①すず色の初対面
そのAIロボットが我が家にやってきた日、外はひどく湿り気の多い雨が降っていた。
配送業者によってリビングの隅に置かれた機体は
最新型の滑らかな質感とは程遠い
どこか古めかしい「中古品」特有のくすみがあった。
私はその無機質な銀色の外装を椅子に深く腰掛けたまま
値踏みするように懐疑的な視線で眺めていた。
「……まともに動くんだろうな」
独り言のように漏らした言葉に反応し、彼女の頭部にあるセンサーが淡く発光する。
「おはようございます、マスター」
「生活支援ユニット・シリアルナンバーXZ-204、起動しました」
「これより本住宅の家事全般、および体調管理を代行いたします。どうかご指示ください」
声は透明だが、どこか平坦だ。
私は鼻で笑い立ち上がってキッチンへと向かった。
「まず、食事だ。パスタを作れ」
「了解しました。ソースのご希望はありますか?」
私は冷蔵庫を開け奥に眠っていた一缶のホールトマトを取り出し調理台に置いた。
「トマトソースだ。ただし、市販の味付けソースは使うな」
「この缶詰のホールトマトを、手でつぶして作るんだ。それが一番、余計な味がしなくていい」
「ホールトマトを手でつぶして調理……記録しました。粉チーズとバジルは使用しますか?」
「……ああ、適当にふりかけておけ」
彼女は迷いのない動きでエプロンを締め、調理を開始した。
金属の指が真っ赤な果実を丁寧につぶしていく。
ジュワッという音と共に
トマトの酸味の効いた香りが狭いキッチンに広がり始める。
私はその背中を眺めながら、自分でも気づかないうちに小さく息を吐いた。
このAIロボットは欠陥品……記憶データは一週間しかもたないのだそうだ。
だからこそ私のような一般市民でも購入ができたのだが。
一週間後にはこの「こだわり」も、私の顔も、彼女の回路からは綺麗に消えてしまう。
今のこの香りでさえ、彼女にとってはただの揮発性化合物のデータに過ぎない。
「お待たせいたしました、マスター。トマトソースのパスタです」
差し出された皿の上には、指定通りにつぶされたトマトの果肉と
鮮やかなグリーンのバジル、そして雪のように白い粉チーズが乗っていた。
「……悪くない」
一口運んだ私を、彼女はただ静かに。
感情の読み取れないセンサーの光で見つめていた。
これが
私と
名前も持たない彼女との
最初の「一週間」の始まりだった。




