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触れれないまま、隣にいる  作者: 南 飛香
3/3

忘れたふりをしていただけ

今日は久しぶりの一日オフだ。いつもなら誰かと飲みに行くが、今日は気分が乗らない。寝て覚めてもまだ由楽を忘れられなかった。自分が自分ではないような感覚に椿は頭を抱えた。何をしていても頭の隅には由楽の姿がはっきりと残っていた。ニュースを見ていても、好きな動画配信を見ても心ここにあらずだった。椿はテレビを消し、携帯を確認した。もちろんのように大量のメールが届いていたが、誰一人にも返信はしなかった。どれもこれも同じ内容で面白くない。はーっと息を吐くと椿は思い出した。由楽の連絡先をまだ知らないことを。椿はソファーから立ち上がり、服を着替え身支度を整えた。家を出ようとしたとき椿は動きを止めた。少し考えた後、リビングに置いてあった本当の携帯を持ち、家を出た。タクシーで例のコンビニに寄った。すると、由楽の姿がそこにあった。嬉しくなった椿は商品を持たず、レジへと向かった。

「あの、体調大丈夫ですか?」

椿の顔をみると由楽ははっと驚き、すぐに頭を下げた。

「前はありがとうございます。迷惑かけてごめんなさい。」

小さい声で由楽は言った。椿は「気にしないでください。」と笑顔で答えると由楽はお礼をしたいと椿に伝えた。

「じゃあ、連絡先交換しませんか?」

椿の提案にすぐに由楽は携帯を取り出し、交換することになった。

「また連絡します。」

椿は由楽に告げ、店を出た。少し歩き、道端で急にしゃがみこんだ。その顔は満面の笑みがこぼれていた。携帯の画面に映っている由楽の名前。それを数秒見つめていた。我に返り、タクシーを呼ぼうとしたが歩いて帰ることにした。最近は車移動ばかりでろくに歩いていなかったためかすべてが新鮮に思えた。

夜、お風呂から上がり本当の携帯を確認すると由楽から連絡が来ていた。椿はすぐにメールを開いた。

《こんばんは、有馬です》

他の人とは違い、礼儀正しメールにふっと笑った。

《こんばんは!バイト終わりですか?お疲れ様です》

由楽からすぐに返信が返ってきた。それが椿はとても嬉しかった。本来即レスなど好きじゃないが、今回だけはそう感じなかった。

《ありがとうございます。すみません、お名前聞いてもいいですか?》

そういえば、由楽の名前は確認して知っていたが、自分の名前を教えていないことに気づいた。

《螺鱈椿です!由楽さんですよね?あの時、学生証確認してしまって。》

《全然大丈夫です。本当に迷惑かけてしまってすみませんでした。》

由楽はずっと巻き込んでしまったことを謝罪していた。椿はそこまで深く考えていなかったが、由楽の気持ちを利用することにした。

《なら、二人で食事にでも行きませんか?》

さっきまですぐに返ってきた返事は数分、間があいた。椿はメール画面から目を離せなかった。すると、やっと返ってきた返事は椿の想像とは違うものだった。

《すみません。あまり人と食事をするのが得意じゃないです。何か欲しいものなどはありませんか?》

まさか誘いを断られるなど思ってもおらず椿は戸惑った。特に欲しいものも浮かばず、返信に迷った。考えていると由楽のほうからまた連絡がきた。

《今度、コンビニに来た際は僕が奢ります。何か欲しいものが浮かんだらまた連絡ください。》

椿はまた由楽と関われることが嬉しく、

《わかりました!すぐ行きます。》

と返した。夜も遅かったため椿は《おやすみなさい》と一言告げ、連絡を終わらせた。こんなにも人と連絡するのは楽しいのかと感じた。明日からまた仕事なため、椿はベットへと向かった。

その連絡をしてから忙しくなってしまいなかなかコンビニに行くことが出来なくなっていた。あれ以来、由楽から連絡がくることもなかった。しかし、椿は朝昼晩欠かさず携帯を確認していた。

今日はGナイトのイベントの日だ。イベント前、携帯を確認していると玲央に話しかけられた。

「椿最近飲みに行ってないらしいな。寂しがってんぞみんな。」

椿は携帯から目を話し玲央を見た。

「なんか最近遊ぶ気失せてんだよな。」

首を少し方向けた。隣に座った玲央は椿の携帯を見て驚いた。

「お前携帯変えたのか?」

そう、いつも使っているサブの携帯ではなく、本当の携帯を使っていたからだ。

「これ本当の携帯。いつもはサブの携帯使ってたんだよ。」

そういう椿に玲央は眉間にしわを寄せた。そして何かに気づいてように険しい顔で聞いた。

「もしかして好きなやつでも出来たのか?」

前までなら全力で否定していた言葉に椿は少し考えて答えた。

「かもな。」

椿は立ち上がりその場を離れた。

イベントは無事終わり、打ち上げに行くことになった。椿は准の隣に座り、お酒を飲んだ。メンバーと話していると携帯が振動した。嫌々携帯を確認すると、そこには由楽の文字が。椿は驚きのあまり立ち上がった。そんな様子に誰もが椿を見つめた。椿は席を外し、外でメールを確認した。

《今日テレビで見ちゃったんですが、もしかして螺鱈さんってGナイトの螺鱈さんですか?》

由楽が自分の正体に気づいた。もちろん隠していたわけではないが、知られたくはなかった。もしかしたらそれを理由で距離を取られるかもしれない。自分と関わるのをやめてしまうのではないかと椿は焦った。しかし、嘘をつくことはできず、素直に打ち明けた。

《そうだよ。言わなくてごめん。》

すぐに返ってこない返事に焦りが止まらなかった椿は電話をかけてしまった。電話をかけると、由楽の小さな声が聞こえた。

「どうしましたか?」

何も言わない椿に由楽は間違い電話だと思い切ろうとしたとき、椿は話した。

「ごめん、用事はないんだけど話したかったんだ。」

椿の返答に由楽は戸惑っていたが、「ふふ」と小さく笑い、

「いいですよ、お話しましょう。」

そこから数分、二人は会話をした。グループの打ち上げなことも忘れ、椿はずっと話していた。すると、店の中から准が出てき、椿に話かけた。

「椿、もうお開きだよ。」

ここでようやく打ち上げをしていたことを思い出し、由楽に別れを告げ、電話を切った。准がじっと椿を見つめる。視線に気づいた椿は准に「なんだよ。」と聞いた。

「なんか最近変わったな。」

准は言う。椿はその言葉に目を泳がせた。焦っている椿の様子を見て、准は鼻で笑った。

「お前が幸せならそれでいいよ。」

「母親かよ。」とツッコミ、二人はメンバーがいる席へと戻った。

解散後、タクシーに乗り込もうとしたとき誰かに腕を引っ張られた。何だと思い、振り返るとそこにはいつものおちゃらけてる玲央ではなく、殺気立っている玲央がいた。

「何だよ。」

「ちょっと話そうぜ。」

玲央は強引に椿の腕を引く。椿が声をかけるが玲央は答えない。数分歩いた先に着いたのは、よく二人で飲みに行ったバーだった。個室に案内されようやく玲央は椿の手を離した。

「急にどうしたんだよ。」

若干、イラつきを隠せず玲央にぶつけた。すると、玲央は睨みつけるように答えた。

「椿、お前好きなやつでもできたのか。」

椿の最近の行動の変化は玲央も気づいていた。椿はすぐに答えれなかった。そんな様子を見て玲央は椿の肩を力強く掴み、怒鳴った。

「お前、また繰り返すのか?」

椿は玲央を突き放した。

「俺が何をしようがお前には関係ないだろ。」

強い口調で玲央に言った。玲央とぶつかったのはこれが初めてではない。玲央とは意見のぶつかりが多く、そのたび喧嘩することがあった。いつもならその場で仲直りすることが多いが、今回は違う。椿は玲央と話し合う気がなく、帰ろうとしたとき玲央は言った。

「あの時の事もう忘れたのかよ。」

玲央が言ってる"あの時"を椿は分かっていた。言葉を聞いた瞬間、固まってしまったがすぐに椿は動き出し店を後にした。忘れてるわけない。誰よりも覚えている。あの時のことを今も鮮明に思い出せる。あの時の椿を忘れる者はいないだろう。椿はため息を吐き、帰路へとついた。

疲れていた椿は家に到着してすぐ風呂へと直行した。寝る準備を終え、いつもより早く眠りについた。

ー俺には恋人がいた。Ωで低身長の可愛い男の子。出会った瞬間恋に落ちた。運命の番だと本気で思っていた。

あの瞬間まで。

「つばちゃん!」

誰かが椿の名前を呼んだ。その声が聞こえた瞬間、椿の顔が変わる。

「恋!」

椿は恋の元へ走った。五十嵐恋は子役から活躍している人気俳優だ。椿と恋はドラマの出演をきっかけに付き合い始めた芸能界では有名はカップルだった。誰もが二人は運命の番だと声をそろえて言った。

仕事終わり、いつものように椿の家で二人でお酒を飲んでいた。

「恋はね、つばちゃんのお嫁さんになるのが夢なんだぁ。」

急に恋は言った。その言葉を聞いた椿は恋の頬を撫でる。

「恋以外、妻にするつもりないから。」

恋の顔に笑顔が浮かぶ。まるで子供のように。椿は恋にキスをした。

この日々が当たり前に続くと思っていた。

「ストーカーみたいなことしないで。普通にきもい。」

ーはっと目を開け椿は飛び起きた。その肩は上下に動いていた。夢だったことに気づき、深い息を吐いた。携帯を確認すると時刻はまだ午前4時だった。起きるには早い時刻だったが、椿はもう眠れる気がしなかった。冬にも関わらず、汗をひどくかいていたため、椿は風呂へと向かった。

久しぶりに夢をみた。3年も前のことだ。とうに乗り越えれていると思っていた椿。もしかしたら今もまだ心にはひどく残っていたのかもしれない。

あの出来事が椿の人生をひどく狂わせたのは事実だった。

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