

「・・・っ!」

 男たちはさらに必死で少女を抑えた。これ以上刺激しないでくれ、と目で訴えてきているが、ここで黙ってしまえば僕は濡れ衣を被ることになる。

「触られたわよ!サッと一回さすられたの!」

「手のひらで、かい?」

「そっ、そうよ、それ以外に何があるって言うのよ」

 次の一手が、王手となる。

「その手のひら、平らだったの?」

「き・・・気持ち悪いこと聞くわね!痴漢の上、セクハラまでする気!?」

「そんなつもりはない。で、どうだったの?」

 そして少女は口にした。

「平らだったわ!それがどうしたっていうの!」

 それを聞いて、僕はゆっくりと両の手のひらを三人に見せつけた。

「・・・あっ」

 少女を抑えていた男の一人が、小さく声を漏らした。

 もう一人の男も気づいたようで、出遅れた少女はその二人の視線を追ってやっと気づいたようだ。

「おわかりいただけましたか?」

 僕の手には太い指輪がはめられているのだ。両の手の、全ての指に。ちょっとばかし変わった趣味という奴だ。

 平らなはずがないのだ。


「ごめんなさい、私・・・っ」

 半泣きの少女が謝罪をしてきた。

 少女の後ろに立っている、先ほど僕を痴漢と決め付けていた鉄道警察の男にこそ詫びてほしいところだが、彼は何食わぬ顔と態度を貫いていた。

「わかってくれたなら、それでいいんだ」

 僕もこれ以上追及するつもりは無かった。

「さっき言ったところで、きっと聞く耳を持ってもらえなかっただろうけど、本当は誰が触ったか知ってるんだ」

「えっ?」

「あれね、僕のとなりにいた男の子の手が当たっちゃっただけなんだ」

 そう、あの時、少女の後ろには僕ともう一人、小学生の男の子が立っていた。

「彼も悪気はないだろうから、あの場で指摘することもしなかったんだ」

「そうなんだ・・・」

「だが最近の小学生のことだ、わざとやったのかも知れんぞ。小学生がクラスメートの女子を集団暴行したという事件もあったしな」

 これまで沈黙を貫いていたもう一人の鉄道警察の男が言った。

「それはありえません」

「なぜそう言えるんだい?」

 僕には確信があった。だからこそ、自信を込めて、こう言い放った。

「彼は驚いたんです。僕が彼の尻をさすったので、それに驚いて手が動いてしまい、その少女に当たってしまったんです。僕も少し驚きましたよ、あの少年、結構感度が良かったみたいで。将来有望ってやつかな」


 あれからもう一年経つのだろうか。

 刑務所の食事は意外に美味しいが、ムサい男ばかりの環境には一向に慣れることができそうにない。

 この手に残った感触を愛しみながら、僕は今日も生きている。

投稿テストも兼ねて。

以前、よく行くサイトで短編小説の見せ合いが流行った際に便乗して書いた作品。

真面目なジャンルの作品が飛び交う中、素直になれない僕は下路線で攻めるという選択をしました。

残念なことに、ファイル名から判断するにこれが僕の処女作のようです。


ご覧のとおり大変お見苦しい下ネタです。

時間を返せ、と言われましても返して差し上げられないのが心苦しいところです。

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